ライコスを記憶域に封じ込めることに成功した穹とセイレンス。少なくとも天才二人と「記憶」の精霊のキュレネがいることであの管理人がこちら側に顔を出す可能性は限りなくゼロになり、黄金裔たちは見事管理人を討ち果たしたと言えるだろう。
長い、長い旅路だった。火種を返還し、「世負い」の半神になればオンパロスにおける悲劇を終わらせることをできるのだ。この「再創世」はきっと鉄墓との決戦の舞台になるだろう。
ケファレの火種を取り出し、盃に掲げる。
——あれ?そういえば……『歳月』の火種って……いつ返還されたんだ?
開拓者の背中の赤いクラゲは静かにほくそ笑んだ。
「フフッ♭記憶域の片隅で息を殺してれば誰にも気づかれないと思っていたけど……やっぱりアンタの目は誤魔化せなかったわね、愛しの開拓者」
聞き覚えのある声。しかしその人物は彼のよく知っている少女のものではない。
振り返った先にセイレンスの姿はなく、黒い服に黒い傘、赤いクラゲを連れた少女——長夜月の姿だけだった。
「……お前の目的は一体なんなんだ。なのはどこにいる!?」
「そんな些細なことより、今アンタが一番知っておくべきことを教えてあげる——アンタの大切な仲間『三月なのか』はもういないんだよ」
「は?」
「真実を知った途端に取り乱す。彼女の予想通りだね」
三月なのかは開拓者たちがオンパロスに来るよりも早くこの世界に来て、彼らを守るために「記憶」の運命を受け入れ燃え尽きてしまったのだと彼女は言う。
そして「歳月」の火種を返還したのは一体誰か。その答えはとても明確だった。
「誰もそれをしていない」
「……みんなの記憶を改竄したのか?」
「その通り、悠仁がオンパロスから消えてくれたおかげで『記憶』の力を簡単に使うことができたんだ」
「再創世」が上手くいかなければ、穹はきっとなのかとの出会いを思い出す。それに乗じて長夜月はこの創世の渦心にまでやって来れたのだそう。
「それじゃあ、『歳月』の神権をもらうね」
「神権を手に入れて……どうするつもりだ?」
「アンタの記憶をフィルタリングしてふさわしい種だけを残す。そうすれば天才たちが鉄墓に対抗するための鍵が完成する」
「記憶を弄って何がしたいんだ!?」
「そんなに時間はかからないよ。アタシと一緒に感覚の雨を浴びればいい。そこで誰を忘れて、誰を覚えておくべきかを教えてあげる」
長夜月が何をしたいのか、明確にはわからない。だが穹の記憶をいじって誰かを忘れさせるというのならそれは間違いなく良いことではないはずだ。
穹の周囲に赤いクラゲが浮き上がり、視界が次第にぼんやりくすんでいく。
「『三月なのか』は消える前に、アタシに願いを託したの。彼女のたった一つの願いは『開拓』の旅がずっとずっと続くことだった。その純粋な願いをアタシが代わりに叶えてあげるの」
「お前はなのの願いを歪ませてる!」
「大丈夫、さあ穹。忘却の海に沈んで、アタシのお客さんになってちょうだい」
クラゲはさらに数を増し、穹の脳を蝕んでいった。
「だってこの記憶の潮はアンタの仲間——『三月なのか』から来てるものなのだから」
こうして彼の「記憶」は暗黒に呑まれ意識もろとも消えて行ってしまった。
ぼんやりした意識の中で見たのはかつての宇宙ステーションでの出来事だった。
ピノコニーで見たようなエナの夢。手探りで見つけた「記憶」の最深部で穹はかつての仲間だった者たちと出会った「過去」を垣間見る。カフカと銀狼、そして意識を失って棒立ちになった自分。
カフカは第四の終末を避けることができるのは穹が星穹列車に乗って銀河を旅する未来のみと言い、自分の人生に自分自身で価値をつけられるようにして行って欲しいと遺して消えていった。
「3つの顔を持つ魂よ……どうか光を降らせ、一切の影を払いたまえ!」
仲間となった青年の声がはっきりと脳内に響き、宇宙ステーションの光景はピノコニー大劇場のものへと変わる。
「サンデー!」
「アナタには久しぶりと言うべきでしょうか」
「どうしてここに?」
「すべてはキュレネさんのおかげです。憶質に包まれてもなお、彼女は天才たちとのつながりを保とうとしてくださいましたから……」
サンデーの調律の力で穹を「記憶域」から引っ張り上げてくれたようだ。舞台上にいる彼と急いで合流を果たす。
「悠仁と丹恒は!?」
「丹恒さんは少なくとも連絡が取れました。しかし虎杖さんは以前として消息不明のままです」
しかし、その道端でいくつもの赤いクラゲが姿を現し、サンデーの脳を侵食していく。
「時間がありません!他の逃げ道を用意しておきましたので——眠りから目覚め、現実から戻りましょう!」
サンデーの差し出した手を掴もうとしたそのとき……
「くそっ」
「記憶」で構築されたクラゲの足が穹の肉体を掴み、後方へと引きずっていった。
「穹さん!」
連れ去られた穹を救うため、サンデーは茨の手綱を作り出し、穹の腕に巻きつける。氷の棘に囚われた穹をなんとか引っ張り上げようともそのか細い腕ではビクともしない。
「随分、ひどいことをするけどアンタじゃ絶対無理だよ。自分勝手な調和の行人さん?」
「……虎杖さんのように、もう少し鍛えておくべきでしたね」
現れた長夜月に応戦するために背後から「調和」の人形を彼女に放った。
しかし、それは憶泡の波に飲まれサンデー本人と共に姿を消す。残されたのは薔薇の手綱だけ。
チリを払うように消されたサンデーの姿を赤い瞳は静かに嗤う。
「今度はメモキーパーにでも頼ることだね」
翼を失った小鳥を海月は嘲笑しながら、その最後の抗いを気泡に帰した。
「ここは、たしかオロニクスの……」
魔虚羅を召喚し、オンパロスから消失したはずの悠仁が目を開いた先に広がっていたのは永夜の帷の広がる神殿の奥地。
かつて「歳月」のタイタンがいた暗闇の空は虚無に沈み込み、明かりが顔を出すことはなかった。
「なんでここにいる?」
少なくとも自分はデータの世界たるオンパロスから弾き出された存在のはず。穹の肉体も無しにもう一度ここへ戻って来れるわけがないのだ。
そもそもここはオンパロスなのだろうか。「歳月」のタイタンも人も暗黒の潮さえいない廃墟の中で悠仁は考え込む。
「キュレネ?」
「記憶」の精霊たる少女の名前を呼んでも返事は当然帰って来ない。だが、何者かからの視線をひしひしと感じる。オンパロスに来てからまれに感じていた誰かからの視線がより一層強まっている。
「——違うな、誰だ」
「そんな怖い顔をしないで、悠仁。久しぶり、もしくは初めましてのほうがいい?」
赤いクラゲと共に現れたのは赤黒い傘をさした見覚えのある少女。しかし、その容姿に見覚えがあろうとも彼女の纏う雰囲気は彼の知っているものとは大きく乖離していた。
「なのか……?なんでそんな2Pカラーみたいな色合いしてんの?」
「フフ、穹みたいなことを言うんだね。やっぱり二人とも似た者同士」
「オンパロスに来てから視線を俺に送ってたのはオマエか」
「半分正解。でも半分不正解。少なくともアタシはアンタの記憶障害には関わってはいないよ」
警戒する悠仁をよそになのかの姿をした謎の少女は肩をすくめおどけた様子を見せる。
「そんなに警戒しないで。アタシの名前は長夜月。三月なのかの味方。ひいてはアンタたち星穹列車の仲間でもあるんだから」
「あいにく、人の身体に入り込んでダンマリしてるヤツは経験上あんまし信用できないんでな」
「それもそっか。アンタの過去を考えれば当然だね」
どうやら向こうはこちらの「記憶」を知っている様子だ。両面宿儺が受肉していた頃の悠仁を知っているのだろう。
今の所、彼女から敵意は感じ取れない。こちらを殺す気も消滅させる気もないようで、味方という言葉もあながち間違いではないのかもしれないが、そう易々と信じられるほど悠仁は甘くはない。
「でもいいの?アタシと協力しなきゃアンタは一生、この現実とデータの狭間に取り残されることになるよ。少なくとも"鉄墓"を消して世界を救うっていう目的は一致してるよ」
「むむむ……でも、胡散臭いしなぁ」
「どのくらい?」
「……ぶっちゃけライコスぐらい」
「……ちょっとショックかも♭」
長夜月が信用できないかどうかはこの際置いておくとして。
今の悠仁に足りないのは情報と肉体だ。ここはどこで、外はどうなっていて、穹たちは無事なのか。あまりにも情報が少なすぎるため、意固地にならずに彼女と協力するのが得策ではあると思いたい。
「ならアタシからいくつかとっておきの情報をあげる。気になったことはなんでも聞いていいよ。それに加えてアタシに協力してくれれば、すぐに穹の元へ案内することを約束する。安心して、アタシは"メモキーパー"と違って誠実だから」
「メモキーパー……ああ、ブラックスワンのところの。嫌いなん?」
「嫌いだね」
「そっかぁ」
掴みどころのない口調の長夜月であったが、今の言葉には明らかに殺意があった。おそらく彼女の本音なのだろう。悠仁にとってメモキーパーの情報はブラックスワンしかないため、なんとも言えないが。
「……背に腹は代えられない、か」
「いいね、話が早くてとっても助かる」
ひとまず、協力の申し出は受諾することにしておく。刻一刻とタイムリミットが迫っている中、今ここで救出を待ってボーッとするよりはマシだろう。
「さっき視線を向けたのは半分オマエって言ってたよな。ならもう一人誰かが見てるってことになるけど、それは誰なんだ?」
「鋭い質問だね。いいよ、答えてあげる。でもその前に一つだけ確認しておくけど、悠仁はヌースについてどのくらい知ってる?」
「まったく知らん!」
「未知を推論し、宇宙の真理を探求し続ける万機の王様。この世界にある物質、現象、人物全て、全部知ってる巨大なスーパーコンピュータでもたる。でもおかしいと思わない?」
「何が?」
「あのガラクタが"呪力"について全く知らないこと」
なんでも知ってる、とかもてはやされている割には『呪力』についての情報を持っていない人工の星神。
しかしおかしいことではない。悠仁は遥か昔、それこそ星神が誕生する前から"呪物"になってその悠久の時を過ごしてきた人間だ。おまけに呪いの力を持っているのは現実世界においては悠仁しかいないため、全知の神が知らないのも無理はないだろう。
ヘルタもスクリューガムも"呪い"についての知識はなかった。まやかしや呪術に関しては他の星にも似たようなものがあるが"呪力"というエネルギーは存在しないと言っている。
実際、ザンダーはそこに目をつけて「両面宿儺」の指を使い、セプターで"呪い"を使ったシミュレーション動作を何度も行い、神をも殺せる絶滅大君『鉄墓』を作り上げようとしているのだから。
「これまでの旅を思い返してみて。アンタは今まで何度その力を使った?」
「えーっと……宇宙ステーション、模擬宇宙……だいたいほとんどの旅で使ったな」
「そうでしょ?特に模擬宇宙。あそこはヘルタの箱庭であり、『知恵』の一瞥をもらった使令たちの研究所でもあるんだから」
天才クラブのメンバーの中にはヌースから一瞥を受けた『使令』の者が複数いる。スクリューガムもヘルタもそれに相応しい頭脳と力を持っていることは知っている。
「なら余計におかしい。アンタは"呪い"を振りまいて絶滅大君、繁殖の使令を殺してみせた。少なくとも銀河にいる大物さんたちからは注目の的だよ」
「まあ、いずれバレるのは承知の上だからな。星穹列車も元々結構有名らしいし」
「天才たちが"呪い"について必死に調べてる。アンタは戦い、星々からの視線を浴びる。この時点で"呪力"という未知は既知に変わったはず。使える人がいなくても、知ってる人は無数に増えた」
「あー……ん?」
そう言われて悠仁も違和感に気づく。
宇宙にいる人々が"呪い"という存在を知り始めた今、あの知識の神が人間の知っていることを知らないはずがないのだ。ザンダーならまだしも、他の人間では隠すことも難しいだろう。
「でもどういうわけかヌースは沈黙を続けてる。"呪い"のこともずっと知らんぷり」
「そういやヘルタから機械頭がポンコツすぎてぶっ壊したいとか連絡が来たことあったけど……」
ヌースは"呪い"を避けている?
いや、むしろ自分という存在を脅かしかねないものなら積極的に知った方がいいはずだ。
ならば可能性として挙げられるのは……
「他の奴ら……もしくは星神が妨害してるってわけか?」
「正解♭」
今重要なのは
「視線を送ったのもソイツか?」
「そうだね。本来のアンタは星神からの視線を向けられても、その影響はほとんど受けない」
「ん?でも『記憶』の力は使えっけど?」
悠仁の手から「記憶」のページがうっすらと出現した。かろうじて残された幻影のようなものだが、間違いなく「浮黎」から授かった力である。
「其から直接視線を向けられたらってこと。アンタと穹はその運命に足を片方だけ踏み入れただけ」
たしかに今までの星神たちも穹に対してほんの一瞬だけ力を与えただけで、その影響を大きく受けたわけではない。穹も悠仁も使令でないのだから。
視線を向けない
「そして
永夜のカーテンが開かれる。
真実の裏側。虚構の最果て。
折り重なった螺旋階段と欠けた黄金の肉体。そこにあって、そこにはなく、頭のクラゲはただ意味もなく浮遊していた。
実体のない誤謬と無味が真理となり体現した姿。
「知恵」と「記憶」の天敵であり、「愉悦」とは異なる確定性を殺す万象。
「神秘」のミュトゥスが虎杖悠仁に視線を向けていた。
向けられた視線は思考の霧と感覚の雨を降らせる。全ての真理を覆い隠し、「虎杖悠仁」の存在そのものを洗い流そうとした。長夜月の傘がその雨風を凌ぎ、存在の希薄化を防いでみせた。
「……マジかよ」
「大マジ。ミュトゥスの視線がアンタに忘却をもたらした。それでも全ての記憶を忘れなかったのはさすが悠仁だね」
「良かったぁ、ボケてたわけじゃなかったぁ……」
「そこなんだ、安心するとこ」
恐れ知らずの悠仁でも怖いものはあった。
認知症である。
帷の隙間から視線を向けていたはずの浮黎の姿は、まるで最初からいなかったかのように影も形もないまま消えていた。
「神秘」
真理を隠し、確定を殺し、世界に未確実と不明を齎す混沌。
かつてピノコニーで虚構歴史学者のギャラガーが属していた運命であり、人類を確定された破滅の未来から守ろうとしているとの噂もあるが、真実はその神体と同じように霧に包まれたまま。
其が視線を向けたのは解き明かされることのなかった
「さて、と。種明かしも終わったことだし、アンタも開拓者と同じところへ送ってあげる」
長夜月が傘を閉じ、ジリジリと悠仁に詰め寄っていく。
肉体を持たない身体のため、なにか抵抗できる手段もないが悠仁は構えを忘れない。
『見つけましたよ、ヘルタさん』
突如、聞き覚えのある声とともに体が宙に浮かんで引っ張られる感覚になる。
「おっと見つかっちゃった。それじゃあまたね、もう1人の開拓者♭」
小指を口元に当て妖しく微笑みながら長夜の主は悠仁を見送って行った。
吸い寄せられる感覚とともに、悠仁が瞳を開けた先にいたのは通信越しではない実物のヘルタとスクリューガムの姿だった。
「やっと見つけたよ、おじいちゃん」
『あれ、ヘルタじゃん。それにガムさんも。久しぶり』
「ええ、お久しぶりです。ひとまずご無事で何より」
オンパロスから追放されたはずの彼らがなぜここにいるのか、なぜ通信ではなく実物として存在しているのだろうか、そしてここは一体どこなのか。
なんでなんでと矢継ぎ早に聞けば、スクリューガムが一つ一つ丁寧に答えてくれた。
「我々は虎杖さんの救出と並行して、ザンダーが隠した13体目のタイタンについて調べているのです。名は"デミウルゴス"。このタイタンを発見することができれば"鉄墓"を封印できる確率がより高まると推測しています」
『また噛みそうな名前が来たな……というか13体目のタイタン?オンパロスには存在しなかったけど』
「だからここで探そうって言ってるの。ここは現実におけるセプターの中身。あの傲慢で高飛車な先輩が必死に隠そうとした何かが絶対にここに眠ってる」
『傲慢で高飛車……なんでもないです』
鋭い視線が向いたので目を逸らしておく。孫怖い。
「あの三月なのかって子の偽物がお子ちゃまを捕まえるために尻尾を出してくれたのが良かった。そこからセプターをくまなく調べてわずかな『神秘』の軌跡を追ってなんとか見つけることができたの」
「カイザーがオンパロスへのアクセス権を譲渡してくれたため、我々もスムーズにオンパロス内部を調べることができました。憶質に詳しいサンデーさんとブラックスワンさんの協力の甲斐もありこうして虎杖さんを座標転移に成功したのです」
『そっか、後で礼を言わないとな』
特にサンデーは随分と必死になって悠仁のことを探してくれていたそうだ。まったく頭が上がらない話である。
周囲を見渡せば、オンパロスの建造物らしきものはちらほらあるがどれもこれもが擦り切れホコリや砂を被り生命体の気配は存在していなかった。少なくともタイタンが住んでいたような痕跡はなく、ヘルタの勘が的中したのかは怪しい。
しかし痕跡が残っていないからこそ彼女はここに目をつけたのだ。むしろ『ここには何もない』と見せつけている不自然さがあるのだと天才は言う。
『俺としては一刻も早く穹たちと合流したいんだけど、無理そう?』
「申し訳ありませんが、現在データの残響と化したあなたをオンパロスへ送る方法が見つからないのです。ブラックスワンさんから頂いた"憶質"の一部とヘルタさんが捕らえたメモキーパーの肉体で現在代用していますので」
「感謝してよね、本当に。おじいちゃんを見つけるのにとっても時間がとられたんだから」
『あざす!』
捕らえたメモキーパーの肉体を代用という怪しげな言葉が聞こえたが悠仁はあえてスルーしておく。理由は怖いから。
とりあえず今は現実へと戻ってこれたことを喜ぼう。2人によれば長夜月に連れ去れれた穹も無事に丹恒が見つけてくれたらしいのでそこまで深く心配する必要はないと信じたい。
「……けどデミウルゴスと鉄墓以外にももう一つ面倒臭い問題が起きた」
『ライコスが何かしたのか?』
「いいえ。少なくとも現状、ライコスさんはアナクサゴラスさんが封じ込めているため、何もできません」
アナイクスは創世の渦心での戦いでライコスの脳内に呪物と化した自身の魂を埋め込み、その内部をひっちゃかめっちゃかに探ってかき回して妨害行為に勤しんでいるらしい。自分を呪物にする方法すら独学で編み出すとはさすが賢人と言ったところか。
天才の頭に内蔵されたまだ見ぬ天外の知識に高笑いしながらあれこれ調べまくっている友人の姿が浮かぶ。
「オンパロスで観測された運命は3つ。『壊滅』『知恵』そして『記憶』。だけだと思ってたんだけど、どうやら『神秘』の連中まで入り込んでるみたいなの、オマケに使令。『神秘』は『知恵』を殺したいぐらい憎んでるから間違いなくこちらの妨害をしてくる」
『あー……あのー』
「私たちの推測ではその使令は三月なのかさんの姿をした長夜月さんが最有力候補として挙がっています。それ以外に可能性がありませんから。しかし彼女が使令の場合、現状では対処のしようがないのです」
『あのー……ちょっといい?』
恐る恐る手を上げた悠仁に天才たちの視線が突き刺さる。
何か知っているのか、と期待と羨望のこもるまなざしに思わず悠仁は流さないはずの汗が滝のように落ちていく感覚に襲われた。
『ごめん。俺、
「…………は?」「…………はい?」
『2人が探してる『神秘』の使令……多分、俺です』
この日、虎杖悠仁は天才2人の思考を10秒間完全停止させることに成功したのであった。