奇物:両面宿儺の指   作:二等辺大三角形

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ピノコニー編始まります。


ピノコニー
ようこそ夢の楽園へ


 

次の出発地の航路会議にて——

 

パムから何か重大な発表があるらしい。

発表という言い方は少々語弊がある。正確には注意勧告のようなものだ。

 

一つ目はピノコニーの位置するアスデナ星系は「憶質」という物質が充満しており、それは濃度が濃い空間だと目眩や幻覚、記憶の混乱を引き起こす可能性があるそうだ。通常量であれば問題ないが、万が一に跳躍の際に備えておく必要がある。

二つ目はピノコニーは「調和」の派閥であるファミリーの領地。

列車も客として招かれている以上、守るべきルールはしっかりと守る必要がある。

郷に入っては郷に従え。単純なことではあるがナナシビトの顔に泥を塗るようなことをしないように。

 

そして三つ目。

これは注意というよりはパムからのお願いであった。

 

「もしできたらで構わんのだが、休暇の合間に数人のナナシビトに関する情報を探ってもらいたいのじゃ」

 

宴の星もまた、軌跡(レール)の上にある駅の一つであった。

列車はかつてピノコニーが監獄の星だった頃に乗車したこともあるそうで、記録によればその際にピノコニーを降り立って自身の終着駅とした者もいるのだとか。

しかし、それは時間的に考えればかなり時が経っており、そのナナシビトたちが今も存命かどうかはわからない。

そこに姫子のフォローが入る。

 

「あくまでそこに残ったナナシビトたちがどのような生活を送り、どのような痕跡を残したのかを探るだけでもいいの。先人たちの足跡を辿るのも、一種の冒険でしょ?」

 

乗客名簿によると、当時下車した乗客は3人。

列車の護衛のティエルナン。

整備士のラグウォーク。

測量士のラザリナ。

しかし、それ以外に情報はなかったようで、彼らの容姿などは判明しなかった。

小石の山の中からひとかけらの宝石を探すようなものだが、案外成り行き次第でどうとでもなるかもしれない。

 

「それじゃあ、今回の航路会議はここまでにしましょう」

「よし、オレは跳躍の準備をしてくる。放送で知らせてやるから、しっかりと座って待っているように!特に、三月ちゃん!」

「わかってるわかってるって」

 

わかっていても憧れは止められない、という顔をしている。

 

ピノコニーは星というよりある種のテーマパークのような場所であり、「夢の地」「宴の星」の名を関する銀河随一の歓楽所。

ここのところ星核を封印したり、絶滅大君と戦ったりで戦い詰めであったため、羽を伸ばすことのできるまたとない機会だ。

刺激が少ないのは旅としては少し勿体無いかもしれないが、たまにはこんなゆったりとした冒険も悪くはない。

 

天井からノイズ混じりの電子音が入り、パムの声が響き渡る。

 

『アー、アー……各乗客は注意せよ。まもなく跳躍を開始する。まもなく跳躍を開始する————!席に座って近くのものに掴まるように————!』

 

ソファに座り込み、彼はその時を待つ。

 

「楽しみだな」

「うん」

 

悠仁との歓談を交えながら、いよいよ跳躍が始まった。

デスクに無造作に置かれたチェス盤が振動し、暖燈に照らされた室内が宙に呑まれる。

 

『5.4.3.2.1——————!』

 

パムの合図とともに身体が強く引っ張られる————ことはなかった。

いつもの跳躍の時に発生する力場を感じることができず、目を閉じてその時を待っていた穹は思わず戸惑う。

 

「—————————っ!」

 

そして彼の脳内にノイズ混じりの知らない光景が浮かび上がる。

顔すら知らない少女、楽園とは思えない酷く澱んだ暗い世界、長刀を携えた女性。

どんな顔をしているのか、どんな話し方をするのかさえ記憶にすることないまま記憶域の川は流動していった。

 

「……丹恒、なの、いる?」

 

不安に駆られた穹はふとその瞼を開く。

 

「姫子!……ヴェルト?」

 

そこは列車のソファではなく、広々としていたロビーは円形型のゲストルームに変わっていた。部屋の奥には小さな液晶テレビと泡を生み出し続ける貝殻のベッド。

どこかのホテルだろうか、それともピノコニーの?

いや、少なくとも先ほどまで列車の中にいて悠仁と会話をしていたはずだ。

記憶が飛んでしまったなんてことはありえない。

 

「悠仁?」

 

一心同体とも言える相方の名前を呼ぶ。

しかし、彼は返事をしない。

瞼の下を触れてもそこには何もなく、宇宙ステーションで目覚めた時とほぼ同じ状態になっている。

不安になった穹は呪力を扱えるかどうかを確認しようとし……横からの声に意識を取られた。

 

「また一人……」

 

声の主は長身の女性であった。

青紫色の髪にはところどころ白髪のようなメッシュが流れ、肌は雪のように白かった。

刃のように生気を感じない肌色ではない。

瞳の色も死んではおらず、立ち振る舞いもいたって正常。

しかし、穹には目の前の女性がどうしても普通の人間とは思うことができなかった。

 

「……ついてこい」

「どこに行くんだ?」

 

穹の質問に女性は感情のこもらない声音で答える。

 

「その質問には意味がない。だが、できる限り説明しよう」

 

そう言って彼女は部屋から出ていってしまい、急いで穹は彼女の後を追ってその廊下へと飛び出した。

 

「ここは現実と記憶域の境目。夢境だ。今この瞬間、偶然にもあなたと私の夢が混じり互いの思考の中に現れた。何も心配することはない、あなたはすぐにこの夢から覚め、ここでの出来事はすべて忘れる。残るのは微かな落胆だけだ」

 

無数の気泡が扉や天井を取り囲み、水の鯨が動くことなく宙を舞う。

人の気配のしない淡い暗闇に包まれた廊下を進み、彼女の後をついていく。

どうやら、随分と偏屈な場所に迷い込んでしまったようだ。

 

「巡海レンジャー、黄泉。周りからはそう呼ばれている。あなたもそう呼んでくれて構わない」

 

そう言って彼女——黄泉は廊下の先にある扉の奥へと入っていった。

 

巡海レンジャー。

それは「嵐」の司る巡狩に属する派閥。

すべての人の正義を守るために結成された戦士集団であり、仙舟同盟とはまた異なる任侠のような集団である。

 

「こちらに来てくれ。そして美しい夢境をのぞいてみるといい。まだ記憶があるうちにな」

 

扉の先を潜れば、その先にあったのはただの大ホールとは思えないほどの空間。

どういう理屈か床にも天井にも同じようなデスクやソファが設置されており、見れば見るほど上下の感覚がなくなってくる。

 

彼女の後をついていけば、穹はいつの間にか壁の上を歩き、そのまま天井に足をつけていた。

現実とは思えない状況、まさしく夢だからこそできるのだろう。

 

天井はいつの間にか赤い絨毯が敷かれた床へと変わってしまった。

大広間の中央には泡の噴水が垂れ落ち、どういうわけか見たことのない人々の影もある。

 

「あれらはただの夢境の影だ。気にしなくていい」

 

頭に天輪を浮かせる兄妹のような二人組。

厳しい視線を送る青髪の学者と、飄々とした態度で応じる金髪の男。

ツインテールのよく似合う和装の少女、ベールに身を包んだ妖艶な美女。

そして、星核ハンター銀狼と、重厚な銀色の鋼を纏う装甲の男。

 

『調和セレモニーのステージはアナタだけのものです、ロビン』

『でも、もし上手に歌えなかったら、ステージに何の意味があるの?』

『このギャンブラーめ、何を根拠に自分が勝てると思ってるんだ?』

『"チップ"3枚で十分、オール・オア・ナッシングだ』

『メモキーパーちゃん、無事にここから出られると思う?』

『ごめんなさいね。お気に入りのダンスパートナーは……もう見つけているの』

『どうやって彼らを巻き込むつもり?』

『ありのままの真実を伝えれば、彼らの方から飛び込んでくるでしょう』

 

それぞれが、それぞれの場所で好き勝手話している中を黄泉は無視して先へと進む。

扉を開けば、延々と続いているような廊下が現れ、彼女は奥へと歩き続けた。

 

『————虎杖悠仁は、脚本——魔にな———。夢境でなら、——除———機会はこれしかない』

「……え?」

 

ふと、銀鎧の男が発した言葉の内容が耳に入る。

夢の中であり、その具体的な内容は断片的にしか知ることができなかったが、彼は今確かに……

 

「どうした?」

「いや、何でもない……」

 

黄泉の問いかけに我に帰った穹は慌てて後を追う。

延々と続いていく赤い絨毯の廊下。

いつまでも歩き続けている感覚がするのに、肉体に疲労は訪れない。

 

しかし夢から目が覚めるときはいつだってあっけなく、気づけば彼は一つの扉の前に立っていた。

どうやらここが出口のようで、彼女は側で彼を待っている。

 

『ホテル・レバリーへようこそ。忘れられないリゾート体験をお楽しみください!』

 

どこからか見知らぬ少年の声が聞こえた。

 

「ここから出ていくんだ。いつもと同じように目覚め、この偶然の出会いを忘れ、元いた場所へと戻るといい。ただ……別れる前に一つ聞きたいことがある」

 

その問いを不思議に思いつつも、彼は彼女と向き合った。

 

「少し奇妙に思うかもしれないし、失礼だと感じるかもしれないがそれでも教えて欲しい。——私たちはどこかであったことがあるか?

「いや……ないと思う」

あなたは私の友人を彷彿とさせる。朧げな記憶だが、私と彼は対立していて……この奇妙な夢のように、近くにいるのに手が届かない存在だった

 

彼女の言っていることは不思議と、脳裏に直接焼き刻まれているように感じた。

 

「……もう少し訊いてもいいか?これはあくまで例え話だ。もし客室で目を覚ました時、あなたはいくつかの名前を呟いていた。彼らは仲間か?家族か?それとも敵か?あなたは多くの人々と、多くの物事と強い絆を結んでいるようだが……」

 

先ほどの部屋で呼んでいた彼らの名前をふと思い出す。

 

その絆を失うことに、恐怖を感じるか?

「……感じる、かもしれない」

 

自分でも曖昧だと思ってしまった回答に、黄泉は深く考え込んだ。

 

「ふむ……仮に、巨大で区別のつかないほどのリアルな夢境があったとしよう。そこには別れがなく、誰もが満足感と幸福を得ながら、永遠に楽しく生きていくことができる。——あなたはその中で暮らしたいと思うか?

「……いや、望まない」

 

それは開拓の使命——これまで歩んできた軌跡の否定だ。

開拓者であるからこそ、どれほどの夢に溢れようとも逃げてはいけない。

 

「なら……その美しい夢が壊れ、あらゆるものが消えてしまうとしよう。友人、家族、赤の他人、そして爽やかな風や空を飛ぶ鳥、星々と呪い。そしてあなた自身も。記憶の中にいる全員が、その笑顔も涙も、約束も、最後には定められた結末に向かっていく。旅立ちの時から、その旅の終点を知っていたとして……あなたは、それでも旅を続けるか?

「…………それでも、開拓を続ける」

 

その問いには若干の迷いが滲んでいた。

逡巡した間を察し、黄泉はその迷いを今決断する必要はないと言ってくれる。

 

「言っただろう……答えは重要ではないと。耳を傾け、手で触り、考える。そうすることで感じ取れるものがある。それを大切にして、その感覚を頼りに選択すればいいんだ。それで、最初の質問に戻るが……あなたは私を憶えているか?

 

意志を変えることなくあなたは首を横に振った。

 

「……わかった。今のが本当に最後の質問だ。ありがとう、私たちにはそれぞれ進むべき道がある。ここで別れることにしよう」

「また会えるのか?」

 

彼の質問に黄泉は答えない。

静かに、そしてゆっくりと元来た道を戻ろうと彼の横を通り過ぎた。

 

「金色の夢が今にも動き出そうとしている……これから訪れる長夜であなたは多くの挫折を味わい、悲劇を目の当たりにするだろう。やがて、その目には色褪せたモノクロの世界しか映らなくなる」

 

振り向きざまにいつの間にか彼女の手には鞘に丁寧に収められた刀が握られていた。

 

「その世界には一抹の赤が現れるが、瞬く間に消えてしまう。だが、信じてほしい……あなたが決断を下す時、その赤は再び現れると……」

 

霧が立ち込め——

 

「そして、目覚めの世界へ帰るといい」

 

穹の腹部に一閃の衝撃が走る。

はらわたを抉り取られたような激しい痛み。

斬られた箇所からは血は吹き出ず、代わりに夢のあぶくが溢れ、まるで死の宣告をするような苦痛はあっという間に溶け出して消えてゆく。

 

薄れゆく意識の中、黄泉の瞳から落ちた赤色の涙がやけに鮮明に映し出される。

 

「—————————うわぁっ!」

 

そしてあなたは夢から目を覚ます。

己の腹が繋がっているのを手触りで確認したが、どこにも傷跡はない。

何か、とても、おそろしいような、優しいような、曖昧な夢を見ていた気がする。

記憶は朧げで跳躍の時、自分が何をしていたのかをどうしても思い出せない。

 

見知らぬどこかで、見知らぬ誰かと話をしていたような……

 

「穹、どうした?」

 

徐々に醒めていく意識の中、悠仁の声がようやく耳に入ってきた。

心配する彼の声を聞いてようやく自分が涙を流していることに気が付く。

 

「夢の中で……誰かに斬られたような気がする……」

「そりゃ完全に悪夢だな。パムの言ってた憶質ってやつの影響か?」

 

パムが注意していた憶質による眩暈などはこれが原因なのだろう。

どうやら悠仁は夢を見なかったようで、寝ている穹をずっと見守っていただけだった。

列車はすでにピノコニーに到着していて、窓の外からその雄大な古時計を一望でき、秒針が刻まれるたびに歯車が生き物のように規則的に動いていた。

彼が言うには、ヴェルトと姫子は先にホテルのチェックインに向かったようで、丹恒は列車に残り、なのかは客室で準備を進めながら彼のことを待っているそうだ。

急いでソファから起き上がり、なのかとの合流を果たす。

 

「おっ、来た来た。準備はもう終わってるんだよね?」

「ああ」

「それじゃあ、『宴の星』ピノコニー、宇宙で一番大きくて豪華な遊園地へ……しゅっぱーつ!」

 

 

——————————————

 

やってきたのはピノコニーにおける唯一無二の超巨大ホテル、「ホテル・レバリー」。

こちらからでは視認ができないほど数多くの客室が置かれており、その中央には時計型のオブジェクトが置かれていた。

 

「やっとついたー!」

「広ーい!」

「おお……すごいな、これは。銀河一の歓楽街と言われてるのも納得だわ」

 

ようやく元気を取り戻した穹、そしてなのかはロビーに到着するなり、そのあまりの広さに興奮を隠せない様子であった。

普段、冷静沈着で落ち着いている悠仁もまた他の者と同様に驚きを隠せない様子だ。

 

多くの種族の人々が行き交う夢の楽園。

いくつもの検査やイミグレーションを潜り抜けながら、やってきたホテルはまさに聖地とも呼べる場所であった。

 

「アイツら、アンタの中にいる星核とか悠仁とかを取り出そうとするんじゃないかと思ってヒヤヒヤしちゃった」

「悠仁の顔の部分、めっちゃ触られてたな」

「うん、めっちゃくすぐったかった」

「わいせつ罪で訴えに行かない?」

「行かない」

「行かないか……」

 

人間から呪物を取り外す方法は、ほとんど"現実"においてほとんど存在しない。

それこそ、悠仁が使用する『魂をとらえた解』を使って受肉体を切り離す方法ぐらいであろう。

星核についても同様だ。

誰も生きた人間の中に万界の癌や数億歳の人が入っているとは思いもしない。

 

「ホテルレバリーへようこそ。忘れられないリゾート体験をお楽しみください!チェックインが必要な方は、フロントまで進んでくださいね」

 

ホテルのスタッフらしき少年が彼らのそばへとやってきて話しかけに来て、荷物の運搬を提案してくれる。

どこかで見たことのある憶えがあるような、ないような……既視感(デジャブ)のようなものを感じつつ、彼はその少年——ミーシャに荷物を部屋へ運んでもらおうとしたその時————

 

「アンタたち、早くこっち来て。なんか変な感じがする」

 

先にフロントの様子を見に行っていたなのかが何やら不安そうな様子で声をかけてきた。

チェックインにトラブルが発生しているようで、彼らはミーシャにそのまま別れを告げてヴェルトと姫子に合流する。

 

「受け取った招待状にはもう私たちの部屋を予約したと書いてあったわ

もう一度、確認してもらえないかしら」

「星穹列車、プラチナルームを合計4室。ヴェルト・ヨウ様、姫子様、三月なのか様、それから……丹恒様です」

 

どうやら登録情報に穹の名前が乗っていないらしい。

ファミリーに返信した時、彼はまだ列車に乗っていなかったのが原因だろう。

 

ちなみに悠仁のことに関してはフロントに伝えていない。

説明するとキリがないしめんどくさいし、肉体の数的に言えば一人分なのは変わらないので秘密にしててもなんとかなるなる!、となのかが無責任に言ってそれに他のメンツも、それでいっかと納得してしまった。いいのかそれで。

そのため今回の旅ではあまり人前で喋らないように彼は心がけていた。

さっきは小声で話していたので問題ないはずだ。多分

 

「お……俺が丹恒ダ!」

「ちょっと!そんな嘘、顔写真とかですぐにバレちゃうでしょ!」

 

そこで列車で待機している丹恒の代わりとして彼に部屋を譲ることを提案したが、流石にそのようなことを唐突に申し立てられてはスタッフも対応に困ってしまった。

せっかくの休暇。

どうにかして穹もホテルに泊まれるようあれこれ交渉を試みようとしたその時——

 

「『調和セレモニー』を目前に控えた今、ピノコニーには時計屋の招待を受けた銀河中のゲストたちがひしめき合っている。ホテルの警備は厳重で少しのミスも許されないからね。こちらのお嬢さんに決定権があるわけでもないんだ。星穹列車の諸君、あまり彼女を困らせないように」

 

プラチナブロンドのとても丁寧に整えられた髪に、吸い寄せられるような虹模様の瞳をもった男がそこにいた。

いかにも金持ち、セレブのような服装を身につけ、その笑みは気さくに見えながらもどこか怪しげにも見える。

フランクな物言いではあるが、その内容は簡潔に言ってしまえば星穹列車に対するお小言だ。

とはいえどう考えても彼の言っていることは正論であり、無理を言っていることは重々承知である。

 

彼の名前はアベンチュリン。

カンパニーの戦略投資部所属、不良資産の清算を担当している専門家だ。

ファミリーから招待を受けたカンパニーの人物とはどうやら彼のことであったらしい。

 

「スターピースカンパニーもピノコにーから招待を受けたと聞いているわ。カンパニーのエリートはやっぱり品があるわね。——それほどすごい人なら、私たちのために便宜を図ってくれない?」

「聞き間違いかな。便宜を図る?それは僕が君たちに言う言葉だと思うけど?もうここで10分以上待ってるんだ。僕にとって十数分がいくらの信用ポイントに値するか、わかるかい?」

「きっと天文学的な数字なんでしょうね。だからこそ、今ここに見逃せない『投資』があると思わない?」

 

カンパニーの影響力は全宇宙に広がっており、彼の言葉にもまたそれ相応の重みがある。

姫子が提案したのは、アベンチュリンがその肩書きを使って彼の保証人になることであった。

そうすれば彼の貴重な時間を節約できるだけでなく、新しい友人を作れるとも。

 

「へえ……それで、その友人たちは僕に何をもたらしてくれるのかな?」

「それはもっと面白い話になるわ。同じ時計屋の招待客同士、まずは荷解きを済ませてゆっくりとお互いのことを理解していくのはどうかしら」

「ふむ……いいね、気に入った!友達、そう友達以上に貴重なものはない。ナナシビトのような嘘偽りのない開拓者なら尚更だ」

 

穹のことをじっと観察していた様子の彼は朗らかな笑顔で姫子の提案に賛同した。

交渉は成立。

宇宙を駆け、星々を繋ぎ合わせた功績が今こうして功を成してくれたようだ。

 

「これからの僕のピノコニーの旅は、君たち『開拓』に色々と世話になることもあるだろう。ぜひ、一緒に楽しい時間を過ごそうじゃないか。お嬢さん、見ての通りだ。ここは僕の顔を立てて、"彼ら"をチェックインさせてくれ」

「で、ですが……」

「僕はファミリーの『サンデー』さんと約束があるから、後で彼に直接この件の対応をお願いしてもらうよ。君に迷惑はかけないから安心して」

 

スターピースカンパニーの重役からの言葉にスタッフの彼女はいよいよ切羽詰まったかのように困り果てていた。

 

「アレー、落ち着いてください」

 

そこに差し込まれる鶴の一声。

 

「ファミリーとして、ストレスを与えた状態でお客様を夢に入らせるわけにはいきません」

 

その声の主は、頭に天冠を浮かばせ、首の下からは鳥のような綺麗な羽を生やしている目麗しい美男子であった。

男の名はサンデー。

この夢の地「ピノコニー」におけるファミリーの意思決定者であり、調和セレモニーの主催者。

 

彼の隣には、白鳥のように美しくもあり可憐さも残る歌姫——ロビンの姿もあった。

 

「噂をすればなんとやら。誰かと思えば、ピノコニーで最もハンサムな男、サンデー!それに宇宙に名を馳せる歌手、ロビンじゃないか!」

「ははは、ご冗談を。カンパニーでも容姿に秀でていると噂のアナタに言われるとむず痒く感じてしまいます」

「ふふ。たしかに、兄様がハンサムって言われるとちょっと面白く感じてしまうわ」

 

アベンチュリンの小粋なジョークに彼らは小さな微笑みを浮かべた。

これほどの広大で豪華な星そのものを統括しているだけあって、彼らの所作の一つ一つに気品がある。

だが、少なくとも穹と悠仁は気がついていた。

 

歌姫であるはずのロビンの声に、わずかにながらもノイズのようなものが混じっていたことに。

 

 




ストーリー見返してるんですが、この頃のデーさんマジで別人かと思うぐらい声音が違う。
列車に乗ってる今の方が素なんだろうな……。

それはそれとしてFateコラボやばいです。
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