奇物:両面宿儺の指   作:二等辺大三角形

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基本的に開拓クエスト以外は書かないつもりですが、呪力の修行編、ということもあり今回の話を書きました。

あ、私の推しも出します。実装してない方です。


閑話
ゲームセレクト


 

ベロブルグの一件を終わらせ、彼は再び宇宙ステーションを訪れることになった。

その理由は、彼の中で起きたある変化について研究するためである。

 

「言っておくけど、私の模擬宇宙をめちゃくちゃにしようとしたら、タダじゃおかないから」

 

穹はベロブルグにて呪力の放出が可能となった。

そのため、悠仁は彼に呪力の制御と呪術に関する最低限の知識を教えることにした。

練習場として最適な場所を探すため、ヘルタに尋ねてみたところ、宇宙ステーション内の模擬宇宙という施設を使え、と命令されたので二人は単独でそこへと訪れることになった。

 

模擬宇宙というのは彼女がプログラミングによって作り出した仮想世界。

星神はどうやって作られ、なぜ作られ、何のために作られたのかを突き止めるための思考実験施設である。

どれだけ暴れようと、破壊しようと、現実世界に一切の影響を及ぼさないため、練習場としてはもってこいの場所である。

 

「まずは呪力の放出から。あの赤いオーラ出せるか?」

「えっと……こう?」

 

ぼうっと燃えるような赤黒いモヤが手にまとわりついた。

だがそのモヤは炎のように不安定に消えたりついたりを繰り返している。

 

「よし、ここでも呪力は出せるみたいだな」

 

この擬似的な電子世界であっても、呪力は問題なく使用することができるようだ。

おそらく魂の核に呪力が根付いているのが理由だろう、と悠仁は判断した。

 

何はともあれ、これで心置きなく修行ができる。

 

「何も見えないんだけど?」

「呪いは術師にしか見えないんだよ。たまに、呪いの密度が濃い場所とかだったら誰でも見ることができるらしいけど」

「はあ、つまり術師じゃない私は呪力の分析すらできないってことね。……まあいいや。お子ちゃまがここでその力を身につけてくれれば、そのうちわかってくるだろうし」

 

そう言って、彼女は模擬宇宙内の操作を行った。

すると、目の前に二体の反物質レギオンが現れる。

 

「まずは、呪力と術式の違いからだな。ここなら、肉体の負荷なしで交代し放題なんだよな?」

「そ」

「じゃあ早速……」

 

肉体を交代した悠仁は二体の反物質レギオンに向けてわかりやすく、大袈裟な動作で手を振り翳した。

白いレギオンは体を真っ二つにされ、黒いレギオンはその体を撃ち抜かれる。

 

「さて、どっちが呪力、どっちが術式だと思う?」

「えーーっと……白い方が術式で、黒い方が呪力?」

「おっ、正解だ。やっぱり筋がいいな。今、黒い方は俺が呪力を弾いただけ。もう片方は、呪力を術式に流して真っ二つにしたんだ」

「おー……つまり、俺もいずれこんな方に術式が使えるってことか!」

 

キュピーン!穹は閃いた。

 

「あー、うん、すまん。穹は術式を使えないぞ。基本的な術式ってのは生まれながら体に身についているもんだからな」

 

穹のひらめきは潰えた。

ショックを受ける穹を横目に、ヘルタはそれが嘘だと見抜いていた。

 

(お子ちゃまの動きがステーションを出た時より遥かに良くなってる。どうせ、おじいちゃんの仕業なんだろうけど、ここは言わない方がいいかな)

 

あくまで術式が使えないのは今だけ。

彼であればかつての自分と同じように御厨子の術式が刻まれるだろう、と悠仁は確信しているが、どうせ今使えないものに気を取られるよりは、昔、恩師に教えてもらったようなやり方の方が彼にもあっているだろう。

 

「けど、最終的にものを言うのは体術だ。俺の先生は、それはもうとんでもねーぐらい強い術式を持ってたけど、術式だけじゃなくても体術でも負け知らずだった。俺も結構ボコボコにされたっけな」

「一回も勝てなかったの?」

「一回も」

 

昔の悠仁が太刀打ちできないほど強い彼の師匠に興味を抱くも、そんなことよりと彼は別の話題に切り替える。

 

「だから、穹は手持ちのバットとか槍とかに呪力をこめる方法を学んでいこう。基礎的なゴリ押しの方が相手にとっても厄介だ」

 

呪力を武器に篭める。

カカリアと戦った時に、無意識にできたあれのことだろうか。

 

呪力というのは負の感情によって生み出されるため、激しい怒りや恐怖を持てば持つほど無駄に放出してしまうケースもあるそうだ。

だからこそ、彼は感情の火種から呪力を捻出する訓練をする必要があった。

 

「ヘルタ、あれ作ってきてくれたか?」

「はいはい、これね。私が頑張って可愛くしてあげたんだから、大事に扱ってよね」

 

そう言ってヘルタは何かを手渡してきた。

それはヘルタの人形をそのままミニサイズにしたようなこじんまりとしたぬいぐるみであった。おまけとして、彼女が使っている小さなハンマーもついている。

 

「これは?」

「ヘルタちゃん人形Ver4.33。おじいちゃんに必要って言われたから持ってきたの」

 

なるほど、確かにプリティーでキューティでグッドルッキングなぬいぐるみである。

しかしこれでどのように呪力のコントロールが可能になるのか。

 

「そこのお腹のボタンを押してみてくれ」

 

そう言われて見れば、確かにお腹の部分に紫色の出っ張りが見えた。

 

「これが一体————ぶへぇっ!」

 

ボタンを押した瞬間、そのぬいぐるみは高く飛び上がって穹の顔面にハンマーを叩き込んだ。

 

「あ、そうそう、言ってなかったけど、その人形はボタンを押したら自動戦闘モードに切り替わる仕組みだから気をつけてね」

「先に言ってよ!」

「というわけで、これに呪力を流し込み続ける作業を、穹にはやってもらいたい。ぶっちゃけ昔の俺とはかなりやり方が違うんだけど」

 

本来であれば、呪力のこもった人形——呪骸というものを使って一定の呪力を流し込まないと襲いかかってくる仕組みのモノを使って修行するらしいのだが、今この世界にその呪骸とやらは存在しない。

 

穹がそのヘルタぬいに呪力を流し込んでいる間に、少しでも出力が乱れたり、流し込む量が変化した場合にはそれを監視している悠仁が直接そのボタンを押して無理やり襲ってもらうようにするらしい。

 

なんとまさかの手動(アナログ)式。

 

「どんな感情下であっても、一定の呪力出力を保つ訓練だ。多過ぎず少な過ぎず、しっかり俺がみてやるから、とりあえずやってみ」

「そのとりあえずで俺が殴られるんだけど……」

「俺も痛いからダイジョブ、ダイジョブ」

 

何も大丈夫ではない。

横からヘルタが悠仁に尋ねる。

 

「それで、おじいちゃん。本当にこの量のレギオンを一気に出していいんだよね。どうなっちゃっても知らないよ」

「え、何それ、何の話!?」

「あー、まあ色々あって簡潔に言うとー……流し込んでるだけじゃ時間がもったいないってヘルタに言われてな。だから、時短ができて尚且つ効果的なのをしようってなったんだ」

 

ぽち、とヘルタが模擬宇宙のシステムから無数の反物質レギオンの集団のホログラムを作り出す。それらはすべて偽物ではあるものの自動攻撃プログラムが仕込まれているため、目についた生き物なら平然と襲ってくるとのこと。

つまり、この人形に呪力を流し込みながら反物質レギオンたちを相手にしろ、というわけである。

 

……鬼畜では?

 

「まあ、穹は俺より呑み込み早そうだし何とかできるって」

「じゃ、記録は取っておくから、あとは好きにしていいよー」

 

そう言ってヘルタのロボットは電子体となって消えていった。

反物質レギオンのホログラムたちは、まるで意志を持ったように、唸り声をあげて穹の方へと近づいてくる。

 

「大事なのはその状態でいかに感情に呪力を流し込めるか。焦りとか苛立ちに身をまかせない方法を学ぶんだ。あ、反撃してもいいけど、その場合かなり確率で呪力操作が乱れるから気は抜くなよ」

「こんなんじゃ抜きたくても抜けないって……」

 

地獄の超スパルタ訓練が幕を開けた。

 

 

 

 

———————————————

 

 

 

 

と、いうわけで訓練を終えた穹君の感想は?

 

「じぬ"がどお"も"っだぁぁぁぁぁぁ」

 

彼は幼稚園児の子供のように地面でジタバタと暴れ回った。

その顔は蜂に刺されたように赤く腫れていて、どれだけの回数呪力操作に失敗したのかを物語っている。

 

「やべ、やり過ぎたか?」

 

やり過ぎである。

悠仁自身も自分が教えるのはあまり得意ではないと思っているために身体で覚えさせる肉体言語方式をとったのだが、軽くトラウマになっている。

鍛え方を生前の強度な肉体基準で行なってしまったためか、肉弾戦も己と同様にいけるだろうと過信し、想像以上にキツイ修行になってしまったようだ。

 

それでも効果は確かにあった。

ベロブルグで見せた戦闘技術からして、穹には天賦と言ってもいいほどの戦いの才能がある。それは呪術に関しても例外ではなく、一時間してまもないうちに呪力の制御(コントロール)を習得したのだ。驚くほどの成長スピード、才能に関していえば自分と同列、あるいはそれ以上かもしれない。

 

とはいえ、もう少し教え方は考えておいた方が良かったかもしれないが。

 

「失礼。星穹列車の穹さん、虎杖悠仁さんでお間違い無いでしょうか」

 

突然、模擬宇宙内にて見知らぬ誰かからの声がかかる。

ヘルタとは違う男性の紳士的な声音。だがどこか機械的なようにも聞こえる。

 

地面から起き上がり、声のした方を振り向けば……

 

「お会いできて光栄です。ご高名は予々(かねがね)伺っています」

 

シルクハットを被り整った服装に身を包んだロボットの男がそこにはいた。

エメラルド色に染まった蝶がゆっくりと羽ばたき、彼の腕を止まり木としている。

 

「天才クラブNo.76。スクリューガムと申します。以後、お見知りおきを」

 

帽子を被り直したその機械紳士は、改めて礼をする。

一つ一つの所作に気品があり、彼の格式の高さが伺える。

天才クラブ、ということはヘルタの同期なのだろう。いかにも"天才"らしい風貌だ。

 

「……それって仮面?それともメカ?」

「おや、機械生命体をご覧になるのは初めての経験でしたか。私はこの宇宙における無機生命体——オムニックと呼ばれる種族の一員です。貴方の認識でいえばロボットというのに近しいでしょう」

 

彼がいうには、オムニックというのは無機生命地帯で誕生した種族であり、肉体は機械、思考はプログラムで動いている生命体らしい。改めて、この宇宙の神秘には驚かされる。

しかし、なぜこんなところにいるのか。どうしてヘルタが一緒にいないのか。それを尋ねてみたところ、彼から驚きの返答が来る。

 

「申し訳ありませんが模擬宇宙は閉鎖される可能性が高いです。ヘルタさんは私のその報告を聞いてどこかへ行ってしまった為、こうして私が代わりに貴方を呼びに来ました」

「もう閉じちゃうのか?」

「訂正:あくまで、私が一方的に学術協力を打ち切りたい、と申し出たのです。もちろん、模擬宇宙は偉大な実験であり、ヘルタさんは紛れもなく天才です。しかし、長年の研究によって意見が食い違いが起きてしまい、このままでは知識形成の妨げになると判断いたしました」

 

すぐに研究が打ち切り、というわけではないらしい。

協力者であるスクリューガムが、彼女の手伝いをやめるだけ。しかし、それの影響力は大きく、他の協力者が見つかるまでの間は閉鎖するかもしれないとのこと。

 

「ついでと言っては何ですが、少々ステーション内でトラブルも発生しており、貴方にはその対処に協力していただきたい」

 

彼が言うのは、ステーション内にてある研究員の一人が偶然、ステーション内に侵略していた星核ハンターの痕跡を見つけたらしい。基地に残された痕跡を調べているうちに、彼はその星核ハンターがこちらを挑発するためにあえて痕跡を残したのだと分かった。

そしてそのハンターは模擬宇宙の演算に使われている『エーテルカセット』と呼ばれる秘密裏に作り出されたパンクロード星特製のカセット記録を盗むためにヘルタの模擬宇宙に侵入した可能性が高い、と。

そのカセットは世界の認識を書き換える。つまり現実を思うがままに編集できるとんでもない代物であり、盗み出されれば大きな混乱を宇宙に招く。

 

その相談を受けた彼は、模擬宇宙を閉鎖する前に調査を請け負ったとのこと。

事情を理解した二人は二つ返事で了承する。なんだかんだ言ってもヘルタにはお世話になりっぱなしなので恩返しをしたい。彼女が受け取ってくれるとは限らないが。

 

「貴方のご助力に感謝の念を。それでは参りましょう、有機生命体の方には少々、酔いが起きてしまうかもしれません」

 

世界が唐突にひっくり返った。

視界に映っていた光景はすべてが捻じ曲がり、ある一点へと収束する。

次に目を開けたとき、彼は宇宙ステーションのサポート部分に降り立っていた。

 

「うおっ、ととっ」

『大丈夫ですか?現在、貴方はエーテルカセットがあるデータリンクの中にいます。周囲を確認して、何か発見があれば教えてください』

 

彼の頭が館内放送のように響いて聞こえる。どうやら、彼は現実世界からハンターの痕跡を追っているそうだ。

周りを見渡せば、人の姿はほとんど確認できない。唯一、目の前にいるホログラムを除いて。

 

「目の前にハッカーがいる」

「……ブローニャに似てるな。というよりそっくりだ」

 

巻き上げたドリルのような銀色の髪、黒い瞳。そこだけ取れば彼女にはかなり酷似しているが、装いに関してはむしろかなりのパンクファッションであり、背も小さいため、流石の二人にも別人だと言うのはわかる。世界には似たような人物が三人ぐらいいる、とも言われているし、宇宙規模となればそこまで不思議なことでもない。

 

『ハッカーですか?ふむ……結論:それは模擬宇宙の記録から生成されたホログラフィー。部外者の足跡でありエーテルカセットのあるデータリンクまで迫った時の映像が映し出されているのでしょう』

『ちょっと、貴方、どうしてずっとこっちを見てくるの?』

 

するとハッカーの少女————銀狼は何の前触れもなくこちらを振り向いて話しかけてきた。

スクリューガムがいうにはあくまで過去の記録であるため、彼女が同行者に向かって話しかけているだけに過ぎない、とのこと。

しかし突然、振り向かれて話しかけられるのは心臓に悪い。

 

『とりあえずさっさと行こう。ここは正真正銘、天才クラブのエリートのテリトリー。見つかればあなたも私もタダじゃ済まないよ』

 

彼女の会話から、星核ハンターは二人で模擬宇宙内に侵入したようだ。

スクリューガムの手によって、穹は同行者の視点から彼女の行動を観測できるようになった。

 

彼女が信号を探し、カセットのある場所を突き止めようとあちらこちらにハッキングを仕掛け続ける。

道中でヘルタのおいた囮の信号に引っかかったり、ヘルタの用意した謎解きをスキップしながら彼女はさらにエーテルカセットのある奥部へと進んでいく。

そして、彼女はステーション内に置かれているヘルタ人形を見てため息をついた。

 

『もしかしなくてもヘルタってナルシスト?宇宙ステーションの至る所にいるし、顔にラクガキもできない。なーんでこんなにガバガバなセキュリティのくせに、彼女の写真だけは厳重に管理させてるんだろうね』

『エレベーターホールの肖像画のことですね。以前、彼女から暗号化ツールの設計を依頼されたことがあったので、きっとそれが使われているのでしょう』

「もう終点に着くの?」

『はい、エーテルカセットは次の部屋にあります。我々の追跡も、そろそろ終わりそうですね』

「意外と早かったなー」

 

やはり天才クラブのメンバーがいるおかげか、物事がサクサクと進んでいく。

しかし、彼らは違和感を感じていた。

銀狼は星核のためにやってきたものの、奇物にも強い関心を抱いていた。

また、こちらがエーテルカセットの存在について言及した途端にタイミングよく模擬宇宙内に現れた。

 

まるでこちらが彼女を追跡しているのではなく、彼女がこちらの進路に現れているように。

 

パンクロードにおいて、ラクガキは特別なシンボルと言われている。現実を壮大なゲームと見なして、彼らは勝負のために訪れた場所に自分の印を残していく。それらをつなぎ合わせ、一つの生命のゲームを作り上げようと画策する。

 

今の状況はそれに似ていた。銀狼の痕跡はどれもこれもわかりやすい場所に置かれていたらしい。

彼女はもしかしたら、こちらと子供じみたゲームをしたいだけなのかもしれない。

 

そして二人はようやくカセットの保管されてある場所に訪れた。

 

かつて列車が止まっていたステーションの乗車位置。彼女のホログラムはそこにいた。

しかし、それはどうあがいてもおかしい。本来なら、彼女がここに辿り着いたということは、カセットを発見されたのと同義でもある。無事であること自体が矛盾しているのだ。

 

つまり……

 

「彼女は本物?」

『ご明察の通り。貴方がたが模擬宇宙に入ったと同時にハッキングを行い何らかの方法で我々に同行した。そしてその巧みな演技力を用いて我々を欺いた、というわけでしょう。真の目的はカセットなどではなく、我々と直接相対する事、違いますか?————ミス・銀狼?」

 

スクリューガムが直接、模擬宇宙内にいる穹の隣へと現れる。

銀狼のホログラムは彼が直接自分に会いにきたのを見て、満足そうに頷いた。

 

『やっぱり、あなたはとっくに気づいてたんだ。どうせ道中のつまらないおしゃべりも私に聞かせるためだったんでしょ?』

「貴方と再び渡り合えたこと、とても光栄に思います。ヘルタさんはこのカセットで銀河の大物を釣り上げられると言っていましたが——彼女の判断は常に的確ですね」

 

どうやらスクリューガムとヘルタはグルだったようで模擬宇宙を閉鎖するのも、そのことで口喧嘩したこともすべて彼女をここに誘い込むための嘘だったらしい。

ところが銀狼はそれを鼻で笑う。自分は罠にまんまと引っかかったのではなく、わざと罠に引っかかり天才二人を相手にゲームをするためにここまで来たのだと。

彼女にはどうやら、ここから逃げる算段がついているようだ。

 

『ちなみに、これも一緒に持っていく予定』

 

そう言って彼女が取り出したのはエーテルカセットの本体——ではなく、それを寸分違わずコピーしたものであった。

会話の最中にいつの間にか複製を済ませていたらしい。

 

『ふふ、ワクワクする!今回はどうやって私を止めるつもり?模擬宇宙をブラックボックスにする?それとも、カンパニーと協力して銀河中に包囲網をまく?今度こそ、あなたの本気を見せてくれる?』

 

銀狼はまるで遊び相手を見つけた子供のように目を輝かせながら、スクリューガムの返答を待っている。

しかし、彼は特に憤りや煩わしさを感じさせない穏やかな声音でなんてこともなさそうに言葉を返した。

 

「申し訳ありませんが、ミス・銀狼。貴方が期待しているような事は起こりません。今すぐにでもここから立ち去ることを推奨します」

『はあ?私を捕まえて遠い流刑地に送り出すんじゃないの?』

「面白い想像です。しかし貴方と宇宙ステーションの恩讐は私には無関係。貴方を止める理由がありません」

『じゃあ、このカセットを持っていっちゃうけど?』

「好きにすれば?それはどうせコピーだし」

 

彼らの背後からヘルタのロボットが一機やって来た。

どうやらこの状況を見物していたのはスクリューガムだけではなかったようだ。

 

「本物の奇物はもう別の場所にとっくに移してあるし。宇宙ステーションを攻撃しようが私には関係ない」

『何、あなたたち、わざわざ罠を仕掛けておいて本当に何もしないつもり?』

「はい。これで貴方が一生懸命準備したゲームは『あと一歩のところで台無し』になりました。貴方の要求はわかっています。カンパニーの監獄ですら貴方にとってはゲームのステージに過ぎませんからね。——貴方の要求には屈しない。これが私とヘルタさんの至った結論です」

 

彼の答えに銀狼は心底つまらなそうに舌打ちをした。

その間にもヘルタは手元でピコピコと何やら作業をし始める。

 

「そうそう、そういえばあなたって結構アカウント持ってたよね?えーっと……へえ、76個もある」

『は!?待って待って、一体何をするつもり!?』

「無論、逆ハッキングです。これらのアカウントをカンパニーに凍結してもらった場合貴方がどのような反応をするか、彼女はとても興味があるようです。もちろん、連携しているゲームも一緒に」

「まるで私一人が性格悪いように聞こえるからその言い方はやめて。あなたも興味を持ってたじゃない」

 

ゲームのデータがすべて消えるなど、ゲーマーにとってはあまりにも地獄である。

特にソシャゲでコツコツガチャを回し、限定キャラを入手してきた人にとっては特に。彼女もまた、そのうちの一人に入っている。

ホログラム越しでもわかるほど、彼女の顔は青ざめていた。

 

『あ、あなたたちに人の心とかないの!?』

「無機生命体に人の心があるかどうかは博識学会の方でも定期的に議題に上がるテーマです。その上であえて言わせていただくとすれば——」

「あるからやった、に決まってるでしょ?」

『———————————————っ!』

 

彼女はエーテルカセットのコピーを持っていくことすらも忘れて早急に立ち去ってしまった。

 

「行ってしまいましたね」

「ふふん、完全勝利。どう?お子ちゃまにおじいちゃん。私の凄さがわかったでしょ」

「すごい、さすがヘルタ様」

「マージで今回出番無かったなぁ。まあ、天才二人がいたから仕方ないか」

「今回の我々の勝因は彼女の勝負したい、という子供のような欲求があったからでしょう。もし、エーテルカセットを手に入れるためだけに彼女が()()を出せば、我々もただでは済まなかったはずです。貴方がたを招致しておいたのはそのためですよ」

 

負ける、とは口にしないあたりに天才としての絶対的な自負を感じる。

満足そうにふんぞりかえるヘルタに穹は拍手を送り、それにまんざらでもないヘルタの鼻がふんっ、と鳴った。

 

その後、星穹列車に戻った彼にメールが届く。

そこに載っていたのはあり得ないほどの罵詈雑言とスマホの動作を重くするスタンプの連打。

誰が発信者かは明白だ。いつの間にか穹のメールIDを把握していたらしい。

 

『ひどい!サイテー!信じらんない!——今度あったら絶対にただじゃおかないって言っておいて!』

 

本人に言えば?と返信すれば、サムズダウンした銀狼のスタンプだけが返ってきた。

 

 




修行回に無理やり幕間をねじ込みました。
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