奇物:両面宿儺の指   作:二等辺大三角形

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虚々実々の言霊

 

「なんというか、早速前途多難だな」

「人と交渉するのってモンスター退治より疲れるね」

「まったくだ」

 

仙舟・羅浮の将軍、景元との対談を終えた列車組は再び停雲と合流することとなった。

天舶司にて、若干のいざこざが起きかけたことに彼らは辟易していた。彼女が少しでも指示すれば、ベロブルグと同じように雲騎軍がこちらを取り押さえてきたかもしれない。

 

「皆様のご意見も尤もですが、どうか弁明させてください。羅浮の至る所に危機が潜んでいる今、天舶司を率いる者として警戒を強めるのは当然のこと。私的な場所であればあの老大人も堅苦しく接することはなかったでしょう」

「老大人?」

「御空様のことです。あの老大人は昔、仙舟の雲騎軍飛行士の中でも傑物だったそうで、炎のような腕前を持ち、冗談もお好きだったとか」

 

あの生真面目な雰囲気からは想像もできないような過去である。

停雲が言うには、年月が過ぎたことで彼女もその短気な性格を抑えるようになり、天舶司の長についたことで業務を完璧にこなせるようになっていったそうだ。

 

「仙舟はおもてなしの礼を欠かしません。御空様はこうおっしゃっていましたよ。礼儀を欠いたお詫びにと皆様の好物などを購入する際は天舶司がツケとして代わりに支払うと」

 

穹となのかの目が輝く。

 

「コホンッ、そこまで厚くもてなしてくれるなら、その好意に甘えないと逆に失礼だよね!」

「俺、お肉食べたい!」

 

他人の金で食う飯ほど美味いものは無い。古今東西の摂理である。

依頼されたこと?まあ、少しぐらいサボっても大丈夫だろう。

 

「まあ、そっちがそう言ってるなら———」

「いや、俺たちは依頼に専念しよう」

「うん、そうだぞ。依頼の方が大事だからな」

 

ダメでした。

 

「なの、甘えた事言わないで!」

「ええ!?アンタもこっち側だったじゃん!」

「御空舵取が俺たちの介入を拒んだのは、カフカの居場所に心当たりがあるからなんじゃないか?」

 

わちゃわちゃしてる2人の横でヴェルトが停雲に尋ねる。

その問いに彼女は深く首を縦に振った。そして懐から端末を取り出して、カフカの通信記録を彼らに見せる。

 

『まったく異なる目的を持っているように見えても、群星はやがて軌道を交差させるものよ。では、さようなら』

「この通信の内容自体に意味はありません。重要なのは……」

「後ろで何か装置の起動音が聞こえてる」

「この音を手がかりにすればいいってことね!でも仙舟はスターシップだし、この音もありきたりなものなんじゃないの?」

「たしかに一般の方にはそう聞こえるかもしれません。しかし、機械のメンテナンスに長けている工造司の方は違います。彼らであれば、仙舟にある機材の音一つ一つを曲の旋律のように聞き分けることができるでしょう」

 

景元は工造司の人員を呼び出し、その音がどの機械の音なのかを判別させた。結果としてカフカがいた場所は「廻星港」と呼ばれる造船施設であるらしい。

つまり、列車の一同はそこへと赴き、カフカをひっ捕えれば万事解決である。

 

「皆様、今はゆっくりとお休みください。準備が整い次第、敵を捕まえにいきましょう。その時は、ぜひ皆様の腕前をお見せくださいね」

 

そんなこんなで、状況を列車に伝えるために丹恒と姫子に連絡を送ることになった。

しかし、通信は繋がることなく、途絶えてしまった。

 

あまり回線が優れていないのか。

 

もしくは、何者かから妨害されているのか。

 

———————————

 

星穹列車にて

 

「もうかれこれ30分も経ってるけど珍しいわね、あんたがそんなにボーッとするなんて」

 

玉界門を列車の窓から眺め続けている丹恒に姫子が机の上に彼女の淹れたコーヒーを置いて言葉をかけた。

 

「姫子さん、星核ハンターとの通信を保存していたと思うが……」

 

姫子は頷き、彼に先ほどカフカが送りつけていた記録の一部始終を見せた。

途中までは顔色を変えることなく映像を見ていたが、ある男の姿が写し出されると同時に彼は驚きで目を見開く。

 

視線の先にいたのは———彼女が刃と呼んだ怪しげな男であった。

 

「仙舟は危険だ!この男は……」

「彼を知ってるの?」

 

彼はとある星で巨獣を討伐する際に列車へと乗り込むことになった。それまでの略歴は彼を誘った姫子ですらほとんど知らず、唯一知っていることとすればそれまで彼は長きにわたって逃亡生活を送ってきたことだけであった。

 

「こいつが仙舟にいる限り、皆が危険に晒されることになる」

「彼はあんたが逃げてきた理由に大きく関係してるのね?」

「……あいつらを放っておくわけにはいかないが、俺の重荷に巻き込むわけには…………」

「誰だって重荷一つや二つぐらい抱えているわ。三月ちゃんには記憶がなくて、穹はあの星核をその身に宿してる。ヴェルトや悠仁だって私たちに言えないようなモノを持ってるはずよ」

 

この宇宙に住む人々は目に見えない運命の道を歩んでいる。目に見えたもの、耳で聞いたもの、己の手で開拓したものはすべて、進むための力となる。

 

「あれこれ考えるのはやめましょう、丹恒。ルールによれば、列車が停車する期間は標準で七日間。その間、乗客は好きなように自分の時間を分配できるわ。———やりたいことがあるのなら、やってきなさい。後になって悔しがるよりマシよ」

 

姫子は丹恒の過去について詮索する事はなかった。それどころか、後腐れがないように彼の背中を押そうとしてくれる。

丹恒は覚悟を決めたように一息吐き、そしてまっすぐと彼女を見据えた。

 

「行ってくる」

「ええ、おてんばなあの子達と一緒に楽しい土産話を持ってきてちょうだいね」

 

 

一方その頃……

 

「へっくち!……うーん、誰かがウチの噂でもしてるのかな?」

「どんまい」

「なにが!?」

 

列車組と停雲は廻星港へと訪れていた。

カフカの手がかりを見つけるため、彼らは道中で現れる魔陰の身や反物質レギオンを撃退しながらさらに奥へと進んでいく。

ここまで来ると人の気配は一切消え失せ、陽の光がさしていながら不気味な雰囲気を漂わせている。

 

「羅浮の内と外は全て星槎を頼って行き来しています。そのため、廻星港のラインが泊まれば仙舟全ての運行が止まってしまうのです。はあ……本来、廻星港が休止する際はいい休みの機会になるというのに、星核ハンターのせいでそれすらままなりませんね」

 

カフカはこちらの追跡を予期していたように、周囲にさまざまな痕跡を残していた。

挑発するような言動を書き記した紙切れ。

口紅のついたピンク色の手榴弾。

鋭い何かで切断された雲騎軍の武器。

そして、造船監職人の通行用玉符。関所を通るためにここの役人が使用するものだ。おそらく誰かが意図的に壊しここに置いていったのだろう。その誰か、というのは間違いなくカフカだ。

 

「もう、完全におちょくられてるじゃん!」

「こちらの動きを読まれているな」

 

エレベーターに乗り込み下の階層へと降りることにした一同。

その道中で異変は起きた。

カフカの痕跡が完全に途絶え、どこにも見当たらなくなってしまった。

 

「気配が……消えた?」

「獲物の痕跡が急に消えたら、狩人には気をつけなさい。——狩る側と狩られる側の立場が逆転する兆しだから」

 

コンテナの上から彼女の声が聞こえ、見上げると数十人の雲騎軍の兵士たちを連れたカフカの姿がそこにはあった。

なぜ兵士たちが彼女と共にいるのかは不明だが、先ほどから微動だにしないままその場に佇んでいる。

明らかに様子がおかしい。死んでいるわけではなく、魔陰の身になったわけでもなさそうだ。

 

「この子達は魔陰の身には堕ちていないわ。ほんの少し暗示をかけて私の話を聞いてもらっただけよ」

「……カフカ」

「こんにちは、穹。ほんとはもっと落ち着いて場所で会いたかったけど、今はスケジュールがカツカツなの。また後で会いましょう」

 

そう言って、カフカは歩き去っていった。

彼女の指示に従い、雲騎軍の兵士たちが列車組のそばへと降り立つ。

その動きはどうも機械的で、決められた動作にしか動かない人形のようだ。

 

「逃しちゃダメだよ!」

「下手に力を込めれば相手を怪我させてしまう。慎重に行動するんだ」

 

下手に調整が必要な分、モンスターを相手にするより何倍も難しい。

とはいえ敵は単調的な動きしか繰り返せないため、無力化できないわけではない。

得物を槍からバットに持ち替え、なんとか怪我をさせないように当身を使って気絶させた。

 

どうやらある程度の衝撃で催眠は解除させることができるようだ。

 

「急ごう!」

 

彼女の後を追いかける。

どこへ逃げるつもりかは知らないが、この距離であれば彼女へとすぐに追いつくことができるはずだ。

痕跡を追い続け、幾度となく妨害を退けながらがむしゃらに突き進んでいく。

 

そして廻星港の端、多くの貨物が入り送られてくる羅浮の商業の要でもある場所へ彼女を追い込んだ。

まさに袋小路のネズミの状態。しかし、彼女の表情に焦りはなく、その態度は落ち着いたまま。

 

「ようこそ、列車の皆さん。私を捕まえに来たのよね」

「……いったい何を考えている。俺たちをここに来させたのも、お前の計画のうちなんだろう」

 

最初の通信に入っていた機材の音も、わざと残したのだろう。凄腕ハッカーの銀狼がそのような証拠をみすみす見逃すはずもない。

彼女たちは仙舟の連中ではなく、あえて星穹列車をこの場所に呼びたかったのだ。

 

「計画ではなく『未来』よ。無数の未来の可能性に干渉して、最良の『未来』を現実に変えてるの。私たちもまた『運命の奴隷』に過ぎない」

「投降した方がいい。弁明は仙舟に言って」

「あら、それは嫌だわ。他人の歩調に合わせるなんて大嫌いだもの」

 

彼女はそう言い放ち、チラリと腕時計に視線を送る。

彼女はまだ持ち前の武器に触れてはいない。しかし、その所作に嫌な気配を感じたため、彼らは自然と臨戦体勢に入った。

 

「そろそろ時間ね。さあ、かかってきなさい。さもないと間に合わなくなる」

 

彼女が指を鳴らせば、雲騎軍の兵士たちと、工造司によって造られた機巧が次々に姿を表す。

どれもかしこも自由意思のようなものを持ち合わせているような様子はなく、皆例外なくカフカに操られているようだ。

 

そしてカフカは懐から二丁の拳銃を取り出す。

引き金を引いたと同時に戦いは始まった。

 

なのかは停雲を下がらせながら援護射撃に徹し、ヴェルトは雑兵たちの足止めを、そして穹がカフカへと直接攻撃をする。

 

ほんの少し人数差に不安があるものの、カフカ以外の敵は全て単調的な動きしかしない雑魚ばかり。

先ほどの戦闘で操られている兵士たちへの対処法もわかっているため、あまり苦戦を強いられてはいない。

 

しかし——

 

「なのかちゃん、聞いて。弓をおろしてちょうだい」

「————っ、やば!」

 

兵士の相手をしているなのかの腕が、電池を切らしたロボットのようにダラリと垂れ下がる。

カフカの言霊だ。彼女に言葉を投げかけられた相手は言うことに無意識的に従ってしまい、行動を大きく制限される。

操られている兵士たちとは違い、戦闘中であることや二人の距離も遠かったことから効果は薄いものの、一瞬だけの行動を縛ることぐらいなら容易い。

彼女の停止してしまった腕はすぐさま元に戻り、もう一度弓を構えなおそうとするも目の前の兵士から斬撃が放たれる。

 

刃が振り下ろされる直前、重力の束が兵士を締め付けた。

 

「ありがとう、ヨウおじちゃん!」

「無理はするなよ。——はっ!」

 

彼が拘束しているうちに、彼女は氷の矢を使って兵士の動きを完全に止めた。

 

「よそ見はダメよ?」

「うおっ!?」

 

彼らの様子を案じていた穹のそばに、カフカの刃が迫る。

間一髪で避けるものの、その斬撃は蜘蛛の巣のように周囲に広く飛び散り彼の髪の先をわずかにながら掠めた。

近づけば刀による近接攻撃、離れればそれを付け狙う拳銃による遠距離攻撃。

遠近ともに隙がなく、彼女がいかにして宇宙的犯罪者としてその名を轟かせたのかが自ずと理解できてしまう。

 

さらに厄介なのは彼女の使う言霊だ。

操られることがなかったとしても、先ほどのなのかのように一時的に行動を縛られる可能性もあった。

使われても、使われなくても余計な意識を割く必要があるため精神的な疲弊もそこに加わる。

 

「穹、ちょっといいか?」

「ん!?悠仁、何かあったか!?」

「あの言霊ってやつの対処法、思いついたかもしれん」

「まじ?」

「大マジ」

 

大マジらしい。

 

「詳しく説明は省くけど、とりあえず耳から脳に呪力を入れて」

「脳……こんな感じ?」

「言っといてなんだけど、そんなすぐできるのすげぇな」

 

(とはいえ呪言と言霊とじゃ効果も違いそうだからどれだけ通用するかわかんねぇけど)

 

悠仁は昔関わってきた多くの呪言師たちの話を思い出す。

呪言というのは呪いの篭った言葉を放って相手を呪う術式。

放った言葉の内容に合わせて相手に効果を及ぼすものであり、彼女の言霊と似通っている。

 

しかし異なる点は多く見られる。

言葉の内容次第では使用者への反動が来る呪言は、相手へ放つ言葉の意味が強ければ強いほど反動によって大きく吐血の恐れもある。

会話内容によっては無意識で使用してしまう恐れもあるため、あらかじめ使う言葉を縛ったり、行使する際の条件を決めておいて使用しなければならない。

それに比べてカフカの言霊には反動を受けているような様子もなく、会話も普通にできている。

だがその分、タメが長い。彼女が言霊を使用するには必ず「聞いて」と言っておく必要があり、具体的な指示内容を言葉にしておかなければいけないようだ。

 

「作戦会議は終わったかしら?」

 

カフカが指先から蜘蛛の糸のようなものを出し、彼女の周囲に張り巡らせる。

その一本、一本に電流が流れ込んでいた。こちらの動きを制限してくるものとしては非常に厄介。

さらにカフカはその糸の隙間を丁寧に銃弾を撃ち込んでくる。

迂闊に近づけば蜂の巣にされてしまいそうだ。

 

「穹!これ使って!!」

 

そこに雑魚敵を一掃したなのかが放った氷の矢の雨が降り注ぐ。

(ヤジリ)は的確に雷の糸を切り落としていった。

残された糸はヴェルトがブラックホールを使って強引に吸い込ませる。

 

「カフカ!」

「あら大胆」

 

仲間が開いてくれた道を穹は呪力を込めたバットを持って突破する。

迫り来る銃弾を受け流し、至近距離に入った彼女にその棍棒を振り翳した。

彼女はそのバットを刀身で横に受け止める。その衝撃でできた風圧は気を抜けばそのまま飛んでいってしまいそうだ。

そして繰り出されるバットによる攻撃をカフカは涼しい顔で受け止め続ける。

 

(意識がバットに向きすぎてる。昔の俺と同じだな。……このままじゃジリ貧だ)

 

このままじゃ器が持たない。

バットに耐久力があるのかは不明だが呪力の込め方も雑になってしまっている。

 

「はあ!」

 

大ぶりに構えた一振りをカフカは強く受け止めてた。

 

聞いて。武器を下ろしてそのまま眠って」

「……!」

 

脳が強く振動し、力んでいたはずの腕の力が弱まったまま意識が吹き飛ばされかける。

耳を完全に塞がない限り彼女の支配から逃れることは不可能。

そして呪力を篭めてもいないため、呪言対策として使われる耳に呪力を流して防ぐ方法も通用するかはわからなかった。

 

しかし、その行為には意味があった。

呪力を脳にも回していたおかげか、言霊の影響はそこにまで届くことはなく、かろうじて支配を免れることができた。

強力な言霊だ。悠仁の助言を聞いていなければ、無意識のうちに武器を手放していたかもしれない。

 

(呪力を丁寧に、流し込む!)

 

「はああああああ!!」

 

いまだに下そうとしてくる腕を無理やり呪力で締め付けて、彼は雄叫びをあげてバットを強く振り下ろした。

 

「あら」

 

今までにないほどの集中力で強化されたバットは彼女の紫色の刀をパキンとへし折り、その鋒は華麗に回転しながら地面へと突き刺さる。

刀を折られたことより言霊の支配を逃れられたことに驚き、薄く目を見開く彼女。その珍しい表情はすぐさま怪しげな笑みへと切り替わった。

 

「それがあの子の言ってた修行の成果かしら」

「……投降しろ、カフカ」

「ふふ、もう少し君の成長を見ていたかったのだけどそろそろ時間みたいね。——随分遅かったじゃない」

 

すると突然、彼女は剣を手放し、その腰に携えた二丁拳銃を上空へ乱射し始めた。

 

「取るに足らない」

 

鉄塊がその小さな手の指先で受け止められた。

 

「おまえの一挙一動はすでに法眼の中」

 

波紋が広がり、桃髪の少女が空より降り立つ。

 

「諦めなさい」

 

指先を使って銃弾の指向を彼女は操作する。

一直線に向かっていた鉄の雨は、瞬く間にお互いが激しい火花をぶつけ合っていく。

そのまま彼女の放った銃弾は勢いを失って地面に次々と落下していった。

 

「太卜司、符玄。これより重罪人は私が引き受ける」

 

符玄と名乗った少女は銃を手放したカフカの背後へと降り立ち、星穹列車の一同にそう伝えた。

 

 

 

———————————————————————————

 

 

「まったく、こんな時に穹儀が壊れるなんて。おかげで遠回りをする羽目になったわね」

「しかし、ここ長楽天は聞く限りでは安全な場所ではありませんか。残りの道は徒歩で行くことにしましょう」

 

カフカはあの後、雲騎軍に捕まり連行されることとなった。

その後、太卜司にて彼女への尋問を執り行うと符玄という少女は言った。

太卜司とは仙舟六司のうちの一つ。未来の占い、その情報を保存、処理することで仙舟の業務の基盤を担っている。

彼女はその太卜司の長を務めている。その歳若く見える外見とは裏腹に、かなりのしっかり者だ。

 

彼女は長楽天と呼ばれている人々が多く行き交う広場の入り口で、その瞳を閉じて何かをし始めた。

 

兌換(だかん)の間、佳象(かしょう)に満ち引きあり。船の進みが難くなり、泥に足を取られる」

「なんで急にポエムを?」

「卜算でございますよ、恩人様。符玄様のお使いになる占いのようなものです」

「ウチも聞いたことあるけど、ほんとに神業?指を使うだけならウチにだってできるよ」

「なのは数えるときに指を使うんだ」

「悪い?10本もあるんだから使わなきゃもったいないじゃん」

 

占いを終えた符玄は彼らへとあることを伝えた。

 

「念の為に占ってみたけど、結果は今の状況と同じね。仕方ないわ、私は先に内務を終わらせてくるからお前たちはここで待っておきなさい」

「結構忙しそうだね。ちゃんと休みを取ったら?」

「私を舐めないで。次期将軍としてこのぐらいの業務はやって当然のことよ」

「カフカのことはどうするんだ?」

「犯人への尋問は特殊な手段を使うため、方法は公表はできない。けれどお前たちが来るまで行わないと約束するわ。たとえ洞天が崩れようともね」

 

そう言い残し、彼女は足早に去っていった。

愛想が良いとは言い難いが、律儀というか生真面目さの残る物言いだ。

彼女なりに気を使ってくれたのだろう。

 

出店に売ってあった肉まんを頬張りながら彼らは広場へ向かう。

何やら人だかりができていて、中央をのぞいてみればそこには担架に乗せられた雲騎軍の兵士の姿があった。

怪我を負っているらしく、一人の女医が付きっきりで看病している。

 

集団の背後で彼らが覗き込んだその時————

 

「う、ぐ、があああああ!!」

 

突然、他の男が苦しみに始めた。

男の体は次第に黄色く発光し始め、どこからか発生したイチョウの葉が彼の身体を覆い隠していく。

 

やがて浮かび上がったその兵士の姿は————魔陰の身そっくりであった。

悲鳴をあげ、怯える民衆。

 

「皆、下がれ!」

 

そこにとても小柄な影が、怪物と化した兵士に強烈な蹴りを加えた。

小さな青髪の少女。その頭にはツノが生え、ズボンの隙間から尻尾のようなものまで見える。

まるで龍の特徴を体現したような幼女は、手に持っていた瓢箪を近くの女医に渡す。

 

「これを使ってやつを横たわらせるん——」

「あ、危ない!」

 

彼女が何か説明をしているその時に、また別の魔陰の身となった兵士が彼女へとその刃を向ける。

幼女が反応するよりも早く切先は眼前へと迫っていた。

 

「ふん!」

 

穹が素早くバットを投げ飛ばし、魔陰の身を怯ませる。

群衆を抜け、彼は幼女と怪物の間に入り込む。

 

「悠仁、あれできるか?」

「ああ、まだ完全に魂が消えたわけじゃないからな」

 

「「契闊」」

 

バットを手放し、その入れ墨の入った腕を魔陰の身へと直接向けた。

手のひらがその銀杏の鎧に触れ、悠仁はある言葉を唱える。

 

「捌」

 

すると魔陰の身が身につけていた鎧が砕け、中から普通の人間が姿を現す。

銀杏の葉は空へと飛んでいき、そのままどこかへと消えていってしまった。

 

 

 




今回はかなり独自設定が含みました。
カフカの言霊は完璧に防げるわけではありません。支配の力を若干抑えられるだけです。そこから意識を戻すのは本人の気力次第。
それと魔陰の身に関しては、堕ちた直後であれば魂の境界を断つ斬撃で治すことができますが、時間が経ち過ぎると倒す以外の方法がなくなります。

モジュロ虎杖のエミュって意外と難しい。
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