「2人とも、いったい何があった?」
丹恒の呼びかけによってようやく意識を現実世界へと取り戻した2人。
オロニクスに過去を見せられている数秒の間でどれほど呼びかけても反応はなかったらしく、しばらくしないうちに……
「この生物が現れたんだ」
隣を見る。
そこには「記憶」の中で見たあの桃色の妖精が宙に浮いてぷかぷかと漂っていた。
ファイノンもキャストリスもこの生物を見るのは初めてらしく、少なくとも現地の動物が迷い込んだなどではないのだろう。
「さっき、浮黎に一瞥されたんだ」
「俺も同じだ。どうやら見られた場所は違ったけどな」
「浮黎というのは……?」
「聖都へ向かう途中、天外の「星神」の話をしただろう?そのうちの一柱なんだ」
「ああ……天外の神々は肉眼では捉えられない奇跡だという話だったね。星神に一瞥されたということは……」
この妖精——ミュリオンは「記憶」によって作られた存在の可能性が高い。
だが、それだけではない。
ミュリオンには他のオンパロス人と同様、呪力があり、その在り方は式神に近しい存在だ。
だが本来、星神は呪力を持っていないし、認識もできないはず。
浮黎だけが例外の可能性もあるが、少なくとも謎は増えたままだ。
「たいたん、かこ……あつめる。かこ……さいげん」
「クレムノスに言って過去を再現しなきゃいけないらしい」
「この子の言ってることがわかるのか?」
どうやら穹と悠仁を除いた他の3人はミュリオンが何を言っているのか聞き取れないようだ。
この生き物が其と何らかの関係があるのなら、オロニクスの神跡以上の力を発揮できるかもしれない。
再び聖都に戻り、これからの行動をどうするかを決める一向。
ファイノンと丹恒はモーディスに助太刀する為に、すぐさまクレムノスの戦場へと向かった。
残された穹はキャストリスと共にオクヘイマに残る狂神の記憶を辿ることにした。
これらの記憶を集め、再現すればニカドリーの不死性を暴く方法が見つかると、ミュリオンは拙い口調で話してくれた。
「おう、みつける。むかし、さいげん!」
「ミュリオンは子犬みたいに鼻が効くらしいよ」
「ぺっと、ちがう!」
ニカドリーやクレムノスにおける吟遊詩人の詩
かつてクレムノスの長へ神器を創り上げた鍛治師の記憶
自由奔放な旅人の残したクレムノスの祭典での写真
ミュリオンはこれらの記憶を集め、どこからともなく取り出した書物に書き遺していく。
「他人の記憶を覗き見る力なんて、きっと簡単に悪用されてしまうでしょう。その力を持っているのがあなたでよかった」
「銀河打者だから当然!」
「大丈夫か?……これほんとに大丈夫か?」
以前、ピノコニーでクロックトリックを使った時のことを悠仁はふと思い出した。
悪用まではしなかったものの、平気で悪戯に使おうとしていた気がする。
まあ、穹が本当に人道から踏み外すような真似はしないだろう。多分。……多分。
そんなこんなでニカドリーに関する記憶も集め終わり、3人もまたクレムノスへと向かうことになった。
荒廃した「紛争」の跡地。
ファイノンたちは今もなお、ニカドリーと戦い続けている。
激戦の兆したる乱戦の音がここにまで届いていた。
「かこ、いりぐち……ひらけ!」
細長い扉の先にあるのは再現された過去のクレムノス
門を潜れば、黎明の日に照らされた戦士の城がその偉大なる姿を見せた。
クレムノス人の多くが神殿の前で自由に話し込んでいる。
周囲には人間だけでなく、ニカドリーの眷属もおり、理性的な態度で人々と話をしていた。
「まずは周囲を調べてみましょう。ちょっとした会話から役立つ情報が得られるかもしれません」
当時、まだクレムノスの王ではなかったモーディスは先代の王との間でいざこざがあったらしく、この記録は黄金戦争という戦いが終わりを迎える時代だとキャストリスは説明してくれた。
この時期のクレムノスでは祭典が開かれており、勝利した戦士には城主へと謁見する栄誉が与えられるらしい。
参加者のふりをして城内に忍び込めば、ニカドリーの秘密を知ることができるかもしれない。
善は急げ、ということで城門まで向かう2人。
「誰も挑戦する勇気がないのですか?クレムノスの輝きの下で、栄光を賭けて命を燃やしたいとは思わないのですか!?」
「ならば……私が行こう」
「またあなたですか。話が通じない人ですね!言ったでしょう、この試練は三人一組だと。さっさと田舎に帰って放牧でもしてなさい!」
何やら城門の方で問題が発生しているようだ。
兜をつけた筋骨隆々の男が出場を申し出ようにも、人数が足りていないらしく、その態度に受付の者が苦言を呈している。
あの男は最初にこの場所にやってきた時に話しかけようとして、寡黙なまま返事をしてくれなかった男だった。
三人一組、ちょうどキャストリス、穹を合わせれば三人になる。
ミュリオンはペット枠だから無理だし、悠仁も肉体は穹と同じなので認められないだろう。
「はい!俺たちは彼のチームメイトです!」
「おまえたちは……」
「ふむ……なるほど、いいでしょう。ならば戦士たち、1人ずつ名乗りをあげてください」
「銀河打者!」
「キャストリスです」
「……ゴーナウス」
こうして即席で出来上がったパーティは城内へと入っていく。
戦場特有の焼けこげた血の匂い、どこからともなく聞こえてくる刃がぶつかり合う音。
だが、待ち受けていたのは熾烈な戦場ではなく、オロニクスの神跡を使う謎解きばかり。
ミュリオンの記憶の力と神跡のおかげもあり、特に困ることなくその謎解きはクリアできたが、ゴーナウスはやはり不満げな様子であった。
「ふん、くだらん。死ぬ運命にある者に時間を浪費させるとは、一体どういうつもりだ?」
「私たちは死ぬつもりはありませんよ。ゴーナウスさん、この先に進む前に……一つ言っておかなければならないことがあります」
「わかっている。お前たちはこの愚かしい競技のために来たのではないのだろう。私の目は誤魔化せん。あの愚王の偽りの栄光に興味を示さないのならば、目的を聞くつもりはない。私の邪魔をしない限りはな」
ゴーナウスの目的は、この競技を開いたクレムノスの愚かな王の首を取ること。
どうやらこの時代の王の政治に不満を持っているらしい。
さらに先へと進んでいけば、見えてきたのは戦場だ。
目の前に広がるのは血を流し、死に絶えゆく兵士や眷属たちの遺骸が屯っている。
戦いはすでに幕を下ろし、生存者は誰1人としていなかった。
キャストリスが死者の魂へと呼びかけ、当時の出来事が「記憶」の結晶のように浮かび上がる。
残された記録には、謀臣がタイタンの霊魂を封じようと画策したことやその計画の元はクレムノスがオクヘイマへ侵攻する為の行為であったことが判明し、一同は衝撃を受けた。
「ゴホッ……まさかオクヘイマ襲撃がニカドリーによるものではなかったとは……」
「襲撃?……なるほどな、お前たちはこの地、いやこの時代の人間ではないな。そこの宙に浮かぶ妖精も、青年が肉体に
「……あなたの推測通り、私たちはこの時代の者ではありません。ゴホッ、はるか遠い————いえ、待ってください。ゴーナウスさん、穹さんの肉体に宿っている暗黒の潮というのは?」
穹の肉体に宿っている存在と言えば悠仁しかいない。
だが、何故ここで「暗黒の潮」の言葉が出てくるのだろうか。
「違うのか?……ああ、確かに、よく見てみればタイタンにも雰囲気が似ているな。すまない、私にはあまり人を見る目がないようだ」
「許してやらないこともないよ」
「なんで穹が言ってんの」
ゴーナウスは嘘をついている様子ではない。
嘘を言う必要がないのもあるし、やはり呪物となった悠仁の存在は両者に近しいのだろう。
(やっぱり、ゴラスンの予想通り。タイタンと暗黒の潮、そして黄金裔は大元が同じな可能性が出てきたな)
ゴーナウスには彼らが未来からこの地へやってきて狂気に堕ちたタイタンを止める方法を探しにきたのだと正直に伝えた。
神の狂気が数百年も続いたことに呆れながらも、彼はまだ同行してくれるようだ。
過去の記憶を辿っていけば、さらに明るみになっていった真実はなんとも無残なものだった。
過去のクレムノス人は自身が信奉する神の神性を剥ぎ取り、精巧に造られた容器に入れて永久に保存しようとした。そうすればニカドリーは文字通り永久不滅の存在となる。
たとえ、狂気に堕ちいようと臣民にとってはどうでもよく、ただ一族の永久的な繁栄を願う傲慢な思考がこのような惨状を引き起こす結果となったのだ。
闘技場には鋳魂の像が置かれてある。
おそらくこれがニカドリーの魂を封印する容器なのだろう。
だが置かれている像は四つだけ。
本来五つ目の「理性」の像だけが破壊され原型を失っている。
「……気づいた時には、遥か遠い地平線の向こうに暗黒の潮が誕生していた。それはゆっくりとオンパロスの境界に迫り——最初に接触したタイタンがニカドリーだった」
オロニクスの神性を用いて、過去と未来の巨像を作り上げる。
暗黒の潮との戦いの中でニカドリーの意識は次第に消え、腐蝕の根源を断ち切ることは叶わなかった。
だが、それでも屈することなく戦い続けて、神が最後に見出したのは自身の神性を剥ぎ取り後世に託すこと。
いつか「理性」が呼びかけに応え、神の躰に戻るのをあの戦神は望み、屍となった、とゴーナウスはまるで実際にその目で見てきたかのように口にした。
「やっぱりお前は……ニカドリーの一部なのか?」
「ああ、そうだ」
だが、あくまで彼は本体ではない。
狂気に呑まれかけたニカドリーが最後に見出した希望であり、かの神に終止符を打つ切り札でもあった。
ニカドリーの魂は腐り落ち、救う手段はない。
だが滅ぼすことはできる。
「神性を縛っていた封印は解かれた。……ここで魂を鋳れば、ニカドリーは完全体に戻れる。お前たちは全盛期に近いタイタンと戦うことになるが……同時に神殺しの栄誉にもあずかることになるだろう」
そして彼は本来の居場所に戻り、ニカドリーの一部となって腐蝕に呑み込まれてしまう。
自分では見届けられない未来のために犠牲になるのだ。
だが、その兜の奥の表情に憂いはない。
紛争があってこそ、文明は成長し、人々は苦難によって鍛え上げられていく。
「我こそは天罰の矛、ニカドリー!乱世の使者、紛争の化身なり!覚えておけ——私はこの世に必要な傷跡であると!」
鋳像から幾千もの光が差し込み、ゴーナウスに降り注ぐ。
過去と現在。神秘と記憶が混ざりあい、やがて一つになっていく。
視界に映るのは現世で戦い続ける仲間たちの姿。
闘技場の上で戦意を崩さないニカドリーの矛先がゴーナウスへと直撃した。
「私を倒せ!そして…………」
黄金の槍は彼の体を押し潰し、黄金の血が降り注ぐ。
白い鎧の上に浮かぶ、黄金の神体。
羽根を広げた球体が雷を呼び起こし、やがてニカドリーは完全な姿を取り戻す。
「私に戦士として……ふさわしい最期を!」
黄金の羽根をかざし、矛槍が翳される。
理性を取り戻した紛争の王の気配は凄まじく、その場にいるだけでその殺意と戦意が膨れ上がっていく。
狂気と理性、相反する感情が共存しながら敵意を向ける。
「これがニカドリーの本体なのか……!」
「この世の終わりまで苦戦が続くと思ったが……よくやった」
禍々しい造形でありながら、どこか美しさもある黄金の羽。
モーディスは何度も死と生を繰り返した影響で、その声にはいつものような覇気が消えかかっていた。
それでもなお、この場に立ち続けるのは王としての誇り故だろうか。
黄金の槍をかざし、膨れ上がる数多の槍。
数百、いや数千となって雷雨のごとく降り注ぎ続け、天罰の矛が大地を裂き、焔が散りほぐれる。
槍雨を避けながら、彼らは何度も神へと猛攻を仕掛けていった。
不死性が消えた今、彼らにとってこれが最初で最後のチャンスでもある。
しかし、全盛期の力を取り戻したタイタンの力は凄まじく、いかにその身に刃を通そうにも、帰ってくるのは手の痺れだけだ。
狂気に呑まれながらも目の前の神はあろうことか、呪力の扱いを完璧に使いこないしていた。
「———————!」
「あれは……マズイ!みんな、後ろに下がって!」
鎧は朽ちながらも、その戦意は消えることなく。
青色のオーラはやがて世界を焼き尽くす灼熱色へと変化する。
大剣をかざし、ニカドリーは思うがままに世界を両断しようとした。
「弱音を吐くな、救世主!クレムノスの王ならば、この程度の剣、受け止めきれないほどやわではない!」
大地をことほぐ紛争の一太刀。
狂気によって歪められた祖神の一撃をモーディスは真正面から受け止める。
熱と力の塊がモーディスの不死性すらも焼き焦がそうとした。
「この程度の攻撃を防げないのなら、俺に王たる資格はない!おおおおおおおお!!!」
唸り、うねり、獅子の咆哮が今は亡き「紛争」の跡地に響き渡る。
筋骨隆々の腕はさけ、血肉が飛び散り、その衝撃を抑えきれなくなっていた。
「モーディス!」
黄金の輝きに焼かれながらも、背中に仲間を抱えた王が弱音を吐くことはない。
歯を食いしばり、獅子は眼前の大剣を見返す。
戦意は挫けることはなく、モーディスの腕は次第に再生していった。
「あれって……反転術式!?」
「やっぱり使えたのか」
おそらくあれは正のエネルギーによる回復というよりも、死の瀬戸際という状況によって発動した無意識の自己回復反応。
何度も死に続け、そして生き返る不死身の彼にしかできない芸当でもあった。
「やれ、救世主!」
「ああ、最後の一撃をぶつけてやろう!」
ファイノンが、穹が、丹恒が、モーディスの背中を越えて、ニカドリーへと迫る。
己の力を使い続けた狂神に、もはやその強襲を対処できる余裕はない。
それぞれの得物がニカドリーの足や胴、頭に命中し、ようやく本体が片膝をつく。
「……終わったのか?」
「いいや、まだだ。上を見ろ!」
弛緩しかけた空気の中にモーディスが喝を入れた。
上空を見上げれば、ニカドリーがオクヘイマへ向け、最後の一撃を放とうとしている光景が広がっている。
今際の際に立たされた戦神の抵抗。
その「紛争」の攻撃は奇しくも自分を蝕んだ「暗黒の潮」と同じ力を持つ者によって阻まれた。
「龍鱗 反発 番いの流星————解」
不死性を失った神王の大剣から噴出される光のエネルギーはたった一つの斬撃によって切り裂かれた。
村一つ分もある巨大な大剣は粉々に砕かれ、不可視の斬撃が曇天を破る。
「「「開け、百界門!」
分裂していった光弾は再び、収束しケファレの心臓を狙い定めるが、その攻撃はトリスビアスの「百界門」によって完全に無力化されてしまった。
力を使い果たし、神は膝をつく。
黄金の羽がひび割れ、鎧は霧散してく。
「もう剣を振るう必要はない……世界から、紛争が消えた」
ニカドリーの神体は消え、小さな火種がその場に降り注ぐ。
ついに「天罰の矛」は消え、黄金裔は神託の創世に一歩近づくことになったのであった。
後のことは語るまでもない。
キャストリスは残ったゴーナウスの魂に納棺師として別れを告げる。
火種はファイノンが回収した。こうして、「紛争」の権能は半神となって引き継がれていくだろう。
だが、問題は山積み。むしろ増えたといっても過言ではない。
「死」のタイタン——タナトスは行方知れず。
暗黒の潮はいまだに留まることなく、世界を蝕み続けている。
そして……"呪力"の謎もいまだに解決しないままだった。
『なるほど、ニカドリーはかつては人間であり、我々黄金裔と近しい存在であった。貴方はそう言いたいのですね?』
「ああ、それに他にも妙なことを言ってたんだ。俺の雰囲気が『暗黒の潮』に近いって、それとついでに『タイタン』にも」
『ニカドリーの「理性」を宿した人格がそのような讒言を口にするとは思えません。貴方は呪物としてその存在を確立しており、呪霊に近しいのでしょう?であれば、やはり「暗黒の潮」が「呪霊」と同一の存在である可能性はますます高まりましたね』
今日あった出来事を、悠仁は穹が眠りについたあと、アナイクスに伝えた。
タイタンに意思が存在していたこと。
天外にいるはずの「浮黎」から一瞥をもらったこと。
よくわからないピンク色の妖精が現れたことを、伝えれば彼は興味深そうに一から十すべてを漏らすことなく聞き続けた。
「あら?誰と電話してるの?」
「ゴラスン」
『その呼び方はやめなさい。人の目がある場所では特に』
「ふふ、いい名前ね」
「いい名前だって」
『不名誉です』
あの戦いの後、ミュリオンの辿々しい言葉遣いはいつも間にか流暢になっていた。
いまだにメミメミュと聞こえはするものの、その喋り方はとても大人っぽくなっている。子供の成長は早い。
『そのミュリオンという妖精も謎です。何かしらの情報を引き出せますか?』
「自分のことは覚えてないって。けど、オンパロスに散らばった記憶を集めれば、すっごくいいことが起きるんだとさ」
『詳細が曖昧すぎます。少なくとも大地獣ではないようですが、それ以外の情報がありません。虎杖悠仁、あまりその珍獣を信用しすぎないように』
「大地獣?あのすっごくおっきくてかっこいい生き物のことかしら?」
「大地獣がおっきくてかっこいい生き物って言ってる」
『全面的に信用して大丈夫です』
「ゴラスンって結構ガバガバだよね」
この男、大地獣を褒めれば大体、機嫌が良くなっている気がする。
何故こんなにもチョロ……御し易い人物がなぜ周囲からうとまわれているのだろうか。
『天外の神……星神でしたか。その存在にも興味があります。呪力とは違うエネルギーの塊。人間の命運を推し量る傲慢な存在なのは業腹ですが、「浮黎」という神がこの地に何らかの影響を及ぼしていることは間違いでしょう。それは黄金裔だけでなくタイタンにも及んでいると私は推測しています』
「まあ、そうだよな。知り合いが言うには『記憶』『知恵』後一つの運命が関係してるらしいんだが……俺、"運命"とか感知できないからわからずじまいなんだよなぁ」
『貴方の話から残りの運命はおそらく「神秘」か「均衡」……いえ、暗黒の潮の性質を考えれば「貪慾」や「壊滅」もありえるでしょうね』
「ほんと飲み込み早いよなぁゴラスンは。俺なんて一から覚えんのにすっげえ時間かかったし」
『仕方ありません。知能というのは生まれながら平等に与えられるものではありませんから』
「すっげえ、ナチュラルマウンティング」
翌朝、創世の渦心を訪れた彼らは紛争の火種が返還されるところを目の当たりにした。
星々は開運し、天罰の矛の星が輝き始める。
ファイノンの品格と力はすでに認められている。
あとはあの暗黒の潮に耐えられる精神性を持つことができるかどうか。
そのために彼はニカドリーからの試練を受け入れ、不屈の心を示さなければいけない。
「みんな……帰りを待っていてくれ」
そう言って、ファイノンは孤独の中、己の恐怖と向き合う試練の渦に入り込み、消える。
そして————彼は帰ってこなかった。