マジでクオリティやばい。
あんまりワクワクさせんなよ、MAPPAさん。
前述、妹ができた。
何を言っているのかわからないと思うが悠仁本人にもよくわからない。
「懐かしいですわ、あの頃のお兄様が焼いてくださったグラタンはとても美味でした。普段は厳格で料理にも精通していたお父様も思わず舌鼓を打ってしまうほどでしたから」
「いや、知らん知らん。俺そもそも父親いねぇし」
そもそもグラタンなんぞ食べさせた記憶はない。というか作った記憶もない。
頭でも打ったのだろうか。
いや、そもそもメモキーパーには物理的な痛みは存在しないからそんわけもなかろう。
だが悠仁にとって無から突然身内が生えてくることには慣れきっていたため、困惑というよりはまたこれか……という面倒臭さの混ざった視線を彼女に向けている。
なんで慣れてるんですか?
「倭助お爺様がお亡くなりになった時の記憶は今でも覚えています。あの時の永火官邸はまるで虚無に呑み込まれた跡地のように静まり返っていましたから」
「俺の爺ちゃんは壊滅のギャングの親玉だったん?」
やはり先輩のパンダの言った通り、何かやばいフェロモンでも出ているのだろうか。
今度、仙舟に行って符玄に占ってもらったほうがいいかもしれない。
それにしれっと言っていたがこの女やはりただの星核ハンターではなかった。
『永火官邸』。
招待状を受け取った「壊滅」を遂行するアナイアレイトギャングでありピノコニーを火の海にすると高らかに宣言した享楽集団。
黄泉によって宴の星へ赴く前に滅ぼされたと言われていた者の一人がなぜこの場にいるのか。
非常に、非常に疑問に尽きないが、今の明らかに様子のおかしい彼女に問いただしてもまともな答えが返ってくるとも思えない。
さっきまでのミステリアスな雰囲気はどこに行ったんだ?
「はあ、ようやく見つけた」
どう対応しようか困っていた矢先、彼らの背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
迷路のような木々の間をすり抜けて現れたのはダリアと同じメモキーパーのブラックスワンであった。
「急に姿を消したと思ったら、まさか虎杖さんを誘拐してるだなんて思いもしなかったわ」
「あら、せっかくの家族団欒の機会を邪魔しないでもらえませんか?」
「……今度は星穹列車の仲間にでもなったつもりなの?」
こちらに近づいてくる彼女を見つめるダリアの表情には珍しくあまり喜ばしいモノではなかった。
対するブラックスワンも心底だるそうな表情でダリアに視線を返す。
どうやら二人の間には並々ならぬ因縁があるようだ。
「星穹列車?ああ、いまお兄様が属している場所のことですね。あそこもとても興味深い『記憶』をお持ちですが、今の私はただのダリアですから関係のない話です」
「…………一体何を言っているの?」
ダリアの発言の意図が分からず、ブラックスワンの表情は警戒のものから困惑へと変わる。
彼女の知っているダリアという人物は油断のならない女である。様々な陣営に属していながら例外なくその組織を裏切ってきており、その思考回路や精神性はおよそ常人では理解できない範疇にいた。
だがそれが今どうだろうか。
彼女のまとっている危険な雰囲気はけっして霧散したわけではないが、その表情からは家族との時間を台無しにされた苛立ちがほんのりと感じられ、それが演技などとは思えなかった。
「……虎杖さんが何かしたのかしら」
「まじで何もしてない。マジで、何も、してない」
「その様子だと虎杖さんが何かされたわけでもないのね……」
心底薄気味悪い、信じられないものを見るかのような眼差しでブラックスワンはダリアを見ていた。
「二人は知り合いなのか?」
「ただの腐れ縁です。お兄様、彼女と接するときは十分ご警戒を」
「…………あなたにだけは言われたくないわ。もともと、まともな感性を持っているとは思っていなかったけど、どうやら本当に気が狂ったのね」
なるほど、どうやら本当に仲が悪いようだ。
ダリアのかけるブラックスワンへの言葉にはバラのような棘があるし、対するブラックスワンもまた彼女を前にすると随分饒舌になっている。
下手に掘り下げると厄介なことになるのは目に見えていたのでとりあえず悠仁は目の前でバチバチと鳴る火花を幻視しながらスルーしておいた。
「で、結局コイツは何なの?」
「あらあら、相変わらずご冗談がお上手ですね。私はお兄様の……」
「いい加減おふざけはやめなさい、虎杖さんが困っているでしょう。……端的に言えば彼女は焼却人のうちの一人なの」
焼却人とはガーデンにおける裏切り者であり、メモキーパーの責務から堕落したならず者のこと。
世界に散らばる無数の記憶には優劣があると信じ、価値のないと断じた記憶を徹底的に破壊し、時に壊滅と手を組むことさえ厭わず、浮黎の記憶庫を美しく保つためという名目で記憶の歪曲を行なっている。
「あれ、でもさっき永火官邸の子供とか言ってたような……」
「ええ、彼女は『記憶』の力を使い、永火官邸の全員に彼女は自身が大公の子であることを誤認させた。永火官邸に『コンスタンス』という子供はいない」
「そんな言い方はよしてくださいな。少なくとも私は"本気"で家族として接していたつもりなのですから」
やはりダリアは星核ハンターではなかった。
彼女はホタルに記憶の力で自身が協力者だと誤認させ、裏から糸を操っていたということだ。
ブラックスワンの情報によれば今回の黒幕と繋がっているのもダリアであるらしい。が、早速裏切ってその黒幕の情報を流してくれたのだとか。
「裏切りのバーゲンセール?」
「彼女はいつもこんな感じだから……」
「うふふ、そんなに褒められても困ってしまいます」
「褒めてねーって」
記憶域ミームであるあの『死』の象徴はこの夢の地にもともと暮らしていただけの生命体であり、それを使役していたのはなんと『時計屋』の一味であった。
彼らの目的は、『時計屋』の地位を貶め、この星の生まれる発端となったすべての元凶を倒すこと。
その元凶はピノコニーの管理者であり、元オーク家当主のゴフェルという男らしく、どうやら彼は"調和"の派閥に属していながら"秩序"を信奉しており、この巨大な蟲もまた、彼の手によって持ち運びこまれたものであったそうだ。
ピノコニーにおける裏切り者が、その管理者というのはなんともまあ虚しいものだ。
彼の目的は秩序の星神『エナ』の再誕。
夢の中にスウォームを大量発生させる——つまり『宇宙の蝗害』を引き起こすことで、人々により秩序の下での安寧を実感させるためのマッチポンプである。
行き過ぎた正義の暴走。
それは時計屋ですら止めることは叶わず、彼は星核を使いこの銀河の海を"秩序"で支配しようと画策していた。
しかし、ダリアの真の目的は永火大公の意志を継ぎ、この宴の星の壊滅の痕跡を刻むこと。
秩序に囚われ、仮初の平和を繰り返すことを良しとしなかった彼女は、最初から夢の主の味方になる気はなかったのだとか。
「で、なんで俺がその永火官邸の長男になってんの?」
「それは…………なんででしょうね」
なんでだろうね。不思議だね。
「とりまその"夢の主"とやらが大体悪いのは分かったとして……あのサンデーやロビンも黒幕だったりするのか?」
「サンデーさんはともかく、ロビンさんは間違いなく"シロ"よ。どうやら彼女はファミリー内に裏切り者がいると分かっていて独自に調査をしていたようなの」
「まさかその犯人が自身の育ての親だというのは、皮肉なものですね」
とりあえず、誰が敵で誰が味方なのかははっきりした。
少なくとも、ブラックスワンと黄泉は間違いなく味方だ。
彼らは星穹列車と共に行動する機会の多かった者たちだが、どちらも"秩序"や"壊滅"に属しているわけでもなければ、悪意を持つような人物でもない。
ファミリーが敵ならカンパニーもきっと協力してくれるに違いない。
自称妹?
……とりあえず保留で。
「あとはホタルの誤解をどうするかだな……」
星核ハンターの目的は列車とともに時計屋の遺産を発見することだという。
それならサム……つまりホタルも敵ではない。
敵ではないのだが、どっかの自称妹のせいで協力関係にヒビが入っている。
星核ハンターの来訪の目的が列車との協力なら、今のギクシャクとした状態の関係はどうにかして修復したいし、列車の仲間とも合流したい。
黄泉の放った斬撃の余波で散り散りにはなってしまったが、ブラックスワンによればどうやら全員、通常では決して辿り着けない別の夢境——ドリームリーフにいるそうだ。
「それだったら、私が知人に頼んで彼女を説得できるように頼んでみるわね」
「お、ありがたいな。ちなみにその知人って?」
「それは……後になってからのお楽しみよ」
そこは流刑の地。
煌びやかに輝く豪華絢爛な街とは違い、そこはとても閑散としていて薄暗さの際立つ小さな路に囲まれた廃墟のような街並みだった。
恒星の光を失いながらも、人々の暮らしがほのかに灯る孤高の城壁。
多くの人々の失踪、そして「死」の記憶域ミームはすべて「時計屋」に関係している。
そして、住民たちの断片的な言葉の中に「ギャラガー」という名前があった。
列車が調査を進めていく中で、ハウンド家に属している彼は重要な情報提供者であった。
「時計屋」がファミリーとともに現在のピノコニーを築き、なんらかの理由でファミリーと決別したという重要な情報を教えてくれたのはとてもありがたいことではあったが、問題はなぜ彼がそれについてあれほど詳しく、なおかつそれを列車に話したのか、だ。
「まさか、あの『溶火騎士』の正体が少女だったとはな……」
ドリームリーフにてヴェルトと再会することができたため、二人はお互いの現状認識に齟齬がないか確認を行なっている。
ホタルは穹を見つける前に、自分が星核ハンターであることを他の仲間たちにも明かしていおり、さまざまな情報を提供してくれたそうだ。
「悠仁のことは聞いている。俺も君と同じでとても信じ難い話だと思っているが、彼女の目にこちらを騙すような意図は感じられなかった。ホタルさんが騙されている可能性を考えれば、やはり悠仁にそれとなく尋ねてみるのもアリかもしれない。悪戯に過去を暴くのはあまりいいこととは言えないがな……」
ヴェルトもまた、悠仁を信じる選択をしてくれた。
とりあえず、二人はホタルと共に他の列車の仲間と合流するためにドリームリーフの奥へと足を進めていく。
12の夢境が反射したような神秘的な世界。
質素であり、華やかさとは無縁のこのエリアにもかなりの人たちがひっそりと生活を送っているそうで、雰囲気は異なるものの、建物のスタイルや人々の容姿にこれといって大きな違いはない。
「星穹列車の人たちは、まず仲間内で話し合う必要があるでしょ?あたしはその間にギャラガーさんを探してみる」
彼女はそういって、ドリームリーフの貿易エリアへと向かい姿を消した。
彼女が本当に信用に値する人物なのかどうかを判断するには、もう少し注意しておく必要がありそうだが……その前に何やら見たことのある人物がいる。
「あれ、この前のお客様じゃありませんか。また会いましたね!」
それはホテル・レバリー、そして黄金の刻にて遭遇したドアボーイのミーシャの姿であった。
隣にはあのピノコニーを代表するキャラクター、クロックボーイの姿もある。
「お隣の方は初めましてでしたね。ボクはドアボーイのミーシャといいます!」
「こんにちはミーシャ、俺はヴェルトだ。夢に入る時にも会ったな……ん?隣にいるのは……」
「チクタク!馴染みのトモダチと新しいトモダチ、ハイタッチしよう!」
ヴェルトの視線がクロックボーイの方へと向かう。
どういうわけか、彼にもその姿を視認できるようだ。
ヨウおじちゃんは素直で純粋で無垢な心を持った子供だった……?
「君は……記憶域ミームか?」
「そうじゃありません。クロックボーイはボクの友達です。ボクたちの家はここにあるんです。お客様たちはどうやってここにきたんですか?……もしかして『ネム』が?」
ミーシャはいつも美しい夢で仕事を終えたらここに帰ってくるそうで、自由に往来できなくなって以来、そのネムという何かが二つの夢境の行き来を手伝ってくれたそうだ。
「その『ネム』というのは……どんな見た目をしているのか教えてもらえるか?」
「えっと、ネムは記憶域ミームで大きな目がたくさんあって……見た目はちょっと怖いんですが、実はとっても従順な子なんです」
大きな目をもつ恐ろしい見た目の記憶域ミーム。
間違いない。
そのミームの正体はあの「死」だ。
「あ、あと、ネムの面倒はずっとギャラガーさんが見てくれているんです」
「またギャラガーか……」
彼はファミリーに屈した負け犬と自嘲していたが、その老いた牙は密かに磨かれていたのだろうか。
これでピノコニーを騒がせていた2件の殺人事件の答えは出た。
ロビンとホタルを襲った犯人はギャラガーの可能性が大いにある。
しかし、黒幕の意図はさらにわからなくなってしまった。
「ミーシャ、その『ネム』とやらがここ数日でゲストを連れ帰ってきたかどうか教えてくれないか?実は俺たちは夢の中で起きた失踪事件について調べているんだ」
「そうなんですか……それならギャラガーさんと話したほうがいいと思うんですが……ギャラガーさんは今オーク家からの訪問者の相手をしているそうで、邪魔しないように指示が出ているんですよね……もしかしてお二人が探してる人って……ロビンさんですか?」
ホタルが無事だったのだから、彼女もきっとここにいるのだろうと予測はしていた。
「ロビンさんを探しているなら、ボクが案内しましょうか?」
「それは助かるな。それと、はぐれた仲間のことも探したい」
姫子となのかの居場所はミーシャも知らないようだが、ドリームリーフを練り歩きながら彼女たちと合流すればいいという彼の提案を受け入れ、サクッと彼らはそちらへと向かっていった。
ドリームリーフにて憶質の集合体である降着円盤はまるでブラックホールのように渦巻いているのが目に付く。
「ラザリナ」という憶質動力学の学者であり、憶質速度測量法を星間旅行に応用した伝説的人物が亡くなった場所でもあるようだ。
その名は、パムが痕跡を辿ってほしいと名前を出していた先輩ナナシビトの名前だった。
そして気が動転していたピピシ人の介抱をしていたなのかとも無事合流を果たし、このドリームリーフの責任者と話をしている姫子をようやく見つけることができた。
「ちょうどよかった、この人はミカ。流刑の地の責任者の一人よ」
「ナナシビトの皆さん、こうして会えて光栄だ」
ガタイのいい金髪の墓守をしている男性————ミカは星穹列車のことを知っていたらしく、ピノコニーに足を踏み入れた時からその動向を注目していたそうだ。
ドリームリーフでの生活はとても自由で、組織と呼べるものは存在していない。
ここの住民はそれぞれが干渉しない適度な暮らしを過ごしている。
「俺にできることなんて、毎日に決まった時間に幾つかの墓を掃除するくらいさ」
「ミカさん、それは謙遜しすぎですよ。道に迷った夢追い人がここに連れてこられるたびに、守護者として送り返してるのはあなたじゃないですか」
「なるほど、まるで保護者だな」
「ん?ヴェルトさん、今のは俺に言ったのか?」
「……ん?」
明らかに今の会話が上手に噛み合っていなかった。
ミカのその様子から彼の瞳にミーシャは見えていないのだろうか。
しかし、今はそれについて深く言及している暇はないため、ヴェルトは誤魔化すように咳払いしながら話をずらした。
「ところでミカさん、君のいう墓とは?ここに来るまでの間、墓地は見かけなかったと思うが」
「墓といっても、いくつかの象徴的な慰霊碑があるだけだ。実際に見に行けば、あんたたちはそこでかなりの収穫を得られるはずだ。だがその前に……もう一人、一緒に行く大切な客人がいる」
その人物こそ、他でもないピノコニーにおける大スターのロビンである。
「死」に殺され……いや、このドリームリーフに連れてこられた彼女はここの住民との交流を行なっていた。
その表情には誘拐されたり脅されたりされているような雰囲気はなく、ギャラガーは彼女を丁重に扱っていたようだ。
「無事な姿を見られて嬉しいわ、ロビンさん」
「星穹列車の皆さん、また会ったわね。私の失踪で外の世界は大騒ぎになっていると聞いたわ。……本当にごめんなさい」
「ここにいるということは……ロビンさんはピノコニーの現状を十分に理解していると思ってもいいのかしら?」
ピノコニーに戻ってからというもの、彼女の声の調子は悪化し徐々に声を出せなくなっていた。
当初は高密度の憶質への耐性が長い間の外出で無くなっていたことが原因だと思っていたそうだが、どうやら本当の原因は、彼女の周りに調和とは相容れないものが存在していたからだったらしい。
その相容れないものの正体は"秩序"の運命
「秩序?……待ってくれ、"秩序"の運命はとうの昔に"調和"に飲み込まれたはずだ。秩序の派閥がこのピノコニーにいたという経歴はないと聞いている」
「ええ、私もそう思っていたの。けれど……ことの顛末は彼が教えてくれたわ」
「彼?それって、もしかしてギャラガーのこと?」
「いや、俺だよ」
彼らの背後から、見知った声が投げかけられた。
穹ととてもよく似た声ではあるが、その声音からは若者らしくない落ち着きを感じられる。
「悠仁!」
「よっ、みんな無事そうだな」
穹が普段着用しているパーカーとは異なり、暗い色に赤いフードの映える学ランのような衣服。
いつも浮かび上がっていた罪人のような紋様は消え、目つきなどを除けば穹と瓜二つな容姿を持つ悠仁がそこにはいた。
「何その服ー!」
「やっぱ世界一美少女の俺の見た目だから何着ても似合うな!」
「いやぁ、穹の見た目だから違和感ないだけで、もうこんなもの着るような歳じゃねー……え、美少女?なんで?」
はぐれたはずの悠仁はなんと、彼らよりも先にドリームリーフに辿り着いていた。
ホタルの協力者のメモキーパーが彼をまた別の夢境へと連れていったらしいのだが、そこをブラックスワンが見つけなんとかこっちに連れ戻してきてくれたのだとか。
そこで彼女から提供され知ることになった情報や真実を、悠仁は包み隠さず教えてくれた。
蝕まれた夢。
擬似的な宇宙の蝗害の再誕。
すべての黒幕は"秩序"の残党である夢の主ゴフェル。
「それじゃあ、ホタルやロビンを殺したギャラガーは一体なんなの!?」
「『時計屋』とファミリーは敵対関係だった。彼がこのどちらかの陣営に属しているのは確実だが、ロビンさんへの対応を見るに前者である可能性は高いな」
「俺が知ってる情報はこんぐらいだ。この先どうするかはアイツに直接聞いたほうがいい」
(ダリアのことは……まあ、あとででいいか)
実際はそれだけではなく、ちょっと説明しづらい面倒ごとが発生しているのだが、説明に困るし本筋と全く関係のないどうでもいいことなのでやめておこう。
悠仁はここに辿り着いてすぐにロビンと出会ったらしく、ブラックスワンから聞いた夢境の真実、そして真の黒幕のことを一部始終を伝えていた。
自身の育ての親である"夢の主"が元凶だったことにショックを隠せない様子ではあったが、彼女はどうやらこちら側につき、『調和』の行人としてピノコニーを救う決断をしてくれたそうだ。
「最初、開拓者さんの調律をしたとき、いつもとは違う奇妙な感覚がしたの。まさか、一人の肉体に二つの魂が入っていたなんて思いもしなかったわ」
「そういやこの場合、俺ってもしかして密航者になる感じ?」
「ふふ、いくらファミリーとはいえ、そこまで器量の狭いことはしないわ。悠仁さんのような心の優しい人なら大歓迎よ」
彼女を味方につけられたのは、今後ファミリーと対決していく上で強い後押しとなるはずだ。
あとは、オーク家現当主のサンデーを味方につけることができれば、戦況的にはこちらがだいぶ有利を取れるに違いない。
問題は、そのサンデーが果たして味方なのか敵なのか、だ。
「とにかく、私は自分の故郷が『調和』の名のもとに、『調和』とは反対の方向に進んでいくことは受け入れられないの。————私はもう、『調和セレモニー』の舞台に立たないわ」
この宴の星にて、彼女の歌声が響き渡ることはもうない。
「そういえば、悠仁を連れ去った自称星核ハンターのメモキーパーはどうしたんだ?」
「あー、それはブラックスワンに対応してもらった。これがなかなか面倒くさいヤツで永火官邸とやらの手先だったんだらしい」
「つまり……アナイアレイトギャングは黄泉さんに完全には滅ぼされていなくて、生き残った壊滅の手先が秩序の残党と手を組んだって認識でのいいのかしら」
「とりあえず、それでオッケーだ。ついでにアイツは黒幕と繋がっていて、偽物の星核ハンターとしてホタルに接触した。どーやら、夢の主とやらはホタルに用があるらしいんだ」
「つまりそれって……」
「ホタルも騙されてたってこと?」
穹の問いに悠仁は深く頷いた。
それを聞いて、彼らは安堵の息をつく。
いや、ホタルが騙されていたことに安心したわけではない。
彼女が見た『両面宿儺の指』の記憶は間違い、もしくはまったく別の誰かの偽物の記憶であった可能性が高まったからだ。
「…………」
しかし、穹にはどうしても違和感が拭いきれなかった。
「とりあえず、ギャラガーに会いに行きましょう。ミカさん、案内をお願い」
「ああ。みんな、ついてきてくれ」
全員が彼の後についていき、とある墓跡へと向かっていく中で……
「……なあ、悠仁」
「ん?」
最後尾にいた穹は目の前を歩く悠仁に話しかける。
だがそれに続く言葉をどうしても投げかけられなかった。
恐ろしかった。これを問いて彼との関係が変わってしまうことが。
けれど、何も聞かないままわだかまりを残すことのほうがもっと嫌だった。
それは間違いなく今聞くべきことではないだろう。
だが、ここで聞かないで一体いつ聞けばいいというのか。
喉を押し潰そうとするプレッシャーをなんとか呑み込み、ようやく彼は口を開く。
「…………悠仁は、やっぱり、その…………人を殺したことはあるか?」
彼の顔は今どんなふうになっているのだろうか。
夢境のビル街が照らすスポットライトによってできた逆光がその表情を見せてくれない。
「——————ああ、あるよ」
そうだ。
わかっていたのだ。
なぜなら虎杖悠仁はヒーローではなく、呪術師なのだから。
蝕まれたオークの夢にて
「私もお兄様と共に行動を……」
「あなたはこっちに来なさい。これ以上、トラブルを引き起こさないで」
「ああ……相変わらず、残酷で無慈悲なお方。昔から変わりませんわね」
「昔の話はやめなさいと言ったはずよ」
(……こえー)
触らぬ神になんとやら。
喧嘩するほど仲が良いなどとは口が裂けても言えなかった。