世界を覆い尽くす白銀の呪い
全ての大地が雪で埋め尽くされた星ヤリーロ-VI。
「これが……ヤリーロ-VI……」
「でかい星だなぁ」
「もしかしてウチらの次の目的地ってあの真っ白な星?」
「そうよ。どうやら数千年も経ってこの星はこんな姿になってしまったみたいね……」
初めて見た星の姿に圧倒され、穹は車窓に釘つけになっていた。
背後からアナウンスを終えたパムがやってくる。
「空間パラメータ異常!星軌の安定率が12%まで下がっておる!プラン変更じゃ、この駅での停車期間を7日から無期限に延期するぞ!」
「どういうことだ?」
「この世界が属する虚数の局所で……何かしら問題が発生したみたい。列車の軌道が何かに塞がれたわ」
「普通の列車の上に何か障害物がある感じか?」
「どちらかといえば、線路が丸ごと消えた方に近いかも」
早速アクシデントが発生したらしい。
「暫定検測の結果はもう出ている。異常の根源はやはり星核だ」
その報告とともに一同の方に向かってきたのは、列車の乗客の一員であるヴェルト・ヨウ。
見た目は若い成人男性だが、その所作や佇まいは常に落ち着いていてどこか老獪ささえ感じさせる。雰囲気的には悠仁に近いだろう。
つまり只者ではない、という事だ。
しかし、今大事なのはそのことではない。
「星核か……」
「心配しないで。星核が進路を塞ぐことは今回が初めてじゃない。あれの正体が何かはわからなくても、影響を消す方法はある」
「ただ一つ確信できるのは、星核の降臨が、文明や生態系の変化とともに裂界という空間的歪みを生むことだ。ヤリーロ-VIもその影響を受けたのだろう」
星核は万来の厄災を呼ぶ根源のような存在だ。
きっと、ヤリーロ-VIのようにこれまでもいくつもの星に未曾有の危機をもたらしてきたのだろう。
改めて、自分の体内に埋め込まれたものがとんでもないものだと、再確認させられた気分になる。
「私たちの推測では、星核はある星神が各世界にばら撒いた災禍の種。これを断たない限り、開拓の道は進めれらないわ」
「それはつまり——」「仕事があるってこと!」
「穹、悠仁。今回の旅はあんたたち、それから三月ちゃんと丹恒に任せたいと思っているの」
「いいのか?」
「ええ。旅の目的ははっきりしているし、終末獣を相手にできる悠仁がいるならある程度の脅威が相手でも大丈夫だと思うの。『星核』を見つけたら列車に持って帰ってきて。あとのことは、私たちに任せてちょうだい」
どうやら姫子たちには星核をどうにかする手段を持っているらしい。
その技術を使って、星核を無力化し、列車を次の目的地へと送れるようになるそうだ。
「結局、今回も俺たちの出番は無しか」
「心配すんなってヴェルト。年長者として俺がしっかりと見てやるから」
名残惜しそうに呟くヴェルトに悠仁は声をかける。
どうやら自分が宇宙ステーションで気絶していた間にどうやら親睦を深めたらしい。
基本的に泰然として物静かな悠仁の声が、どこか明るい気がした。
「俺が言いたいことはそのことではないのだが……いや、なんでもない。3人のことを任せたぞ、悠仁」
「ふふっ、本当はヴェルトも行きたかったのよ。けど、誰かが留守番してないと、パムが寂しがるでしょう?」
そうして、穹、なのか、丹恒、そして悠仁はヤリーロ-VIに降り立ち、ヴェルトと姫子は列車内で彼らのサポートに徹することとなった。
資料室でヤリーロ-VIに関する情報を集めている丹恒を呼び寄せ、3人は旅の準備を始めた。
先に準備を終えたなのかが、ヤリーロの地表を眺めながら何か思惟に耽っている様子だ。
「どうかしたのか?」
「この星を見てると、つい思っちゃうんだよね。この世界を満たす氷はウチと関係あるのかなって」
「故郷かもしれないってこと?」
「うーん、でもそれは違うと思う。だって、ウチを閉じ込めてたのは六相氷っていう珍しい物質らしくて、そんなものが普通の惑星にあるわけないし……それに、こんな見るからに寒そうな星、美少女の私には耐えられないよ!」
相変わらず、なのかは調子のいいことを言っている。
どんな時でも明るくマイペースなのが彼女のいいところなのだろう。
関わった期間はまだそれほど長くないが、穹はそう認識した。
そして、すぐに丹恒が合流する。
「待たせたな。……どうした。俺の顔に何かついているのか?」
「ううん!今回、どんな面白いことに遭遇するか考えてたの!」
「……この世界には災いが多く存在する。星核に遭遇して、今度はお前に心配されるとはな……」
「それ、どういう意味ー?」
呆れたような眼差しを向ける丹恒に、なのかはわかりやすく頬を膨らませた。
その和やかな光景に穹はほんの少し顔を綻ばせながら口を開く。
「それじゃあ、行こう」
「オッケー!ヤリーロ-VI『開拓』小隊、これより出発!」
こうして、彼は英雄となるその一歩を、確かに踏み出し始めたのだった。
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「ついたか、ヤリーロ-VI」
そこは草木のほとんど生えていない白の大地。
生物の気配はなく、岩の大地が無数に聳え立ち、雪がしんしんと降り積もり続けていた。
「ぜーんぶ雪だね」
「ぜーんぶ雪だね」
「ウチの真似しないで!…………それで、一面真っ白だけど、どっちに向かえばいいの?」
なのかの言う通り、雪が降り続けている影響か、視界はかなり悪くほとんど先も見ることができない。
「座標によれば目的地はすぐそこだが、念のため、慎重に進もう。俺たちはこの世界について何も知らないからな」
「大丈夫だって!ウチは唯一無二の六相氷を持ってるし、穹には星核がある。それに、終末獣をワンパンできちゃう悠仁だっているんだから!」
「丹恒は?」
「丹恒は…………えっと、なんかよくわからないすっごい過去がある!」
「雑じゃね?」
丹恒には何かよくわからないすっごい過去があるらしい。
それが一体強さに関係があるのかどうかは知らないが、本人があまり触れて欲しくは無さそうなので、穹と悠仁は黙っておくことにした。
「行こう!勇気を持って未知なる世界へ踏み出す———これも開拓の一歩だよ!」
と、強く宣言したなのか。
とはいえ旅というのはトラブルがつきもの。
彼らは早速、道中でトラブルの元となりそうなモノと相対する。
「「「「…………………」」」」
それは大きな雪の塊。
本来ならそれだけで、彼らが眺め続けるようなものではない。
しかし、なのかが言うにはこの塊は大きく揺れ動いたらしい。
確かに、基本的に平面な地面の上に一部分だけ盛り上がっているのは不自然だ。それに、何故か雪の中から小さく震える声が聞こえてきている。
それもかなりわざとらしく、まるでここに隠れていることをあえてバラすように。
誰かの死体が埋まっている、なんてことはありえなかった。
「おーい!隠れてないで出てきたら!そのままじゃ凍え死んじゃうよー!」
なのかの忠告に雪の下で身を潜めた人物は特に反応しなかった。
「我慢したってしょうがないのに……」
「どいてろ、三月。耳を塞ぐ者への一番の対処法は……目の覚める一撃を与えてやることだ」
そして息を吐く暇もなく、丹恒は容赦なく雪の埋もれた地面に突き刺した。
「————っああぁッ!!」
情けない声とともに、一人の男が雪の中から顔を出した。
「ちょっとお兄さん!雪に隠れていたからって、いくらなんでも槍で刺すなんて酷くありません!?」
他の3人よりも長身で青髪のよく目立つガタイのいい男だった。
そしてその全員、同時にこう思っただろう。
(((すごい胡散臭いな……)))
なんとも言えない空気感を察したのか、男は怪しい笑みを浮かべながらすかさずフォローに入る。
「あー、でも、皆さんが悪いわけではありません!あはは、僕が出てこなかったのが悪いのです。それでー……懇意にさせてもらっているジェパード様はどちらにー……」
「誰、それ?」
「おや、あなた達はシルバーメインではないのですか?それならそうと早く言ってくださいよ、同士討ちになるところだったじゃないですか!」
同士とは一体どういうことだろうか。
まさか、この胡散臭さの滲み出る怪しげな男と同種の人間だと思われているのではないか。
「僕はサンポ・コースキと申します。こんなところでお会いできて光栄です」
「俺は穹」
「いいお名前だ。しかと胸に刻んでおきます。それにしてもこんな雪の中で生きた人間、それに同業らしき人物に出逢えるとは。これほどの幸運は存在し得ないでしょう。不肖ながらこのサンポ、皆さんの仲間に加えていただけませんか?財宝はもちろん、シルバーメインの情報なども、揃えていますよ」
サンポは仲間になりたそうにこちらを見てくる。
「なんの話だ?」
「……ひどい、僕を信用していないのはわかりますが、そこまでとぼけなくてもいいではありませんか!ええ、わかりますよ、同じ商売をしている者同士、警戒されるのも無理はない!親切にしてしまった僕が悪い……」
「本当にシルバーメインを知らないんだ」
嘘くさい泣き真似を華麗にスルーし、穹は正直に話した。
サンポはまるで信じられないモノでも見るかのように目を見開く。
「本当に?奴らはベロブルグの軍隊、執行者、警察など……融通の効かない連中で、僕たちのような商人の敵ですよ」
一同は顔を見合わせた。
少なくとも、彼らはこの星に降り立ったばかりで知らないことは当然なのだが、天外からの来訪者であることを知らないサンポはその様子に対して軽く息を吐いた。
「なるほど、新参者の方でしたか。つまり僕は先輩として皆さんにルールを教えておく必要がありますねぇ。潜入も、商品を探すにも、値段を見積もるにも、シルバーメインから逃れるにも……技術は必要ですから」
この男、自分がただの商人ではないことを隠す気がなくなってきたな。
大方、盗賊のような犯罪まがいの行為に手を染めているのだろう。むしろ、ここにそのシルバーメインとやらを呼んできた方がいい。
とはいえ、道案内がいないと困るのは事実。
今のところは言及は避けておいた方がいいだろう。
しょっぴくのはその後だ。
「さて!僕は心優しいサンポと呼ばれるぐらいには、人助けが大好きなんです!はは、さあ我が友よ、僕についてきてください。もちろん、シルバーメインには見つからないように、ね」
そう言ってサンポは無性に腹のたつウィンクをする。
ふと、穹のなかで黙ったまま様子を伺っていた悠仁は気がついた。
————彼の視線が今、確かにこちら側に向いたことに。
(…………やっぱり出ないでおいて正解だったな)
おそらく、いや十中八九こちらの存在に気づいている。
あらかじめこちらの存在を知っている者、もしくは呪力探知に優れた技術——それこそ六眼——でも持っていなければ、悠仁のことは気が付かないはずだ。
しかし、この男からも呪力の片鱗は感じられなかった。
何者かは知らないが、警戒しておくに越したことはない。
その後、サンポは3人をつれ街があると言っている方向へと歩き出す。
足音を立てず、足跡も残さず、そして雲の上を歩いているかのように軽い足取りで彼は進んでいく。
「——足跡を残さないことをお忘れなく。痕跡を残さず追手を振り切ることが……おっと」
先導しながら盗ぞ——商人の心得を説いていたサンポが突然その足を止めた。
その視線の先には、青い防寒具の上に鋼鉄の鎧を身につけた兵士の姿が。
「皆さん、先ほど話したシルバーメインのことを覚えていますか?」
「……なんか、嫌な予感!」
シルバーメインの兵士たちはこちらの姿を見つけるなり、大きな声で全体に告げた。
「容疑者とその仲間を発見!至急、ジェパード様に報告しろ!」
「手を貸してください、友よ!捕まるのはごめんです!」
向こう側も話を聞いてくれるような雰囲気ではなく、仕方なく臨戦態勢に入る一同。
全員が自身の武器を構えたその瞬間——
「あー……なあ、穹」
「ん?どうしたんだ、悠仁」
「あのサンポってやつ、逃げたぞ」
「え!?あれっ、ほんとだ!!」
気づけば先頭にいたはずのサンポの姿はどこにも見つからなかった。
武器を持ち出した時のほんのわずかによそ見をしていた間に音もなく逃げていったようだ。
あまりの俊足、そして何も言わずに去っていたあの男に一同は言葉を失ってしまう。
しかし、それで相手が待ってくれるわけもなく、シルバーメインの伏兵はその大きな銃器を発砲し始めた。
3人はその縦断を間一髪でよけ、斧を携えて向かってくる兵士たちを相手どる。
一人一人の強さはそこまでではないが、反物質レギオンよりもしっかりと連携をとりながら攻撃をしてくるのはなかなか面倒だ。
しかし、そこはあの終末獣の猛攻を掻い潜ってきた3人。
どんどんと迫り来る兵士たちを薙ぎ倒し、その数をみるみると減らしていった。
「うちのとっておきをくらえ!」
なのかが追い討ちをかけるように、六相氷でできた矢の雨を残兵へと浴びせようと放った。
————しかし、その可愛らしい矢は一人の重厚な右手によって受け止められてしまう。
その男は金髪の凛々しい顔立ちをし、他のどのシルバーメイン達よりも重装備であり、右手には大砲のように大きな武器を抱えている。
他の兵士たちとは違う、圧倒的なまでの強者のオーラを漂わせながら、その男はこちら側へとゆっくり足を進めてきた。
穹はその場で踏み込み、その兵士に強くバットを叩き込むも右腕で受け止められてしまう。
「存護の名の下に!」
反動で後退した隙をつくように、金髪の男は高く飛び上がりその武器を地面へと叩きつけた。
「くっ!」
「総員、直ちに取り囲め!」
「「「はっ!」」」
凄まじい衝撃に怯んでいる隙を狙い、男は部下の兵士たちに的確に指示を出した。
あっという間に囲まれ、まさに四面楚歌という状況。
金髪の男が、3人に荘厳な声音で言い放つ。
「君たちが何をしたのかは知らないが、彼の仲間として拘束させてもらおう。もちろん、ベロブルグの市民として君たちには弁護する権利があるが、それは戌衛官である私の裁量では判断できない」
そのあまりにも理不尽な状況になのかはついに抗議の声をあげた。
「待って待って!そもそもウチらはアイツの仲間なんかじゃないし、そもそもベロブルグってところの出身でもない!」
「……なの、写真を彼らに見せたら?」
「写真?」
「おっ、ナイスアイデア!」
それは列車から降りる前に撮ったヤリーロ-VIの星全体の画像。
この星の周りには地球のように人工衛星が周囲を回って移動しているわけではないので、本来ならこのような惑星全体が見える写真など撮れるはずがない。
故に、この写真こそ自分たちが宇宙——つまり天外から来たことの照明となる。
無論、信じてもらえればの話ではあるが。
なのかは自分のカメラに収めたヤリーロ-VIの写真をその金髪の男——ジェパードに見せつけた。
そこに写っているのは表面がほとんど白で覆われた球体。
背後で控えている兵士の群から困惑の声が漏れ出た。
無理もない。自分たちの住んでいる世界がこれほど丸い球体。その上、これほどの雪で覆われていたのなら目を疑いたくもなる。
ジェパードはしばらくの間思惟に耽ったあと——
「遥か昔に天外より来訪する者がいたと聞く……しかし寒波が発生して以来、ベロブルグを訪れる者はいなくなった……」
「しかし、この者たちは——」
「これはもはや我々では判断できないことだ。彼らの言葉が真実ならば、最終的判断を下す権利は大守護者様にある。この者たちを大守護者様のところへ導くのが私たちの使命だ」
ジェパードは想像以上に聡明で思慮深い人物のようだ。
反対意見を述べようとしていた部下も納得したのか、特にいうことはなくそのまま引き下がった。
「よそ者よ、ついてくるといい。ベロブルグはこの吹雪の先にある」
そう言って、彼の後ろについていったその先に待ち受けていたのは——
「ようこそ、『存護の都』——ベロブルグへ」
雪に閉ざされ、今にも白く染まりそうながらも、人々が抵抗を続ける機械仕掛けの近代都市の姿だった。
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ベロブルグはヤリーロ-VIにおける最後の砦。
700年前に天外より現れた反物質レギオンによって、星の大地は焦土と化し、至る所が溶岩と煙に満ちていた。
しかし、その後突如として訪れた寒波によって侵略者の軍団は壊滅。
残されたベロブルグに現れた『建創者』たちによってこの街は築き上げられ、かの存護の星神——クリフォトの加護によって、雪風にさらされようとも人間の生活を維持できることができているらしい。
ジェパードの説明を聞きながら、3人はベロブルグの街並みを一望する。
先ほどの寒さが嘘のように、街のほとんどが暖かさに包まれていた。
雪はいまだに止んではいないが、それでも前も見えない吹雪に比べれば可愛いものだ。
人々の顔も活気に溢れていて、今のところ反物質レギオンや寒波の被害を受けている様子は見られない。
「すごい街だ」
「そうだな。おっ、あっちに出店あんじゃん。あとで見にいこうぜ」
「…………天外の者というのは随分と不思議な身体をしているのだな」
「あー、この子はちょっと特別なんだ」
観光に来たかのように話し始めた穹と悠仁。
流石のジェパードも瞼の下から目と口が生えている人間を見たことはないのか、困惑を隠しきれない様子だ。
「先ほどまで隠れていた様子だったが、もう出てきてもいいのか?」
「あのサンポって奴が怪しかったからな。ああいう手合いの輩には下手に情報を与えないほうがいい。何をされるかわかったもんじゃない」
「俺、さっき名前教えちゃった」
「まぁ…………名前ぐらいならいいだろ」
念の為警戒しておくように、と悠仁は伝えた。
まあ、それでも友と呼んだ人たちをあれほどあっさり見捨てて逃げたのだから、そう簡単にこちらに顔を見せることもないはずだ。
「着いたぞ。ここがクリフォト城。ベロブルグの心臓であり、建創者の本部だ」
「クリフォト城?」
「かの星神は存護の象徴。建創者たちはあの方の呼びかけに応じベロブルグを築き上げ、天災と寒波から文明の灯火を守ったのだ。尊崇の念を込め、我々はこの城にかの星神の名をつけた。そして、この城は大守護者様の住居でもある」
「さっきも聞いたけど、大守護者って?」
「建創者たちによって、ベロブルグのリーダーに抜擢された方達のことだ。彼女達は代々この都市を守り、民を庇護してきた。都市で敷かれている重要な政策は、すべて現在の守護者、カカリア・ランド様の決めたものだ」
つまり偉い人である。
ジェパードが言うには、すでに使者を派遣して3人のことは伝えてあるとのこと。そして親切にもさっそく謁見の機会を用意してくれたらしい。
「彼女は多忙の身だ。言いたいことはなるべく考えておいた方がいい。……それでは、行くとしようか」
そう忠告し、ジェパードは3人を城の中へ引き連れた。
案内された場所は執務室。
中では誰かが抗議の声をあげているのが聞こえる。
「しかし、このような犠牲にはなんの意味もありません。不適切な——」
「ブローニャ、来客だ。下がって良い」
「……」
「は、お母様」
声を張り上げていた銀髪の少女、ブローニャはこちらを鋭い眼差しで見つめながら名残惜しそうに去っていった。
部屋の中央に佇んでいたのは、妙齢でありながら厳格さの滲み出る金髪の女性であった。
彼女こそがカカリア・ランド。ベロブルグにおける最高責任者であり、大守護者の名を冠する者だ。
「大守護者様。よそ者を三名連れてきました」
「使者から話は聞いている。よくぞやった、ジェパード。貴様も下がって良い」
ジェパードは軽く会釈をすると、そのまま足早に部屋を後にした。
彼が部屋の扉を閉じたのをしっかりと確認した後、カカリアは身に纏っていた厳粛なオーラを解き、柔和な表情を一同に見せた。
「ようこそ、寒波の向こう……いいえ、天外より訪れし客人たち、と言うべきかしら」
「俺たちが天外から来たことを知っているのか?」
「あら、疑って欲しいの?ふふ、もちろん、疑っていないわ。あなた方がこの世界の者ではないことを知っているから」
カカリアが言うには、ベロブルグもレギオンの侵略を受ける前は、星々との交流が盛んだったらしい。
無数の銀河と繋がり、繁栄を遂げていた時代のことを歴代の建創者たちは後代へと確かに伝えていたようだ。
「ゆえに、天外にも人々が住んでいる理由も知っている。それで、今回の来訪の目的を教えてごらんなさい」
「俺たちがこの星に来た理由は星核の回収です」
「星核?」
「突如として各世界に落ちた物質であり、厄災の象徴。これまでの旅で多くの星核に侵食された星々を見てきました」
壊滅の手先である反物質レギオンと空間侵食現象である裂界。この二つの出現は星核と密接に関わり合いがある。
彼女は先ほどの話でレギオンについて触れていた。寒波もおそらく星核が影響しているのだろう。
そのことを伝えればカカリアはしばらく思索に耽ったあと…………
「あなた方の意思は理解した。しかし、それならばその星核とやらとあなた方がなんの関係がある?わざわざ、星を救うために骨を折り、なんの見返りもいらないということを信じろと?」
「おっしゃる通り、俺たちがこうして協力を求めているのは、両者の利益が一致しているからです。星核を封印しなければこの星を離れることはできません」
「あなた方には、それを封印する手立てがあると?」
「俺たちなりの方法があります」
(丹恒ってもしかして見た目以上に年とってんのか……?)
悠仁はその光景を黙ったまま聞いていた。
丹恒という青年はおよそ、三百年ほどを現世で生き抜いた悠仁から見ても常に冷静沈着で、焦りという言葉と無縁の男だ。
容姿も若々しい好青年ではあるが、その雰囲気は十代というにはあまりにも大人びすぎている。
カカリアからの少々圧のある言葉にも何事もないように平然と返し、交渉術にも長けていた。
なのかがなんかよくわからないすっごい過去がある、といったのもあながち間違いではないのかもしれない。
「わかりました。信じましょう。今の状況が星核と関係があるのなら、これを黙って見過ごす真似はしてはいけない。可能な限りの援助を行い、星核の探索に協力しよう」
「感謝します、大守護者様」
「こちらこそ。さあ、今日はもう遅い。吹雪の道を歩いて疲れたであろうあなた方にこの町で一番のホテルを手配してある。今日はゆっくり休むといい。この話はまた明日の正午に話し合うとしよう」
交渉は成立。
カカリアは嫌な顔を一つも見せず、朗らかな顔で伝えてきた。
3人は一安心し、その後別れの挨拶を済ませ部屋を後にする。
コォォォォ
「?」
「どうした、穹」
「いや、なんでもない」
誰かの視線を感じ取った穹は一瞬だけ立ち止まり、振り返ってカカリアの顔を見た。
特にそこに何かあるわけでもなく、カカリアは業務を再開している。
丹恒に呼びかけられ、穹は再び足を進めた。
部屋の隅で、誰も知らない少女の声が聞こえた気がした。
戦闘シーンを書くのが難しすぎる……
悠仁が本格的に活躍するのはもう少し先になる予定です。