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創世の渦心にて、戻ってくる様子のないファイノンを心配する一同。
モーディスが痺れを切らし、それに追従して穹と丹恒も彼と共にファイノンを助けに"紛争の試練"の中へと潜り込んでいった。
クレムノスとオクヘイマの熾烈な争いが繰り広げられる記憶の中で、彼らはようやくファイノンを見つけた。
怒りと狂気に飲み込まれてしまった彼の暴走を何とか食い止め、彼らは現世に再び戻ってくることに成功する。
凄惨な怪我を負ったファイノンだが、どうやらしばらく安静にしていれば大丈夫とのこと。
こうして紛争の火種の件は先送りにされ、当人たちは別の問題へと焦点を当てることにした。
英雄たちにのみ足を踏み入れることを許されたピュエロスにてアグライアからの招集を受ける。
「先日激しい戦いを乗り越えたばかりだと言うのに、こうして元気でいられる姿を見て、嬉しい限りです。みなさんの『開拓』の行いに感謝の意を示し、オクヘイマの最上級の礼儀を持って謝意を示させてください」
「星玉?それとも星軌専用チケット?」
「……落ち着きがなくてすまない」
アグライアが差し出したのは「神血の蜜露」と呼ばれるタイタンの血から醸造した世界に12本しか存在しないと言われている品であった。
現存するものはほとんどなく、過去には数多の都市国家が至宝として扱い、外交上の儀式で開封することが最高の敬意の象徴だとされるほどの貴重なものであるらしい。
「その伝統に則り、オクヘイマは天外からの客人にこれを捧げることで誠意を示したいと思います」
「お、重い……」
「アグライア。これほど貴重な品を贈ってくれるのは、単に感謝の気持ちを伝えるためではないのだろう?」
計算高い彼女のことだから、謝意だけではなく本当の狙いも含まれているに違いないと勘ぐれば、彼女は隠すことなくその問いに首肯した。
アグライアは黄金裔と列車の間に正式な同盟を結びたいらしい。
「……同盟自体は悪くないが、そっちの変ないざこざに巻き込まれるのはごめんだぞ」
「虎杖の言うとおりだ。黄金裔と同盟を結ぶことは、俺たちがオクヘイマの対立問題に巻き込まれることを意味するんじゃないか」
もちろん、列車は今後とも可能な限り火を追う旅に協力する姿勢だが、同盟となると話は別。
何やら黄金裔とオクヘイマにおける司法を執り行う国家機関の元老院が対立関係にあるらしい。
「はあ……ゆうたんとたんたんって本当に鋭いんですね。これなら『昏光の庭』にもすんなり入れそうです」
丹恒と悠仁が同盟に関する懸念点を挙げる中、ピュエロスに見知らぬ声が響いてきた。
振り向けば淡い桃色の髪をふわりとまとめ、白と赤を基調とした衣装を見に纏う可愛らしい外見の少女がいた。
「でも安心してください。アグライア様の表情や声のトーンからして、あなたたちは本当に誠意を持って接していますから。それに天外からの客人であり、オクヘイマにとって力を尽くしてくれた大英雄のあなたたちをエーグルの目に晒したまま放置するなんてことは決してしません!」
「……すまないが、お前は?」
「よく来ましたね、ヒアンシー。この数日間、負傷者たちの対応で大変だったでしょう?」
「とんでもありません。みなさんが元気になって家に帰れるなら、わたしは満足ですから」
ヒアンシーと呼ばれる少女はひと懐っこい笑みを浮かべ、朗らかに挨拶を交わす。
彼女は「天空」のタイタン、エーグルの助祭でありながら、神悟の樹庭の「知種学派」の教員助手であり、医療機関「昏光の庭」の首席看護師でもある。
「たんたん?」
「たんたんだって、たんたーん」
「たたんたたんたん!」
「……やめてくれ」
「うふふ、皆さんはとっても仲良しなんですね」
ニカドリーの襲撃を受けた際、多くの黄金裔が負傷したため、樹庭はヒアンシーをオクヘイマに送り、治療をしに来てくれたそうだ。
外傷の治療だけでなく、精神的な傷なども癒せるスーパードクター美少女といったところか。
「アグライア様、任されていた負傷者たちは全員快復しましたので、わたしもそろそろ行こうかと思います」
「……もう少しいてもらいたいところですが、いつまでも引き留めていたら樹庭の人たちに色々と言われてしまうでしょうね」
どうやら「暗黒の潮」に関する研究の成果の確認と、「理性」のタイタン——サーシスの火種回収のため、神悟の樹庭に使者を送る予定であったらしく、その外交使節としてトリアンとキャストリスが向かうそうだ。
「俺、前回気軽に行っちゃたけど不味かったか?」
「いえいえ、樹庭はいつでも誰でも大歓迎です。そうだ!もしよろしければ、グレーたんとたんたんもわたしたちと一緒に来てみませんか?」
「それはいいですね。あそこの景色は美しく趣がありますので旅行にはぴったりかと。キャストリスもそれでいいですね?」
「もちろんです。行方不明のタイタン——タナトスについていくつかお聞きしたいこともありますから」
神悟の樹庭はオクヘイマに有効的な学院であり、「理性」のタイタン——サーシスの火種を保管し、研究している世界最先端の機関。火を追う旅にも学術的な支援をしており、ヒアンシーなどの黄金裔も駐在している。
思ったよりもすごい場所なんだなぁ、と悠仁と穹は何とも小並感のある同じ感想を抱いた。
トリアンの作った百界門を潜り抜け、樹齢100年を悠に超えた凄まじい大木たちが聳え立つ知恵の学院。
巨大なきは静かな森の中でわずかに俯き、萎れた緑の波の中に倒れ込んでいた。
サーシスの御神体は大木となって根を張り、平原の盆地を作り上げた。そこから花々や草木が芽生え、大きな森が形成されていったそうな。
だが何やら様子がおかしい。
以前、悠仁が来た時は樹庭は様々な学者や学生で溢れかえっていた。
常時ならサーシスも微風に乗せて若葉を運び、枝を伸ばして道を作り、歓迎の意を示してくれるそうなのだが……
人の気配も神の気配も全くしない。
学びを求める者じゃないにしても、閑散としすぎだ。
キャストリスによると樹庭は一日中議論が飛び交っている場所のようで、これほど静まり返っているのはみたことがないそうだ。
「だーれーかーいーるーかー!?」
「いないね!帰ろう!」
「もう、そんな早く諦めないの!」
人気のない樹庭の奥をさらに進んでいけば見つかったのは「暗黒の潮」の遺骸だった。
野生の獣のような獰猛な爪や刃を持ち、人間とは似ても似つかない禍々しい肉体。
命が侵蝕されたことによって形成された歪んだ空虚な抜け殻。
「皆さん、気をつけてください……樹庭で何があったにしても、ここに暗黒の潮の造物の死体があると言うのは、決していい兆候ではありません」
警戒しながら進んでいけば、彼女の言うとおり、樹庭のあちらこちらに暗黒の潮の造物たちで蔓延っていた。
当然、他の生存者の気配はなく、不気味なまでに静まり返った状態は続いている。
トリノンに上空からの捜索を頼み込み、残された2人と1匹はさらに奥地へと進んでいく。
鍵がかけられた巨大な門の前。
暗黒の潮の侵入を防ぐために鍵がかけられたのだろう。そっとの力ではビクともしない。
その門の突破にあぐねていたその時……
『扉の鍵を開ける前に、まずは自分の目の鍵を開ける方法を探した方がいいのでは?』
記憶の残滓となって現れたアナイクスの姿があった。
『私はアナクサゴラス。神悟の樹庭の七賢人の1人にして、『知種学派』の創始者です。先に言っておきますが、第一に私をアナイクスと呼ばないでください。妙な渾名をつけることもやめてください、いいですね?』
「こいつがアナイクス?」
「そう、コイツがゴラスン」
「アナイクス先生が見えるのですか?…………えっ、いえ待ってください。虎杖さん、いまなんと……?」
目をぱちくりとさせ、わかりやすく二度見をしたキャストリスを置いてけぼりにしたまま、アナイクスの残滓は言葉を綴り続けた。
『どうせこの場にいるのは虎杖、あなたに違いありませんから伝えておきます。もし、私に何かあればここでの件を解決した後、あの部屋に行きなさい。そこで私が"呪力"についてまとめた記録媒体があります。せいぜい上手く活用しなさい』
「サンキュー、ゴラスン」
『……人前でその名前を呼ぶなと言っているでしょう。はぁ、どうせ聞き入れはしないのでしょうがね』
「これって本当にただの記録なの?まるでここにいるみたいに話すのね」
「……ゴラ、いえアナイクス先生であれば、ここで私たちが何を話したのかについて容易く想像がつくのだと思います」
暗黒の潮による侵攻を察知した彼は「錬金術」を使い自らの魂を砕いて火種ごとどこかに埋めた。
どうやら襲撃を事前に予知していたらしく、樹庭の人間のほとんどは避難が完了しオクヘイマへと向かっているそうだ。つまり、こちらと入れ違いになってしまったのだろう。
『あなたたちがこのメッセージを開いていると言うことは、何かしらのトラブルがあったのでしょう。皆さん、先へ進み、啓蒙の玉座へ向かってください。——火種、そして私たちの遺体を回収するために。以上。これにて終了。言葉はもう不要です』
そう言い残し、アナイクスの残滓は消えていった。
「変なやつ」
「ゴラスンはまあ、癖は強いけどいい奴だよ。ただ……遺体か。まだ生きていればいいんだが」
「啓蒙の玉座ってどこなの?」
「そこはサーシスの火種が保管されている場所で、巨大な木の天辺に位置しています。彼の言う通りなら、火種はまだそこにあるのでしょう」
ところがそこは随分と面倒な場所に位置しているらしく、そう簡単に行ける場所ではないらしい。
樹庭の奥深くを抜け、理性のタイタン——サーシスの手を借りながら謎を解き明かしながら進んでいく一行。
タイタンによると、彼女は魂を三つに切り分け、いくつかの場所に隠した。
金枝の誓い、モネータの残火、そして……アナイクスの肉体の中。
彼は己の身を犠牲にして、擬似的な半神となり、暗黒の潮を攻撃を引き受けているらしい。
「この先が……啓蒙の玉座……」
「クンクン……これってイグサの香り?それに吹き荒れる砂……烈火の太陽に下にしかしない香りだわ」
玉座の方へ進めば進むほど、死の香りは濃密になっていく。
おどろおどろしい汚泥のように薄気味悪い気配。
トリアンとも再び合流し。アナイクスの待つその広場に近づく。
そのさきに待ち受けていたのは……座に倒れ伏し俯いたまま動かないアナイクスの姿と……漆黒の衣を襤褸を纏った謎の剣士が佇んでいた。
タイタンとも黄金裔とも違う、どちらかといえば暗黒の潮に近い……だが決してそうではない何か。
呪力は感じられる。だがこの気配は……並大抵の術師が持っているような雰囲気とは違う。
式神?呪霊?あるいは呪術師、もしくは呪詛師なのか。
身の毛もよだつ禍々しさ、冷たさはやはり只人のものではない。
「あの黒いマントのあいつは何者だ?」
「悠仁に似てる」
「……おそらくサーシスが言っていた侵略者かと……皆さん、気をつけてください」
あの黒衣は破片がたびたび落ちており、樹庭の侵略を率いているのもあの男の仕業に違いない。
こちらの存在に気付いた奴はわずかに視線をこちらに向け、静かな殺気を向けている。
「早く逃げて!あたしたちだけじゃ……勝ってこないわ!」
「もう気づかれています。……サーシスのためにできるだけ時間を稼ぎましょう。今回ばかりは……『死』が私たちを守ってくれるように願います」
穹がバットを持ち、"呪力"を流す。
それに黒衣の剣士——フレイムスティーラーはぴくりと反応した。
指を向ける。穹に……いや、その奥底にいる虎杖悠仁に。
「貴様……なんだ?」
少ない口数から発せられる圧力。
トリアンとミュリオンはそれに驚き、2人の背中に隠れるように回った。
意思疎通が取れる、そして言葉を発せられるほどの知能がある。
「いきなり気づかれるか……こりゃ不意打ちもできねぇな」
「悠仁……あいつは」
「気張れよ、穹。俺が敵に回ったと思った方がいい」
「オッケー、過去一やばいってことね」
相手は1人、こちらは3、いや4人。
人数の差はこちらの方が上。おまけに悠仁だっている。
それでもほんの一秒、目を離してしまえばすぐさまこちらの首を刈り取ってしまうほどの底知れなさがそこにはあった。
「三手……では足りぬ」
3本、奴がさした指はたったの3本だけだ。
異空間から剣士の影が飛び出す。
薄く、しかし精巧に作られた寸分違わぬ偽物の幻影が2体、黒衣の影からキャストリスへと迫っていった。
巨大な鎌を掌から形成した彼女は影の剣をその身で受け止めるも、もう一体の剣を防ぎきれず、その肌を切り裂かれた。
「キャストリス!」
「まだ来るぞ!」
黄金の血を流し倒れ込みかけるキャストリスをなんとか
迫り来る三つの残影。
影によって作られた鋭利な剣は輝くことなくその鋒を彼らに向ける。
迫り来る三つの刃をなんとか避け、穹は上空でバットを剣士の影に振るった。
その棍棒を分身は最も簡単に受け止め、そして弾き返した。
偽物とはいえ、その強さは本体にも劣らない。低く見積もっても、一体一体が黄金裔並の力を持っている。
「くそっ、キリがないパターンか」
「落ち着け。あれは呪力で形成した分身みたいなもんだ。倒し続ければいつかは呪力が底をつく」
「ちなみに何体倒せばいいとかわかる?」
「俺と同じ呪力量だったら………………甘く見積もって1000体ぐらい」
「キリがないパターンじゃん!」
迫り来る五つの影。
流石に捌ききれないのはわかっており、穹は片手にバットをもう片方の手に槍を持ち上げた。
右端に迫る二体の影に存護の槍を投げつけ、地面に転がっている石ころをバットで弾きもう三体の影を押し留める。
だがその影の集団に隠れ、本体のフレイムスティーラーが自ら剣をかざす。
穹は鼻先でその刃を受け止めるが、その巨大な図体から放たられる力はあまりにも重い。
「哀れ」
「ぐぅ……重い……!」
焼けこげたようなざらりとした呪力。
やはりこの怪人は呪力を認識し、そして扱うことができる。
得物を交えることでその内側に潜む膨大な呪力量を自然と感じとった穹は歯を食いしばりながらその仮面を睨んだ。
「穹さん!」
そこに戦線に復帰したキャストリスの大鎌がフレイムスティーラーの黒衣を掠め取った。
本体ゆえか、その攻撃はやはり当たってはまずいのだろう。
幻影を目眩しに、剣士は玉座の方は大きく跳躍した。彼女の攻撃によってようやく複数体湧いていた影の一部が消える。
再び玉座に飛び降り、膠着状態に戻る。
穹のうちにいる悠仁を警戒してか、剣士はこちらの懐には入ってこない。あちらにとっても穹と悠仁はイレギュラーな存在なのだろう。
影を数体飛ばし、こちらは何度もその影を消す。
「埒があかない。このままじゃ……」
本体とほぼ変わらない力を持つ幻影は倒せるとはいえ厄介な敵なことには変わりない。いくら消そうにもすぐさま増殖していくその性質はスウォームや反物質レギオンにも似ていた。
こちらの体力は一方的に削られ、あちらは本気を出す気配もない。
次第に追い込まれていく穹たちをフレイムスティーラーは侮ることなく距離をとってこちらを一望していた。
自分と似たような気配を持つ未知なる敵。
お互いが同じ状況に陥った故に両者の意識は共に眼前の敵へと向く。
玉座にいる者たちは忘れていた。
この戦いの場所に呼び込んだ、たった一人の天才のことを。
「———グゥッ」
その場に佇む火負いの囚人の胸から細長い腕が貫かれた。
貫いた箇所を中心にプリズム結晶が鮮血のように噴き出る。
「『ふふふ、一撃では無理か……其方、只者ではないな』」
本体に巨大な孔を開けたアナイクスはふらつきながらも玉座から立ち上がる。
その口調はいつもの不遜でふてぶてしい彼の声音と理性のタイタン——サーシスの声音が重なっていた。
燃え上がる隻眼がフレイムスティーラーを捉える。
「『手強い相手だ、人の子らよ、冷静になれ。一体ずつ確実に仕留めるが良い』」
アナイクスの身に宿ったサーシスは懐から胴の長い銃を取り出した。
ほそく肉つきのない体には似つかわしくない散弾銃がフレイムスティーラーに向かって火を放つ。
両翼に挟まれた剣士は影をこれまでの倍以上の数出現させ、二者の間に立つ。
「『魂を狙い撃つ』」
空に反射し、分裂した銃弾が一斉にフレイムスティーラーの影を狙う。
いくつかの影はそれに対して跳ね返す動作をするものの、相手は戦闘に特化していないとはいえタイタン。
枝分かれした跳弾は影の頭や足をランダムに撃ち抜いていく。
それに追随するように、穹とキャストリスも黒衣の剣士へと攻撃を再開した。
空を飛べるトリアンとミュリオンは直接攻撃には参加しないが、上空で影に対して撹乱を行い続ける。
大鎌が竜の爪のように複数の影を切り裂き、それによって本体への道が開ける。
「喰らえ!」
「壊滅」の力を芯に乗せ、光り輝くバットを剣士の胴体にぶち当てた。
手応えはあるが、やはり硬い。
命中箇所を呪力でコーティングしたのか、フレイムスティーラーはそのダメージを歯牙にも掛けず、剣先を振り下ろそうとした。
カウンター前提であえて隙を作ったのだ。
無慈悲な刃が穹の頬元を骨ごと断ち切ろうとし……
「超新星」
黒衣の上部には一つの小さな血の滴が浮いていた。
雫は爆ぜ、剣士の背中に強い衝撃が散弾となって降り注ぐ。
認識外からの攻撃に流石の剣士も戸惑ったのか、うめき声を上げながら大きく後退していく。
「ありがとう!」
「骨ごとやるつもりだったんだけどな」
攻撃を喰らった黒衣の剣士を改めて見返せば、悠仁の「超新星」が命中した部分はわかりやすく破損していた。
しかし、その損傷部分に手を当てれば傷跡は何事もなかったようにみるみると戻っていく。
「あれって……!」
「やっぱ使えるか」
一部の術師にしか使えないとされる「反転術式」。
モーディスほどの再生速度はないものの、呪力量が大幅に減ったような雰囲気はなく、最初から怪我などしていなかったかのような佇まいでフレイムスティーラーは剣を握りしめた。
槍を構え、剣士と鋒を交え続ける。
サーシスとアナイクスの細かい援護とキャストリスの大胆な攻撃によってフレイムスティーラーの影は次第に数を減らしていった。
とはいえ、いまだにその底知れなさは変わらない。
こちらはほとんど満身創痍。しかしあちらは肩の息が上がっている様子ではない。
「ですから、ここをこうやるのです。いえ、違います。……チッ、使い物にならない神ですね」
剣士と刃を交える最中で背後にて援護射撃を繰り返していたアナイクスとサーシスはぶつぶつと呟いていた。
剣士はそのまま影を複数体出し、キャストリスと穹に放つ。
もはや数十を超える敵の数に対処が追いつかなくなっていた。
流石にこれ以上の傍観はできない。樹庭を破壊せずに倒せる保証はないため、最悪の場合に備えてサポートに徹していたが限界が来てしまったのだ。
体を入れ替え、周囲の被害覚悟で身を乗り出そうとしたその時——
「開け!百界門!」
トリアンが門を開き、フレイムスティーラーの体が自然とその内側へと吸い寄せられていく。
しかし、あの黒衣の剣士はそれにすら抵抗しようとしていた。
僅かに掴んだ希望の芽に素早く反応した穹は剣士に向けてバットを投げ放ち、合わせてアナイクスが散弾を、そして作られた隙を逃さず、キャストリスがその体を縛り上げた。
「————————!!」
迫り来る散弾の雨に身体を弾かれ、フレイムスティーラーは抵抗する暇もなく、門に吸い込まれていった。
戦闘不能に陥る数歩手前の状態。
片膝をつきながらもなんとか無事生存できた彼らは安堵の息を吐く。
その最中で……
「トリアン!」
皆を救った赤毛の少女が沈み込むように意識を深い闇夜へ落としてしまった。