奇物:両面宿儺の指   作:二等辺大三角形

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旅は道連れ世は情け

 

カカリアとの面会後、3人は賑やかな街を探索した。

彼女のおかげもあって、一同は行動を制限されることなく自由に行動できるらしい。

 

中央にはベロブルグのランドマークである、常冬の碑が置かれてあり、周囲には人も多く闊歩している。

外での寒波の影響をまったく感じさせない活気のある町だ。

 

花屋や雑貨店などを見て周り、ふと、穹は道端にある物を見つけた。

そして彼はそれを見つめたまま足を止める。

 

「ん?どうしたんだ、穹」

 

視線の先にあったのは、なんの変哲もないゴミ箱だった。

そして、穹はそれへと近づいていく。

やはり、どこからどう見てもただのゴミ箱だ。

 

「え……何をするつもり?」

 

ゴミ箱の蓋を開けたい衝動を抑える。

 

「え、なに。まじでどしたん?」

 

しばらくゴミ箱を見つめていたら、表面についていた錆が消え、凸凹していた側面も滑らかになった。

蓋の隙間から微かに漏れ出た金色の光を見つめる。

 

一瞬、ゴミ箱が宝箱になったように錯覚した。

深呼吸して、手を伸ばし蓋を開けた。もちろん中には何も入っていな——いいや違う!

 

そのまま穹は勢いよくゴミ箱の中に手を突っ込んだ。

 

「「マジで何してんの!?」」

 

悠仁となのかが何か言っているが、穹の耳には当然入っていない。

苦労の末、ついに彼は底にある鉄の破片を拾い上げる。それは、万人にとっては等しく価値のないものであったが、穹にとっては至高の宝であった。

 

振り返ると、仲間たちが複雑な表情でこちらを見ていた。

 

「……説明しなくていいよ。アンタにとって、その衝動は強烈なんだよね」

「一度その道に入ったら、もう後戻りはできないぞ」

「若いってすごいなぁ……」

 

穹は満足そうに鼻息を鳴らした後、その破片をポケットへと仕舞い込んだ。

 

ふと、悠仁はある旧友の言葉を思い出す。

 

『アンタみたいに死体を飲み込む衛生観念の終わってる人間が未来にいるといいわね』

 

(……いや、多分そういう意味で言ったわけじゃねぇと思うんだけど)

 

運命というのは、想像以上に数奇なものである。

穹のゴミ箱探検譚がひとまず幕を下ろしたところで、3人はジェパードにお勧めされた観光スポット、『からくり工房』へと足を踏み入れた。

 

そして、そこで彼らはそのからくり工房を営む店主であるセーバルという名前の女性と出会う。

彼女は一同がよそ者であることをどういうわけか知っており、目に映るもの全てが新しい3人を工房の中へと案内してくれた。

 

「加熱器が気になるんだって?これはベロブルグで最も一般的な地熱暖房だ。見た目は素朴だけど、人々の命を保証してくれる」

 

これがなかったらおそらくベロブルグは死の町になっていただろう、と彼女は豪語した。

 

「地髄ってのを使ってるって聞いたんだが、それはどんなもんなんだ?」

「…………びっくりした。あんた、すごい身体してんね。よそ者ってのは皆、顔から顔が生えてくんの?」

「あはは……この質問、さっきもされたね……」

 

広大な宇宙を旅しているなのか達でさえ当初は困惑を隠せなかったのだから、ベロブルグに住んでいるセーバルが驚くのも無理はないだろう。

とはいえ、彼女は他の人より肝っ玉が据わっているからなのか、彼らのことについてこれ以上言及することはなく、地髄について説明をし始めた。

 

「ここの鉱物エネルギーだよ。町全体の暖房から計算機まであらゆる機器を動かしてくれるんだ。それはこの星の地下にあって、下層部の採掘チームが採掘し、それを輸送ルートで地上に送るんだ」

「地上と地下?」

「知らなかった?ベロブルグは二つの円盤を繋ぎ合わせたような構造をしてて、上層部は政務と貿易を、下層部はエネルギー供給と資源採掘を担ってるんだ。でも最近は、そこの行き来も無くなったらしいんだけど……」

 

セーバルは何かを思い出したのか、一瞬だけ苦虫を潰したような表情を見せた。

 

「いや、今のは独り言みたいなもんだ。忘れてくれ」

「わかった」

「素直で助かるよ。そうだ、あんたたち暇そうだね。どうせなら機械の修理を手伝ってくれない?手工芸みたいなもんだから結構面白いと思うよ」

 

そう言って、セーバルはマグネットでできた基盤のようなものを渡す。

そこには小さな六角形のモジュールがあり、表面には線路が乗っかっている。

これを電源から、終点のモジュールへと通せば修復完了らしい。

 

確かにパズルみたいで面白い。

穹はあっという間にパズルを完成させ、電流を通すことに成功する。

 

「へえ、いいね!手先が器用で察しもいい……私の助手にならない?今なら、福利厚生は保証できるよ」

「だが断る」

「ははは、冗談だって、間に受けないでよ。私は別の仕事があるから、他も回っておいで。もちろん、からくり工房はいつだってあんたたちを歓迎するよ」

 

そして彼らはセーバルと別れを告げ、今日宿泊する予定となっているゲーテホテルを訪れた。

内装はとても整っていて、カカリアが町一番のホテルと言ったのも頷ける。

 

各々は今日の疲れをしっかりと取るため、散策をやめ、それぞれの部屋で身体を休めることになった。

穹は部屋のドアを閉めるなり、ものすごい勢いでベッドへとダイブする。

 

「うお、すっごいふかふかだぁ……」

 

穹は生まれて初めてのベッドの感覚に思わず目を見開いた。

 

「ま、この星に来てから一悶着あったもんな。今はしっかりと寝といた方がいい」

「…………なあ、悠仁」

 

枕に顔を埋めていた穹が、顔をゆっくりと上げながら彼へと話しかける。

 

「ん?」

「一つだけ相談事、というか、約束したいことがある」

「おう、いいぞ」

「もし、この先俺がピンチになったり、命懸けの状況になっても、すぐに出てこないで欲しい」

 

思ってもいなかった言葉に、悠仁はしばらくの間黙り込んでしまった。

 

「…………理由を聞いてもいいか?」

「悠仁ってすっごく強いだろ?」

「まあ、な」

「だからってその強さに任せきりになることはきっといいことじゃないと思う。ちゃんと説明はできないんだけど、俺自身が強くならなきゃダメな気がするんだ」

「…………」

「あ、でも、出てきたいときがあるならいつでも出てきていいよ」

 

その気遣いに、悠仁は少しだけ頬が緩んだ。

この青年は物静かで大人しそうに見えながら、好奇心旺盛で無垢。けれど決して人を蔑ろにしたりはしない優しさも持っている。

 

「確かにお前の言うとおり、俺だけ強くても駄目だしな。だから、俺からも一つ約束がある」

「……?」

「強くなれよ。俺を追い越せるぐらいにな」

 

それは、とても難しそうなことだ。

 

「……!誰か来る!」

 

ふと、何者かがドアの前へとやってくる気配がした。

 

穹はなぜかそそくさと衣装棚へとその身を投じる。

見た目、質感、材質、匂い。どれも最高峰の素材で作られたであろう衣装棚。

なんと美しい場所だろう。視覚は暗くてあまり良いとはいえないが、中の匂いは鼻の奥をくすぐるほどの香りが漂っていた。

今すぐにでもこの棚の素晴らしさを全身に味わいたい気分に襲われるが、今はそれどころではない。

 

「……今度はどうしたんだ?」

「しっ!いま、ドアの前に誰かいる!」

「ルームサービスじゃね?」

 

いいや!違う!あれはゲーテホテルの悪魔だ!

悪魔は誰も掃除しない汚れた屋根裏からよそ者を嗤う卑怯者。

 

しかし今回は相手が悪かった。

そう、彼こそはあの宇宙ステーションにて反物質レギオンの集団を華麗に対峙し、あの巨大な終末獣にすら臆することなく戦った開拓者である。

 

「ルームサービスです。……ご夕食をお持ちしました」

「やっぱルームサービスじゃん」

 

いや、待て。なぜ悪魔が自分の部屋にわざわざ来るのだろうか。

違う。穹は確信した。

 

あれは悪魔ではなく、呪霊だ!

ホテルの呪霊が、穹を騙そうと部屋の前で待ち構えてるのだ!

 

「いや、あれはゲーテホテルの呪霊だ……あれははこうやってルームサービスのフリをして騙してくるんだ……!」

「実はホテルって呪霊があんまり集まんないだよな」

「じゃあ、特殊な呪霊ってことじゃないのか……?危険すぎる……!」

「やっべ、過去一、話ついてけないんだけど」

 

呪術師として数々の呪霊を討ち滅ぼした歴戦の猛者であるはずの悠仁でさえ騙せるほどの術式を持った凶悪な呪霊。

今、かの邪悪を滅ぼせるのはあなたしかいない!

 

「あの、入りますね……?」

 

かかったなアホが!今こそ正義の裁きを受けるといい!

穹は扉から突然、飛び出し威嚇のポーズをしてみせた。

 

「ばあ!!」

「う、うあああああっ!?ゆ、幽霊だぁ!?」

 

呪霊は穹の勇姿溢れる姿を見て一目散に去っていった。

負の力の集合体程度が開拓者を相手にできること自体が間違いなのだ。

 

勝利した!

ゲーテホテルの呪霊は祓われ、この土地は浄化されたのだ。

 

ふと、ドアの近くからスモーキーで芳醇な香りが漂ってきた。

下を見れば料理が置かれたプレートが置かれている。

これが呪霊を倒した報酬なのだろう。

ビーフシチューにライス。そしてトマトの乗ったポテトサラダ。

見ているだけで小腹が空いてきてしまったので、穹はそのままプレートごとぶんどって部屋の中へと持っていった。

 

「いただきます!」

「…………ま、いっか」

「悠仁も食べるか?」

「お、いいの?」

 

先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返っていた夜は、雪を宝石のように輝かせながら、ただただ無意味に更けていった。

 

 

 

 

その夜、穹は夢を見た。

知らない土地の知らない少女の声を。

 

『カカリア……カカリア……』

『だっ、誰?違う——一体何?』

『我々は盟友……幾代を渡り守護者と共に歩いてきた盟友』

『何が……したいわけ?』

『この死にかけた世界を築き直す……。そなたの願いを叶えよう』

 

それが他でもない星核の声だと気づいた時は、夢から覚める直前であった。

 

「…………あんまりいい夢じゃなかったみたいだな」

「おはよう、悠仁」

「ああ」

 

何やら悠仁の声音がいつもより低い。

寝覚めでも悪かったのだろうか。

そしてまだ夢現であった意識がはっきりとし始めたとき、穹もようやく外の違和感に気がついた。

 

「なんか、騒がしくないか?」

「ああ、外にシルバーメインの兵士が集まってる。それもかなりの数だ。そのうちの一人は昨日いたブローニャって名前の嬢ちゃんもいるな」

 

一体、何事だろうか。

胸騒ぎを覚えながら、穹は急いで身支度をすませ、廊下でなのかと丹恒と合流する。

 

「外にシルバーメインが集まっている、好意的な感じではないな」

「ウチらの迎えにしては、空気が重すぎじゃない?」

「あんな兜被っててわかるの?」

「勘だよ、勘」

「確かになのかの言うとおり、ホテル周辺が兵士で囲まれてるな。用心しておくに越したことはない」

 

外に出れば、悠仁の言うとおり、無数の兵士たちがホテルの周辺を取り囲んでいた。

どう見ても歓迎の雰囲気とはいえない。まるで立てこもり犯の確保に迫る直前の警官隊のようだ。

階段を降りた先にいたのは、昨日、執務室でカカリアと口論をしていたブローニャであった。

 

「私はブローニャ・ランド、シルバーメインのリーダー代行だ。高貴な琥珀の王の名の下、あなたたち反逆者を逮捕する。大守護者代理として、あなたたちの行動と発言の権利を一時的に剥奪する。裁判官があなたたちを裁く時、弁明が与えられる——以上、無駄な抵抗はやめてついてきなさい」

 

その宣告に対して、なのかは分かりやすく困惑の声をあげた。

 

「ま、待ってよ!昨日の話と全然違うじゃん、今日の面談で重要な話をするって……」

「虎杖、これは……」

「ああ、間違いなく計画的な裏切りだな」

 

周囲にいるシルバーメインの兵士たちは、徐々に徐々にとその距離を縮め包囲網を狭めていく。

 

「また、囚人になるの?……三つも星を渡ってると、同じようなことが起きるんだね」

「三回も捕まったんだ」

「それはお前がいつも急に熱くなって、計画を台無しにするのが原因だろう」

「ウチも成長したって!今だって計画を立ててんの……そう、計画……そうだ!二人とも、あの路地を見て!」

 

そこは裂界によって侵食され立ち入り禁止となっていたエリア。

人っ気はなく、配置されていたシルバーメインもこちらに集まっているためそこにはいない。隙をついて無力化できれば、逃れることはできるだろう。

 

今、当てずっぽうで考えた作戦を計画と言えるのかは怪しいが。

 

「なるほど、いい計画だな。穹、三月、逃げる準備だ」

「えっ、うそ!?適当に言っただけなんだけど……」

「適当かい」

「おい、貴様ら、さっきから何をぶつぶつと呟いている!大人しくついてこい!」

 

話の内容は聞き取れていないようだ。

連行される途中で、丹恒がポツリと呟く。

 

拳一明三(こいちみょうさん)——」

「?……三三五五!」

「シーっ!列車組の合図だから、1まで数えたらウチと一緒に走ってね!」

君命無二(くんめいむに)——」

 

丹恒のカウントダウンは刻一刻と迫ってきている。

そして、3人を連れたシルバーメインの集団が裂界の扉に至近距離になったその時——

 

一意専心(いちいせんしん)!」

「———ぐはッ!?」

 

その合図とともに、穹は懐から取り出しバットを背後の兵士へと叩きつける。

集団はたちまちパニックへと陥る。その隙をつき、丹恒が先頭の衛兵たちの足をその槍で払い除けた。

すぐに立て直した銃兵たちがその銃を構え引き金に手をかける。

 

「!?なんだこれ……氷?」

 

しかし、いつの間にか用意されていたなのかの六相氷によって銃口が凍りつき、弾が発射されることはなかった。

 

「ベーっだ!ではではみなさん、おっさきーー!!」

 

なのかを先頭に、一同は素早く裂界の扉を潜り抜けた。

後から兵士たちが追いかけるも、すでに3人の姿はなく、後に残ったのは侵食された住宅街だけだった。

 

—————————

 

星穹列車の面々が訪れたのは、裂界の侵食の影響を色濃く受けた街路であった。

 

「いえーい、自由だ!ウチらを捕まえるなんて、100年早いんだよーだっ!」

「早いんだよーだっ!」

「アンタ、モノマネ上手いね…………」

「今の悠仁」

「違うよ?」

「のんびりと話している場合ではないぞ。シルバーメインは不意を突かれただけだ、すぐに追ってくるだろう。道に沿って進んで、安全を確保してから次の計画を練るとしよう」

 

こんな時に最も頼りになるのは、冷静に状況分析ができる丹恒だ。

一同はその言葉に同意し、ひとまず体を休ませられる安全地帯を探すことにした。

この道の先には。裂界侵食によって生み出されたモンスター——裂界造物たちがわんさかといる。

 

それらを倒しながら、シルバーメインの包囲網を潜り抜けるのは極めて困難だ。

 

「一体、どんな理由があってあの大守護者は考えを変えたわけ?急に捕まえたりして……」

「城に直接カチコミに行く?」

「いや、やめておこう。下手に武力で制圧しようとすればこの町の人々にも被害が及ぶ可能性もある。それに相手の全貌も把握できていないからな」

 

なのかが文句を言う理由もわかる。

NOと言いたいのなら最初からそう言えばいいものを、わざわざYESと言ってまでこちらを騙し捕まえようとしてくるのだから余計にタチが悪い。

せっかくホテルで一休みできたのに、これでは意味がなくなってしまう。

 

裂界の侵食によって生み出されたシルバーメインの姿を模した氷の造物や、赤い結晶片を集めたような飛行生物の徘徊者などを倒しながら、彼れは先へ先へと進んでいく。

道中ではシルバーメインの兵士たちの姿もあり、現在も捜索は継続されているらしい。

 

「…………この先にもいるの?」

「ああ、どうやら見つけるまで本気俺たちを探し続けるつもりのようだ」

「丹恒っ、後ろだ!」

「何!?」

 

穹が声をかけた直後、丹恒の足元を銃弾がかすめた。

彼が咄嗟に教えて丹恒が足をあげていなければ、きっと銃弾に足を貫かれていたかもしれない。

上を見上げれば、城壁に幾人もの銃兵が集まっていた。

 

「やはり地の利はあちらの方が上か……!」

「二人とも、こっちこっち!」

 

一日前までこの星の現状すら把握できていなかった余所者と、数百年間も町の治安を維持してきた衛兵たちでは地の利があるのは当然後者だ。

なんとか接敵を避け、それでも避けれない時は正面突破で攻略しながら彼らは後戻りできない迷路のような道を突き進んでいく。

 

そして、彼らはやけに開けた広場のような場所へと飛び出した。

しかし、運が悪いことにそこには多くのシルバーメインが待ち構えていた。

まさに袋小路のネズミのような状態。

 

兵士の集団の中から、ブローニャが3人の前に顔を出す。

 

「しつこい……ウチらがなんの罪を犯したの?こんなところまで追われる筋合いはないって!」

「私が受けた命令はあなたたちを逮捕すること。詳しい罪状と判決は裁判員から説明があるはず」

「昨日俺たちに会ったことを覚えているか?あの時、貴賓としてカカリア殿に招待された身だったはずだ。それが一夜にしてこれほどの変化だ、俺たちも納得できるはずがない」

「……昨晩、守護者様はあなたたちを調査した。その結果、大守護者様はあなたたちの身分や目的は全て詐称であり、ベロブルグにおける管理体制を破壊することが目的だと説明した。あなたたちを人の形をした悪魔と彼女は言っていた」

 

困った。悪魔ではないとはいえ、一名人間と言っていいのか怪しい者がいるのは事実だ。

とはいえ、元々ベロブルグの市民ですらないのに詐称も何もないだろう。

どうやら存在しないでっち上げをするほど、彼女はよほど自分たちのことを捕まえたいらしい。

 

「降伏しなさい、侵入者!公正な判決をあなたたちには約束するから」

「だからと言って、身に覚えのない罪で捕まるのはもう御免だな」

「そうそう、丹恒の言うとおり!」

「徹底抗戦だ!」

 

そう言って各々が自身の武器を構え、今にも戦いの火蓋が落とされようとしたその時————

 

「あのう、盛り上がっていらっしゃるところに水を刺すつもりはなかったんですけど〜」

 

やけに耳に残る胡散臭いあの男の声が聞こえた。

そして、その言葉が言い終わると同時に、その場に投げ込まれたのは——ハートのマークがよく目立つ爆弾。

全員が咄嗟に回避するよりも早く、その導火線は爆薬へと届き、あっという間に爆ぜた。

 

「くっ、これは煙……!?」

「息が、くるしい……ゴホッ」

 

鼻をつくような嫌な匂いがあたりに充満する。

咄嗟に目と鼻を抑えようとしたが、その煙の焚かれる速度は尋常ではなく、意識が朦朧とし始めた。

クラクラと暗転しかける視界の中で、煙の中から見覚えのある男の姿が映り混んでいる。

 

「このサンポ。助けてくれた友を見捨てるなんてできません」

 

それはあの時、3人を見捨てて一人で逃げたはずのサンポ・コースキ、本人でだった。

彼は穹の前へとやってきて、髪をかきあげながら今にも眠りに落ちそうな彼に言い放つ。

 

「義理はちゃんと通すのがこのサンポなんです」

 

黒くなった視界の中で最後に映ったのはその怪しげな笑みだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその場にいた全員が完全に意識を失ったのを確認し、サンポは満足そうに頷く。

 

「やはり、新しい爆薬はいいですねぇ。持ち運びも便利で煙が焚けるのも早い!さて、ではとりあえず彼らを下層部まで運んで——っ!?」

 

気絶していたはずの穹が、目にも止まらぬ速さで起き上がりサンポの首を掴んだ。

そして、その手首や顔には先ほどまでなかったはずの痣のような模様が浮かんでいる。

 

「随分と派手な助け方だな、坊主」

「おやっ、これは、これはっ……穹さん、のなかで眠っていらしゃったので、は————ぐぅっ!」

「やっぱり見えてたのか。真面目に答えるとは思っちゃいないが、念のため聞いておくさ。お前、何だ?」

「ふ、ふふふ。それ、はこちらの台詞で、すよ。お兄さん?」

 

悠仁の睨みに対し、サンポはまったく臆することなく、その飄々とした態度を崩さない。

それなりに強く首を絞めているのだが、苦しんでいる様子はほとんど見られない。ただ少し喋りづらそうなだけだ。

首を絞めても意味がないとわかった悠仁は、とりあえず力を緩めることにした。

 

「ま、今はどうでもいい。そんなことより、なんで今更になって顔を出した?」

「それは、当然皆さんの援護ですよぉ!信じてください、実際借りは返してあげましたよね!?」

「そもそも貸した覚えはない」

「辛辣ゥ!ま、まあまあ落ち着いてください。少なくとも安全な避難場所は提供してあげますから」

「それはどこだ?」

「ベロブルグの下層部です。今はほとんど交通手段がないので、奴らもついてはこれませんよ」

 

セーバルが言っていた、地髄や石炭を集めるエリアのことだ。

今は上層部との移動手段もなくなったらしく、確かにシルバーメインの追手が来ない場所としては最適だろう。

 

 

問題はこの男がどこまで信用できるか、だ。

 

「……はあ、しょうがねぇな」

 

この上層部において、3人が追われない場所は存在しない。

地の利は流石に向こう側が上であり、大方、隠れ場所などは大体把握してあるだろう。

だからとはいえ、雪原地帯に戻るのも論外。

からくり工房に匿ってもらうのも一瞬考えたが、十中八九セーバルに迷惑をかけるだろうしナシだ。

 

癪ではあるが、今はこの男を頼るしかない。

しかし万が一のため、逃げた時の対策もしておくとしよう。

 

 

そして、悠仁はサンポの首元に目掛け、指を振り払う。

気づけば彼の首元には、ハサミのような切り取り線のマークが刻まれていた。

 

「よしっ、案内してくれ」

「えっと〜……念のため、何をしたのか聞いてもぉ?」

「逃げたら首飛ぶから気ぃつけろよ」

「は、はいぃ!?なんて恐ろしいことをするんですか、あなたは!?」

 

青ざめた顔で首元を押せながら、抗議し続けるサンポをスルーし、そのまま気絶していた丹恒となのかを抱え込んだ。案内をサンポに促し、悠仁一足先に下層部へと足を踏む入れる。

 

そこは待ち受けていたのは、まさに旧世界の遺物とも呼べるべき岸壁の狭間にそりたつ世界。

人々が己の運命に争う、太陽の光の当たらないもう一つの町でもあった。

 

 

 

 

 

 




勢いで書いたのでところどころ雑かもしれません。
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