ほとんどの部分が原作と同じ流れになってしまったため、だいぶカットしました。
それは熱砂の刻に辿り着く少し前の出来事————
「ここに見覚えはある?ミーシャ」
黄金の刻の夢境ショップにて、彼らはミーシャを連れて時計屋が託した夢の泡に入り込んでいた。
空っぽで何もなかったはずの夢の中にはどういうわけか穹たちにとって見覚えのある光景が広がっていた。
「う〜ん……見たことあるような、ないような……。でも、みなさんのお役に立てるなら、ボクも頑張って思い出してみます!」
それはホタルとともに「死」————「ネムリ」と遭遇した時に訪れたドアだらけで雑音しか流れないテレビの散乱した部屋であった。
「姫子、まだよくわかってないんだけど、どうしてミーシャがこの夢の泡と関係あるって断定できるの?」
「断定はできないわ。でも、ミーシャに見覚えがあるなら、私の推測は正しいのかもしれない」
「でもここはドアだらけだよ?どのドアから出ればいいのか……ミーシャ、わかる?」
ミーシャはしばらく周囲を見渡し、ふと目の前にあった赤い扉を指差した。
「こっち……だと思います」
自然と導かれるように進んでいく彼を先頭に扉の奥の部屋へと入っていった。
そこは見慣れないホテルとはまるで異なる小さな住居。
戸棚にはいくつもの本が置かれ、暖炉には火が灯っており、生活感にあふれていた。
「不思議ですね。ここはホテルと全然違うのに、来たことがあるような気がします」
ミーシャの記憶が正しければ、暖炉のある部屋では彼とクロックボーイはそこで火に当たって薪の燃ゆる音を聞きながら過ごしていたらしい。
そして別の部屋では、おもちゃを大量に並べて、一つ一つの物語を考えていたのだとか。
「いえ、でも、そんなはずはありません。ボクはドリームリーフで育ったんですから……じゃあ、ここは一体……」
「記憶喪失かしらね。それなら、ここ以外の他の部屋にも行って、いろいろ思い出せないか試してみるのはどうかしら?」
夢の泡という影響もあり、部屋の周囲には無数の文字が浮かんでいる。
その文字には見覚えのある名前の人物が誰かと話していた痕跡がいくつも残っていた。
「ミハイル……は確か、『時計屋』の名前だったよな」
「彼は誰と話してるとかミーシャはわかる?」
「『時計屋』のことはよく知りませんが、『ミハイル』はおじいさんの名前です」
「おじいさん?つまりアンタは『時計屋』の子孫なの?」
しかしこれまで聞いた話の中に『時計屋』の子孫に関する情報はなかった。
珍しい名前でもないから、単なる偶然の可能性もあるが……
「ミーシャ、そのおじいさんのこと、詳しく教えてもらえるかしら?」
「もちろんです!彼は航海士で大勢の仲間たちと旅をしていました。どんな神秘的な海域だろうと、危険な嵐だろうと、彼の敵ではありません。あと、ミハイルはおじいさんと呼ばれるのを嫌がってましたね。彼は戻ってくるたび、ボクに航海日誌を見せて、海での出来事を話してくれました」
この話を聞く限り、そこまで「時計屋」と関係性があるとは思えないが、本当にただの同姓同名なのだろうか?
「彼はどこにいるんだ?」
「ミハイルは……次の旅に出て、もうずっと会っていません」
手がかりはいまだに見つからない。
そのまま歩いていけば、今度は見上げるほど巨大な噴水の置かれているエリアにまでやってきた。
「ミハイルが家にいるときは、よく一緒に噴水のそばに立って、ボクが作ったおもちゃの『コンパス号』を池に浮かべていたんです!その度にボクもいつ冒険に出られるのかって聞いたんですが、子供にはまだ早いって言われてしまって」
「う〜ん、ミーシャのいう『ミハイル』はウチらの知ってる『時計屋』とは特に関係ないのかな?」
しかし、そうなると余計に謎なのはミハイルが海洋惑星の出身のピノコニーとは関係のないように思える。
彼のいう大海原は何かの比喩だったりするのだろうか。
もう少し先までいけば、ミーシャも何か思い出せるかもしれない、と彼らはさらに奥へと進む。
「この部屋は他のところと全然雰囲気が違うね」
それは書斎か。
床の絨毯には本の山が綺麗に積み重なっており、壁一面は航海日誌で埋め尽くされている。
その部屋の中には————
「ミーシャ、やっと来たんだね!」
どういうわけか、クロックボーイの姿もあった。
「ここにいたんですね、クロックボーイ!そうだ、ボクたちが初めて会ったのも、この部屋だったような気がします……」
ミハイルは航海から戻るたびに、日誌を部屋の棚に置いていた。
彼は自身の星が海水に次第に呑み込まれることを危惧し、安心して暮らせる大地を探し求めた。
「ミハイルは空にはもっと広大な海が……星の大海原があると話していました。そしてそこには、遠くへ行きたい子供達を乗せ、星の海を走り続ける列車があるって。彼はその列車に乗っている人たちを知っていて、ボクを連れていってくれるように頼むって言ってました。ボクが夢にまで見ている旅はそこから始まるんです」
「列車……?それってつまり……」
「『星穹列車』……思い出しました。ミハイルのお友達はナナシビトです。彼らは星が引き起こした災いをどうにかするために、ボクたちの世界に来ていたんです。彼は前に進む一歩を踏み出して続ければ、必ず自分の行きたい場所に辿り着けるって。それから何か聞こえたような気が……」
彼は何か考え込むように黙り込み……
「そう、列車の汽笛です。たしか部屋の向こう側から聞こえてきて……」
「そうだよ、ミーシャ!それから僕たちは音のする方に向かったんだよね?」
「はい、まだあの時の道を見つけられるはずです!」
彼は部屋に置かれた記憶の扉を開き、終着点へと訪れる。
「ここです。ここは……ボクの『時計工房』です」
それはホテルの一室とよく似た構造の部屋であった。
そして穹、悠仁が無理やり連れてこられた部屋でもある。
ミハイルが航海を戻ってくるのを待っている間、ミーシャはこの作業部屋でゼンマイや歯車の修理について学んでいた。
「つまり夢の泡のこの建物はあんたが小さい頃に住んでいた『家』ってことね」
「はい。でも……少し違います。こう言った方が正しいかもしれません。この『夢の泡』こそボクの家だと」
幼さの残る彼の声音が、どこか大人び落ち着いたものへと変わる。
「全部、思い出したみたいね」
「ちょ、ちょっと待って、ストップ!なんでウチ以外なんかわかってるふうなの?どういうこと?」
「わかってないのはなのだけだよ」
「…………まあ、うん」
実は穹も悠仁もイマイチよくわかってない。
「三月ちゃん、前に穹たちが自分にしか見えないクロックボーイがいるっていったのを覚えてる?」
「覚えてるよ、横にいるこの子のことでしょ?でもドリームリーフではウチらにも見えてたじゃん。ヨウおじちゃんにも挨拶してたし……」
クロックボーイは自分が見える人間が純粋な子供心を持つ人間だけ、と言っていたがおそらくそれが原因ではないだろう。
「答えは『星穹列車』にあるわ。二人の体験から少なくともホタルと黄泉にはクロックボーイが見えていない。そして、みんなも気づいてるかもしれないけど、ドリームリーフでは列車のメンバー以外、誰も彼とちゃんとした会話をしていないの」
特定の人にしか見えないミーム生命体。
まるで……誰かがナナシビトに残した秘密の手紙のように。
「でもミーシャには見えてるんだよね?小さい頃から一緒に育った仲良しだって話だし。でも、この子はまだ『開拓』の道に足を踏み入れてないのに……」
「よく思い出してみて三月ちゃん。列車組以外の誰かがミーシャと話してるところを見たことはある?」
「……まさか」
「なるほど、そういうことか」
「それこそが答えです。この夢の泡はボクが生まれたゆりかご……ボクは記憶域ミームとなんら変わらない。夢の中の住人なんです」
ミーシャというドアボーイの少年は現実世界には存在しない。
ここにいるのは、時計屋が残した夢の泡の中身が具現化した存在しただけ。
「まずはあんたの名前から始めるのはどうかしら?私たちはあんたをミーシャと呼ぶべきなの?それとも……」
「皆さん、この長い旅を思い出させてくれて、ありがとうございます。改めて自己紹介させてください」
彼はプスルミル星系に位置する惑星ルサカに生まれ、航海士ミハイルとシャール夫人の養子として愛情を持って育てられ、そしてその後に星穹列車に乗り込み、一人のナナシビトになった男——
「ラグウォーク・シャール・ミハイル。あるいは略して……ミーシャ。アナタたちが望むなら、もっとも馴染みのある名前——『時計屋』と呼んでもらっても構いませんよ」
「アンタが『時計屋』本人だったの!?」
驚くなのかの疑問にミーシャ……いや、時計屋は首を横に振った。
「残念ながら、ボクはそこにいる虎杖さんとは違い『時計屋』本人ではありません。ボクは彼の人生の縮図に過ぎないのです」
記憶域ミームというのは同じであるものの、ミーシャの魂は本人のものではない。
いくつもの憶泡が集まってできた、彼の残した記録のような存在だ。
そしてそれはクロックボーイも例外ではない。
「そして今まで皆さんと一緒にいたこの子は、彼の子供時代の美しい夢に出てきた無垢な主人公——クロックボーイの友人で、若い見習い、未来の列車の整備士……同時に、彼の『開拓』の生涯の出発点でもあります」
彼は人生の最後の旅に、大切あその火種を一番深くの夢に残し、後世のナナシビトたちに託したかった。
「ところがどういうわけか、彼は勝手に夢の泡から出たあげく、使命をすっかり忘れてしまったようで……申し訳ありません、皆さんには恥ずかしいところを見せてしまって」
「ミーシャも案内人として使命を忘れてなかったと思うわ。だからこそ、自分のことをホテルのドアボーイだと思い込み、穹が初めて夢に入った瞬間に現れたんじゃないかしら」
——ん?
穹は姫子の言葉を聞き、何かが喉につっかえたような違和感を感じる。
気のせいだろうか、自分の記憶が正しければ……いや、今はそれどころの話ではない。
「さて、本題に入りますが、皆さんをここに来たのは、「『時計屋の遺産』が何かということに関心があるからですよね。ボクのハウンドが星核や大物の財宝については話していると思いますが……申し訳ありません。星核については事実ですが、ミハイルの財宝はただの巷の噂に過ぎないんです」
彼は幼い頃に『開拓』の旅に出て、さまざまな場所を訪れ、最終的にアスデナで足を止め、そして最初のピノコニーを築きあげ、その未来のために努力を重ねてきた。
しかし、その終着点はボロボロに壊れた機関車のように、後世に遺せるような価値のある財産すらも残ってはいない。
「今のピノコニーの状況はアナタたちも知っての通りです。当然、ボクはこの世界を正しい軌道に戻すために、誰かに手を貸してもらいたいと考えています。ですが、その決断はアナタたちが下すべきもの……『開拓』の道は、他人によって敷かれるものではありませんから。なので、アナタたちには一つの物語と二つの贈り物だけ残そうと思います」
彼が懐から取り出したのは、小さな懐中時計と帽子。
それは時計屋が何も知らない少年の頃から導いてくれた指針と列車の人々の間で受け継がれてきた開拓の旅の象徴。
「次はアナタたちの番です。決心がついたら、そのドアを開けある老人の長い夢へと入ってください。ボクはこの時の廊下の果てで皆さんをお待ちしています。
そう言って彼は部屋の奥の扉へと溶けていくように消えていった。
「さて……異論を唱える人は、どうやらいなさそうね。それじゃあ、みんなでこの夢の終点に向かって、ミハイルに私たちの選択を伝えましょう」
…………
それは、長い長い一人の軌跡。
海で囲まれた老人は、我が子を置いて世界を救いに行った。
残された少年はその後、星海を渡る列車に乗り込むことになった。
いくつもの星、いくつもの旅人との出会いや別れを繰り返し、整備士となった彼は終着点としてアスデナの星を選んだ。
帽子を託され、列車を降りた彼はピノコニーを作り上げた。
夢の地で「時計屋」という名の英雄として栄華を飾り、そしてかつての仲間に追いやられ、裏側の夢境で密かにその幕を下ろした。
——時計の針は人の困惑、苦悩、弱さのように……いつまでも回り続ける。
——その針が、永遠に前を指しているように
——僕の旅はここまで、ここからは……君の道だ。
そして、バトンはすでに渡されている。
受け継がれた帽子を新たなナナシビトは深く被り、秩序に宣言する。
「開拓は……かつて至れなかった道を行き、さらに遠くへ向かうこと。ミハイルが夢見たピノコニーは……秩序なんかのものじゃない!」
三つの
パズルのように溶け合う体。調和と洗礼の美神は確かに彼に微笑んだ。
その名はシペ。
「調和」を司る星神の名だ。
「こんな時に、あの星神がピノコニーに目を向けるとは……これは『開拓』の伝承が共鳴を引き起こしたのでしょうか。それとも、皆さんの絆が星神をも動かしたのでしょうか」
サンデーはその帽子を見て、どこか複雑な表情を浮かべている。
己がどれだけ信奉しようと顔すら向けなかったかつての主神に思うところがあるのだろう。
「ならばピノコニーの夢の主として、オーク家107336名の同胞を代表して……皆さんを正式にピノコニー大劇場で開催される調和セレモニーにご招待します。星核、ピノコニー、そして銀河の未来のためにそこで公平に決着をつけるとしましょう」
サンデーはそう言って、出口へと歩き去っていく。
彼らの隣を通り過ぎる傍らで、彼はポツリと呟いた。
「皆さんがアキヴィリの道を信じているというのなら、その星神の勇気と覚悟を……ワタシに見せてください」
孤独によって世界を救おうとする青年は、覚悟を決めたようにそう言い残しどこかへと去っていってしまった。
「追わなくていいのか?」
「ええ、今ここでサンデーを倒してしまったらヴェルトとロビンさんの居場所が掴めない可能性がある。彼の覚悟と信念は相当のものよ。正々堂々やって勝たなければ彼も納得してくれないわ」
だからこそ、次の勝負では本気を出してくるだろう。
そう簡単に倒せるような敵ではないことは明白でもあった。
「カッコつけちゃったから、無理矢理にでも進むしかない……」
「アンタねぇ……!いっつも肝心なところでずっこけるんだから!ウチらは壊滅の絶滅大君とかも相手してきたんだよ?秩序なんて楽勝楽勝!」
「いずれにしても、星穹列車として星核の存在を無視することはできない。それにピノコニーを『開拓』することはミハイルや他の先人たちの目標でもある。バトンを受け取った以上、ここで諦めるわけにはいかないわ」
しかしそれは秩序にとっても同じことが言える。
彼らの数百年間の計画の中にこの夢の星を作り上げるという渇望、そして執念が刻まれようとしているのだから。
「一つの世界の意志を利用して、星神を誕生させる……この戦いは単なる力のぶつかり合いじゃない。ピノコニーの未来のためにも、君たちだけを舞台で戦わせるわけにはいかない」
「君たち?どういう意味?ホタルはウチらと一緒にこないの?」
「ホタルが言いたいのは、もう一つの戦場に向かうってことだわ」
それはあの蟲たちに塗れた蝕まれし夢の跡地のことに違いない。
スウォームはホタルの故郷とも深い因縁があるらしく、どうしても解決したい問題があそこに眠っているそうだ。
彼女がピノコニーを訪れる前に、運命の奴隷はある脚本を残した。
「……あたしの脚本には、夢の地で死を『3回』経験するって書いてあったの」
「さ、3回!?」
1回目はネムリに胸を貫かれた時……
その過程がどうなるかはわからないとはいえ、彼女はすでに2回目の死について察しがついている様子だ。
「この勝利を勝ち取らないと、ピノコニーに未来はない。それにこうすれば、まだ訪れてない……3回目の最悪の死が、最悪の形でもたらされることはないから」
「それって……」
「ピノコニーのすべての人が秩序の美しい夢の中で永遠に眠るってことね」
それは絶対に避けなくてはならない未来だ。
「ホタル、覚悟はできてるんだな?」
「もちろん、できてなかったら……ここにはいないよ」
悠仁の確認に彼女はゆっくりと首を縦に振った。
脚本で書かれたことは間違いなく起きる。
星核ハンターとして、数々の修羅場をくぐり抜けてきた彼女にはそれが身に染みて理解していた。
そんな彼女の覚悟を感じ取った穹は一歩前に踏み出して……
「現実世界で会えることを願ってる」
「うん……さようなら。みんなの『開拓』の旅が————永遠に終わらないことを祈ってる」
そうしてホタルが戻ってきたのは熱砂の刻の入り口。
彼女はその夢の光景を名残惜しそさそうに見届けながら、デバイスを携えサム——正式名称Strategic Assault Mech——を起動する。
——焦土に夢を見た
列車は調和セレモニーへと、星核ハンターは夢の裏側——それぞれの道へと足を進めた。
——明日と共にほころび。
炎が渦巻き、乱気流が巻き起こされる。
夢の地を覆うスラーダの波は列車を大劇場へと運んでいく。
その中で鉄騎に乗り込んだ一人の少女は過去へと飛ぶ。
陽に入る夏の虫のように、炎の羽を伸ばした彼女は最後に彼らを一瞥した。
『現実でまた会えることを願ってる』
——ホタルよ、生きるために死ぬのだと
「ワタシは空高く飛び、天上の太陽となる。すべての生命は我が光の中で生き生きと育ち、すべての悪意は隠れることができなくなる」
秩序の片割れは太陽を撃ち落とすために天上へと昇る。
残された鴉たちは例外なく地へと落ち、隠された報いが露わとなった。
彼の背後に残る囚人たちの残響は決められた台本に従い演者ではなく、ただの舞台装置。
もはやピノコニー大劇場は元の形を失い、晩鐘が鳴り響く処刑場のような重苦しさだけが残っていた。
観客はおらず、役者のみが残された劇場に誰かの声が響き渡る。
「其は人々に意義を与え、天地万物を揃えました。そして、其はあらゆる創造の手を止めたのです。しかし、人々はエナに訴えます」
あなたは「秩序」で民を定義したが、そのせいで、私たちは自分自身が操り人形に過ぎないことを知ることになったのだ!、と。
「そのため、その日、その人々は心を一つにして、神を破滅の穴に投げ入れました」
声が鳴り止んだ。
赤の絨毯で敷き詰められた回廊を通りすぎ、舞台の上で彼と再び相まみえる。
「皆さん、本当にいい時に来ましたね。まもなく調和セレモニーの幕が開く。改めて歓迎させてください。——ようこそ、ピノコニー大劇場へ」
誰もいない劇場の中でサンデーは焦ることなく泰然とした態度で待っていた。
ここは美しい夢の中心、星核の在処、調和セレモニーの絶対的な舞台でもあり……彼らの決戦の場でもある。
「その様子を見るにアナタ方の賛同は得られなかったようですね。非常に残念です」
「誰がなんと言おうと、人間が尊厳を守って生きるのには、どんな人物であろうと彼らの上に立つべきじゃないわ。それはあんたも例外じゃない」
「誰かに縛られた牢獄の中なんかで本当の幸福が得られるはずがないもんね!」
「人間は、ずっと夢の中にいるべきではないと思うよ」
「…………」
「そう、ですか。……であれば仕方がありません。もはやこれ以上の対話は不要です」
劇場には幕間から流れるスポットライトを覗き、光が差し込む場所はない。
罪人を模した人形の軍隊が操り人形のように糸に繋がれ、宙にぶらりと浮かんでいる。
サンデーの体もまた、その人形と共に天へと舞う。さながら、神の台座を狙うように。
「アナタ方の決意は伝わった。ならば今こそ、太陽を直視する権利を授けましょう」
陽光に飲まれた彼の肉体は秩序の夢と一体化し、107336のオーク家の礎が彼の元へと集結する。
「全能なる調和の弦 ワタシに全てを捧げよ」
飲んでは消えるあぶくとなり。
スラーダの泡のように消えてゆく秩序の楽団。
舞台に残るのはひとりぼっちの指揮者。
「誉れ高き調律師————ハルモニア聖歌隊ドミニクス!」
無垢なる子供の落書きのように、その禍々しくも神々しくもある御姿をもつ調律の主が「開拓」の前に立ち塞がる。