太卜司はがらんと静まり返り、人の気配は途絶えている。
どうやら「慰霊祭」の影響で、ほとんどの人が星槎海に集まっているようだ。ほんのわずかに残っている警備兵に挨拶を交わしながら、穹は一人で指定された座標にまで向かう。
「……悠仁」
「ん?」
「罠はあると思う?」
仙舟での一連の事件が解決した直後、彼はとある人物から連絡を受け指定された場所へと来るように伝えられた。
その人物は——星核ハンターのカフカ。
銀河中に名を轟かせる犯罪者の中でも彼女にかけられた懸賞金の額は億を超え、その悪名はどこにでも広まっている。
そんな危険人物の彼女がわざわざメールを送って、しかも待ち合わせをしようと呼びかけてきたのだ。
最初は列車の誰かか景元にでもそのことを伝えておこうと思ったのだが、どういうわけかそれを止めたのは悠仁だった。
渋々、幻朧を単独で相手取れる悠仁がついて来てくれるのもあり、穹は彼の言う通りにして一人で彼女の元へ向かうことにした。
「うーん……いや可能性は低いと思うぞ。もう星核の件は解決したし、アイツらがここ留まる理由はないからな。カフカは多分、穹に会っておきたいんじゃないか?」
「なんで?」
「なんでって言われるとー……なんでだろうなぁ」
悠仁はたまに要領をえない発言をする。
彼が一体、どのような事実に気がついているのか、今の自分ではわからない。
「……ここら辺のはずだ」
小さい門を通り、人気がなく陽の光もほとんど当たることのない影に包まれた通りを曲がれば、そこには囚われていた時と何一つ変化のないカフカの後ろ姿があった。
声をかけようか迷っている時、こちらの来訪に気づいた彼女は薄く微笑みを浮かべながら振り返った。
「きっと来てくれると思ってたわ。——そちらの彼も一緒にね」
穹は返事をせずに警戒心の残った眼差しで彼女に向けたが、我関せずといった態度のままカフカは視線を穹から近くの窓へと移した。
「!……刃!」
汚れ一つない綺麗に磨かれた透明感のある窓の奥で深く瞼を下ろしていたのは、星核ハンターの刃だった。
「安心して、彼には少し眠ってもらっているの」
眠りにふけているというにはあまりにも死体のように微動だにしない。
眉の一つも動かさず、寝息すら立てていないようにも見える。
「もしエリオのような目を持っていたら、この世界は今、私と君がみているような姿じゃないんでしょうね。無数の可能性が折り重なり、異なる選択が引き起こす結果を表している。そして一瞬ごとに、無数の選択が同じ点に収束し、現在となり、過去となる……」
「……」
「これが君の選択?私の頼みに応え、助けてくれること?」
「……まだ決めたわけじゃない」
彼がここに訪れた理由はカフカとの接触であり……彼女に助けを求められたからだ。
刃の魔陰の身が悪化し、彼が回復するまで仙舟を離れられなくなったそうで、穹にはその間護衛についていてほしいとのこと。
仙舟の最高指名手配犯を守ることがバレてしまえば、せっかく得た仙舟と列車との信頼関係が崩れる可能性もある。
そんなことは当然穹も望んでいないことであったが、彼らが警備の手薄となったここで奴らが悪行を成さないか見張っておく必要もあったため、彼は慎重にカフカから話を聞くことにした。
穹の緊張が伝わったのか、彼女は少し困ったように笑みを溢しながら話す。
「そんなに警戒しないでちょうだい。彼の状態が元に戻ったらすぐにここから出ていくから。それに……君は私を少なからず信頼してくれている。そうでしょ?」
カフカの言う通り、穹は彼女がここで犯行に及んだりするとは思えなかった。
それに理由はなく、ただなんとなくそう思っただけだ。
それでもなぜか彼は確信していた。
「……わかった。ここに残るよ」
「ありがとう。この仙舟で……頼れるのは穹しかいなかったの。君もそれでいいかしら、両面宿儺さん?」
「その呼び方を止めるんだってなら、考えといてやる」
「冗談よ、悠仁。さすがの私も、君を相手にしてどうにかできるとは思っていないわ」
彼はあまり「両面宿儺」という名前を気に入っていないらしい。
そういえば彼の過去についてあまり聞いたことがないことをふと思い出した。
しかし、彼自身が積極的に話したがらない上に列車の仲間も特に聞きたがっている様子もないため、いつか機会があったらでいいかと思い直し目の前の問題に再び向き合うことにした。
「仙舟に来てから彼の魔陰の身の発作がひどくなって、一時期は私の言霊でさえ抑えられなかったの。こんな状況だと星間旅行もできないでしょ?だから、私は『言霊』でその影響を弱めてしばらく封印しようと思ってる。その間、私は気を回せないから、君に守り役をお願いしたいの。刃を抑えている間、私を守っていてちょうだい」
今、太卜司には豊穣の残党どもが残っている。
彼女が言霊で抑えている間に、そいつらを片付けてほしいそうだ。
彼女の指示に従い、その場所へ行けば確かに忌み物や霊獣がそこにはいた。
奴らはこちらを見るなり、仇を相手にするような唸り声をあげて威嚇してくる。
「……肩慣らし、といくか」
呪力をバットに流し、構える。
目が覚めた後、彼の肉体は以前よりも呪力の流れが良くなっていた。
(俺が入れ替わって呪術を扱った影響で前より動きがキレが上がってるな)
今までも何度か入れ替わって術式を使用をしたことはあったが、ここまで如実に変化が見られたのはこれが初めてのこと。
おそらく術師の真髄「領域展開」を発動したことが要因だろうと彼は考える。
スポーツで何度も同じ動きをすれば肉体が自然と覚えることと同義。
今の彼の肉体には特級クラスの呪術の記憶が眠っている。だからこそ、飲み込みと成長速度が異様に早いのだ。
(昔の俺と同じか……この調子でいけば術式が目覚めるのも早いかもしれん)
そんな期待を寄せながら、悠仁は彼の戦闘を見守った。
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敵意を持って襲いかかってくる魔陰の身や、壊れて敵味方の判別なく襲ってくる機巧。
星玉60個を落としてくれるすばしっこくて丸みのある獣など、ある程度の敵を倒した後、彼らが身を隠している場所へと戻り、カフカの「言霊」が中断するまで辛抱強く待った。
「目を開けたら君の姿が見えるなんて、久しぶりの体験ね」
「進捗は?」
「そんなにすぐには終わらないわ。刃の現実を感じる機能は強制的に断たれた。今の彼には私の声しか聞こえず、私が触れたもの以外は何も感じない。そしてこれから彼の意志を仙舟から遠ざけ、ここの出来事を忘れさせる。将軍や応星のこと、そして君の友達の丹恒くんも含めてね。この過程も同じく邪魔が入っては行けないの。でも始める前に君の質問に答えることはできるわ」
「俺の質問?」
「ええ、助けてもらうんだから、そのお礼にね。——私に聞きたいことがあるんでしょ?私は君を眠らせたのに、再び呼び起こし、『ヘルタ』で放置したのに、今度は仙舟へ誘い出した。多くの説明を省いているけど、知りたいことがあるでしょ?」
言われてみれば、確かに聞きたいことは山ほどある。
そしてやはり、彼女は己の過去を知っているそうだ。だが、聞いたところで本当に真実を教えてくれるのだろうか。
そんな疑問を残しつつも、彼は恐々と首を縦に振った。
「でも、普通に答えるなんて、あまりにも退屈よね……。『嘘か真かゲーム』をするのはどうかしら?」
「ちょっと、幼稚すぎるような……念のため言っておくけど、俺は赤ちゃんじゃないからな」
「そんなことはわかってるわ。あくまでこれは心理戦のようなもの。二人で交互に質問し合い、一つは嘘をもう一つは真実を話さなければいけない」
つまりどれが嘘で真かを判断するのは己自身だ。
しかし、この場合どうやって両方嘘をついていないかを判断すると言うのか、と問いただせば帰って来た答えは道徳に従えという犯罪者らしかぬ言葉。
「でも私は誓えるわ。——必ず、一つの真実と一つの嘘、というルールを守るってね。ああ、でも参加者は穹一人よ、流石に2対1は卑怯でしょ?」
「言われなくてもわかってるっつーの」
「それじゃあお手本としてまずは私から。緊張しなくていいわ、最初の質問は緊張するような内容じゃないから。このゲームの面白さは二つ目の質問の時に現れる」
そして最初の質問が為された。
「——君は、私をどう思っているの?」
(……俺がカフカをどう思っているか、か)
もしこの回で本当のことを言えば、次で嘘をつかなければいけない。逆もまた同じ。
あるいはルールを破ってしまうか。だが彼はそれがあまり良いことではないと本能的に感じ、最終的に嘘を回答することにした。
「あまり興味はない。どうでもいいと思ってる」
「……君は、自分の考えを隠すのが本当に上手ね」
今の言葉は果たして穹が嘘をついたのかどうかわかったのだろうか。
彼女の声音を普段と同じように落ち着いていて、どのような感情を持って話しているのかが全くわからない。
「それじゃあ今度は君の番。どんな質問でも大歓迎よ」
質問は二つだけ。
先ほどの彼と同様、カフカも本当のことを教えて、もう片方は嘘をつける。
しかし穹は彼女がどの質問に嘘か真になるかわからない。
(宇宙ステーションで目覚めた時、俺はカフカのことを覚えていたけど、それ以外の記憶は曖昧だった。俺自身について質問してみるか)
「俺とお前はどんな関係だったんだ?」
「ある日、エリオが私に君を引き渡した。エリオは、もし彼が見た可能性に従えば、最終的に君が私を、私が君を変えることができると言ったわ」
何を言っててもちゃんと考えがあるように聞こえ、本当なのか嘘なのかわからない。
であれば次の質問は——
「君の表情から読み取れるわ。——その質問はだめよ。本当か嘘かを教えることはできない。思う存分推測して、答えを胸に抱いて、次の質問を選ぶ、これこそ、『嘘か真かゲーム』の楽しいところよ」
次の質問で、先ほどの答えは嘘か本当かを聞こうと思っていたところをズバリと言い当てられる。
表情から読み取れるのなら、先ほどの自分の答えも彼女は把握しているのではと、勘繰ってしまった。
「それじゃあ、続きをしましょう。今度は私の番ね。——君は、また私に会いたいと思う?」
意味のわからない質問に、穹は困惑を隠せない。
しかし、動揺してしまえば先ほど嘘を吐いたことがバレる恐れもあったため、彼は急いで答えを返す。
「また、会いたい」
「……へえ、驚いたわ。まさか君を見透すことができないなんて。それも、君が強くなった証拠なのかもしれないわね」
次はこちらがする、最後の質問だ。
「言霊」を刃にもう一度かけることも忘れてはいないため、少々、猶予として考える時間が与えられた。
何を問うか、前の質問でカフカが嘘をついていたかどうかはわからないが、確定していることはある。
彼女は今回、ルールに答えるしかないのだ。
おそらく彼女は新しい驚きを期待している。なら質問してみることは……
「運命は決まっているのか?」
「ええ、決まっているわ」
ふと、背後から誰かの足音が聞こえた。
「星核ハンター……せっかく将軍様が慈悲の心で逃してあげたのに、随分恩知らずじゃないか。……あれ、君は星穹列車の?どうしてこんなところに……」
そこにいたのは、景元の隣にいた彦卿と呼ばれている少年がいた。
まずいことになってしまった。
星穹列車に属している穹が銀河級の凶悪犯である星核ハンターとの密談がバレれば大事では済まない。
どうやって誤魔化そう。
そっくりさんとでも嘘をつくか?しかし、それで誤魔化せるほど彼の目は甘くないだろう。
彼が誤魔化す前に、カフカが先に口を開いた。
「この子は私の『言霊』に操られているのよ。私の暗示は異変に気づかせずに他人を操ることができるの」
「外道が……!」
だ……だめだ。まだ笑うな。
こらえるんだ……
カフカはどうやらこちらとの関係を秘密にしてくれるようだ。
ならば、彼女の思惑に乗り、操られているフリをするしかない。
「穹、あの少年を無力化させて。それで君の任務は終わり」
無造作に足を一歩踏み出せば、警戒した彼はすぐさま臨戦態勢に入った。
「仕方ない……剣よ、我に従え!」
孔雀が羽を広げるように、その氷剣は彼の背後から突如、顕現した。
それぞれがまったく異なる動きをもって迫り来る。
「ふん!」
炎を纏った琥珀の槍はそれらすべてを一瞬で溶かす。
どれほど鋭い刃をもっていようとも呪力によって増幅された熱には意味をなさない。
とはいえここは市街地。
あまりにも熱力を上げすぎて周囲に被害が出てはいけないため穹は手を抜く必要があった。
それは、向こう側も同じ。
幸いにも、カフカと穹の関係性をまったく知らない彦卿は本当に彼が「言霊」によって操られていると勘違いしてくれているらしく、傷つけないためにかなりの手加減をしてくれているようだ。
「炎の槍よ!」
手に携えた槍を持ち直し、大振りで彼は彦卿へと投げつける。
「おおっとと」
氷の大剣を作り上げ投擲によって眼前へと迫る槍先はすんでのところで止まってしまう。
しかし、それは彼にとって大いにあだとなる。
大剣で槍を止めたことにより、彼の視界はほとんどが氷の剣で埋まってしまい、それに重なるように熱によって溶け出した氷が白煙を放出し視野を奪い去った。
得物をバットに持ち替えた穹は呪力を足に込めたことで俊敏性を向上させ、音を立てることなく背後からの奇襲をしかける。
だが、それは彦卿の持っている長剣によって防がれた。
それは氷の力によって作られたものとは違い、職人の手によって丁寧に鋳造された一流の代物。
激しい火花を数度散らし、再び状況は膠着状態に陥った。
「なかなかやるね。こうなったら僕もほんのちょっとだけ本気を————」
「いえ、その必要はないわ」
このままでは穹を無力化できない、と判断しその氷剣に秘められた力を解放しかかる彦卿。
その背後には、先ほどまでこの戦いを傍観していたはずのカフカがいた。
「なっ——」
いつ援護してくるかわからず、ずっと警戒していたはずの彼女が突然背後に現れた彦卿は思わず動揺してしまい、それが致命的な隙を作った。
「聞いて。そのままゆっくり眠って」
「くっ……そ…………」
彼は耳を塞ぐこともできず、その呪文を耳にしてしまった。
抵抗しようにも次に襲ってきたのは、大海のように深い睡魔。
抗うことすら叶わず、彼はそのまま瞼を下ろし意識を失った。
「眠った?」
「ええ、ぐっすりとね。これであとは……聞いて。君は何も見ていないし、覚えていない。星槎海に戻って、ベンチの上でぼーっとしてただけ」
横倒れた彼の耳元にカフカの甘言が降り注げば、彦卿はその虚な瞳孔を開いてどこかへ去っていってしまった。
「もし君がいなかったら、私と刃はさっきのあの子に捕えられて幽囚獄へと連れてかれてたわ。サムと銀狼が助けてくれるけど、その場合、彼はひどい怪我を負ってしまうの。できれば、そんな未来は避けたいと思ったから君を読んだのよ」
エリオの目はどうやら、
そんな話を聞いていれば、「言霊」を施した刃が目を覚ましカフカの背後から話しかけた。
「……もう、行ってもいいか」
「ええ、一時的に『魔陰の身』を抑制できたわ。あまり強い刺激を受けず、知っている人にも出会わなければ、問題はないはずよ」
「そうか……」
頭を抑えた彼は、ふとこちらの存在に気がついたようにその死にかけの瞳を開く。
「お前か」
「……なんだ」
「違う。お前ではない。お前の中に眠っているその男。カフカから聞いたぞ、そこな呪いを纏った男は魔陰の身を切り落としたと。もしそれが真であるならば……この不死の肉体をも殺すことができるのか?」
どうやら、彼が見ていたのは穹ではなく悠仁の方であったらしい。
何か縋り付くような眼差しを向けてくる刃に対して、ずっと黙りっきりであった彼はようやく口を開く。
「俺が治せるのは魔陰の身とやらに堕ちた直後だけだ」
「……つまらん。ようやくこの身を滅ぼせる方法を見つけたのと思ったのだが興醒めだな。俺は行く」
「あら、私とついてこないの?」
「一人。一人だけ、たくさん世話になった人がいる。その人に会いに行かねばならない。すまん、カフカ」
「そ、好きにすればいいわ。エリオはこの後のことについて何も言ってないもの。それじゃ、今日はありがとね穹」
カフカはそのまま穹に感謝を告げて、どこかへ去ってしまった。
そしてその場にはなぜか刃と穹だけが取り残される。
正直、さっさとどこかへ行って欲しかったが、彼が不意に放った言葉に穹は目を見開くこととなった。
「……お前のことは覚えている」
「え?」
「お前は以前カフカに付き従っていた。違うか?」
自分の知らない記憶を突然問われ、首肯できるものはいない。
戸惑う彼を置いてけぼりにしたまま、刃は独り言のように語り続けた。
「あの女と共にいてあんなに長く生きながらえたのは、お前が初めてだ」
「……何の話だ」
「どの星核ハンターもエリオと『取引』をしている。他の奴の内容は知らんが、カフカが俺と同じようにエリオに使われているのを考えると、その望みは並大抵のものではないのだろう。あの女が行ったことすべてには、大きな代償が伴っている」
刃は背中をむけ、彼に言い放つ。
「————きっとお前を生かすために様々なことをしたはずだ、小僧」
穹はそれはどういうことか、などと問いただすことができなかった。
そのまま彼を放置して刃は去り、太卜司には冷たい風が肌を突き刺すように吹いていた。
(あん時に感じた違和感はそれだったのか)
悠仁は彼女が太卜司に囚われ尋問されていた際に彼女が向けた穹への視線を思い出す。
あれは捨て子を憐れむような眼差しでもなければ、実験動物に対する冷ややかな視線でもない。
親が子を愛する慈しみの眼。
今は遠い遠い過去に記憶であり、親と子の関係ではなかったものの、彼も年若い頃に同じような経験をしたことがある。
何かを考え続け、少しも動こうとしない穹に悠仁は右腕を動かし背中をばしっと叩く。
「よしっ!穹、金人港の玉実鳥串を食べに行こうぜ。むずいこと考えるのは美味いの食った後だ後」
「……ああ!」
その言葉に穹は前を向いた。
確かにウジウジ悩んでいても仕方がない。
彼のいう通り、こういう小難しいことは後から考えればそれでいい。
迷いもある。戸惑いもある。
それでも青年は旅を続ける。
自分が信じた選択を——『開拓』をこの先も続けるために。
仙舟の門口を眺めていた姫子はふと、ヴェルトに声をかける。
「星槎が玉界門を離れる瞬間を見ると、まるで夢のような儚さを感じるの。あの船たちは一体どれほどの時間をかけて宇宙を飛び、またどの星に向かうのかしらね?」
「宇宙からすれば、長命種の命も、短命種の命もほぼ同じだ。仙舟の民が求める長命は、星が呼吸し、輝く一瞬にも満たないもの。彼らの悲しみも、俺たちと変わらない」
観光を終えた穹となのかがそこに合流する。
「詩的だね」
「おかえり、ちょうど姫子と今回の旅について話していたところだ」
どうやらヴェルトは元気に観光していた二人よりも早く列車に戻って彼女に今回の旅の出来事を報告してくれていた。
星核ハンターの思惑、建木の復活に豊穣の忌み物の軍勢。そして絶滅大君と繰り広げたその激闘の一部始終。
壮絶な戦いを終えてきた彼らの姿を見てホッと息をついた姫子はコーヒーを淹れながら次の旅の予定を語る。
「次はヴェルトに留守番してもらって、私があんたたちを連れて一緒に新世界を開拓しようかしら」
「いつから列車は交代制になったんだ?」
「次の駅が決まったのか」
「ええ、カフカが列車に接触する前に行こうとしていた星があるでしょ?」
その星の名前はピノコニー。
かつては多くの罪人たちを流刑するために作られた監獄星。
しかし、星核の発生によってシペの庇護下に入ったことでその星は無上の発展を遂げる夢の星へと生まれ変わった。
「車掌の準備が終わったら、早速ピノコニーへ向かいましょう」
そのピノコニーの支配人である「ファミリー」が盛大な宴を開催するらしく、列車はその招待状を受け取った。
次の目的地は夢境の地「ピノコニー」。
調和の旋律が響き渡るその楽園で彼らが微睡むのは夢か悪夢か。
それは生命体が夢から覚めるまで、誰にもわからない。