設定上、かなり複雑でところどころに矛盾が生じてしまうかもしれませんがご容赦ください。
追記:投稿時間ミスりました
あり得ない再会
航路会議にて、次の行き先は「永遠の地、オンパロス」となった。
ガーデンにしか覗くことができず、三つの運命が交錯するアキヴィリも辿り着いた事のない未開の地。
まったくの未知の世界であり、「開拓」の象徴たるナナシビトとして、これほど適任な場所はないだろう。
ブラックスワンの思惑にまんまと乗せられている気もするが、他の航路も決して安全とはいえないことを考えれば気にしなくてもいい。
『各乗客は注意せよ——まもなく跳躍が始まる——大人しく座っとくように!』
車掌の合図とともに列車は星海を渡る。
跳躍した先に待ち受けていた窓の外には何も映らない。
暗闇と小さな星屑が静かに宇宙を漂っていた。
「何も見えないわね……不思議でしょう?」
どこかに惑星があるような痕跡はなく、茫然と外を眺める穹の隣をブラックスワンが横切った。
「答えは、星空の中にある」
窓に手を当て、カーテンを引き朝日を拝むようにその無限の渦をなす世界が映し出された。
それは天体というにはあまりにも歪で、メビウスの輪のように均衡を続けている。
この星こそが次の「開拓」の目的地になる「永遠の地、オンパロス」だ。
「これは……星、なのか?」
「数字の8みたいだな」
「見てのとおり、オンパロスは混沌とした物質に包まれているから外部の観測は難しい。目的地を通過するどころか、視認することさえ難しいでしょうね」
しかし、ガーデンは見つけた。
普通の運命の行人がガーデンの鏡に痕跡を残すようなことはない。
外部から隔絶されたこの星系には「使令」に近しい存在、あるいはオンパロス自体が星神からの一瞥を受けたのかもしれない。
交錯する三つの運命のうち一つは当然、「記憶」
そして、もう一つは「知恵」。
現在、宇宙ステーションにてガーデンから情報を得たヘルタが独自の方法でオンパロスのことを調べている。
しかし、最後の一つは不明なままだ。
「均衡」、「不朽」、あるいは「神秘」かもしれない。
オンパロスが纏う白い光の帯は三つの運命が絡み合った結果。渦の中心に入り、その正体を見極められるのは「開拓」の運命に歩む者だけ。
問題はあまりにも情報が少ないこと。
着陸地点の指定はできず、たどり着いた先に何が待ち受けているのかすらもわからない。
リスクを恐れることはナナシビトらしかぬかもしれないが、人命がかかっている以上多少の警戒は必要だ。
「危険いっぱいだな。よし、進路変更!」
「早い早い」
「まだ航路会議の結論をすべて覆すほどの状況でもないだろう」
「あら、三月ちゃんは?」
ブラックスワンに導かれ、オンパロスの光景を見に来たいつもの面子の中あれほど楽しみにしていはずのなのかがの姿がない。
「出発前にカメラをチェックすると言って部屋に戻ったが、それから出てきていない気がする」
「変ね、新しい旅の時はいつも三月ちゃんが一番ワクワクしてるのに、今日はどうしちゃったのかしら?」
心配になって彼女の部屋を訪れる。
いつもと様子の変わらないこじんまりとした可愛らしい部屋だが、その部屋主である七日の様子はあまりよくない。
「ごめん、なんか……跳躍が終わってから、力が出なくなっちゃって……」
おそらく、いや十中八九オンパロスに関わる「運命」が関わっている。
憶質に満ちた星系で過ごし、精神治療に長けたサンデーの診断によれば、オンパロスから発せられた何らかの力が彼女を押さえつけているらしい。
「ウチなら大丈夫だよ。元気になったら、すぐに追いかけるから……。アンタにはウチのカメラを託すから、オンパロスに着いたら写真を撮ってもらえる?」
「わかった。それじゃあ、ハイチーズ!」
「もう、バッテリーはもったいないじゃん……」
大人数で押し寄せれば、なのかの心的負担になりかねないと、彼女を眠らせ部屋の外へ出る。
「オンパロスは……なのかの過去と何か関係あるのだろうか」
「そんな都合のいい偶然はないと思うわ。『六相氷』に関する手がかりは何も見つかってないし、むしろオンパロスの方が三月ちゃんへ影響を与えた可能性が高いわね。今回の旅は穹と丹恒、それに悠仁で先陣を切ってもらえないかしら?」
「みんなはどうするんだ?」
なのかの看病は当然として、どうやらヘルタの方にも接触したい要件があるらしい。
早速、異常が発生したことを鑑み、姫子は「予備プラン」を提示した。
オンパロスはスターピース通信のサービス圏外であるため、遠距離通信手段が存在しない。
そこで、宇宙からの援助を最大限行えるように、星穹列車の一車両を切り離し、着陸船兼セーフハウスとして活用したいらしい。
「この車両には独立した推進装置が付いておるから、必ずオマエたちをオンパロスまで送り届け、安全な場所に着地させられるぞ」
「意外と何でもありだよな、この列車」
「これで無敵だ!いっけえええ!」
非常手段のため、積み木のように分解して遊べるわけではありません。
「勝手なことをしないよう、こいつらを見張っておく」
「え、丹恒くん。それってもしかして俺も入ってたりする?」
「準備ができたら行くがよい。いい知らせを楽しみに待っておるぞ!」
そうして切り離された車両に乗り込んだ二人はその無限を現す星渦の中へと向かっていった。
あれほど鮮やかに輝いていた渦中は次第に暗闇へと呑み込まれ、車輪の軋む音だけが聞こえる。
「……ミュ?」
「誰だ?」
小さな声が木霊する。
雲を突き破り、太陽の如き巨大な球体が列車の中を照らしていた。
暗雲満ちる世界の中、巨大な光球を支える巨人の姿が。目下には剣山の如き山脈の連なりが。
ひどく神秘的で神話のような世界が窓際に写る。
「おお……!」
遊園地に初めてきた子供のように穹は目を輝かせ窓に張り付いた。
視界に映る雲海の端で何かが煌めく。
「————は?」
悠仁が今までに聞いたことのないような素っ頓狂な声を発し、穹もその存在を遅れて感知する。
知らない気配。しかし、とても馴染みのあるモノ。
だが同時に、この世には決して存在してはならないものでもある。
「
かの天才ヘルタは完全に否定した。
この銀河において呪力という未知なるエネルギーは一度たりとて発見されていない、と。
それは無機生命体の王、スクリューガムもまた同意見。
例外は存在しない。
際限を知らない
——つまりここは地球?
そんなわけがない。
「チィッ!」
知っている。
懐かしく、そして忌まわしい負の気配。
知っているからこそ、悠仁はほんのわずかに逡巡してしまった。
幾億年ぶりに感じ取った
黄金の軍槍。
音もなく車両に迫る狂気の刃をかろうじて呪力を纏った手のひらで掴み取った。
だが掴むことができたのはその一本だけ。
音速を置いて訪れる数本の槍が列車の車両を、そして悠仁の、穹の腹部を貫いた。
「術式反転————?」
血の噴き出て止まらない腹部を急いで縫合しようとし————無意識に手が止まった。
背後から感じる何者かの視線。
星神か、はたまた別の何者か。
いや、それはどうでもいい。敵意も悪意もないものを歯牙にかける必要はない。
大事なのは……
(術式が練れ……いや違う。使い方を
そんなはずがない。
百年、千年、それ以上の年月を呪物の中で過ごし、術式と向き合い続けてきた彼が今更術式の使い方を忘れるなどありえない。あってはならない。
一秒の間に起きた出来事は彼を大きく動揺させた。
だが少なくとも、その程度の事故で気を失うまでには至らないだろう。
次の攻撃に備え、悠仁が振り向いたその時……
彼は見知らぬ場所にいた。
星々が満ち潮となり渦巻く海の中……
「あれ、もう来ちゃったんだ。でもちょっと早いかも。ここから先はネタバレだよ♭」
聞いたことのある仲間の声。
海月のようにふわりとした浮遊感に包まれながらも、意識ははっきりしている。
だが明らかに別人である誰かの声が聞こえ、次に振り向いた時、彼は質感のある石床の地面に足をつけていた。
「あ、悠仁起きた?」
「……俺は、寝てたのか?」
「うん。いつまで呼んでも全然、反応してなかった。悠仁も気絶ってするんだね」
「気絶っていうよりかどっか変な場所に連れて行かれたって方が正しい気がするけどな」
「誰に?」
「星神か……あるいは別の誰かか。どっちみち、回復しようとしたところを止められたんだ。ろくなやつじゃない」
あの声の主は一体誰だったのか。
いや聞き覚えはある。というか思い当たる人物は一人しかいない。
だがそれはあり得ないし、説明がつかない。
今はたまたま似ていただけだった、ということにしておいた方がいい。
右も左もわからない世界で余計な情報による混乱を避けるため、あえてその情報を伏せておき、悠仁は穹に最も大切なことを聞いた。
「体の方は大丈夫か?」
「うん、平気。悠仁が反転術式で治してくれたから」
「——そうか、それは良かった」
彼が服を捲れば、確かに傷跡ひとつない健康的な腹筋である。
(妙だな。治そうとはしたが、あの時ここまで完治できる状態で治せたか?)
呪力を確認する。問題なし。
術式を確認する。…………問題なし。
穹の体も特にこれといった異常はないようで、星核が暴走する気配もない。
(反転術式も出力も戻ってるな)
先ほどの呪力のこもった槍雨が訪れる気配はない。
槍は一体どこから、誰から放たれたものだったのだろうか。
緊急事態の状況下であったため分析することができなかったが、アレはやはり……
「呪力で間違いないな」
「あ、やっぱりそうなの?」
「そっか、穹は俺以外のを見るのは初めてだったっけか」
見間違うはずもない。
人の負の感情によって出来上がった集合体、残滓、怨讐。
数百年前、親しき隣人たちと共に消し去ったはずの宿業が蘇ったのだ。
ならばここは地球なのか?
それは否。なぜなら……
「俺が呪物になった頃にはこんな古代文明みたいなのはほとんど残っちゃいないしなぁ」
古代ギリシャ、あるいはローマだろうか。
あいにく海外の知識に関してはそれほど深く知らないのではっきりとは断定できないが、随分と古風ヨーロッパ的な建築様式だ。
悠仁のいた地球において呪力をもち、認識できるのは日本人と、アフリカにおける一部の原住民のみ。
くまなく探せばいたのかもしれないが、ヨーロッパにおいて術師が確認されたことはない。
(何回か地球が滅んで、その後たまたま復活した、とか?)
それならば、あの無限の文字を表したような形はなんだったのだろうか。
少なくとも彼の知る地球は青くまん丸い普通の惑星の形をしていたはずだ。
いやしかし、よくよく思い返してみれば宇宙から地球へとやってきたルメル族も地球とは全く縁がないのにも関わらず呪力……ロロルカという力を扱えていた。
術式を扱うことのできる者も何人かはいたのを憶えている。
もしかしたら、ほんとに偶然"呪力"ととても似通った性質の力がこのオンパロスにもあっただけかもしれない。
「そうなってくると、これ以上考えても仕方ねぇか。とりま丹恒を探しに行こう」
「そうだ、丹恒ーーーーー!!」
衝突した列車の残骸は見るも無惨な有様になっており、燃え盛る火の粉を散らしている。
建造物の瓦礫は崩れ、壁画は原型を失っていた。
その瓦礫の山の中に……
「丹恒!」
気を失っている丹恒の姿があった。
死んではいないようだが、意識がない。
軽くゆすってもびくともせず、列車の破片にもたれかかるように眠っている。
「丹楓、丹恒……3代目の名前は何にしよう」
「殺さない殺さない。生きてっから」
「でも念の為に人工呼吸はするべきじゃない?」
「人工呼吸したいだけだろ。初めての相手は考えなさい!」
「えー、でもー」
初めて丹恒と三月なのかに会った時の光景が頭に浮かんだ。
誰かが耳元で「やっちまえ!」と叫んでいるのが聞こえた。まるで人を堕落させるような悪魔のような囁きだった。……迷った末、穹は体をかがめて
「ごめん、丹恒」
覚悟を決めた。
「……何を謝ってるんだ?」
「悠仁にそそのかれました」
「なにもしてないよ?」
決めた覚悟はあっさり打ち砕かれた。
無事に丹恒も目を覚まし、その場からそっと立ち上がる。
彼によれば、車両が何者かによって攻撃を受けた後、重傷をおった穹の体を外に運び出した後に、丹恒も気を失ってしまったらしい。
とりあえず列車と連絡が取れるか試してみたものの、既読どころか連絡すらできない。
「とりあえず安全な場所を見つけて拠点にしよう。周囲の建物や彫像を見る限り、オンパロスには間違いなく文明がある……だが、ここの人々が俺たちに友好的だとは限らない」
「呪力のことも気になるしな」
「呪力?虎杖とお前に宿っている力のことか?」
二人は呪力が感知できない丹恒に、先ほど起きた顛末を事細かに伝える。
「なるほどな。だが、虎杖の話を聞く限り、ここはお前の故郷ではないのだろう?この星における独自の力の一端が、偶然呪力と合致していただけという可能性もある」
「その可能性も捨てちゃあないけどな。……何はともあれ警戒しておくことに越したことはない」
「気にしなくて大丈夫。俺たちはただ『開拓』をするだけだから!」
「どんな場所でもお前は変わらなそうで安心だな」
穹は相も変わらずな様子であったが、むしろその元気溌剌な態度に丹恒は静かに微笑んだ。
「メミ……」
「ん?誰だ」
ピンっと無意識のうちに穹の腕が伸ばされ、手の甲から悠仁の口が浮かび上がる。
気配も音もしなかった場所から発せられた声に警戒の色を表す。
それにつられて、二人も腕が伸ばされた方向を見た。
「ミュン!」
視界の端にその宙に浮かんでいたピンク色の動物が見え、そして消えた。
妖精らしき生物が消えた先には巨大な門が聳え立っている。
「なんだ今の?」
「アーカイブに記録されいるどの生物にも似ていなかった。オンパロスは未知の世界なのだから当然かもしれないが……警戒を怠るな」
門を潜り抜け、彼らはいよいよ未開の土地へと足を踏み入れる。
闇夜を照らす月光が差し込み、その巨大な老化は奥へと影を下ろしていく。
人気のない廃墟の先には桃色の小さな動物が浮かんでいく。
妖精らしき生物を急いで追いかける最中で……
夜は朝になった。
「なんだ!?」
「太陽が急に……」
ひび割れ、崩れ落ちていたはずの回廊は人の手が丁寧に加えられ整備された綺麗な石畳に変わっていた。
草木は生い茂り、虚構から人の営みが再現される。
戸惑いながらも歩いていけば、再び昼夜は逆転し、彼らは廃墟に舞い戻っていた。
「あの桃色の奇妙な生物の仕業か?」
「黒幕かも」
「まあ、今まで会ってきた第一村人は全員色々あったしなぁ」
長い回廊の先に辿り着き、重圧的に構える門をゆっくりと開いていく。
そこにはいくつもの崖と枯れ木の山。
先ほどまで通り抜けてきた門がちゃちな小窓に見えるほどの立派な城門が聳え立っていた。
とてつもない威圧感を持ち、傍目から見てもその門がどれほど歴史的な建造物かわかるほどだ。
周囲を警戒したながら城門の前にまでやって来た二人は遠くにある巨大な球体を担いだ巨人を一望していた。
「……式神か?いや、そのわりには呪力が大きすぎるな。土地神に近いのかもしれん。スケールは段違いだがな」
「アレって生き物なの?」
「あー、建造物って可能性もあるのか。……でも見えるだろ?溢れんばかりに呪力を垂れ流してるあの様を。物体に呪力を流し込め続ければ、無機物でも呪力は持てるけど、あんなでかいのに入れ込むなんてことは不可能に近い。ま、六眼があれば話は別だけど」
確かに、あの建造物からは神秘的なオーラのような何かがひしひしと感じられる。
だが、悠仁ほど敏感には感じ取れない。せいぜい、微風に当たった程度の違和感だ。
生物、と言っているわりには動く気配がない。
あの巨人は彫刻のように世界を照らす光球を支え続けている。
「巨大な建築物が至る所にある。どうやら建築技術が発達しているだけでなく、共通の信仰もあるようだな。俺には呪力を感知できないからなんとも言えないがな」
「ふふん、俺たちすごいでしょ」
「誇らしげな顔をしている場合ではないぞ」
遠方の天地の間に巨大な球体が聳え立っている。
頂上にある雲は自ら円形の裂け目を開き、その渦中で黄金色の光を反射し続けていた。
穹は懐からなのかのカメラを取り出し、写真を撮る。
もし彼女が傍にいたら、奔放な比喩でこの光景を形容していたことだろう。
「この彫像にも呪力がある……」
「危ないからあんま近づくなよー」
人間とも怪物とも表現し難い人形の彫刻。
ある者は弓を、ある者は短剣を、ある者は拳を構えている。
まるで戦争を象徴したように。
断崖の向こう、荘厳な宮殿はその門を固く閉ざし、背後に隠された歴史や秘密を一切漏らそうとはしない。
その門の先にはどんな景色が広がっているのだろうか。
ふと、無意識のうちに穹は崖の向こうにある城門を写真に収めた。
「……ん?」
重たいものを引きずるような音に反応した丹恒が振り返る。
そこにはなかったはずの石像がいつの間にか彼らの背後に置かれていた。
誰かがイタズラで置いたのか。気配もなく、彼らに気づかれずに?
「気をつけろ!」
「なんか敵認定されてる?」
灰白色の殻が割れ、中から青白い賢者のごとき造物が動き出した。
無言ながらも感じ取れる敵意。
奴らがこちらを見逃してくれるとは思えない。
背後は崖と行き止まり。戦う以外に道は残されていない。
「すべての『開拓』は——バットを振った瞬間から始まる!」
丹恒は槍を穹はバットを構え、造物たちと戦闘を始めた。
敵の数は4体。だが、背後にはまだたくさんの石像が控えており、あの石像もこちらの動きに合わせて攻撃を行ってくるのだろう。
今までとは違う呪力を持った相手に穹は片唾を飲んだ。
青白いモヤが両者の得物に宿る。
「はぁ!」
青白い炎がぶつかり、弾かれる。
(やっぱりあっちも使えんのか……)
穹の呪力感知の精度は問題ない。
むしろ初めて呪力を持った相手に対する分析力はかなり長けているほうだ。
だが、それが余計に今の戦闘の足を引っ張ってしまっている。
目に見えない、今まで感じ取れないものを突然知ってしまった人間の反応は皆等しく戸惑いだ。
自分だけのアドバンテージが通用しない。
敵が自分と同じ土俵で戦ってくる。
それに加え、こちらもどう対応したら良いのかがわからない。
普段とはまた異なる不安を抱えた穹は思うがままに力を振るうことができなかった。
「くっ……」
「穹」
「悠仁……」
「とりあえず、一旦武器をおろせ」
「え?」
彼からもらえると思っていた助言は思いもしない形で出される。
しかし、それでは相手の攻撃に対処できないのではないか。
「自分の呪力で対応しようと意識しすぎだ。まずは相手の動きをよく見てみろ」
今の穹は相手の呪力を感じ取ることに精一杯で視界で攻撃に対応することが疎かになってしまっている。
戦いにおいて警戒は生き延びるための大事な術の一つだ。
だが、警戒し過ぎれば足元を掬われたときに生じる焦りによって命を落としてしまうことになる。
「アイツらに術式はない。呪力もただ無意味に垂れ流しているだけだ。今のオマエの実力で倒せない敵じゃないはずだ」
それは激励でもありながら純然たる事実の提示。
悠仁からの信頼を言外に受け取った穹はバットを下ろし、敵を視た。
頭蓋を一振りで潰せるような巨大な拳。
青い白いオーラはこの上なく不気味ではあるが、悠仁の言った通りだ。
この奇妙な彫像の呪力は精度も稚拙で出力もバラバラ。
決して、これまで戦ってきた敵たちと隔絶した強さを持っているわけではない。
「はぁ!」
拳を交わし、迫り来る矢を石像を肉壁にして防ぐ。
同族から射られた矢によって、バランスを大きく崩した石像の顔面へ思いきりよくバットを振るった。
固体とも軟体とも区別つけ難い感触。
だが手応えは確かにあった。
顔をもろに潰された石像は動きをとめ、ヒビ割れながら石砂へと変わり溶けていく。
(……呪力はあるが、術式はない。出力も適当だし、強さ的には二級から準一級ぐらいか?)
その扱い方を理解していないのか、はたまた無自覚なのか、呪力を通して自分を守ることも感知して穹の攻撃を避けるような仕草もしていない。
そもそも意思が存在しているだろうか。
呪霊のように悪意をもって襲っているようには見えず、性質的には呪霊というよりも式神に誓い。
(あの金ピカの槍と関係がありそうだな)
先ほどまでの勢いの弱さが嘘のように穹は次々、敵を薙ぎ倒し、丹恒もまた、負けじとその撃雲を振り払い石像共に風穴を空ける。
こちらが負けてしまうような事態にはならないが、いかんせん数が多すぎる。
このままいけば、こちらのジリ貧になってしまうだろう。
退路を探すため、辺りを見回していたその時————
「上だ!」
「何っ!?」
荒野をかける狼のような速度で何かがこちらへ飛来してきた。
その剣先が流星のように煌めき、二人の間を通り抜ける。
左右対称の両手剣が石像に突き刺さり、刃を槌のように振るう。
「ふぅ……ん?」
白髪の偉丈夫とも言える若々しい青年。
彼はこちらを一瞥すると、興味深そうに笑いながら……
「へぇ、面白いものを持っているね」
音もなく穹のそばへと近づいていた。
悪意はない。殺意もない。
まるで数ヶ月ぶりに再会した旧友のように青年は優しく、穹の肩に手をおいた。
だが次の瞬間、穹の握っていたバットは奪われ、危険を感じ応戦しようとした丹恒の槍はへし折られてしまう。
青い瞳に白い髪の青年——ファイノンは人懐っこい笑顔を向け、列車はオンパロスにおける最初の出会いをした。
英雄を待ち侘びていたこの星で、いずれ訪れる未曾有の危機を彼らはまだ知る由もなかった。