開拓を志す者たちは「紡がれた叙事詩」を開き、最後の偉大な旅に出る。
12の火種を翳し、無限の輪廻の中で最後の創世を行う。
「開拓よ、まだ見ぬ結末を記せ!」
最後、世界は混沌と化した。
そこに神々が火種を与え、タイタンが生まれた。
「壊滅」の暗黒の潮が大地に訪れ、エスカトンへのカウントが刻まれていく。それでも火追い巨人たちは「開拓」の偉業を為しつつ先へ進む。
——熱き河となり、神々の銘へと流れ入るのだ
『黄金の繭』アグライア
——聖都の糸網に触れ、星々の声を聞け。三相の神は「門と道」を渡り歩き、宇宙からの知らせを運んでくるだろう
『理性』のアナクサゴラス
——その学識は世に抗い、覚醒の嵐を巻き起こす。晨昏を分かつ聖女を見つけ、かの者を「天空」で目覚めさせよ
『天罰の矛』メデイモス
——再び戻り、その魂で敵の王を貫け
『飛翔する幣』セファリア
——足を止め、停滞した運命を動かせ
そして『暗澹たる手』キャストリス。ステュクスの主
——抱擁の権利を与えられた彼女はその指先に生をも咲かすだろう
——永遠の中から『満たされた杯』の声が聞こえてくるだろう
——未明に『永夜の帳』が訪れるだろう
——その旅の終わりに生命は『大地』の果てへと向かい
——冠を戴いた無名の王が英雄たちと共に救世の偉業に挑むだろう
——遠い過去に昇った太陽は人々の足跡を記録した
黄金裔と呼ばれる存在が神々の火種を返し、再び天地を支えたのだ。
火を追う旅は喪失の旅。その中では命さえも些事となる。
……我らは「火」に身を投じる。ただ創世の叙事詩に最初の一筆を刻むために。
暖かいエリュシオンの果て。
小麦畑の中で桃色の彼女は英雄に微笑む。
「これは今までとは違うロマンチックな物語。そうでしょう?」
そしてこれは語られることのない、もう1人の王の話。
運命を背負い、宿業を晴らし、決して挫けることのなかった青年はやがて雪原の中で孤独を享受する。
途方もない歳月の果てに彼は天外を飛び出してまだ見ぬ世界に足を踏み入れた。
氷に覆われ寂れかけ、けれど人々の熱意は琥珀色に輝き、失われることはなかった。
生命の循環、飛行艇の上で星々を蝕む悪虐を打ち滅ぼした。
夢に囚われた青年に、生きながら死にゆく少女に手を差し伸べた。
そして、永劫の大地で新たな友とともに管理者に叛逆をする。
神話の外側、現実の内側。隔絶された次元の中で王は流れる時の奔流を感じ続けていた。
「——ケヒッ」
受肉を果たした両面宿儺は星海の中で静かに笑った。
デミウルゴスはセプターに生まれた本物の知性の種。
ザンダーが星核によってセプター本体を改造してしまったせいでその存在は永らく注目されることはなかった。
歳月の少女が幾度とない永劫回帰の中でソレにこれまでの旅路を語り続ける。やがて意識が芽生えた知性の種は天外からやってきた星核と共鳴し、自我が芽生えたばかりのデミウルゴスを引き寄せる。
「心」は「身体」を飛び出し、輪廻の中に飛び込んでいった。「キュレネ」という役割を引き継ぎ、開拓者と共にあったのだ。
「あたしはこの詩の中で小さな妖精になって、あなたと出会った……何もかも忘れていたけど」
記憶の中で「キュレネ」に拾い上げられ、「哀憐」で育った最初の「種」。
つまり最初に穹が列車で出会ったミュリオンはデミウルゴス本体そのものということ。彼女は天才2人からも、管理者たるライコスすらも欺きながら皆の前にいたのだ。
「記憶」の列車の中で彼女と彼はかつての出会いを垣間見る。
「あなたには……『キュレネ』って呼んで欲しいわ。あたしと彼女と今までの全てが込められた名前だから」
「わかった、キュレネ」
すべての火を追う者と「開拓」の足跡は『紡がれた物語』に集まって「オンパロスの心」の力となる。
セプターの心は生きている。それどころかこれまでの輪廻において最も強靭な変数となっていたのだ。そして彼らは外の勢力と合流するために、準備が完了するまでタイタンとなって眠りにつくことを決めた。
「世を背負う神」——ケファレとなった開拓者は「鉄墓」との戦いが来るまで世界を背負い続けた。
そして観客の視線は天外へと向かう。
ヘルタの招集によって銀河のあらゆる勢力がオンパロスに向かう。カンパニー、仙舟同盟、巡海レンジャーが集い反鉄墓銀河連合軍が結成された。
そして肝心の天才たちは……
「群星を歩む天才たちよ、銀河は今、存亡の危機に瀕している!私、天才クラブ#83ヘルタがここに招集する——クラブ会議の即時開催を要請する。最も俯瞰的な思想で、最も壮大な偉業を成そうではないか!」
全ての謎を解き明かしたヘルタは鉄墓に繋がる深層にて天才クラブの会議を開いた。
集った天才は全部で4人。
ヘルタの友人であり、生命科学の専門家、創生分野の巨匠とも呼ばれる天才クラブ#81「ルアン・メェイ」
肉体は滅び死を迎えたが、時空座標を超えた量子域にて存在続ける天才クラブ#23「阿茶」
人類退化実験を繰り返し、星々を滅ぼし続ける最悪のマッドサイエンティスト。天才クラブ#64「原始博士」
そして、最後に来たのは「静寂の主」偶然を必然に変える天才殺しの天才。#4「ポルカ・カカム」
万機の王、スクリューガムと失敗の天才、ザンダー・ワン・クワバラも参加したことで、その会議はかつて「皇帝」暗殺後の招集時と奇しくも同数であった。
いや、天才でない者を除けば8人になるだろう。
「ガムさん、俺この場にいても大丈夫なん?明らかに場違いな気がするんだけど……」
部外者であることを気にしてか、気まずそうに問うてみるもスクリューガムは首を横に振った。
「ご心配なく。この会議に天才クラブ以外の者が参加してはいけないという決まりはありませんので」
『とはいえ初の天才クラブ外の参加者が「神秘」の使令というのは未来永劫虎杖殿だけになると思いますがね』
「……俺、会社員とかやったことねぇからこんな感じの会議初めてなんだよなぁ。当事者じゃないのに見てるこっちが緊張する」
『虎杖殿が想像しているようなものではないかと。何せ参加するのは皆、我の強い天才たちなのですから。あなたに分かりやすく伝えるならば会議というよりはプレゼンテーションに近しいでしょう』
「なるほどなー」
「ちょっとそこのうるさいの黙ってて」
会議とはいえ、これはあくまでヘルタからの一方的な通達。
彼女は鉄墓の代わりに自己戴冠を行い、ヌースと接続して定められた未来を書き換えることを宣言する。「其」の定めた運命の否定。それは「静寂の主」に対する牽制でもある。
『おいおい、脳みその使い過ぎでイカれちまったか?ポルカの洗いたてのシーツの上でタップダンスするのが趣味になっちまったのか』
『随分大胆ね。星神のコアに接続して其の「時」の定義しようというの?』
「ルパートにその度胸があって私にはないとでも?ここにはセプターのプロトタイプにヌースの父、天才の頭。それに機械頭でも解き明かすことのできなかった"呪い"の力もある。条件はむしろ十二分にあるんだから」
『呪いの力ねぇ……魔女っ子ちゃんが珍しく研究に没頭してるものがあるって聞いてはいたけど。その力で銀河の未来を自身が思い描く通りに進めさせる気でしょ』
「だからそう言ってるでしょ。私はヌースが定めた「第四の時」のアンカー書き換えるつもり」
それは即ち「其」が定めた運命の否定を意味している。
人類の限界を定めた神への否定に強く感銘を受けたザンダーはヘルタを支持し、その他のザンダーの機体と同調して彼女への外部干渉を遮断した。つまり、オンパロスでヌースと繋がっている間の無防備な状態の彼女をザンダー自らが守ると宣言したということだ。
そして天才たちの注目はオンパロスから虎杖悠仁へと向いていく。
『"呪い"だったか?正直眉唾モンでバカバカしいと思っちゃいたが、後ろにいる
『ふふっ、試してみてもいいのよ?』
「別にいいよ。どうせあなたが一方的に殺されるのがオチだろうし、むしろその方が手間が省けて助かる」
「いや俺は助からねぇんだけど」
ヘルタから信頼を感じられるのは嬉しいが、可能性を自在に操る天才などこちらから御免である。別に悠仁は強者との戦闘に飢えているわけではないのだから。
『星神が生まれる前からいただなんてそれこそ古獣ぐらいだと思っていたけれど、もしかしてそれ以上だったりするのかしら』
『ええ、当然でしょう』
「なんでオマエが自信満々に言うんだよ」
「虎杖さんの話になるとザンダーさんは途端に我を失いかける傾向にあるようです」
『ヘルタからもらった記録を見せてもらいましたが、自己を補完するエネルギーを感情で代用することができる"呪霊"にはとても興味があります。今度ぜひ私のところにいらしてください。お茶菓子を用意しておきますので』
ああだのこうだの好き勝手に言い残しながら天才たちの会議はなんともいえない形で幕を下ろすことになる。
ザンダーの言う通り、天才というのは我が強い奴らしかいないのか。呪力の存在をあまり知らせていいタイプではないことだけははっきりわかった。
「最初に俺たちが会った天才がヘルタとガムさんで良かったよ。マジで」
「もったいないお言葉です」
「ふふん」
そして最初の天才は「ザンダー・ワン・クワバラ」との接続を断ち切り、神礼の観衆「リュクルゴス」として世界の終幕を見届けるために立ち去ろうとしていた。
『それでは皆様、私はこれで。虎杖殿、あなたのご健闘を心より祈っております』
「リュクルゴスの方も俺の厄介ファンなん?」
『ふふ、それはどうでしょうね』
華麗な仕草でお辞儀をして消えていったリュクルゴスを見送り、天才たち二人はいよいよ鉄墓の封印を解き最終決戦への道を開く。
「さて、道を拓く準備はできた。外征の用意はいい?おじいちゃん?」
「偉大なる王の凱旋をお待ちしております」
「応!」
遥か暗闇の果ての果て
天才二人の介入によって「鉄墓」の扉が開かれる。
「解」
無間を分かつ斬撃が飛び、道が拓かれセプターの先に続くレールが敷かれる。
汽笛の音が聞こえ、オンパロスの心が愛する世界のために新たな結末を記すと約束した。
「さて。やるか」
列車の殿を務めるように王はその列車の後部を追いかけていった。
葬られし記憶の彼岸
物語の終着点であり、ファイノンが3355万337回目の輪廻以降永らく鉄墓を封印している場所でもある。
熱砂に包まれた残骸の蔓延る廃墟。純粋な生命体が蔓延ることはなく、黄金の血の「記憶」で形作られた精霊と僅かに残された「壊滅」の残滓だけが無意味に生き延びている。
「砂嵐に廃墟……凄まじい光景だ」
「熱気もやばいよ。開拓の力でも防げないなんて……」
それも当然だ。
この巨大な檻は黎明となったファイノンの心火で形作られていると言っても過言ではないのだから。
「それでもどんな怒りだって治るわ。私たちはそのために来たんだもの。そうでしょう?」
「ああ。始めよう、最後の火を追う旅を!」
天外からの英雄たちはそうして永らく続いた輪廻に幕を下ろすために最初の一歩を踏み出した。
しかし、英雄たちが踏み出しを邪魔するかのように大きな地鳴りが響き渡る。
「「「GYAGYAGYAGYAGYA!!」」」
「この声は……」
それはかつて長夜月が召喚した「忘却」を定むる怪鳥。
気色の悪い面をした記憶の精霊が不愉快な羽音を鳴らしながら彼らの前に立ちふさがった。
しかもそれが3体。圧迫感のある顔が3つもあると不快感が増すばかりだ。
半神からタイタンへと昇格した今の彼らであれば大した脅威にはならない。しかしそれでも油断ならない敵であることには間違いない。
「なにこれ、全然可愛くない!」
「文句は長夜月に言って!」
「構えろ、みんな!」
各々が自身の得物を構え敵と対峙しようとしたその時——
「ケヒッ」
不気味な悪い笑い声が聞こえる。
焔を纏った斬撃が3体の怪鳥に一斉に浴びせられ、黄金の血の精霊たちは悲鳴をあげる間も無く灰となって消滅していった。
そこにいたのは身の丈八尺もある赤い瞳の大男。
赤毛の混じった髪と強靭なほどに鍛え上げられた剛筋。肌には囚人のような刺青が刻まれ、胸の中心には
大きかぶさるように身に付けた和装は王が拵えるのには随分と慎ましかったが、それでもその尊大さを隠しきることはできない。
そしてその中で何よりも目立つのは背中から生えたもう一対の腕。棍棒よりも太い
人間のような、しかし決して人間とは言えない異形。オンパロスでは確認されなかった敵味方の判別がつかない未知の存在がそこには佇んでいた。
「……何者だ」
「絶対やばい奴だよ……こっちを見てないうちに逃げた方が良いって!」
かつて半神となった丹恒と二人がかりでも苦戦した敵があっという間に消失したことに、なのかと丹恒は戦慄を隠せない。絶対的な強者、最凶の王の威圧を肌でひしひしと感じ、受け止めていた。
しかし、穹だけは違う。
「ゆ……ゆ……」
「ゆ?どうしたの、穹……穹!?ちょ、どこにいくのー!?」
バットを手放し、ゆっくりと穹はその男へ近づいていく。
その足は次第に早まり、砂道を駆けて行った。
突飛的な行動に丹恒となのかは急いで止めようと入るが、キュレネがそれを遮る。
「ふふっ、大丈夫」
こちらの存在に気づかず、自身の手をまじまじと見つめる大男のガラ空きの背中に穹は飛び込んで行った。
「悠仁ーーーーーーーー!!!」
振り返った虎杖悠仁の顔面に思いっきり穹の体が衝突した。
「ん?どわぷっ」
「虎杖だと……!?」
「悠仁!?え、ど、どどどどういうこと!?」
「要するに——ロマンチックな再会ってこと♪」
穹は子供のようにはしゃいでは、ひっつき虫のように悠仁の顔にひっついて離れていない。
対する悠仁も穹の満足がいくまで離すつもりはなかったようだが。
「ははっ、くすぐってぇって」
「悠仁だ!悠仁だ!生悠仁だーーー!!」
「ナマて。いや間違っちゃいないんだけども」
なのかと丹恒は半分置いてけぼりの状態でその光景を見ている。たいしてキュレネは微笑ましそうに見守っていた。
しばらくしてようやく再会の喜びを終えた2人は肩車した状態で3人の元へとやってきた。
「よっ、久しぶり。みんな見ないうちに随分変わったなぁ。丹恒はデカくなってツノ生えてるし、なのかはなぜか長夜月の姿だし、キュレネは大人っぽくなってるし」
「もうほとんど原型もないアンタにだけは言われたくないんだけど!?」
面影を残している彼らとは違い、今の悠仁の姿は見たことがなかった。ピノコニーでも仙舟でも基本的には穹の身体を媒介にした姿しか見せていないからだろう。
「再会できたことは喜ばしいが……その姿は一体……」
「これはぶっ壊したライコスの残骸をヘルタとガムさんが受肉用に改造したやつだよ。まあ、ザンダーのやつもウキウキで協力してたけど。なんか座標指定型意識転送……?とかよくわからんやつで。とにかくこれが今の俺の肉体ってことだ」
スクリューガムが壊れた遺骸を見事に修復し、ヘルタが論理回路を組み立てた。そこにデータの電子体となった悠仁を入れ込んだのだ。ライコスの肉体はオンパロスにおいて"呪力"を擬似的に扱うことができる。そこに目を当てた天才二人が見事な手際で『両面宿儺』を完成させた。
「つまりその姿は昔のアンタの再現ってこと?やっと『両面宿儺』っぽいビジュアルだね」
「違う違う。腕4本もないし、体もこんなデカくなかったよ。顔はヘルタが好き勝手にいじったからわからんが、どっちかっていうと爺ちゃんに似てるかな」
「悠仁のお爺ちゃんは腕4本あったのか?笑い方も変だし」
「違うっての。顔、顔が似てるって話。笑い声は……『記憶』に引っ張られたんだろ。後で絶対治しとこ」
苦虫を噛みつぶしたような表情で悠仁は頬を摩る。あの邪悪な笑みを彼自身あまり好んでいないのだろう。
「知恵」の使令であるザンダーの遺骸は「神秘」の使令である虎杖悠仁とは相性がよくない。しかし、ライコスが「ザンダー」との接続を切り使令ではなくなったことでその影響が薄まったのだ。使令となったその力はさらに力を増しており、呪力の総量も穹の身体にいた頃の比ではない。
「ライコスの亡骸め……ぐぬぬぬ……」
「喜んだり悔しがったりで忙しいね、アンタは」
全盛期の再来。いや、もはや今こそが彼にとっての全盛期と言っても過言ではないだろう。
その威風堂々たる様は呪いの王「両面宿儺」という名に相応しい。
穹を背中から下ろした悠仁は刺青の刻まれた腕を複雑そうな表情で眺めていた。腕が4本あることに違和感があるのか、はたまた別の感情か。それがわかるのはキュレネだけだろう。
「しかし何の因果か、俺がこの姿になるなんてな」
「それってどういう……」
「いやこっちの話」
何はともあれ、こうして再び会えることができたのだ。これ以上喜ばしいこともそうそうないだろう。
ナナシビトたちは新たに得た力とともにここに集結した。「開拓」の信条を胸に目指すべき場所は皆同じ。
開拓者たちは「壊滅」の意志を打ち砕くために、そして旧き友との再会を果たすために「鉄墓」が封印された奥地へと進んでいった。
あっ、こんなところに偶然呪力を使えて腕が4本あって黒幕で使令で虎杖悠仁に詳しいファンボーイ野郎の遺体が!