奇物:両面宿儺の指   作:二等辺大三角形

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宇宙ステーションヘルタ
幾千年後の明日から


 

それは宇宙に漂う宇宙ステーションの一室。

 

「ねぇ、カフカ。ヘルタのおもちゃってすごいね、宇宙ステーションに登録されてる「奇物」のリスト、興味深いものがいっぱいある」

「あら、たとえば?」

「この銃は、照準に入った生物に0から100まで点数をつけられる」

 

カフカと呼ばれた女性に対し、銀髪のパンクな衣装に身を包んだ少女——銀狼は手元からホログラムを取り出して盗み見た情報を見せびらかしている。

悪戯好きの子供のような反応にカフカは呆れたような反応を見せた。

 

「それのどこが興味深いのよ」

「カフカは気にならない?私はかなり知りたいよ、自分の点数……それにほら、絶対に割れない壊れない砕けない人差し指なんて物もある。ヘルタはなかなか多趣味だね。私だったらそんなもの怖くて部屋に置けないや」

「……そう。じゃ、道中見つけたら試してみましょう。目標地点はどこかしら?」

 

心底興味なさそうにカフカはそう言うと、相手にしてくれないことを悟ったのか銀狼はぶっきらぼうに答えた。

 

「左奥の部屋を何らかの奇物が置かれた部屋がある」

星核はそこにあるの?」

「それが、星核がどこにあるか教えてくれる」

 

星核——それは宇宙に稀に発生する謎の物体。

それは万界の癌とも呼ばれ、惑星に降臨しては生態系を大きく変異させ、深刻な空間汚染さえも引き起こす。

そして彼女たちは星核ハンターとして、その危険物を収集する指名手配犯だ。

 

「けれど妙だね。さっきまであんなにうじゃうじゃいた反物質レギオンたちが嘘みたいに消えてる」

「ヘルタの奇物による影響かもしれないわね。あの女なら奇物を防犯代わりに使っていてもおかしくない」

 

誰もいない廊下を二人は歩く。

反物質レギオン。この宇宙ステーションを襲っている生物の軍隊。

一方的な破壊と蹂躙を繰り返し、宇宙における最大の脅威の一つでもあった。

 

そして彼女たちは宇宙ステーションの主人であるヘルタの無数にモニターが置かれた監視室を見つけた。

どうやらこのあたりに星核が隠されているらしいが、部屋はどうみても行き止まりで何かが隠されているような痕跡もない。

 

「監視システムをハッキングしてみよう」

 

銀狼のワンモーションによって、監視室内のステーションに関する情報を映した液晶はすべてユニークな狼のマークへと変化する。

そして唯一、変化しなかった中央のモニターに答えは隠されていた。

奇物No.211「ブラインドゾーン」。光の屈折によってエリア内の物体の視覚を誤認させるが、他の物体が目立たなくなったとき、その姿を表す奇物である。

 

「ヘルタったら、こんなおもちゃで自分のお宝を隠してたのね」

「簡単なトリックほど見破りにくい。私たちのモットーでもあるでしょ?」

 

そのパソコンを弄れば、周囲の機材はすべてが透過され唯一の通路が浮き彫りになる。

まるで壁に置かれた普通のホログラフィーのように見えるが、そこには確かに外殻があった。

 

二人はモニターに触れ、電子の空間へと飲み込まれた。

幾重にも張られた鉄格子のような電子トンネルを抜けた先には巨大な保管庫があった。

そこに厳重に保管され、白い光帯を纏わせながら光続ける物質——星核が置かれ…………そしてその隅にこの保管室の雰囲気とは似つかわしくない奇妙な物も置かれていた。

 

「星核はすぐそこだって思ったのに、何これ…………百葉箱?」

「念の為、中身を見ておきましょう。銀狼」

 

銀狼は嫌そうに顔を顰めた後、恐る恐るとその少々寂れた白い箱を開けた。

中に入っていたのは、小さな温度計と歪な文字で描かれた箱。

そのまま、銀狼は箱を汚い物でも触るかのような手つきで持ち上げ、蓋を開けた。

 

「あれ、これって…………うそ、さっき私が言ってたヘンテコ指じゃん」

 

それは先ほど銀狼が奇物カタログを盗み見した際に発見した指であった。

これと言って特に特徴のない一般成人男性ほどの人差し指。

近未来的なステーション内の雰囲気とはまったく似合わない。

どう見ても保管室に置いていいものではなく、何かしらの事件性すら感じられる。

 

「その奇物、名前はなんていうの?」

「えーっとね、両面……何この漢字、刃ならすぐわかるかな…………すくな、両面宿儺の指、だってさ」

「ふぅん、そんな大層な名前がつく代物には見えないけど」

「私に言わないでよ。……でもどうしてこんなところに置いてあるんだろ。カタログには何しても壊れない超硬い指〜しか言われてなかったけど」

「もしかしたらヘルタが何かを隠してるのかも。反物質レギオンが姿を消したのも、これが影響かしら」

 

とはいえ、そのような力の片鱗はまったく感じられない。

他に特徴を挙げるなら、せいぜい他の指より固い程度だ。

そもそも外れた人の指など滅多に持つことはないし、銀狼は一刻も早くこのよくわからない指を手から離したかった。

 

「今はそれどころじゃないでしょ。急いで星核を取り出さなきゃ」

「それもそうね」

 

調べてみたところ、特に危険のあるものではないらしく身体に何の影響もないらしい。

ではなぜこんな場所に置いているのか、という疑問は今は置いておこう。

 

「ハッカーの腕は天才のヘルタより私の方が上。独立した防御システムみたいだけど私の前では無意味」

「さすがね。じゃあ、媒体の準備も任せるわ」

「オッケー…………うん、準備完了。どっちを選ぶかはあなたが決めて」

 

あっという間に作業を完了させた銀狼は、カフカの前に一つのスクリーンを映し出した。

その映像に映し出されたのは二つの媒体。

女性型のベクター「星」と男性型のベクター「穹」。

 

「エリオが言っていたわ。この選択は多くの変化をもたらすって」

「エリオはこの選択を下すのは()()()でないといけない、とも言っていた」

 

————選び出された媒体は、ベクター「穹」

 

「彼に新しい名前をつけなきゃ」

「そうねぇ…………私は穹がいいわ」

「じゃ、それでいこう」

 

そして突然、何もない空間から一人の男の肉体が現れる。

 

「記憶はどれくらい残ってるの?彼」

「少なくともあなたのことは覚えてる」

 

カフカは厳重に保管されていたはずの星核を取り出し、そのまま————彼の肉体に直接それを入れ込んだ。

 

「お目覚めの時間よ」

 

そしていずれ銀河の英雄となり、救世主となる青年は新しい世界へと足を一歩踏み出した。

 

 

————————————————————————————————————————————

 

 

意識が混濁する。

瞼をうっすらと開く。

自分が何者かで、ここはどこで、目の前にいる人物が一体誰なのかさえもあやふやになっていた。

 

「……ここ…は、どこ……」

「ここ?宇宙ステーションだけど、たいして重要じゃないわ」

 

どこかで見た事のある、知っているはずの女性を見つめる。

どうして自分はこんなところで寝そべっているのだろう。それを疑問にするより早く女性は口を開いた。

 

聞いて。今、とても混乱しているわよね。自分が誰で、なぜここにいるのか、これからどうすればいいのかわからない。私を知っている気がするけど、信用していいかわからない―――でも、これらは重要じゃない。重要なのは、私は君を1人、この宇宙ステーションに残して立ち去ること。だから、今からはもう昔のことを考えたり、自分を疑う必要はないわ」

 

彼女の言葉がひどく脳裏にこびりつく。

まるで蜘蛛の糸で支配されいるように、思考ががんじがらめになっている。

 

聞いて。これから君は、数え切れないほど危険な目に遭って、恐ろしい状況に身を置くことになる。でも、美しい出来事にもたくさん出会うわ。家族のような仲間を持ち、夢の中でも体験できないような冒険をする……旅の終わりには全ての謎が解き明かされるの」

 

どういう意味だろう。

駄目だ、頭が回らない。

何を話しているかは理解できるのに、言っている事の意味がわからない。

 

「これがエリオの予見、そして君が辿り着く未来よ……気に入ったかしら?」

 

よくわからないけれど、確かに悪い気分ではない。

青年は黙ったまま、静かにこくりと頷いた。

目の前の女性——カフカはその相槌に対し母親のような笑顔を向ける。

 

「それでいいわ。聞いて。今の気持ちを忘れないで。心に決めたことに従えば、必ず物語の結末にたどりつけるわ。————私は君のそういうところが好きなの」

「もういいでしょ。脚本によれば、星穹列車の人たちがもうすぐ来る。私たちは彼らと遭遇するべきではない」

 

見覚えのある銀髪の少女が、視界の左端からヒョコっと顔を出した。

 

「わかってるわ、銀狼。もう少しだけ、もう少しだけよ」

 

銀狼と呼ばれた少女の呼びかけに、カフカは深刻そうな顔で返事をした。

どうやら向こうには時間があまりないらしい。

 

「もう時間みたい、私は行くわ。聞いて。すぐに誰かが見つけてくれるから、彼らについていくといいわ。君は、私以外のすべてを忘れる。それとね……」

 

そう言った後、カフカは懐から何かを取り出した。

 

「うげっ。さっきも言ったけど、それほんとに渡すの?脚本には載ってないんでしょ、やめた方がいいって」

「いいじゃない。きっと、これはこの先、彼の旅路を手助けしてくれるかもしれないわ」

「まあ、カフカがいいならいいんだけど」

 

カフカは服のポケットに細い何かを入れ込んだ。

それが一体どんなものかはわからない。けれど、カフカが自身の助けてくれる物、と言っているのだからきっと大丈夫なはずだ。

 

「それじゃあね。選択の機会がある時に、自分が後悔することをしちゃダメよ」

 

————待って、置いてかないで。

そんな言葉をかける暇もなく、青年の意識は暗転する。

最後に見えたのは、見知らぬ誰かの背中だけだった。

 

 

 

 

 

それから、何分、何時間経ったのだろう。

誰かの足音と声が聞こえる。

さっきまでここにいたはずの人たちとは違う音が。

 

「この者の座標は宇宙ステーションから発せられたものじゃない……」

「まだそんなこと気にしてるの?ウチらの目の前にいるのは生きた人間、これだけは間違いないでしょ?」

「……心拍、脈拍ともに弱いな。三月、人工呼吸の準備を」

「えっ!?ウチが?ウチは経験不足だから、丹恒がやってよ!!」

 

知らない少女の大声に頭がズキンと痛み、眠っていたはずの意識がようやく目を覚ます。

瞼を開いた先には、見知らぬ黒髪の青年が顔をこちらに近づけ何かを行おうとしてきた。

 

「まっ——待って!起きたよ!」

 

頭を抱えながら青年は起き上がり、周囲を見回す。

目の前には先ほどの青年と、よく目立つピンク色の髪をした少女がいた。

 

「大丈夫、ウチらの声は聞こえてる?」

「……何も思い出せない」

「……それは相当まずいね、頑張って思い出せない?アンタの名前は……」

「俺は穹……」

「よろしく頼む。俺は丹恒、こっちは三月なのかだ」

 

黒髪の青年——丹恒は隣にいる少女、なのかのことを紹介する。

 

「この宇宙ステーションは、反物質レギオンの襲撃に遭い、俺たちはアスター所長の依頼を受けて救護に来たんだ」

「俺は、どこにいけば……」

「主制御部分に戻るんだ。アスター所長と避難した研究員がそこにいる」

 

アスター所長とは、このステーションの主人ヘルタが所長代理に任命した人物とのこと。

 

「じゃあ、早く行こう」

「お前は三月と一緒に行け。防衛課のアーランと連絡が途絶えた。俺は彼を探して連れ戻す」

「そっか、わかった。気をつけてね」

 

そう言って、丹恒は足早に去っていた。

残されたなのかは、何かを思い出したように壁に置いてある棒状のもの——バットを渡してきた。

 

「レギオンは宇宙ステーションで好き放題してるから、退路も安全とは言い切れない。護身用に武器は持っておいたほうが安心でしょ」

「護身用……」

 

ふと、服のポケットの中に何か物体が入っていることに気がついた。

カフカから渡されたお守りのようなもの。

そっと中身を取り出し、どんな見た目をしているのかみてみる。

 

「アンタ何それ…………指?」

「気づいたら持ってた」

「ええ……何か事件に巻き込まれてるとかじゃ無いよね!?」

 

青ざめた表情を見せるなのかに対して、穹は特に気にすることなく、その指をじっと見つめ続ける。

特に何も不思議な力を感じさせる事のない普通の指。

けれどなぜか、穹はそれから目を離せなかった。

 

「どこにでもある普通の指だ」

「そもそも指が一本落ちてるだけで普通じゃないと思うよ?」

 

なのかは穹のどこかズレた反応に呆れたような視線を向けた。

とはいえ、そう気軽に放置できるような物でもないので、2人は仕方なくそれを持ち運ぶことにした。

宇宙ステーションの中は広大だ。見たことのないような機材があちらこちらにあり、すべてが新鮮に見える。

 

2人は途中、戻ってきた丹恒と合流し防衛課の部屋へと向かった。

そこにいたのは、自分よりも背の小さい褐色肌の少年だった。

少年の名前はアーラン。宇宙ステーションのヘルタの防衛課責任者である。

どうやら反物質レギオンの襲撃に伴い、避難者の誘導をしている最中に怪我を負った状態でエレベーターの権限が遮断され中に閉じ込められてしまったらしい。

 

「アスターお嬢様から俺を探すよう依頼された時、解除用の暗号キーを渡されなかったか?」

「確か……カードを1枚渡されたような……」

「三月……」

「どこにしまったか忘れちゃった……」

「おい……」

 

丹恒とアーラン2人からの冷ややかな視線を浴びながらなのかは慌てて自身の服のポケットを探す。

そして数秒し、なんとか1枚のカードを取り出せた。

 

よかった、彼女のことだからどこかに置いてきてもおかしくない。

 

 

レギオンの侵入を防ぐため、最上階からエレベーターに乗ることに同意した三人は、怪我をしているアーランを支えながら、収容部分の中庭に飛び出したとき————

 

まるで人馬一体を表現したかのような怪物、ヴォイドレンジャーが現れる。

 

「三月、穹、下がってアーランを守っててくれ!」

 

丹恒はその鉱石のような両足を槍で受け止める。

なのかは背後で弓を構え、応戦する姿勢を見せた。

 

ヴォイドレンジャーは動かない。どうしてか目の前の武器を持った2人ではなく、アーランを抱えた穹の方をじっと見つめている。

穹はポケットにある、あの指を無意識に握りしめた。

 

「◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ーーーー!!!」

 

次の瞬間、耳を破るような咆吼をステーション内に響かせた。

それに呼応するように、宙にはいくつもの反物質レギオンが現れる。

 

「ちょっと、戦う前から仲間を増やすなんて卑怯じゃない!?」

「そんなことを言っている場合ではないぞ!」

 

そうしている間にも、レギオンの衆はその数を着々と増やしている。

まるで逃したくない得物を見つけたかのように、周囲に陣取ってこちらを今にも攻撃しようとする。

 

そして合図するように一体のレギオンが手をかざした。

その時————巨大なカッターを持った謎の飛行物体が、宙に浮かんでいるレギオンを破壊する。

流れるようにまた一匹、もう一匹とその侵入者どもを粉々にしていった。

飛来してきた機械は4人の前で浮遊し、まるでヴォイドレンジャーから守るように陣取っている。

 

「行くぞ!」

 

丹恒の合図とともに、一同はかけだした。

 

 

————————————————————————————————————————————

 

4人が逃げた先は宇宙ステーションの主制御部分であった。

先ほどまでの部屋が小さく見えるほど、そこは広々としていて巨大なガラスから宇宙の星々が見えた。

宇宙にあるステーションでというのは間違っていなかったらしい。

 

そして、その主制御部分の中央には赤髪の目麗しい女性がいた。

どうやら先ほどの飛行物体の所有者であるらしく、丹恒となのかの知り合いでもあるようだ。

 

「初めまして、私は姫子。星穹列車のナビゲーターよ。ここまでに来る間、三月ちゃんに迷惑をかけられなかった?」

「アンタ、ちゃんと考えてから答えてよね?」

 

やっぱり、なのかはお騒がせな性格をしているらしい。

彼女は、何を言うかわかってるよね?とでも言うかのような視線を向けてきた。

 

「こんなそそっかしい子は初めて見た」

「————それがウチの性格なの!今回は騒ぎを起こさなかったし、慣れればいいんだよ……ほら、丹恒は慣れてるよね」

「俺には黙秘権がある」

 

慣れてはいないらしい。

目を細め、何かを思い出している丹恒に思い当たる節があるのか、なのかは苦笑いをした。

 

「ふふっ、若者は仲良くなるのが早いわね。あんたたち、もう仲良くなってるみたい。行くわよ、アスターがあんたたちを心配してるわ」

 

その光景を微笑ましそうに見つめていた姫子は、そのまま3人についてくるよう促した。

 

先に待っていたのは、どこかへ指示を出し続けるなのかと同い年ぐらいの少女だ。

 

「アスター所長!戻ったよ!」

 

振り向いた彼女——アスターは一同の姿を見るとホッと安堵したかのようにため息をついた。

 

「みんな無事ならよかった。アーランもさっき戻ってきて、収容部分のことを教えてくれたわ。彼のこと助けてくれてありがとう」

「当然のことをしたまでだよ!」

「それでも改めてお礼を言わせてちょうだい。はあ……不測の事態への備えがあまりにも不十分だった。セキュリティや戦闘員の育成も疎かだったわ」

「宇宙ステーションの様子はどうなっている」

「今のところ、コントロールはできているわ。被害は軽微だし、データの損傷もほとんどない。どちらかといえば今の問題は、スタッフたちの精神的な状態の方が深刻ね。まさか、ミス・ヘルタの宇宙ステーションがレギオンに制圧されるなんて……」

「その様子を見る限り、ヘルタとはまだ連絡が取れてないのね?」

「何回もメールを出したけど音沙汰なしよ。姫子さんも彼女のことをよく知っているでしょう。宇宙ステーションは彼女の追従者と奇物の倉庫でしかないわ、全く気にかけてないの」

 

どうやら彼女たちの言っている人物——この宇宙ステーションの所有者であるヘルタはあまり性格の良い人物とはいえないらしい。

困ったように遠いところを見つめるアスターに、姫子は声をかける。

 

「思ったとおりね……大丈夫、私の方からもヘルタにメールを送るわ。彼女が欲しがっていた奇物を持ってきたってね。これなら、彼女を引きつけることができるでしょ」

「それは助かるわ」

 

WARNING!!WARNING!!

 

空気が弛んだ瞬間を狙ったかのように、室内に警報が鳴り響く。

ガラスの外に、巨大な何かが飛来する。

それは手を伸ばし、ガラス一面に敷かれたバリアをどうにかして破壊せんとしていた。

 

その名は終末獣。

今現在、ステーションを襲っている反物質レギオンの親玉の存在であり、文字通りの怪獣。

それが今、このステーションの側面に張り付き何かを狙っている。

 

「あなたたちはいきなさい!!」

 

アスターの声に、姫子は呆然としていた穹の腕を強く引っ張って走り出した。

走り出す途中で穹は後ろを振り返り、そして気がついた。

 

あの怪物は、自分を狙っていることに。

 

 

一同は、急いで星穹列車のある、ステーション入口へと戻っていく。

何やら事情があるようで、姫子が言うには、自身はこのステーションを離れる必要があるらしい。

どうしてそれが重要なのか、そんなことをどうして知っているかはわからないが、この場に留まり続けることがいいことではないのは確かである。

 

そして、ステーションを見つけた4人はそのまま列車に乗り込もうとし——

 

「待て、三月!」

 

その行手を阻まれる。

 

「◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ーーー!!」

 

「まさか本当に追ってくるなんて……」

 

終末獣はその翼を大きくはためかせ、宙を自由に回っている。

得物を見つけた鳥のように大きく旋回し、やがてその顔をこちらに向けた。

 

 

「みんな来るわよ!」

 

船の甲板へと乗り出した終末獣はその大きな右手を大きく払い除けた。

大きな体躯であるが故に、その動きは鈍重で見えやすい。

4人はそれを軽々と交わし、各々の武器を手にもつ。

巨大な右手はそのまま空を切り、風圧でいくつかの瓦礫が空を飛ぶ。

 

「それっ!」

「ふっ!」

「燃やし尽くせ!」

 

なのかが氷の弓矢で動きを鈍らせ、丹恒がその隙を縫うように槍で貫いた。

姫子はウェポンコンテナを用いて、コアの周りの残骸を燃焼させた。

お互いの息の合った連携によって、終末獣はみるみる消耗していく。

 

「くらえ!」

 

穹はその露出したコアにバットを叩き込む。

コアの破片が飛び散り、終末獣の動きが鈍った。

 

「うちのとっておきをくらえ!」

「洞天幻化、長夢一覚……破!」

 

なのかは大量の氷の矢を放ち、その両腕を凍結させた。

終末獣のバランスが完全に崩れた。

怯んだ隙を逃さんとばかりに、丹恒の鋭い槍がコアへと突き刺さった。

痛みに悶える人間のように獣は雄叫びをあげ、床に強く叩きつけながら倒れ込んだ。

 

「……やったの?」

「っ、まだよ!三月ちゃん、危ない!」

 

突如、復活した終末獣が口内にエネルギーを溜め始めた。

予想以上の復活速度に誰も対応できない。

そして、あっという間に解き放たれたエネルギーの塊は、なのかの元へと向かっていった。

 

「………っ!」

 

足を止めることなくその間に入り込んだのは、穹であった。

莫大なエネルギーの砲弾が穹の身体へと流れ込む。

決して人が抑え切れるような量ではなく、次第に肉体はチリと化していく。

 

(痛い痛い痛い、辛い辛い辛い、どうして、俺が……!!)

 

逃げたい、死にたくない、どうしてこんな目に遭っているんだろう。

 

————選択の機会があるときに、後悔しちゃダメよ。

 

痛みが、全身に危険信号を送り出す。

産まれて感じたことのない激痛が意識を飛ばそうとする。

まさに死の淵に立ち、彼女の言葉が頭の中で反芻した。

 

そして、ふとポケットに入れていたはずのあの指を強く握りしめていたことに気がついた。

 

 

彼は何を感じたのか、光の中で必死にもがきながら———その指を喉奥まで飲み込んだ。

 

 

——ゴクン

 

 

光の渦が、振り上げた右手によってかき消された。

失っていたはずの腕は元通りになり、その肌には黒い紋様が浮かんでいる。

 

「なんだ……?」

「穹?」

 

彼の纏っていた気配が禍々しい者へと変化していた。

終末獣とは比にもならない怪物の、溢れ出す負の気配。

使令と並ぶ、あるいはそれ以上か。

誰もが、その穹の姿をした何かから目を離すことはできなかった。

 

最初に動いたのは終末獣だった。

まるで、追い込まれた非捕食者が死に際で捕食者相手に最後一矢報いるようにステーションの上で暴れ始める。

しかし、その攻撃はソレには届くことはなかった。

 

「———————————」

 

大きく右手を振るえば、空気は割れ、終末獣の半身が削り取られる。

雄叫びを上げた終末獣は、そのまま崩れるように宙の彼方へと塵となって消えていった。

 

「…………ふむ」

 

ソレが口を開いた。

確かにそれは彼と同じ声だった。けれど、違う。決して彼ではない何者かが、そこにはいる。

 

「やっぱり、光は生で感じるに限るなぁ」

 

(気配が変わった……。あれは、味方か…………!?)

 

誰もが動けない中で、丹恒は密かに槍を構え直す。

敵か味方か、そもそも正体すら判別できない相手。

 

「どこだ、ここ?……おお、めっちゃ宇宙じゃん」

 

ソレはこちらを一瞥することもなく、空に浮かぶ無数の惑星を見つめていた。

新しい玩具を見つけた子供のように目を輝かせ、遠い星をいつまでも眺めている。

 

丹恒は恐る恐ると近づき、槍先を構えながら問いかける。

 

「お前は、誰だ……?」

「ん?ああ、人いたのか。悪い悪い、久しぶりの現世で柄にもなくはしゃいじまった。俺の名前は———虎杖悠仁だ」

 

それは呪いの王ではなく、しかして呪いの王を冠するのに相応しい者。

 

後に星海において、史上最強の呪術師の名を轟かせることとなる————ナナシビトの名である。

 

 

 




間違えていつの間にか通常投稿にしてました……。
初投稿なので拙い部分も多いですが、感想などをいただけたら嬉しいです。
設定的におかしいところがあればどうか気軽にじゃんじゃんとご指摘ください。
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