奇物:両面宿儺の指   作:二等辺大三角形

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久しぶりの戦闘描写だったので少し雑になってるかもしれません。



つはものどもがゆめのあと

 

 舞台幕が上がり、夢の星の景色を一望できる広大なステージへと躍り出た。

 秩序の行人であり、ピノコニーを、すべての星を己の手で掬い上げようとするサンデーは調和の化身——ディエス・ドミニを召喚し列車の前に敵として立ち塞がる。

 

 黄金の羽を生やした巨人はただ泰然と指揮棒を振り捌き、彼はその右手から歌を奏でる往日の夢のこだまを召喚した。

 

 それは彫刻のように美しく形成された美の象徴でありながら、人々がまさに天の使いと呼ぶべき姿を持ち、「調和」の祝福を受け「秩序」によってあるべき姿から捻じ曲げられた星神の一部でもある。

 サンデーはピノコニー、そしてアスデナで眠りにつき安寧を求め続ける人々の思いに応え、世界に響き渡る賛歌をもって世界を作り変え新たな法則を確立しようとしていた。

 

「これは……つまりピノコニーの真の目的は……それを奪うことだったの?」

 

 人の形を模したこだまたちはそれぞれが夢の海原を泳ぐ魚のように自由自在に宙を舞い、調和の余波を音符として形作りながら攻撃を繰り返し続けてきた。

 

《なぜ『調和』と『秩序』は一つになれると思いますか?》

 

 ディエス・ドミニの中からサンデーの声が響き渡る。

 

「よっっと!」

 

 弓を構えなのかが飛来してくるこだまたちを正確手つきで撃ち落としていくが、そのこだまが消えたとしても、厳かなるままに振られる指揮棒によって際限なく生み出され続ける。

 

《それは両者とも……不協和音を容認できないからだ!》

   

 秩序によって変容した聖なる小鳥は生み出された音符の塊を上空から落とす。

 

「危ないっ!」

 

 穹は頭上から降り注ぐ音符の雨を掻い潜り、巻き込まれかけたなのかの腕を掴みながらその攻撃をなんとか避けていく。

 

 二人を追随しようとするこだまの尾を悠仁がつかみ地面へと強く叩きつけ、敵のヘイトがそちらに向いたのを見計らった姫子はすぐさま反撃へ出る。

 

「燃やし尽くせ!」

 

 はるか天上から降り注ぐ数多の熱光線はそのディエス・ドミニの体に確かに命中するも、その効果はあまり効いているようには見えない。

 天の肉体はあまりにも硬く、造物エンジンの動きを止めた姫子の天体衛星による長距離狙撃でさえ、削れたのはほんのわずかな破片だけだ。

 

《雑音が……!》

 

 ディエス・ドミニが空から曲劇を奏で、秩序の波状攻撃が彼らを襲う。

 独裁者の圧政を示すように、その余波から出た風圧は周囲の機材や舞台を破壊していった。

 

 

 そしてサンデーの一方的な攻撃は次第に苛烈になり、足元に召喚された顔のない人形たちの軍勢が召喚され、列車に牙をむく。

 それらの動きはまるで一定の法則にしか従わないロボットのように無機質で非生物的なものであった。

 

「ちょっ!そっちばかりずるくない!?」

「ラチがあかないわね……」

 

 魂のない道化と化した軍団は彼らにとっては烏合の衆に過ぎないが、数があまりにも多すぎる。

 107336人のオーク家の意志が集まった凡人共の影は守護者たるディエス・ドミニにそう簡単に近づけさせてはくれなかった。

 

 しかし、その程度で足止めされるほど楽な旅を送ってきたつもりはない。

 

「まだだ!」

 

 人形の群れを存護の槍をもって払いのけていた穹は懐から時計屋の帽子を取り出す。

 

 星穹列車のナビゲーターから受け継がれてきた時計屋の大切な遺物。

 調和の加護を受け取ったその帽子はこれまでにない力を宿していた。

 

「ドリームカムトゥルー!」

 

 帽子をディエス・ドミニの頭上へと投げ、まるで破裂した水風船のように中から数十枚の巨大なコインが降り注ぐ。

 上空で黄金の華が咲き誇り、散り落ちる花火の残火として秩序の傀儡に夢の金貨が降り注ぎ、次々とその敵たちを破壊していった。

 その金貨の一枚一枚には彼の呪力が込められており、その威力は生半可なものではなく、その雨あられは天人の肉体へと命中し、クロックボーイの笑顔を描いた愉快なマークが浮かび上がらせていた。

 

《これは調和の……》

 

 その巨大な体躯から簡単に身動きすることはできないディエス・ドミニは回避行動を取れないまま、調和の力に押され後退りした。

 両者ともに多くの共通点を有する運命ではあるものの、主神を失った「秩序」にとって「調和」は天敵とも言える。

 なぜなら、過去に「調和」は「秩序」を呑み干したのだから。

 

 秩序の集団は瓦解し、ディエス・ドミニの不変の体にようやくダメージが入り、そこに一つの影が飛び込んだ。

 

「いまだ、悠仁!」

 

 その隙を逃すことなく、制空権を支配しようとしていたこだまの相手をしていた悠仁は大きく跳躍し、両足を強く蹴り込んだ。

 たとえ呪力と術式を扱えないミームの肉体であろうとも、彼の技巧は失われておらず、ほんのわずかな時間で彼はすでに自身の肉体の扱いを完全に心得ている。

 生前や穹の並々ならぬ生物として異常なほどの強度を誇っていた肉体とは違い、現在の彼の肉体はもろく強い力がかかれば簡単に砕けてしまうだろう。

 だが、彼にとってそんなことは些末な問題だ。

 

 自己を顧みない暴力の塊としてくり出された彼の蹴りは自身の足すらも破壊しながら、ディエス・ドミニの胴体にめり込みその図体を大きく後退させた。

 

《ぐっ……!ただのミームの肉体に、なぜこのような力が……!?》

「やった!」

「私たちも畳み掛けましょう!」

 

 なのかの放った巨大な氷の矢が骨ばった腕を拘束し、指揮棒を暴力的に振り翳していた支配者の腕は拘束され、動けなくなった彼を天体による集中砲火とウェポンコンテナによる上下からの追撃が襲う。

 

 いかに「秩序」の行人としての力を遺憾無く発揮していようとも、幾度となく攻撃を喰らえばその肉体が損傷するのは明白。

 

「終わりだ、サンデー!」

 

 人形による残骸の山を押し除けて、穹はディエス・ドミニの頭上へと飛び上がっていく。

 「調和」の帽子を構え、彼は何千年間も続いた正義という名の執念に終止符を打とうとする。

 帽子の縁を持ち、大袈裟なまでに大きな一振りが笑顔になることはないその「秩序」の仮面に命中した。

 

 会心の一撃をもろに喰らったディエス・ドミニはバランスを大きく崩したものの、ステージに手を押し当てなんとか最後の執念をもって持ち直す。

 

《——時は来た。神の骸から再び造化が生まれる》

 

 天に祈り上げるのではなく、己こそが天そのものとでも言うかのように、巨人は指揮棒を携え、全世界にまで届くように「調律」を開始しようとしていた。

 耳心地の良い不協和音が奏でられ、世界を「秩序」で埋め尽くさんとし————

 

「蛟龍よ、呑め!」

 

 そのガラ空きになった胸部を巨大な水龍が貫いた。

 予期せぬ奇襲にディエス・ドミニの肉体はいよいよ崩れ落ちる。

 何が起きたのかは理解できない。しかし、誰が来たのかはすぐに理解できた。

 

 暗がりとなった雲海の中から数百、数千ものの星槎が現れ、夢の空を覆い尽くしていく。

 まさに圧巻の風景。

 天を駆ける船団の中にある巨大な一隻から二人の英雄が降り立った。

 

「煌々たる威霊よ……我が命に従え!」

 

 巨人の胸を貫いた龍と、雷鳴を轟かせる神兵がディエス・ドミニの背後をとった。

 その中央に座していたのは、龍尊の力をためらうことなく使い、本来の力を取り戻したナナシビト——丹恒と、星穹列車の良き隣人でありながら仙舟「羅浮」における雲騎将軍の景元だった。

 

「——斬!」

 

 龍は唸り、威霊はそれに追随して身の丈ほどの長さを持つ陣刀を振り下ろした。

 閃光と咆哮は夜に落ちる夢を明るく照らし、その衝撃はディエス・ドミ二に抵抗させる暇もなく一撃で沈めた。

 まばゆい光と衝撃に包まれ、彼らの攻撃の余波はその場にいた列車の一同にまで届く。

 

 最後に穹の視界に映ったのは、悲しみも怒りも表すことのない空虚なまでに微動だにしない秩序の仮面だけであった。

 


 

「——起きて、ねえ!起きてってば……!」

 

 知っている誰かの声が暗闇の中から聞こえる。

 ここは一体どこだろうか。

 夢見心地に包まれながら、おぼつかない意識の中で自分の身に起きた出来事をなんとか思い出そうとする。

 ピノコニーを訪れ、そこで夢のような時間を過ごし、そしていくつもの思惑が混ざった蠱毒の中でいくつもの事件を解決した。ドリームリーフに辿り着き、事件の真相を知り、時計屋の遺産を引き継ぎ……

 熱砂の刻で星核ハンターのホタルと別れ、大劇場にてサンデーとの激戦を繰り広げ……そして……そして?

 

「————っ!」

「あ、やっと起きた。大丈夫そう?」

 

 混濁していた意識が一気に醒め、彼は夢の泡から飛び上がるように目を覚ました。

 目の前に広がるのは現実空間におけるホテル・レバリーの客室であり、心配そうに彼を見つめていたなのかの姿もあった。

 

「ウチの声は聞こえてる?自分の名前は覚えてる?」

「俺の名前……俺は天上天下唯我独尊最高最強無敵の銀河打者!」

「あっ、うん……その様子なら大丈夫そうだね……」

 

 そうだ。

 自分はたしかにピノコニー大劇場にて世界の命運をわける——「秩序」の残党たるサンデーと戦っていた。

 そしてその場に駆けつけた丹恒と何千人もの雲騎軍が助太刀に来て、なんとかして彼を倒すことに成功したのだ。

 

「とにかく、さっき起きたことを覚えてるなら安心だね」

「気を失ってる間に何が起きたんだ?」

「えっと、話せば長くなるんだけど……ウチらが戦ってる時、丹恒が結盟玉兆を使って将軍と一緒に手助けしてくれたの」

 

 結盟玉兆ら握り念じれば、すぐさま雲騎軍の総員が訪れてくれる列車が仙舟から受け取った報酬だ。

 丹恒はブラックスワンから夢境にいる仲間たちの危機を知り躊躇することなく玉兆を使い彼らを呼んできてくれたらしい。

 すでに穹を除いた全員が目を覚まし、この現実世界のホテルのロビーにて集まっているとのことで、彼らは早速その場に向かうことにした。

 

 そう、この現実世界でだ。

 

「あれ?そういえば……悠仁は?」

 

 自身の瞼の下を触り、そこには何の跡もなく彼の存在もまた同じように感じ取れなくなっていることに気がついた。

 ここが現実であれば、悠仁は自然と穹の肉体へと戻っているはず。

 言葉では言い表せない不安感を感じていれば、なのかが彼の様子を案じ言葉をかけてくれた。

 

「そのことなんだけど、ブラックスワンが何か知ってるみたい。いまから会いに行こう!」

 

 善は急げとすぐさま彼女のいるバーカウンターへと向かう二人

 確かにブラックスワンの姿はあるが、肝心の悠仁の姿は見当たらない。

 

「あらまた会ったわね、ねぼすけさん」

「ブラックスワン、悠仁はどうしたんだ?」

「安心して、彼なら無事よ。ただ戦った際に負った傷と使令の力同士の衝突のせいで彼の体は少し損傷してしまったの。私の……一応、知り合いが彼の体を治療してる最中よ。そうすれば虎杖さんも現実世界で自身の肉体を得られるわ」

 

 そういえば、彼はディエス・ドミニとの戦いの時、あの図体に大きな蹴りを入れて自身の足を自壊させてしまっていたような気がする。

 いくら修復可能なミームの肉体とはいえ、やはり治すのにはそれとなく時間がかかるらしい。

 それはつまりその治療というのが終われば彼は穹の肉体から離れて、自分の肉体を持てるようになるということだろうか。

 

「へぇ!それじゃあこれからの旅は悠仁も自分の体で好きなことでき放題ってことじゃん!よかったね、穹!」

「…………うん」

 

 なのかのいう通り、それは間違いなく良いことのはずだ。

 それなのに、どうしてか小さな胸焼けのような違和感が喉奥に突っかかって取れない。

 

「そういえばあなたたちは仲間に会いに行くのよね?私も一緒についていっていいかしら?」

「別にいいけど……またこの前みたいに変なこと企んでるわけじゃないよね?」

「まさか。私がおかしなマネをしたことなんてないでしょう。……少なくとも、あなたたちの前では」

 

 何やらこちらも引っかかるような物言いだ。

 とはいえ、事態が解決した今、わざわざ彼女が裏切るようなことはしないだろう。

 

「ようやく戻ってきたか。無事なようでなによりだ」

 

 三人が会話をしているところに丹恒が入ってきた。

 列車から降りてわざわざホテルにまで来てくれたらしい。

 そして彼の背後には見知らぬカウボーイのような衣服を纏った男もいる。

 

「アンタが丹恒の言ってた開拓者か」

「誰?」

「彼は巡海レンジャーのブートヒルさんよ。私たちはある人物を負っている途中で偶然知り合って。その流れでサンデーさんが驚くべき陰謀を企てていることに気づいたの……」

 

 ある人物を追っていたブートヒルはピノコニーにやってくる際に星穹列車を訪れ、その場にいた丹恒と鉢合わせすることになり、()()は協力し合う関係になったのだとか。

 

「え、ちょっと待って。『ある人物を追って』って初めて聞くんだけど……列車まで追いかけるような相手って、誰?」

「いい質問だな!そりゃもちろん…………ア?誰だったけか?おい丹恒、覚えてるか?」

 

 なのかの質問に答えようとしたブートヒルの口が止まり、丹恒に尋ねるも彼もまた怪訝そうな表情で首を横に振る。

 

「……妙だな、俺も覚えていない」

「ま、いいかぁ!誰も覚えてねぇってことは、きっとチンケなコソ泥だったんだろ。とにかく、オレらが前後関係を理解するのに影響はねぇよ」

 

 使令の力同士がぶつかり合った影響なのか、一部の記憶に齟齬が生じているだけだろうと結論づけ、彼らは景元と今後のことについて方針を決めようとしている姫子たちの元へ向かった。

 ロビーに向かう道中の廊下で姫子、景元、そして連れ去られたはずのヴェルトの姿もあった。

 

「おや、これはこれはかの勇敢な『銀河打者』じゃないか」

「穹、なかなか目を覚さないと聞いていたが……大丈夫か?」

「安心してヨウおじちゃん。この子ったらもう元気いっぱいで、ここに来るまでに一生分のジョークを言い尽くしたぐらいなんだから。それよりヨウオジちゃんこそ大丈夫そう?」

「ああ、俺もロビンさんも無事だ」

 

 特にサンデーから危害を加えられたりしたことはなかったらしく、景元が「ハルモニア聖歌隊」を倒してくれた際に無事脱出することができたそうだ。

 彼は「調律」によっていつでもこちらの息の根を止めることができたのを考えれば、本当に公平な決闘を望んでいたことがわかる。

 

「そのオーク家の当主についてだが、今はどこにいるんだ?」

「少し複雑なんだが、一言で言えば今の彼はオーク家の前当主なんだ」

 

 カンパニーは大ミリーの責任者は彼であると指摘した。

 銀河の平和を脅かすという危険でファミリーの代表として騒動の責任を負わせ、今回の件をピアポイントにて裁判にかけるように求めていたが、ファミリーは彼を含む「秩序」の残党は敵であり、この騒動を内部反乱と主張。

 その結果カンパニーは今回の「ファミリー内部の問題」に介入できなくなってしまった。

 

「じゃあ……ロビンさんはどうなるの?ロビンさんとサンデーはこの調和セレモニーと切っても切れない関係だし、実の兄弟だし……」

「……彼女にとってこの件は降って湧いた災いだったとしか言えない。同盟は仲裁の過程で、このことを慎重に判断するよう、できる限りファミリーを説得しよう」

 

 自身の敬愛する兄がまさかの裏切り者だったとは夢にも思わなかっただろう。

 故に彼女の心的負担がどれほどのものかはまったく想像できない。ここは仙舟にどうにか折り合いをつけてもらわなければいけないだろう。

 

 どうやら景元にはこれからピノコニーの要人たちと交渉についての事前の話し合いをすることになっているらしく、列車は立会人として参加することになった。

 カンパニーや博識学会、そして天才クラブまでもがその談合に参加し、今回の件に関心を寄せている。

 何やらファミリーの作った精神世界に強く興味を惹かれたのだとか、そして最終的にはどちらもピノコニーの再建に技術的支援を提供することに合意してくれた。

 

 万事が上手くいっている。すべてこちらの都合のいいように。

 

「さて、これでピノコニーの未来は決まったようだが……列車の諸君、まだ何か気がかりなことはあるか?」

「平和こそが私たちの最大の願い、それ以外に求めるものはないわ」

「はは、わかった。特に気になることがないなら、私はこれで失礼する。君たちは安心して旅立つといい、後始末は我が同盟に任せてくれ」

 

 こうしてピノコニーでの事件は幕を下ろした。

 せっかくのバカンスがとんでもない事件で台無しにはなってしまったが、何はともあれ無事に解決できてよかった。

 

 列車に戻り、早速、次の星の行き先を決める航路会議が開かれた。

 

「これで全員揃ったな。それでは、航路会議を始める!」

「次の目的地を決める会議か?どうやって決めるんだ?投票か?それとも……」

「慌てないで、カウボーイ。お客は主に従うものよ、彼らに決めてもらいましょう」

 

 しかし、どういうわけか列車にはブラックスワンとブートヒルの姿もあった。

 姫子によると彼らはそれぞれの事情でしばらく列車に同行したいそうだ。

 星穹列車が乗客を拒むことはない。たとえナナシビト出なかろうと、しばらくは一緒に旅をすることになるだろう。

 

「まず、車掌として礼を言わせてくれ。オマエらがピノコニーの真実を暴いていなければ、オレはもう二度とミハイルたちのその後を知ることができなかったじゃろうからな……彼らの境遇はいささか残念ではあったが、きっとそれぞれの願いは果たせたはずじゃ。本当に感謝しておる」

 

 そしてパムは次の目的地の選択肢を提示してくれた。

 一つ目は海洋惑星ルサカ。完全に液体で構成された星で多くの水生種族が暮らしており、あのミハイルの故郷でもある。

 二つ目は「アゲートの世界」メルスタイン。星核の災いの原点の一つと言われていながら、「純美」のイドリラが昇華した地でもあり、不滅の美を誇る美しい惑星となっているらしい。

 三つ目は江戸星。現在、反物質レギオンからの侵略を受けており、カンパニーが列車に状況確認を願い出てきた。

 最後は「ガラス光帯」パトレヴィニツィア。絶滅大君「風焔」によってガラス化された惑星帯であり、弔伶人の劇団の有名な支部の一つとなっているのだとか。

 

「多すぎて決めれないな」

「うーん……じゃあ、それなら、江戸星に行ってみない?そこが一番危ない状況にある気がするし」

「三月の言うとおりだな。念の為、確認はしておいた方がいい」

「君たちの判断は間違っていない。俺も江戸星に投票しよう」

 

 結論は出た。

 次の目的地は江戸星。

 跳躍が開始され、列車は再び雲海を渡る。

 そのさきに待ち受ける数々の困難や苦難を切り拓くために。

 

 

 ——琥珀歴2158紀、紀元元年。宇宙は再び本来の軌道に戻った。陰謀の火種は「夢の地」ピノコニーで燻っていたが、大きく燃え上がる前にクリフォトの鉄床で火花となり、瞬く間に消えた。

 

 ——死すべき者と死者は眠り続け、生者もぐっすり眠ることができる。全員が無言の大声をあげ、それぞれの思いのことをする。銀河は各紀元の始まりにふさわしい活力を放った。代償は…ただ1組の兄妹のわずかな悲しみだけだった。

 

 ——赤子が生まれ、恒星が消える。そして銀軌(レール)が広がっていく。星穹列車の物語はここでひと段落したが、また新たに始まるだろう。

 

 ——時は進み続け、「開拓」の旅も新たな章の幕を開けようとしている。

 

 

—この旅がいつか群星に辿り着かんことを—

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 違う。

 

 違う。

 

 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!

 

 こんな結末はあり得ない。認められない。認めてはいけない。

 

 あなたはそうして手を伸ばし、先の見えない暗闇を幾度となく掻き分け進んでいく。

 

「どうやら自分の力で捻じ曲げられた結末に気付いたようね」

 

 小さなオルゴールの音色が聞こえた。

 星型のライトが輝き、何も見えない虚無の中に一つの影が浮かび上がる。

 

「先に結論から言いましょう。サンデーさんとの戦いでは、列車の面々、さらにはピノコニーのすべての人が敗れ、誰も生き残ることはできなかった」

 

 そう言って彼女——ブラックスワンは小さな書籍を一つ取り出した。

 

「でも心配しないで。恐ろしい事実だけど、まだ取り返しのつかないことにはなってない。人々にはまだ一筋の希望がある。身をもって体験したこの物語には致命的な綻びがいくつかある。——一筋の希望は、その綻びの裏に隠されている」

 

 綻び。矛盾。偽り。

 そうだ、この記憶には明らかな間違いが存在しているはずなのだ。

 

「でも、あなたにとっては何よりも大切な失われた記憶がある。そうでしょう?」

 

 ピノコニーにおけるサンデーとの最終決戦。

 あの時、あの場所、ピノコニー大劇場に…………

 

 

 

 虎杖悠仁はいなかったのだから。

 

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