奇物:両面宿儺の指   作:二等辺大三角形

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注:一部の独自解釈、アレンジを加えています。


戦跡を刻む

 

眼前に見据えた幻朧の顎に解を放ち、その口を斬り落とした。

 

——ごめん、停雲。俺が早く気づいとけばもっと多くの人を、

 

地獄の上で垂れ流れる黄金の血。

赤い瞳は無感情なまでにその傷跡を眺めた。

 

——いや、言い訳だ。今の俺にできることは……

 

服のポケットに突っ込んでいた手を取り出し、掌印を構える。

 

——コイツを祓う(殺す)ことだけだ。

 

領域展開

 

それは呪術の極地。

生得領域の最終段階であり、最高峰の結界術。

結界内に己の術式を付与させ、相手に必中必殺の効果を与える奥義とも呼べる技。

その中において、術者は潜在能力を遺憾無く発揮し、その上領域内の攻撃はすべて例外なく命中する。

 

「よし!ウチらも加勢に……」

「待て、なのか。ここは景元将軍を連れて引こう」

「なんでよ、ヨウおじちゃん!せっかくのチャンスなのに!」

「————巻き込まれるぞ」

 

ヴェルトに視線を向ければ、彼はその意を察し景元を抱えて鱗淵境の入り口まで戻ってくれた。

上空にいる丹恒は何も言わずにこちらを見守っている。

こちらの意を汲んでくれているのか、もしもの時のために待機してくれているようだ。

 

悠仁からすればそれはありがたい。

呪術師として最長の暦を歩んだとはいえ、相手は星を滅ぼせる絶滅大君。

油断も驕りもなく、彼は初手での必殺技による鏖殺を試みる。

 

「■■■■■」

 

彼の背後から、音もなく赤い鳥居のような建造物が現れた。

万死の厨房、その力の一端。

心地の良い冬の風が肌を伝い、天界から見下ろす菩薩が顔を出す。

 

虎杖悠仁の斬撃は二つ。

通常の斬撃「解」。呪力差・強度によって対象を下す「捌」。

「■■■■■」は他の者の領域とは異なる空間を分離しない特殊な結界。

それは器もなしに水を入れ、キャンバスを用いずに空に絵を描くのと等しい神業。

かつての呪いの王、そして最悪の呪術師にのみ許されたその技巧を、彼は完全に習得していた。

 

加えて相手に逃げ道を与える"縛り"を用いて彼は領域の威力を底上げしている。

後方の仲間に極力、影響がいかないように与えられた面積は前方180度、半径約180mにまで及ぶ半円。

幻朧の体躯は上半身だけでもあの終末獣をゆうに超える。

ゆえに結界によって閉じ込めるのは不可能と判断した彼はあえて、その選択をした。

 

「惨めに潰され、死ぬがいい!虫けら風情が!!」

 

豊穣の力を使い、下顎を治癒した幻朧が怒髪天をつく勢いで彼へと迫る。

建木のツタや幹。それだけでなく、忌み物やヴォイドレンジャーまでも生み出した彼女の手駒は数百の軍勢を超えていた。

これほどの数を対処するとなると、仙舟・羅浮の雲騎軍の戦力では勝率は半々。

鱗淵境を埋め尽くすほどの化け物の軍団が彼という一点にただひたすらに向かう。

 

「——————遺言は終わりか?」

 

数百、数千、数万、数億を超える斬撃の雨が降り注ぎ、暴風の如き脅威は瞬きの間に塵芥と化す。

 

必中効果範囲内の呪力を帯びたモノには「捌」。

無生物には「解」が、領域が消えるまで絶え間なく浴びせられ続ける。

この場合ヴォイドレンジャーと忌み物に降りかかるのは無生物に対する「解」のみ。

それだけでは威力が足りないと判断した彼は「解」の威力を弱める"縛り"を使い、「捌」の条件を呪力を帯びたものから、「解」の斬撃の呪力の付着したものに変更。

その結果、本来降りかかるはずの斬撃が倍となって彼らを襲った。

 

「なんだ、それは。知らぬ、妾はそんなも——」

 

それは幻朧も例外ではなかった。

逃げ道を与えられている"縛り"のことなど、当然彼女は知らない。

ゆえに彼女の脳内に逃げるという文字は存在しておらず、それは勝機を失うことど同等である。

 

目を刻まれ、脳を抉られ、腕を消し飛ばされ、顔を削られ、その繰り返し。

傷を治そうにも、すぐさま別の箇所が切り裂かれ、耐え難い激痛を走らせながら神経をズタボロにしていった。

建木による無限回復が仇となり、彼女の肉体への苦しみは他の者たちのそれより長く続く。

加えて領域に付与された「解」には魂の輪郭を捉えたモノもランダムに含まれ、どれほど堅剛な肉体を持っていようとも、そのダメージは建木の鎧を貫いて彼女の魂へと至る。

 

生まれ、そして死ぬ。

肉壁となって理由もわからず、レギオンの軍団は無へと帰し、鱗淵境の大地は均等に切り刻まれ、それは海水も空気も同じように。

 

「———————っ!——————がぁっ!」

 

言葉を発することすらできないまま斬撃の雨を幻朧は喰らい続け、いよいよ領域内の術式発動速度が建木の回復速度を上回り始めた。

肉体の復活を諦め、彼女は脳の治癒を必死に行う。

 

わずかに掴んだ好機を逃さなず、見えない刃の無限地獄の中でようやく彼女は思考を取り戻す。

途方もない痛みが脳を支配しようとする中で彼女が見出した勝機は——

 

(堪える。今は、堪えるのみ……!これほどの大技、そう数発も放てるわけがない……!!)

 

幻朧のその読みは半分は当たっている。

術者のポテンシャルを120%に引き出し、相手の術式を無効にすらできるその大技にはもちろんデメリットが存在していた。

それは術式の即時再使用不可。呪力の消費が半端ではないため、一日に発動できる回数には大きく制限される。

その上、使用後には術式の焼き切れ、つまりオーバーヒートを起こし、己の術式を練ることすらままならなくなるのだ。

つまり、この領域が終われば虎杖悠仁は文字通り「御厨子」を発動できなくなるのだ。

 

そうなれば、幻朧にも勝算はある。

だが、当然ながら使い手である虎杖悠仁もすでにそのことは把握していた。

 

————さて……

 

そして物事には必ず例外が存在する。

 

術式を焼き切れようとも、自らの呪力を用いて術式の刻まれている脳を破壊して反転術式で治癒すれば、術式の再使用を問題なく使用可能になるのだ。

呪力効率を極めた今の虎杖悠仁であればそれはできないことではない。

 

だが……

 

——穹の身体じゃ使えないな。

 

それは諸刃に等しく、脳への負荷は直接後遺症へつながる危険性さえあるため、彼は宿主である青年の肉体を考慮して術式のリセットは諦めていた。

領域の再展開不可。これは幻朧の読み通り。

 

であれば、もう片方の間違いは——

 

斬撃が止み、虎杖悠仁の領域展開がようやく終了する。

鱗淵境内の架橋、そして建木の枝葉は跡形もなく消え去り、残ったのは綺麗な水面と見るも無惨な肉塊と化した幻朧の姿のみ。

 

「は、は————はははははっ!」

 

かろうじて呼吸を繰り返していた彼女の瞳に生気が映った。

生き残った喜び、そして虫けらにいいようにされたことへの怒りの混ざる嗜虐的な笑みを浮かべた幻朧。

もはやただ捻り潰すだけでは飽き足らなず、骨を折り、肉を抉り、奴の同胞を悉く殴殺し首の前に晒してやろうと息巻いた。

 

そして、そんな無駄なことを考えたことが彼女の犯したもう半分の間違いである。

 

(カミノ)

 

彼の手元に()()炎が宿った。

 

(フーガ)

 

「解」と「捌」の調理工程を終えて、「(カミノ)」の扉は開かれる。

御厨子には二つの効果があった。

一つは斬撃。もう一つは…… 「(カミノ)」という名を冠する炎。

虎杖悠仁の「(カミノ)」はかの両面宿儺と同様に速度もなく、範囲も狭い。

これらを解決するため、彼もまた同じように"縛り"を課してそのデメリットをカバーした。

領域展開中を除く多対一の「(カミノ)」の使用禁止。

この縛りによって術式の性能を拡張し、粉塵化した全ての物質を「(カミノ)」と同様の呪力を混ぜている。

 

それに加えて、彼はさらに一つの工夫を行う。

「御厨子」とは本来、台所を意味する言葉であり、そこから発想を得た彼は料理における最終工程の「焼く」の解釈を変えた。

現代風で言えばガスコンロ。

周囲の空気を重点的に術式に纏わせ、酸素を供給。

燃焼効率が著しく増加した彼の「(カミノ)」は完全燃焼を起こし、その熱量は約1.4倍に膨れ上がる。

結果として起こるのは、大気における水分の蒸発。

からりとした空気が肌にふれ、滴る汗をも消しとばす。

 

「それ、は————っ、まずい!」

 

絶望を照らす青炎。

幻朧はしばらく黙って見入ってしまい、逃げるのがほんのわずかに遅れ、その隙を決して逃しはしないと丹恒の水龍が右腕に巻きつき、景元の神君がもう片方の腕を雷の刃で縫い付ける。

斬撃の届かぬはるか下方にて彼らはその機会をずっと伺いながら待っていた。

 

「何っ!?」

「逃すとでも思ったか」

「奇兵は最後まで取っておくモノだよ、幻朧」

 

丹恒は上空にてその様子を伺い、神君の視界を介してその光景を見ていた景元がそう呟く。

がんじがらめに拘束され、逃れることはすでに不可能。

釈炎の矢が悪鬼羅刹へと向けられ、火焔が世界をも塵芥にする。

 

「放せっ、放せぇぇぇっ!!」

「——俺たちの勝ちだ」

 

火柱が星のない闇夜に煌めきが一つ。

青く禍々しい花火は鱗淵境を照らしながら熱量による暴波が視界を大きく歪め、海上に立つ粉塵爆発の炎柱は刹那の高温、衝撃波や超加圧によって領域内の生命を例外なく焼き殺した。

 

荒野と化した砂浜の上に、巨大な肉の塊が一つ。

黄金の血は黒く焼き焦げた炭となり、もはや原型を留めてはいない。

だがそれでもかろうじて人型を維持できていることが絶滅大君が他の有象無象とは違うことの証明だ。

胸の中心から炎の魂が漏れ、上空へと逃げようとしていた。

 

『はあ、はあ……虫けら、どもが……』

 

大きく跳躍した悠仁はそれを素手で掴み取った。

もはや最初の威勢はどこにもなく、そのまま握りしめてしまえば跡形もなく消えそうなほどに弱い炎。

 

「よう」

『っ!……虎杖悠仁ィ!!』

「おうおう、まだ随分元気そうだな」

 

手のひらの中で炎がなん度も逃げ出そうと暴れるが、彼はそれを意に介さず手から離そうとしない。

 

「さて、オマエには聞きたいことが山ほどあるだが……ま、どうせ聞いても答えてくんなそうだし、一つだけ忠告しておく」

『貴様ァ……!誰に向かって——』

黙れ

 

酷く底冷えした声音だった。

真紅に染まっていたはずの赤い目はどこまでも暗く、黒く瞳孔すら見えない深淵となってこちらを見ている。

そこに怒りはなく、悲しみも、驕りも、慈悲さえもない。

まるでただの路傍の石のような眼差しに、幻朧でさえも口を自然と閉ざした。

 

「別にオマエのことはどうでもいいんだよ。オマエの目的も、意思も、存在意義も全部興味はない。オマエたちのような奴らはいつどの時代でも現れるモンだ……だから、何回蘇ろうとも殺してやる」

 

掴んだ魂を無理やり上へと持ち上げ、瞬きもすることなく彼は冷えた声音のまま言う。

 

「他の絶滅大君に伝えておけ。————分を弁えろよ、痴れ者共が

『きさ——』

「解」

 

魂の斬撃が灯火を綺麗さっぱり消し飛ばし、何事もなかったように彼は鱗淵境の石橋へと戻っていく。

様子を見にきた他の仲間たちは彼の背後に広がっている光景を見て思わず言葉を失った。

 

「…………まさか、ここまでとはな」

「海水が全部蒸発しちゃった!」

 

水はほとんどが消え失せ、海底から姿を現す赤褐色の大地には巨大なクレーターができている。

穴底には次第に海水が押し寄せその跡を隠そうとしているが、それでも海の水位はおよそ10mほどにまで下がっていた。

 

「本当に、諸君らが仙舟に来てくれたのは幸運だった」

 

疲労で座り込んだ景元が星穹列車に感謝の意を伝えに来てくれた。

 

「おー、お疲れサマンサ〜」

「ノリ軽っ」

「いやぁ、今回はなかなかしんどかった。絶滅大君ってみんなあんな感じのヤバいやつばっかなん?」

「相手は世界をも簡単に滅ぼせる壊滅の使令だ。むしろ、俺たちが無傷で生還できたことを喜ぶべきだろう」

「おっ、丹恒・ドラゴンフォーム」

「その呼び方はやめてくれ」

 

天から降りてきた丹恒に加え、クレーターのど真ん中から跳躍して合流する悠仁。

あれほどの熱量の攻撃を放っておきながら、彼の服の袖端さえも焦げたような跡はない。

パンパンッと砂塵で汚れた服をはたき落とす様子は、絶滅大君を追い込んだような猛者には見えなかった。

 

「悠仁ってウチの想像以上に強いんだね……今回の旅、ウチらいらなかったんじゃない?」

「いんや、流石の俺もハナからあいつと戦ってたらかなり厳しかったよ。それに結局俺が出向いてもまんまと逃げられちまったし」

「……やはりそうか」

「えっ!?どういうこと!?」

「幻朧はセーフティとして魂の一部をどこか遠くに残していたのだろう。虎杖殿、その魂の行方はわかるだろうか」

「少なくとも仙舟からは出てないと思う」

「そうか、その情報だけでも十分ありがたい。あとで符玄殿にも知らせておこう」

 

壊滅の使令による仙舟の危機はどこかへと去り、巡狩の復讐は終わりはしない。

悠仁はふと、自分の手がかすかに震え始めていることに気が付く。

 

「時間か……」

「悠仁、どうしたの?」

「ああ、いや、大したことじゃない。ちょっと今からぶっ倒れるから、穹よろしく」

「え、ぶっ……ええっ!?」

 

仙舟に来てからというものほとんど休める暇もなく、おまけになん度も肉体を入れ替えていた影響もあってか気付かぬうちに彼の体には疲労が溜まり込んでいた。

それが今、ようやく解放され一気に押し寄せてきたのだろう。

ヘルタの言っていたことはこれか、と納得しつつ悠仁の魂は穹の肉体の奥深くへと抑え込まれていった。

入れ墨がスーッと消え失せ、髪が自然と下ろされた穹は目を開くことなく、顔の真正面からパタリと倒れ伏す。

 

「うわー!どうしよう、どうしよう!?」

「落ち着け、なのか。ただ眠っているだけだ」

 

身体を表向きに起こせば、すぴーすぴーという呑気な寝息が聞こえてきた。疲れがたまっているのだろう、指先で彼の頬をつんつんしようと、引っ張ろうとも起きてこない。

 

天地を分つような戦を終えた後とは思えない、緩んだ空気感があたりを包み、自然と一同は笑みをこぼした。

戦いは終わったが、旅の終着点はここではない。

この先にどれほどの脅威が待ち受けていようとも、彼らが足を止める理由にはならなかった。

 

 

————————————

 

 

目覚めた後、彼らは景元そして符玄と共に今回の騒動についてのまとめを行った。

今回の元凶はすべて絶滅大君である幻朧によって引き起こされた。

星核を仙舟に渡し反乱を引き起こさせ、羅浮に自滅の道を歩ませる計画。

薬王秘伝もまた、今回の惨事に加担した者たちではあるが、結局彼らは壊滅の計画の生贄にされ組織の半数以上が壊滅状態に陥ったらしい。

まさに因果応報。身から出た錆としか言いようのない結末だ。

そして星核ハンター。彼らは最初から最後まで、こちらの味方だった。彼らの目的は仙舟と星穹列車に同盟を結ばせること。そして、星核によってもたらされる災厄を鎮圧すること。

「運命の奴隷」が見た未来は、今こうして現実となった。

 

そして、彼らは今、廻星港の船乗り場にいた。

様々な星槎の船が飛び交い、商団の人々は忙しなく今日も今日とて働いていた。

あれほどの騒動がありながらも、仙舟はたった一日で活気を取り戻し、人々は元気を取り戻している様子だ。

さすが銀河でも数少ない大規模な集団。

 

それでもなお、顔に微かな影を残したままの者も大勢いる。

 

「舵取になったとはいえ、軍人出身で緻密な経営に向いていない私とは違い、停雲は生粋の商人だった。役職上は上司とはいえ、あの子にはいつも商売の相談をして意見をもらっていたわ」

 

星槎に様々な遺品を乗せていく御空はまるで自分に言い聞かせるように昔の話を懐かしみながら語る。

その場には多くの商人が集まっていて、星穹列車の一同もその中にはいた。

彼らの共通点は商売をやっていること以外にも様々、最も共通していることといえば……全員が、停雲の友人であることだろう。

 

天舶司には戦没者のために行う「慰霊祭」がある。

孤族の古き祭礼には、死者が残した物を星槎に乗せて仙舟から送り出し、恒星に向かって飛ばして共に輝かせる文化が存在していた。

もう話すことのできない魂を慰めるだけでなく、この世に残された肉親や友、仙舟の民を慰めるためでもある。

 

短命種でいうところの葬式のようなものだ。

 

停雲にとって御空は生命の恩人であり、対する御空もまた、彼女のことを後継者として期待し己の娘のように可愛がっていた。

まさか自分より年若い彼女が先に逝ってしまうとは思ってもおらず、言葉にはしていないものの、その声音は沈み込み、悲しみが表情にうっすらと滲み出ていた。

 

穹は彼女の名を由来にしたお茶を、なのかは彼女が好きだった料理を、ヴェルトは別れの象徴である紙鳶を船へと乗せていく。

 

「停雲、天舶司はあなたを決して忘れない……必ずや真相をこの手で突き止め、その中でもしあなたが本当に帰らぬ人となったのなら、その時は私があなたの仇を討ってみせるわ」

 

まもなく「慰霊祭」が始まる時間だ。

 

——空に小さな方舟が魚群のように恒星へと飛び立ってゆく。

その飛行機雲を浮かべる船たちを無邪気に指差し微笑む子供たちと、涙を流すことなく黙ったまま遺留品の行く末を見守る大人たち。

罪なき民たちを命をかけて守り抜いた英霊たちの凱旋。

金色の葉は旗を振るように風を靡かせ、青く澄んだ空はよく見える。

 

「や、星穹列車の客人たち。わざわざ付き合ってもらってすまないね」

「いや、将軍が気にすることはない。これは俺たちがやりたくてやったことだ」

「そう言ってくれると助かるよ。では諸君、神策府にまで来てもらえるかな」

 

神策府とは羅浮の要を担う景元将軍のお膝元。

専用の星槎に乗り、ようやくたどり着いた。

 

「諸君をここに招いたのは、改めて仙舟羅浮が星穹列車に感謝を伝えるためだ」

「それって……報酬ってコト!?」

「はいはい、アンタは静かにしてて」

 

目を爛々と輝かせる穹の頭をなのかはぱしんとはたき落とす。

 

「諸君の成した壮挙はこの羅浮で恩に報いることができないほど偉大なものだ。故に私は羅浮雲騎軍を代表し、この『結盟の誼』を象徴する玉兆を諸君らに託そうと思う」

 

彼はそう言って机の上にある一対の記念品のようなものを取り出した。

 

「……記念品ってこと?」

「わかりやすく落ち込まないの!」

 

数千年前、同盟が成立した時に各仙舟は共に誓いを立て、玉兆に刻んで証とした。

たとえ天地が崩れようとも、この誓いに彼らは背くことはない。

これはその意を表している。星穹列車に対する羅浮雲騎軍の許可が記されており、それと同時にビーコンでもある。

玉兆を握ることで、もう片方の方にも連絡が届く。

 

「約束しよう。たとえ銀河の果てであろうとも雲騎軍羅浮は列車の元へ駆けつけ、恩に報いると」

「へぇー、すごい贈り物だね」

「無論、これほど重要なものだ。些細なことや交誼に反するようなことには従わないでほしい。私の言いたいことがわかるね?」

「もちろん」

「将軍のご厚意に感謝する」

「そして丹恒殿」

 

景元は彼らの隣に立つ丹恒に視線を向ける。

 

「十王司の通達により、君への追放令を放免する。本日をもって君は、自由に羅浮を行き来できる身だ」

「「やったー!」」

 

なのかと穹は自分ごとのように喜び、ばんざーいばんざーいと両腕を上げた。

楽しそうでなにより。多分、玉兆の時より喜んでるね。

 

しかし彼の前世である丹楓の罪はあまりにも重い

このような通達があったとしても、一般人の人々の意見はそう簡単に変わりはしない。

彼の身の安全まで保証できるわけではなかったが、そんなことは重々承知している彼は甘んじて受け入れた。

 

「贈り物を渡せて、気持ちが軽くなった。この情景を詩にしたい気分だ。あー、あー……うん、やめておこう。

私は符玄殿のように学識が豊かなわけではないからね。ナナシビトの道はまだ長い。列車の旅がどうか順調であることを祈るよ。——では、さらばだ」

 

こうして彼らは将軍と別れを告げ、神策府を後にする。

 

「姫子からメッセージが届いた。いつ戻ってくるかと聞かれている。丹恒の状況についても聞かれているんだが、戻って君から姫子に説明したらどうだ?」

「ああ、俺も列車に戻るべきだと思う。彼女もきっと心配しているだろうからな」

「よーしっ、お土産話をたーっくさん持って帰ろーっと。あっ、そうだ!車掌さんと姫子にお土産買うの忘れてた!二人は仙舟でやり残したことはない?」

「うーん、俺は特に——」

 

その時、彼のポケットに入ったスマートフォンに一通のメールが届く。

 

『ハーイ、元気にしてる?いきなりで悪いけど、誰にも言わずに太卜司にまで来て。座標はここよ。————君の忠実なカフカより』

 

「……いや、今ちょうどできた」

 

 




後書きという名の言い訳。
虎杖の領域名は情報がまったく出ていないので伏魔御厨子と同じ五文字でぼかしました。
芥見先生教えてくれ、必要だろ。
フーガの色に関しては完全に趣味です。
御厨子が料理でフーガが火なら、現代版のフーガはコンロと一緒で青く燃やせるんじゃね!?というオタクの妄想でした。
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