奇物:両面宿儺の指   作:二等辺大三角形

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一気に話が進みます


WIPE OUT

 

 オクヘイマの主アグライアが没した日、オンパロス全体が悲しみに暮れる。

 誰もが幾年もの間、平和な都市国家を維持し続けてきた彼女の死を悲しんだ。だがいつまで経っても下を向き続けるわけにはいかない。

 

 彼女の偉大なる最後を決してなかったことにしないためにファイノンは民草を導く指標となることを決めた。

 亡くした者に報いるため、受け継がれたものを守り続けるため、彼は新たな剣————ヘリオスを握る。

 彼女の遺した飾りを手に、太陽を模した剣は輝きを忘れず、ファイノンは決意を新たなに残りの火種の回収に向かった。

 

 

 

 

 残されたのは天空のタイタン————エーグルの討伐。

 天空の一族の末裔のヒアンシーが天空への道を切り開き、火を追う黄金裔たちはその道を行き進む。

 

「この旅が終われば……きっと僕たちの火を追う旅も終わりだね」

「『開拓』の旅も終わりかぁ。再創世が終わって次の世界に行ったらファイノンは何をしたい?」

「僕のしたいこと……?そうだな……考えたことがなかったよ」

「ナナシビトとかおすすめ」

「僕が天外に?……うん、それはとてもいいね。考えておこう」

 

 そう二人が談笑しているうちにヒアンシーが天空へ虹の道を築き上げ歩いていく。

 

「彩虹の橋架よ……再び天空に登れるよう 導きたまえ」

 

 伝説にあるエーグルの天空の要塞であり、火を追う旅が始まった最初の土地である。

 かつて天空の黄金裔「セオネス」は天空における主要な民族間の争いを止めるためエーグルの討伐を決した。

 しかし英雄は神を討てず、自らのみを以て神の怒りを抑え、城の奥地へと封じ込めたらしい。

 

 つまり彼女はタイタンと融合し、新たな英雄が訪れるのを待っているのだ。一見、おとぎ話のような内容だが以前、どこかの賢者が同じようなことをしたのを考えれば事実なのだろう。

 

 

「漠然と広さは感じるのに、目の前には暗闇しかない」

 

 空にある城の中に生命体の気配はなく、あたり一面は暗闇に閉ざされていた。

 

「暗闇の中に何かあるのか……?」

「もしかしたら……天象画の壁が隠されているのかもしれません」

 

 天空の都市国家に伝わる慣習によれば、天象画の壁はオンパロスの空と繋がっていて、描かれている気候が現実世界に映し出されるそうで、壁画はエーグルの感情を反映する。

 

「真っ暗な中を探索するのは賢明じゃないと思います。壁画を明るくすることができれば……光源になってくれるかもしれませんが」

「あの中央の装置に行ってみよう」

 

 中央の玉座には球体状の装置が存在していた。

 天空の民たるヒアンシーにもみたことが無いらしく、先人の知識がなければ用途もわからない。

 

 であれば「記憶」の力を使えるミュリオンと穹の出番だろう。

 氷の結晶によって、浮かび上がったのは二つの部族の姿。これがかつてエーグルを信仰する民草の間に起きた戦争の原因だろう。輝きの民と雨の民による内部での争いが再現され、その悲劇による内乱を目の当たりにした。

 

「凄惨な内戦だ……天空の都市国家は外敵に敗れたわけじゃなかったんだね」

「傲慢な輝きの民は自分たちが神に選ばれた部族だとおもこみ、長い間他の部族を虐げてた。……ずっと迫害されてきた雨の民が密かに反撃を企ててたんですね」

「どこにでも似たようなことは起こるもんだな」

 

 『開拓』の旅の過程でこうした話は嫌になる程耳にしていく。

 いつの時代も、どの場所でも人同士の争いが絶えることは決して無いのだろう。

 

 ヒアンシーが「記憶」の中にある言葉を紡げば、天象画の壁が起動され、暗闇に閉ざされていた世界が色づき始める。黄金色に染まる雲、燃えるような輝き。そして壁の端には、虹色に光る不気味な眼球が浮かんでいる。

 あれこそ、「記憶」の中で聞いたエーグルの化身の印。天空のタイタンは今もこちらをじっと見つめているのだろうか。

 

 小さな彩虹の橋架を創り、彼らはさらに奥地へと足を運ぶ。

 所々に沸いた暗黒の潮の造物を倒しながら進んでいけば、彼らはそこで1匹の獅子と対峙することになった。その名はソラビス。かつての英雄セネオスの盟友であり、天空の城の守護者。彼はその身を暗黒の潮に呑み込まれながらも、侵入者に対して迎撃を行い続けていた。

 

 対をなすもう1人の盟友、ルネビスの力を借り、彼を幾年もの間続いた呪縛を解放した。

 こうしてかつての英雄たちの力を借りながらも、彼らはかつて起きたセネオスの神跡を追う。

 

 そこに残されていたのはただの悲劇であった。

 天空の化身を殺してみせたセネオスは新たな神となり、空の部族に平和をもたらそうとしたが、それは結局、新たな争いの火種になるしかなかった。セネオスを新たな神と崇める者と、かつてのエーグルを信奉する者たちの間で再び紛争が巻き起こった結果、彼女は人間に失望してしまったのだ。

 希望の薪は怒りと失意に変わり、英雄は支配者となって次々と民を虐殺する。そこに1人だけ、慈悲をこうた名もなき黄金裔がいた。

 

 彼女は破滅が訪れるその日まで、セネオスの伝説を語り継がせることを約束し、自身の延命を希う。神の気まぐれによってその延命は受諾され、名もなき黄金裔は地上へ降り立ち、己の身分を偽ることになった。

 

 自身を、天空の化身「エーグル」を殺し、神となった「セネオス」の末裔だと。

 

「……これで歴史の全貌が明らかになった」

「わたしたち一族は、英雄の血を受け継いでいるわけではなく……セネオス様に命乞いをした、名もなき黄金裔だった……」

 

 ヒアンシー、そして彼女の先祖の小さな命は、セネオスの気まぐれによって生かされていただけだったのだ。

 

 セネオスはもはや人間への希望を見出してはいない。ただ犯した罪の数を数え続けているだけ。

 だが、それだけが人の弱さなのではない。人ではない造物たるソラビスやルネビスもまた、人が積み上げてきた軌跡を見続け、人間の可能性に触れて変わった。

 彼らがここを守護し続けていたのは、人間の弱さを突きつけるためではなく、光が戻ってくることを待っていたから。

 

「セネオス様……あなたの耳に届くはありませんが、わたしの想いを聞いてください。今わたしは、自分がなもない人の末裔であったことをむしろ幸いに思ってます。だってこれでわたしはあなたに証明できるんですから」

 

 人間の心の奥底にある希望はどれだけ経とうとも決して消えない。たとえ臆病でちっぽけな人間だったとしても、その心は変わらず、種は必ず芽吹くのだ、と。

 その証左こそ、1000年経った今もなお、輝き続ける黄金裔たち。人を愛し、その身を犠牲にしてまで人の子に光をもたらそうとする姿勢は、すべてこの天空の城から始まった。

 

「……火を追う旅そのものが奇跡であると歴史が証明した。セオネス、名もなき黄金裔とあなたが交わした約束通り、彼女はここに戻ってきた。それだけじゃない……僕たちは答えも持ってきた。————人間は変われる、人間には救われる価値がある!」

 

 エスカトンを耐え、前へと進み続ける人類には新たな黎明を迎える価値があるのだと、ファイノンは神に向かって豪語する。

 天象画の眼球は何も言わない。ただただ彼らの言葉を黙して聞き、視線をこちらに向けるだけ。

 

「地上より人の子は帰ってきました。わたしたちは再び……天空に挑みます!」

 

 ヒアンシーはそう高らかに宣言すれば、エーグルの瞳は震え始め、世界に暗雲が立ちこめる。

 英雄たるソラビスとルネビスが天象画の奥に隠れた神へと鎖をつなげ、ファイノンは思いきりその鎖を掴み引っ張った。

 

「—————————!!」

 

 曇天はやがて黄金色の雲へと変わり、神の台座を継いだかつての英雄が姿を現す。

 骨ばんだ肉体、鳥を模した巨大な羽。神々しさと禍々しさを兼ね備えた神体が降臨を果たした。

 

「この天気が気に入ったか?タイタンの化身。お望み通り、『ヘリオス』の劫火を見せてあげよう!」

「救世を誓った人々の力を……どうか最後まで見届けてください!」

 

 天空の化身が初撃と言わんばかりに羽根を振い、熱を帯びた弾幕が流星群となって足場に降り注ぐ。

 丹恒はヒアンシーを抱えてかわし、他の2人は宙に飛んで得物を構える。

 いくつかの弾幕を斬り落とし、ヘリオスの刃はその露出した胸部の眼球へと向く。

 

「未来は絶対だ!」

 

 急所を狙われていることを察知したエーグルは天高く、飛翔し数度に分けて隕石をこちらへと落としてきた。

 理性があるのかどうかはわからないが、やはりこちらを警戒している様子だ。

 

 穹が赤血操術によって作り出した血の糸を伸ばし、隕石を掴み取る。蜘蛛の糸のように縛りあげ、スリングショットの応用で天空の神へと投げ返してみせた。

 「穿血」などといった赤血操術の技巧を使えはしないものの、彼は独自のセンスと感覚で粘性のある血を巧みに操ってみせた。

 

「ファイノン様!」

「ありがとう!」

 

 ヒアンシーが泡の足場を作り上げ、ファイノンを上空でうまく受け止める。弾力によって踏み込んだファイノンはセネオスの首元へと飛び、刃を下に振り落とした。

 二方向から訪れる攻撃に対処しきれなかったエーグルは、投げ返された隕石は振り落とせたものの、ヘリオスの刃に傷をつけられることとなる。

 

「—————!?—————————!」

 

 自身が矮小だと思った者に傷をつけられたことに怒りを覚えた神は周囲の熱を上昇させる。

 ドアの壊れたサウナ室に閉じ込められているような地獄の熱気。浮かんだ汗で滑り落としそうなバットをなんとか掴み、セネオスの猛攻をなんとか掻い潜る。

 

「ミュリオン、頼む!」

 

 丹恒が槍を投げ、熱を寿ぐジェットエンジンのような装置に突き刺した。

 周囲の温度はなんとか落ち着き、ミュリオンがその槍をなんとか回収し、ヒアンシーとともに行動するイカルンが遊撃に出て、神の気を引いてくれている。

 

「偽りの太陽は僕が落とす!お前も、黄金の洗礼を受けるんだ!」

 

 その挑発に過敏に反応した天空の化身は翼を畳み込み、熱を溜める。

 太陽のようにその身に集結していく力は怪鳥を包み、彼らを焦土にしようとしていた。

 

「——————————!!」

 

 溜め込まれた熱は巨大な光線となって襲いかかる。

 

「————早く、俺の後ろに!」

 

 生身でくらうのはまずいと察した穹は前方に立ち、存護の槍をもってその熱の塊を受け止めた。

 血液によってコーティングされ、強度の増した琥珀の輝きは太陽に呑み込まれることなく大空を照らした。

 

「プルルッ!」

 

 穹がその熱放射を受け止めている間、イカルンはその小型の肉体を活かし、熱を吐き出し続けるセネオスの頭部に自慢の角を直撃させた。

 不意に訪れた衝撃に天空の化身は一瞬だけたじろぎ、体勢をすぐさま立て直す。咆哮を上げ、熱は雷鳴へと変化する。足場は崩れ、重力が我を忘れて下の黄金池へと彼らを落としていく。

 

「みんな、体勢を崩さないように!黄金池に落ちる前に……奴を倒そう!」

 

 雷鳴が轟き、彼らの足元へと降りかかる。

 地面に落ちた先ほどの隕石を上空へと飛ばし、なんとかその雷撃を受け止めるも、それでエーグルの攻撃が衰えるわけではない。

 白雷はやがて熱を帯び青く染まる。

 巨大な羽根を振り払い、雷の刃は彼らの足場もろとも削り落とそうとしていた。

 

「存護の槍よ!」

 

 セネオスの元へその槍を投擲した穹。それは明後日の方向へととび、天空の化身には命中しなかった。

 しかし、彼の狙いはそれではない。大きな避雷針となった槍は、雷をその槍先に集め怪鳥の身を貫いたのだ。

 

「よしっ!」

「どうやら天空は僕たちの味方らしい」

 

 血の糸を伸ばし、避雷針とした槍をすぐさま回収し終え、こちらへの攻撃をやめない天空のタイタンを見つめる。

 雷撃は止まず、彼らは攻撃と撤退を繰り返しながら神との戦いを続ける。

 ヒアンシーが用意してくれた泡の足場は、他の戦闘員の攻撃をサポートしてくれる。血の糸を巻き取り、機動力の上がった穹は神を翻弄しながら遊撃し、それによって作られた隙をファイノンと丹恒が狙い討つ。

 

 人間の力はやがて神をも超える。

 今まさに、この天空の城で完全証明がなされそうとしていた。

 

「————————!!」

 

 だが神はそれを黙って見ているわけではない。怒り、憎しみ、失意に魅まれ、神の怒りは臨界値に達しようとしていた。

 雷雲が集まり、青い雷が羽の上に集う。

 それは周囲の建物すらも、まどいは神の身そのものを巻き込み、雷撃で焼き焦がしていく。

 

「世界は救済を待っている……ここでお前と心中するつもりはない!」

 

 粉塵と爆発を起こすその攻撃をなんとか避けた穹と丹恒は急所たる二つの虹色の眼球にそれぞれ槍を突き刺した。

 怪鳥は痛みによる悲鳴をあげ、2人を落とそうと羽をがむしゃらに振り回す。

 落とされた穹はその最中で血の鎖を神の首元に巻き付け、ファイノンへと手渡した。

 

「タイタン———黄金に呑まれろ!」

 

 繋がれたバトンを受け継ぎ、ファイノンはヘリオスを輝かせ、天空の化身の首筋へと迫る。

 隙をつかれたエーグルは対処できないまま、英雄は骨を貫き、その刃は胸部にまで及ぶ。

 肋骨すらも砕いたその斬撃はコアにまで届き、真っ二つに砕き割った。

 

 急所を貫かれたことで天空の化身は勢いよく足場に落下してしまう。その下にいた穹たちは落下してくる巨大な体躯をなんとか避けるも、その衝撃は低速落下していた足場は急速に安定感を失った。

 

「うわぁっ!」

 

 体の自由を失い、黄金の池に落下していく仲間たち。

 穹はいち早く血の糸を取り出し、蜘蛛の巣を張り巡らすように足場に固定していった。

 だが落下したタイタンの重さは尋常ではなく、糸は支えきれないままブチっとちぎれてしまう。

 

 彼らが黄金の池に落ちるすんでのところで……黄金の糸が煌めいた。

 

 それはアグライアが残した遺品とも言える髪飾り。

 無数に伸びた糸は彼らの元にある足場や体をやさしく支え、足場を上手に固定してくれた。

 振り絞られた最後の神性を使い、金糸は最初で最後の役割を終える。黄金の池にはエーグルの遺体が沈み、ヒアンシーはその神の様子を物悲しそうに見つめていた。

 

「これで……全部終わったんでしょうか?」

「……火種をとってくれヒアンシー。僕たちの旅はまだ終わっていない」

 

 空から降ってきた青い結晶をヒアンシーは暖かく握りしめた。

 その力の深淵を肌で感じながら、アグライアの遺品を血の糸で回収し、彼らはいつ崩壊してもおかしくはない遺跡を後にする。

 

 城の主人が消えたことで、もはや天空の城はその機能を失い、天象画には世界の崩壊が描かれていた。雷霆は唸り、翼獣の手助けもないまま自分自身の足で進み続ける。

 

 崩落していく遺跡の中で、再び巨大な振動が彼らを襲う。怪鳥のように低く恨み言を吐くような声が響いた。

 翼を羽ばたかせる音が聞こえ、天空の化身が再びその姿を見せた。

 

「そんなっ、火種はないのにどうして……」

 

 首は別れ、二つの首が彼らを睨みつけていた。虹色の瞳は淀み、歪み、屍のように蠢いている。

 暗黒の潮に侵食された影響か、火種を失ってもなおその神体は禍々しく翼を広げていた。

 

「ヒアンシー、丹恒!君たちは先に戻って火種を!」

「けど……!」

「俺たちは大丈夫!火種を奪われる前に早く!」

 

 先ほどの戦いで、彼らは大幅に体力を消耗している。暗黒の潮と融合したセオネスを相手に火種を守りながら戦うのは厳しいだろう。

 ヒアンシーはしばらくの間、どうしようかと足をすくめていたが、丹恒が彼女を連れてすぐさまその場を去っていってくれた。満身創痍なのはファイノンと穹も同じ。それがわかっているからか、ヒアンシーは躊躇ったのだろう。だが丹恒は知っている。

 

 

 

 奇兵というのは、最後まで取っておくことを。

 

 

 

 

「……カッコつけておいてなんだけど、悠仁お願いできる?」

「応!」

 

 

 

 バットをしまい、髪を逆立てればその顔筋には紋様が浮かび上がっている。

 神は王の出現に悲鳴のような奇声をあげ威嚇をした。暗黒の潮に呑み込まれ理性を失ったとしても、目の前の敵が最大最悪の脅威だと本能が告げていた。

 

「ファイノン、いきなりで悪いが見て覚えれるか?」

「……悠仁、何を?」

 

 悠仁はファイノンの疑問に答えることなく、前に足を踏み出し手印を組んだ。

 

「領域展開」

 

 世界が覆い隠される。そこには曇天も荒空も存在しない。

 雪が、そこには雪が降っていた。

 巨大な白い丘の上、鳥が飛び、風は舞い、空気が冷え込んでいく。

 

「ここは……!?」

 

 目の前に広がっていた天空の城が見知らぬ風景へと置き換わったことにファイノンは思わず、ヘリオスを構えた。だが、悠仁はその肩に手を置き、静止させる。

 

「————!?————!!」

 

 動揺していたのは天空のタイタンも同じ。縄張りであり、自己の絶対領域とも言えるアドバンテージが無くなったことは奴にとっても大きい。

 

「これが領域展開……術式を付与した生得領域を呪力で周囲に構築する」

 

 普段とは違う、外殻に覆われた領域。それは天空の化身を逃さないためにあえて作り上げた。

 

「めちゃくちゃ呪力を消費するけど利点もある。一つはステータス上昇。もう一つは……領域内で発動した付与された術式は絶対当たる」

 

 その言葉が言い終わると同時に、無数の斬撃が神に浴びせられる。

 抵抗しようと、奴は雪空から隕石を落としてくるも、それらも平等に斬撃に切り伏せられた。

 

「思ったよりも硬いな」

 

 暗黒の潮と融合しようとしたからか、元の硬さに加えて再生力も付与されているようだ。

 幾千にも重なった不可視の刃は後少しのところで天空の化身の命を消すには至らない。腐っても神だ。そう簡単に殺させてはくれないのだろう。

 

「竈(カミノ)——開(フーガ)」

 

 焔が点火された。空気を混ざったその青炎は領域内で降っている粉雪を溶かしていった。

 指をさし、炎は巨大な矢となって怪鳥に向かう。

 弔いの火はボロボロとなった天空の神を灰も残さず焼き尽くしていく。

 

「…………はは、これを見て覚えろなんて随分厳しいことを言ってくれるね、悠仁は」

 

 英雄たちによって大幅にその力を削られていたとはいえ、まさか神を相手にここまでの強さを持っているとは思ってもいなかったのか、その光景をファイノンは驚愕と羨望の眼差しで見ていた。

 無意識にその手を握り、彼は覚悟を決めて唾をそっと飲み込んだ。あれこそ恩師が到達しようとして、できなかった最終到達点。凡人の自分に至ることはできるのかは……まだ青年にはわからなかった。

 

 領域は崩壊し、天空の化身は今度こそ永遠の眠りにつく。

 空を蝕み続けた呪いはここで断ち切られ、1000年にわたり語り継がれてきた、虚飾に塗れた英雄の伝説の序章は今、ここに綴られた。

 

「解除っと……」

「あれ?ここは天空の城の入り口?」

「ああ、領域展開中は座標の変更ができる。ちょっとした転移装置みたいなもんだ。まぁ、百界門ほどいろんな場所に行けるわけではないんだけどな」

「俺も初耳なんだけど!」

「外殻を覆うタイプのは久しぶりに使ったからな。ごめんね」

「いいよ」

「いいんだ」

 

 丹恒たちはすでに天空に降り立っただろうか。

 もしそうなのであれば、彼らも急いでここから出なければならない。再び、黎明の崖に繋がる彩虹の橋に乗ろうとしたその時……

 

「ファイノン、穹!無事か!」

「丹恒!?」

 

 丹恒が走りながら彼らの背中に声をかけてきた。

 どうやら先にこちらがついていたようだ。しかし、妙なことにそこにヒアンシーの姿はない。

 

「ヒアンシーは!?」

「ヒアンシーは……創世の渦心に行き……半神となりにここに止まることにしたんだ」

「どうして急に……」

「詳しいことは俺にはわからないが……彼女が言うには黎明のミハニが光を失ったらしい」

「!?……もしそれが本当なら、黎明のミハニの加護を失ったオクヘイマは……2人とも、急いで聖都に戻ろう!」

 

 地上へと降り立ったその時、彼らが見ていた光景はとても悲惨な光景だった。

 ケファレが抱えた光のある天球は輝きを失い、影が街を覆う。多くの建物は崩壊し、人々は暗黒の潮の侵攻に悲鳴を上げながら逃げ惑っている。

 

 地獄、まどいは煉獄。

 赤く、赫い口径がどこまでも続いていく。

 終末に染まった空色はすべての滅びを告げていた。

 

 

 

 エスカトン(終末の日)がオンパロスに訪れる。

 

 

 




原作が良すぎて、尺のために流れを改変するのに大いに苦しみました。
この先の展開バレ防止のため、口を滑らさないよう感想欄への返信を控えさせていただきますが、気にせずバシバシ送ってください。
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