けたたましい咆哮をあげ、戦意と殺意を増幅させながらニカドリーは迫る。
大理石の鎧、黄金の槍。
その呪力の波、槍の造形はとても見覚えがあった。
「あの槍って……」
「列車を壊そうとした時と同じだな」
だが妙だ。
目の前のニカドリーからはあの時のような膨大な呪力量を感じない。
せいぜい特級呪霊の下の下程度だ。
(式神の分体か……とはいえ、厄介な相手には変わりないが)
大浴場の水が滴となって飛び散り、無から槍の雨が降り注ぐ。
その場にいた三人はすぐさま避け、散開してその狂王に眼差しを向けていた。
「気をつけるんだ!昔より弱くなっているが、その分歪んでいる」
獰猛、狂気。
一見、理性のないように矛を振り回しているが、兜の下に隠れた瞳はこちらをしっかりと敵として認識している。
誰が最も強いか、ただそれだけを見つめ、戦いの相手を選りすぐっていた。
「◻︎◻︎◻︎◻︎……!」
「っ!ぐぅ!」
青白いオーラを纏い、蛮神は槍先をファイノンへと向けた。
命を啄むためだけに造られた金色の槍をかろうじて弾き返し、そこに穹と丹恒が応戦する。
だが、ニカドリーは上空から訪れるバットと槍の二段構えの攻撃を空いたもう片方の腕で受け止めた。
足元の水面が揺れ、丁寧に飾られた花壇に水を降らす。
「こいつっ、呪力を……!」
いつもと違う手応えに未だに慣れない穹は呪力の流れにブレてしまう。
鎧の生来の硬さもあるが、そこに呪力が上乗せされていることでそっとの攻撃では通用しない。
呪力に対して呪力を乗せて叩きつける。
眷属たちを相手に慣れたつもりであったが、やはり未だにブレは大きい。
手元に来る違和感を感じながら、呪力を込めて穹はバットを振い続ける。
叩きつけた呪力は揺れ、歪み、彼の動揺を表すように呪力の流れが変則的になっていく。
ザラリとした生物を殴っているとは思えない感触。
白鎧の主は上から攻撃してきた2人に標的を当て、その矛を上に振り上げた。
「存護の槍よ!」
迫り来る矛先を前に、バットでは抑えきれないと判断した穹はすぐさま防御姿勢に。
琥珀色の輝きが黄金とぶつかり、激しく火花を散らす。
武器の入れ替えは間に合ったが、勢いを殺しきれずに背後で庇った丹恒に体が当たってそのまま大きく後方へ飛ばされてしまう。
「穹、大丈夫か!?」
「平気!ただやっぱり今までの相手と違う!」
両手剣を片手で持ち上げ、ファイノンは狂った神と刃を交える。
お互い少しでも相手の攻撃を喰らえば重傷を負いかねない必死の攻防。
身の丈ほどある両手剣は刃こぼれを起こしながら、石英の鎧ごと叩き壊さんと槍先を捉える。
悠仁の目から見て、ファイノンは術式を持っていない。
呪力量も非術師と比べたら多いが、一般的な術師としてみれば平凡な方だ。
だがそれを加味してもなお、彼は自分よりも大きな体躯を持つ敵を相手に十分すぎるほど渡り合えている。
それは鍛え抜かれた筋力と圧倒的な時間の中で費やした研鑽の成果。
「はあ!!」
「◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎!!」
恐るべきファイノンの筋力に後退りを余儀なくされたニカドリーは槍を地面に叩きつけ衝撃波を生み出す。
ほんのわずかな目眩し。
だが体勢を立て直すには十分な時間だ。
「近くに来てくれ!僕があいつの怒りの炎を防ぐ盾となる!」
ファイノンを先頭に、穹と丹恒は三位一体となってニカドリーと対面した。
力を合わせてこちらを討ち滅ぼさんとする敵を前に凶王は喜びの雄叫びを上げ、歓喜に打ちひしがれる。
さらに巨大化した黄金の槍を携え、こちらに向ける。
「たとえ神でも血は流れる……お前の火種を消してやる、タイタン!」
その敵意、勇気に賞賛の意を込め、ニカドリーは英雄たちに正真正銘渾身の一撃を槍に込める。
持ち手を強く握りしめ、投擲をする構えをとったその時……
金糸がニカドリーの体を縛り付ける。
「ファイノン、トドメを」
天井から聞こえた淑女の声にファイノンは頷き返し、使い慣れた両手剣をトドメの一撃としてニカドリーに叩きつけた。
金糸が崩れ、凶王の鎧は塵となって消える。
蜘蛛の巣のように張り巡らされた糸に乗り、女神の石像を模したような容姿をした1人の女性が降り立った。
「これは数多くある神体の一つ。……火種はここにはない」
分体の一つが破壊され、ニカドリーの軍勢も蜘蛛の子散らすように逃げていった。
戦乱は終わり、オクヘイマに束の間の休息が訪れる。
金織の指導者アグライアは蛮神に立ち向かった英雄と2人の賓客に笑みを浮かべ言葉を交わした。
「オクヘイマの新たな盟友たち、ようこそオンパロスへ。決して優雅とは言えない歓迎会でしたが、私たちの疑念は晴れました。これより、あなたたちは聖都の来賓であり、黄金裔の大切なお客様です」
丁寧で品のある口調。
敵意も悪意も害意も感じられなかったが、彼女の立ち振る舞いはどこか違和感がある。
瞳はこちらを向いているが、妙に視線があやふやだ。
「ふふ、この目が気になりますか?見えないわけではありません。むしろ、この目で常人以上に多くのものを見ているのです」
黄金裔は常人と異なる力を持つ者もいる。
彼女は視覚を捨て去った代わりに、金糸を辿ってありとあらゆる情報を知ることができるのだそうだ。
("縛り"と同じ感じか。いやしかし……そんなところまで似てるんだな)
ますますこの世界と地球の関連性が気になるところだが、今は指導者たる彼女の話を聞いておくべきだろう。
幸いにも彼女は星穹列車の2人を来賓として快く迎えてくれるらしい。
もちろん、悠仁も含まれている。
「ニカドリーの分身……つまり僕の試練はまだ先ということなのか?」
「あなたの運命の糸をたどり、叙事詩の序章を書き記したところです。ここに至った今、どのようなお気持ちですか?」
「正直言ってイマイチだった。もっと困難が伴うものかと思っていたよ。今、トリアン先生が逃げた兵士を追跡している。これも計画の一部なのか?」
「ええ。この襲撃はとっくに予知していました。このような絶好のチャンスを逃すわけにもいきません」
紛争のタイタンが狂気に堕ちてからというもの、神の城は霧に包まれ所在はわからなくなっていたらしい。
しかし、今回はニカドリー自らオクヘイマに攻撃を仕掛けてきたことで、状況は好転した。
これはまさに千載一遇の好機であり、かの蛮神を殺すチャンスだったのだ。
だからこそ、あえてアグライアは市民の生活を犠牲にして、聖都の侵入を許したのだろう。
「だが多くの市民が立ち直れたわけではない。僕が彼らの力にならなくては。だからアグライア、君が代わりにすべてを説明してくれないか?」
「ええ、もちろん、聖都のために力を尽くしてくれた方々にはおもてなしをするつもりです」
そうして、ファイノンはいったん彼らと離れ、星穹列車はオクヘイマの指導者たるアグライアから話を伺うことにした。
彼女の許可を得て、開域アンカーを設置し、ピュエロスという浴場に足をひたしながら彼女からいくつもの物語を聞き齧った。
温水の温もりを感じ取りながら、彼らはオンパロス誕生の物語を耳にする。
混沌としていた世界の中に生まれた神たる3柱のタイタンが世界のルールを定め、3柱のタイタンが大地、海、空を作り、最後のタイタンが人のような命を作り上げた。
しかしその後、悪なる3柱のタイタンが現れ厄災が引き起こされる。
タイタンたちによる争いが勃発し、そのタイタンを信奉する民たちも戦を始めてしまう。
長い長い戦争の果て、荒廃した世界の中に突如として神託が下る。
それは戦争を終わらせるためには12柱と戦えるほどの強さを持った英雄たちを集め、タイタンの『火種』をもう一度灯すこと。
そうすれば神たちの怒りも鎮まり、世界に平和が訪れるとされた。
英雄の名は——「黄金裔」
ファイノンやトリビー、アグライアといった黄金の血の通う特別な生まれであった。
オンパロスの歴史については大まかだが理解できた。
だがアグライアが本当に話したいことは別にあるらしい。
「これより先は議院が黄金裔に贈ったピュエロスです。本来なら、私たちの同胞以外が足を踏み入れることを禁じられています。天外から来た来賓であるあなたたちのためなら、規則を破っても構いません。ですが、一度にお連れするのは……」
「お前たちが先に行け。俺はここで待っている」
「この場合、俺と悠仁はどうすればいいんだ?」
「もちろん、構いません。流石に分裂してほしいなどと無理を申し上げようとは思っていませんよ。さあ、どうぞこちらへ」
そこは源泉が滝のように落ち、選べれし英雄だけが足を踏み入れることのできる憩いの場。
水に浸された座席に座り、穹とアグライアは対面する。
「どうぞ座ってください。リラックスできる体勢になったあと、目を閉じるのです」
「嫌な予感がする……」
「強制はしませんが……人々が水に浸かるのは『素の自分を曝け出す』ためです。どうか私を信じてくれませんか?」
そう言われると、穹としてこれ以上反論すれば駄々をこねる子供のようになってしまう。
幸い、悠仁は心得領域からこちらを覗くこともできるため、何か問題が起きても大丈夫なはずだ。
「開拓」の旅を無事に切る抜けるために、あなたたちは現地の人々と良好な関係を築かなれければならない。
瞳を閉じ、彼女の指示に従う。
左腕をテーブルの上に、肘をテーブルにつけたまま、掌を前に向け、指を少し広げる。
「遅くなってしまいましたが、自己紹介を。私は『金織』のアグライア。オクヘイマの仕立て屋で『黄金裔』の1人。彼らが信頼を寄せてくださるおかげで、今は一時的に行動の指揮をとっています」
目を開けて、と彼女は言う。
そっと、瞼を開けば穹が差し出していた手指に金色の糸が絡み付いていた。
その元を辿っていけば、金糸は彼女の指先から出ている。
「今、モネータの金糸が私たちを繋いでいます。この金糸はどんな微かな動揺も感知できる。……これでもう、私たちはお互いに嘘をつけなくなりました」
「ふーん、エッチじゃん」
「静かにしよっか。それで、何が目的だ?」
「この世界の真相をあなたがたに教えます。その代わり、一つ約束してほしいのです。そうすれば、私もオンパロスでの旅が順調に進むことを保証しましょう」
先ほどアグライアが話した歴史の中には語られていない残酷な真実がある。
それは黄金裔が「火種」を取るためには神々を殺さなければならないこと。
そして12の火種を摘み取り、再創紀の偉業を成し遂げる。
「オクヘイマはいま、力強く支えてくれる盟友がもっと必要なのです。もしかしたら、あなたたちこそ黄金裔が待っていた『援軍』なのかもしれません」
「世界を救うのは得意分野だけど」
「きっと数々の奇跡を経験してきたからこそ、ためらうことなくそう言えるのですね。おそらく私は焦っているのでしょう……そうだとしてもオンパロスのため、あなたたちに力を貸してほしいです」
きっとそれは彼女が本心から思っていることなのだろう。
証拠に指先から下たる金糸はいっぺんの揺れも見せていない。
「私の心のうちはすでに明かしました。あとはあなたたちが約束してくれるだけでいい。……何があっても市民たちに『天外の世界』の存在を明かさないと約束してくれますか?」
「思ったより簡単だな」
「オクヘイマに残された時間は少ないので、人々の偽りの希望を与えたくないのです……彼らはかつて、偽りの希望によって深く傷つけられましたから。約束してくれますか」
「最善を尽くす」
「わかった。念の為、俺も外では顔を出さないでおく」
「ありがとうございます。あなたたちが約束を果たしてくれる限り、私も約束を守りましょう」
「あ、そうだ。俺から一つ聞きたいことがあるんだけど……」
悠仁はようやくアグライアにこの地に宿る"呪力"のことについて尋ねた。
この地における指導者である彼女なら何か知っているのではないかと期待してみたものの、彼女からの返答は芳しくなく
「申し訳ありません。少なくとも今の私ではその"呪力"というモノについて認識できないのです。黄金裔は常人とは異なる力を持っていますが、少なくともそのような話は前の統治者たるカイザーからも聞いたことがないのです」
「まぁー……そうだよなぁ」
「ですが1人。たった1人ですが、その"呪力"という謎の力について多少の知見を得ている可能性のある者に心当たりがあります」
「お、マジ?その人物とやらを紹介してもらえたりできないか?」
そう悠仁が尋ねると、珍しく彼女は統治者らしかぬ、面倒そうな、複雑そうな表情をできる限りこちらに隠すように浮かべた。
どことなく歯切れが悪い。何かその人物に対して嫌な思い出でもあったりするのだろうか
「……私からは構いませんが、こちらから連絡してようとも彼が了承を得るかは定かではありません。あまりとやかく言いたくはありませんが、彼はその……」
「変人タイプ?」
「ええ、まあ、それに近しいと言えるでしょう」
なんというか関わりたくないオーラが静かに見える。
余程の変人なのか、やべー奴なのかわからないが、とはいえ博識であることには変わり無いようだ。
そうして、ようやく彼女の詰問から解放された穹はアグライアに勧められ、『聖都』を見て回ることにした。
あれほど荒らされたいた雲石市場はすでに賑わいを取り戻していた。
ご飯の香り、立てかけられた衣服。
住民の文化や風習を理解すると同時に、信頼できる情報を彼らは集めることにした。
「そこのあんたたち、この前聖都を救ってくれた遠郷の英雄だろう?黄金裔と同じような超人的な力を持っていると聞いた。この石柱を直してもらいたいんだが……」
どうやら住民は倒壊した柱を復旧したいらしく、オクヘイマに平和をもたらした彼らに手伝ってほしいらしい。
だが一軒家ほどの高さを持つ石柱を元通りにするとなると、少なくとも2、3日はかかる。
悠仁ならなんとかできるが、彼をこれほど一目のある場所で働かせるのはアグライアとの約束を破ることにもつながる。
どうしようかと困っていたその時、偶然、そこをトリビーが通りかかった。
「それならヤーヌスの神跡を使えば、すぐにできるよ!」
それは以前、戦乱の最中で塞がった道を元に戻した時に使用したあの不思議な呪文のような言葉だろう。
「ヤーヌスの無数の道を超え……なんだっけ?」
「もしかちて、わたちたちの祈言を覚えててくれたの?あなたにもオロニクスの祈言を学ぶ素質があるかもしれないね!」
トリビーによると素質のある者はたくさんいるが、それをうまく使いこなせるのは別らしい。
彼女の指示に従い、言葉を一言一句読み違えることなく、唱える。
時が巻き戻るかのように倒れた石柱は傷ひとつない新品の状態として再び建造された。
「わあ……あなたって才能があるんだね!1回でマスターしちゃうなんてすごい!」
「俺の方はダメそうだな」
「大丈夫だよ、よくあることだから。そういえばライアちゃ——アグライアちゃんと話ちたの?」
「俺の巧みな話術ですぐに仲良くなったよ」
「たくみ……巧みか」
「よかった!真面目な話をするとね。あなたたちがオクヘイマを訪れたのは偶然じゃないと思ってるの。すぐにオロニクスと共鳴できる人なんて、あたちたち初めて見たもん」
そして何やらトリビーたちがここに来たのは彼らを探すためだったらしい。
「2人って伝言の石板を持ってる?石板がないと、オクヘイマですごく不便な思いをすることになっちゃうの」
「伝言の石板?」
文字を伝える……石の板……
もしやと思い、スマホを取り出せば、なんと正解であったらしい。
見た目は少し異なるようだが、機能はほとんど同じらしい。
彼女が調整してくれたことで、石板を通して連絡が取れるようになった。
それからなんと驚いたことに、持っている通貨も自由に使えるそうだ。
法のタイタン、タレンタムの天秤により万物の価値がはかられることで平等な金銭的価値観が生まれている。
「文明レベルどうなってんの……?」
「タイタンの力ってすげーーー!」
「そうでしょ、すごいでしょ!じゃあ、あたちたちは他の用事があるからまた後で会おう!2人とも楽しんでね!」
そう言ってトリビーはてちてちと足音を鳴らしながら去っていった。
言葉は伝わる。金銭は問題なし。
不便な可能性のある部分がこれでもかと取り除かれ、常識では説明できないような違和感を感じてしまう。
そのまま街を練り歩けば、彼らは市場の角っこでよく見知った青年の姿を見つける。
「やあ2人とも!意外と早く戻ってきたんだね、アグライアはもう少し、君たちを引き留めると思ってたんだけど」
鍛冶場にいたファイノンは友人であるハートヌスに丹恒の槍を打ち直してもらったらしい。
真っ二つに折れてしまっていたはずの槍は一度折れたと思えないほど綺麗に修復されていた。
「オンパロスにもたらされた『三相の神託』、黄金裔に課せられた使命の話はもう聞いたかい?神託は『奇跡』として降臨するから『神託』と呼ばれている。誰の意志を表したものかを知る人はいない」
世を背負うタイタンが自らの血を大地にまいた後に生まれたとも言われることもあれば、ただの迷信であり信じるに値しない愚か者の集団と揶揄する者もいる。
「とにかく、預言が筋を通らないただの迷信だと思わないでほしい。多くの人が代償を払って、やっと人々は疑うことをやめ、預言を信じるようになったんだ」
「アグライアから聞いたのは黄金裔という集団が持つ使命についてだ。だがファイノン、お前という個人はどんな役割を果たすつもりだ?」
「僕?僕はまだその答えを探している。もし運に恵まれたら、僕にとっての火種はもうすぐ現れるはずなんだ」
幼い頃から黄金裔の1人として戦い方を教え込まれ、天罰の矛たるニカドリーの火種を手に入れることこそが、彼の最終目標だ。
「おっと、こんな重苦しい話ばかりしていたら興醒めだね。しかも話を始めたのは僕のほうじゃないか。すまない」
「気にしなくていい」
「ありがとう。そうだ、トリビー先生から君たちも石板を使っているって聞いたよ。よければ連絡先を交換しないかい?天気もちょうどいいし、3人とも辺りを散策してみるといい。また後で会おう」
鍛冶場で彼と別れ、次に3人が訪れたのは大地獣が居座る雑草の生い茂った広場だった。
「あれ、キャストリスだ」
「大地獣の住処へようこそ。とはいえ、私も偶然通りかかっただけですが」
生命の匂いが蔓延るその場所で彼らは偶然キャストリスと出会った。
特に親しい友人などがいるわけでもなく、本当にたまたまバッタリと会っただけなのだろう。
「そういえばキャストリスも黄金裔なのか?」
「…………はい」
「すまない。この話題が嫌なら、これ以上は何も聞かない」
「感謝します、丹恒さん」
「「「………………」」」
気まずい。
自ら率先して話さない人と、話し下手で会話が苦手な人と、あえて空気も読まずに口を開かない変な人。
危うく気まずくなりかけた空気の中、悠仁の声が入り込んだ。
「おっきいなぁ……コイツらってなに食えばこんなにデカくなんの?」
「あっ……それはこちらの赤土ですね。よかったら大地獣に餌をあげてみませんか?」
なんと草食ではなく土食だった。
なるほど、大地獣という名の通り、土くれを食べるのか。
容器からそっと一塊の赤土を取り出せば、目の前に佇む大地獣は機体の眼差しでこちらを観察してくる。
「丹恒」
「俺は絶対食べない」
「じゃあ……ゆ」
「やめてね」
なぜバレた。
心が読めるとでも言うのか……?
穹は手に持った赤土の塊を見つめ、その後顔を上げて大地獣の目を見た。
困惑、迷い、微かな挑発を含んだ大きな瞳は、「やれるのか、小さな奴め」と物語っている。
獣畜生に舐められたことが彼のプライドに触れたのか、目の前の赤い立方体の角を見て……一口で噛みちぎった。
「あっ……」
「はぁ」
「にっっっっがっっっっい!!!」
「絶対やると思った。ほらぺっ、しなさい。ぺっ」
意外なことに土はそれほど硬くはなかったものの、逆に柔らかく粘着性のあるカケラが歯にくっつき舌でとろうにも綺麗にはいかなかった。
「……水を飲め」
口の中に残っているものを取り除こうと口をゆすいだが、土の苦さは簡単に洗い流せるものではない。
大地獣はその様子を見て、うぉぉぉんと鳴いた。
今度は自分の番だ、お手本を見せてやると言わんばかりにその獣は穹が手に持つ赤土を欲した。
渋々、新たに取り出した土塊を差し出せば、大地獣はまるでジューシーなステーキを食すように息つく暇もなくバクバクと食べ始めた。
無我夢中で赤土を食べる大地獣の頭を撫でれば、満足そうに獣はうおんん、と何度も鳴き声をあげた。
「どうやらあなたと大地獣は相性がいいようですね。本当に羨ましいです」
「私ですか?いえ、私は大丈夫です……」
「何か懸念でもあるのか?俺たちはここに来たばかりだから、行動を通して皆と仲を深めたい」
「誤解しないでください。みなさんはすでに行動を通して善意を示しています。ただ、私は……『接触』があまり得意ではなく……」
何か複雑な事情でもあるのだろう。
それ以上の言及を避け、2人はせっかくだから大地獣の写真も撮ろうとなのかのカメラを取り出した。
「よろしければ私がみなさんのお写真を撮りましょうか?」
「いいの?」
「はい。写真は私の趣味のようなものです。映写ストーンを地面に置いていただけませんか?」
「地面に?」
「彼女の言うとおりにしよう」
なのかの可愛らしいカメラを手渡せば、絞りやフィルム感度、フィルターの構造は同じであるらしい。
長いこと隔絶され、他の星との交流のないこの世界でそんな偶然があり得るのだろうか。
謎はますます深まるばかりだ。
「それでは……撮りますね」
パシャリ、と丁寧に撮られたモノクロのフィルターが見える。
白黒の写真であったが、大地獣の姿もしっかりと映ってる。
「ありがとう、キャストリス!」
「喜んでいただけたのなら何よりです。それでは私はこれで
そんなこんなでさまざまな黄金裔や市民の人たちとともにオクヘイマを過ごしていく。
新たな友人たちとの関係を楽しみながら、オンパロスでの旅の一日目は平穏に過ぎていった。
しかし、そんな平和な時間も束の間、事件は起きた。
「創世の渦心」——十二のタイタン、本来の神性を宿した偉大なる聖地にて。
「これよりは、『誠実』に答えていただきたい。もし少しでも疑いがあれば……あなたたちの魂は即刻、冥界へと送り込まれることになるでしょう」
手足は金糸に絡まれ、身動きが取れない状態に。
光のない眼球が冷酷にこちらを見つめる。
背後に香るのは濃密な死の気配。
オクヘイマの指導者たる「金織」アグライアによる尋問が始まろうとしていた。
やっぱ長いですね、オンパロス