奇物:両面宿儺の指   作:二等辺大三角形

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えー、色々あって遅くなりました。申し訳ない。
あと、もう一つ申し訳ないことがあるのですが、まだ悠仁は活躍しません。
もうちょっとだけ待ってて!


歯車仕掛けの計算機

 

「なんでワタシがアンタなんかと……」

「先ほども言ったけど人命の関わることなら人手が多い方がいいと思う」

「そんなことわかってるわよ!」

「どうどう、まあ落ち着けって二人とも」

 

ブローニャと穹は道中でナターシャとゼーレに出会った。

どうやら医療物資が枯渇しているらしく、鉱区の事件の負傷者への手当てが満足に進んでいない状況だそうだ。

そのため、今は裂界によって封鎖されてしまったエリア——リベットタウンにて放置されている品物をゼーレが単身で探しにいく予定だったそうなのだが、いくらゼーレでも物資を持ち運びながらモンスターの蔓延る侵食エリアを動き回るのは難しいだろうということで穹とブローニャもついていくことになった。

 

のだが、案の定、ゼーレは上層部のブローニャを目の敵にしている。

対するブローニャもゼーレのツンケンとした態度にどう対応していいのかわからず、どこかぶっきらぼうに返事をしている。

 

リベットタウンはかつてナターシャやゼーレの暮らしていた下層部の北に位置している無人の街。

かつてはそこに人がいたであろう痕跡があたりに散りばめられており、薄暗い灯りがいまだに光り続けているようだ。

そこは廃墟とまではいかないものの、かなり寂れた雰囲気をしていて裂界のモンスターがあちらこちらで闊歩している。

 

「あの丘の上にある建物がナターシャが昔管理していた孤児院よ。オレグさんがワタシを拾ったあと、幼少期の半分はあそこで過ごしたの」

「立派な建物だ」

「話によればどこかの富豪が建設したみたい。きっといい人なんでしょうね」

「…………」

「どうしたのよ?さっきからずっと黙ってるけど?」

「いえ、ただ少し気になることが……」

「変なやつ……」

 

街の光景、特にあの孤児院を見てからブローニャの様子がおかしい。

どこか体調でも悪いのかと思ったがどうやらそのような様子はなく、ただひたすらに困惑の表情を浮かべながら口を閉ざしていた。

 

道中で多少のトラブルに見舞われながらも、なんとか孤児院へと到達することができた一同は手分けして物資を探し始める。

 

「あと探してないのはここかしらね……あっ、あったわ!」

 

どうやらかなり良い状態で保存されていたらしく、目立った傷跡も残っていない。

念の為に使用期限を確認しながら、その箱の中に入っている他の物資も漁り始める。

途中でゼーレの指にコツンとガラスの感触が伝わり、すぐさまそれを箱の中から取り出した。

 

「……ん?何かしら、これ」

 

それは手のひらサイズのスノードーム。

ガラス玉の中ではフクロウがウサギを追いかける冬原の景色が浮かんでいる。

幼い頃に孤児院で暮らしていたゼーレでさえ誰のものなのか見当がつかないらしく、不思議にその水晶体を眺め続ける。

 

「これは……私が小さい頃に持っていたもの」

 

突然、ブローニャが口を開いた。

 

「アンタの小さい頃?それって本当なの?」

「私は昔ここに住んでいた。————カカリア様に引き取られるまで、私はここに住んでいた。私は……下層部の人間だったんだ」

「アンタが下層部の……?待って、カカリアってことはアンタはあの大守護者の養子ってこと?」

「どうりであんまし似てないわけか」

 

カカリアとブローニャの持つ軍人らしい気質はかなり似通っているため気付きずらいが、髪色や瞳の色から血が繋がっていないことは意外と気がつくことができる。

建創者というのは全ベロブルグの市民の中から選ばれ、その対象は上層部と下層部の子供だけであるらしい。彼らは分け隔てなくテストを受け、最終的に資格を有する一人が建創者となる。

 

しかし、どうやらブローニャにはその頃の記憶が朧げなようで戸惑いの表情は消せないままだ。

 

「私は選ばれ、カカリア様の娘となった。——けれど、大守護者であること以外に何の身分も私にはない。シルバーメインが犠牲になっていることも止められず、下層部の人々が苦しい生活を送っていることすら知らなかった……。結局、私には何も守れなかった。どうして、こんな私が選ばれたんだろう……」

「ブローニャ……」

 

彼女の悲痛な告解にかける言葉が見つからない。

 

「——はん、さっきから泣き言ばっかりでうるさいったらありゃしない」

「私は……」

「なに?お涙ちょうだいの自分語りをしたところで何かを得られるとでも思ったの?同情が欲しいならでかいバレスにでもこもって一人でやってなさいよ。でもそんなことをしてる間にも下層部の人たちはご飯もまともに食べられないで精一杯なのよ!こいつらに聞いたわ。何をすべきかはアンタもわかってるはずだって。今更ウジウジしてるより、他にやるべきことがあるんじゃないの!?」

 

ゼーレの叱咤にブローニャは数刻ダンマリとした後——今度こそ、心に決めたように顔を見上げた。

 

「あなたの言うとおり、泣き言を口にしても解決しない、ありがとう、私が落ち込んでいる時に慰めてくれる人はいるけど、こうやって叱ってくれたのは初めてだった」

「ハイハイ、それは良かったわね。すぐにわかったけど、アンタは背負いすぎなの。どうしてそこまで自分を追い詰めるの?」

「ベルブルグの未来の守護者として、私は常に自分の行いと考えを見直す必要があるから」

「そ、さすがお嬢様ね。そんなアンタとワタシが同じ孤児院出身なんて、とんだ腐れ縁だわ」

「じゃあ、少しだけ考えごとは置いておくとしましょう」

 

二人はそのまま、孤児院で起きた昔話に花を咲かせ始める。

ゼーレは想像以上に面倒見のいい性格をしているらしい。慰めではなく叱咤をするのも、また彼女なりの優しさなのだろう。

 

「俺たちは邪魔者だな」

「うん」

 

穹と悠仁はクールに去った。

ひとまず、他に資材がないか、孤児院の周りを探し続ける。

ふと、下の道へと繋がる階段を見つけゆっくりと降りていき——

 

「警告、警告、脅威となる存在の接近——」

 

見知らぬロボットの警告音が鳴り響いた。

驚いて身構えたものの、穹はすぐにその警戒を解くことになる。

 

「パーキンス、やめて!この人は会ったことがある。悪い人……じゃないですよね?」

 

横から飛び出してきた小さな少女が、ロボットと穹の間に割り込んできた。

彼女は以前、鉱区にてスヴァローグと共に行動していた少女だ。

 

「確か……クラーラだったけ?」

「はい。クラーラも薬を探しにきたんです。流浪者の人たちが大勢怪我しちゃって……鉱区の人たちもですよね?みんな仲良くすればいいのに……」

「スヴァローグとはどんな関係なんだ?」

「スヴァローグは……クラーラの家族です。小さい頃にクラーラを引き取って、育ててくれました」

 

どう言った経緯であのロボットが彼女を拾ったのかは知らないがどうやら二人の関係はこちらの想像以上に強固なものらしい。

とはいえ、スヴァローグの命令権や制御権は彼女にはないらしく、あくまで独立した思考に基づいて行動しているそうだ。

 

「大鉱区の時はごめんなさい。スヴァローグはクラーラ以外の人を信用していないんです。特に地炎の人々を」

「アイツは下層部は安全って言ってたけど本当なのか?」

「少なくとも計算結果では……自分の責務は『存護』にあると、そのために人類を守る選択をしなければならないと言っていました」

 

スヴァローグにはスヴァローグなりにここの人たちを守ろうとしているのだろう。

問題は、その守護すべき人々の気持ちを無視してしまっていることだ。

計算に優れた彼であれば、いずれ寒波によってベロブルグは壊滅するという予想はおそらく的中している。しかし、それではダメなのだ。ブローニャを含めた上層部の人たちを見捨てることなどできないのだから。

 

「『地炎』の皆さんはスヴァローグと話がしたいんですよね?……クラーラに任せてくれませんか?」

「できるのか?」

「クラーラを信じてください。いつか、きっとクラーラの言葉に耳を傾けて……」

「クラーラ?どうしてここにいるの?」

 

談笑を終えたゼーレとブローニャが二人のところへ訪れる。

どうやら顔見知りであったようで、クラーラは自らがここに訪れた理由と先ほどまでの会話の内容を正直に話した。

そのまま資材を分割することを提案され、同意した一同はクラーラと別れを告げた後、ナターシャの診療所へと帰還することになる。

 

丹恒、なのか、それに地炎のリーダーであるオレグを交え、彼らは今後のことについて話し合うことになった。

 

星穹列車の目的は星核の確保、地炎の目的は下層部の民衆の解放。

全員の目下の目標はスヴァローグへの対処という形で落ち着くこととなる。

 

「まずはなんとかして説得しないと」

「アイツはロボットよ。話が通じるとでも?スクラップにしてやるのが一番よ!」

「まあ、どちらに転んでも問題なようにすべきではあるな。それでも、俺たち地炎の力だけじゃやつらと衝突するのはリスクがでかすぎる。あのロボットたちは犠牲を恐れないが、俺は下層部の人を危険な目に合わせたくないからな。だが、今は違う。天外から来たお前たちがスヴァローグの変数となってくれるのなら、この状況を一変させてくれるかもしれない」

「うん、ウチらに任せてよ!大船に乗ったつもりでね!」

「泥でできていないといいがな」

「もう、なんでアンタがそういうこと言うの!」

 

一同は、スヴァローグがいるところへ今すぐに向かうことにした。

なぜか途中でサンポが案内役として付いてくることになりながら、スヴァローグのロボットたちがいる機械集落へと訪れる。

そこは地面が雪で覆われている岩山の連なり。

いくつものテントが敷かれ、家を失った流浪者たちが数多く暮らしていた。

道中で彼らは大きな装置の影に隠れているクラーラを見つける。

 

「……わからない」

「何がわからないんだ?」

「えっ!?あれ、お兄さん……それと、この前鉱区にいた皆さん、えっと……クラーラに何かようですか?」

「クラーラに用事があってきたんだ」

「ごめんなさい……今、クラーラは手が離せないんです。実は——」

 

彼女が言うにはある流浪者が目の前の装置を壊してしまったらしく、しかしスヴァローグに報告してしまえばその流浪者たちは罰を受けるため彼の力を借りることができないらしい。

クラーラにはわからなかったみたいだが、その基盤には見覚えがあった。

あのからくり工房に置かれていたものと同じだ。これであれば修復できるはず、と思い早速作業に取り掛かる。

配置を弄れば、その装置から音が鳴りランプの灯りがついた。どうやらうまく作動できたようだ。

 

「わあ、本当に直った!みなさん、ありがとうございます。これで外回りのみんな光と熱源を失わずに済みます。それで、みなさんはどうしてここに……」

「スヴァローグに話をしたい」

「それは……みなさんがいい人たちなのはわかります。けれど、スヴァローグと約束したんです。下層部の人たちを災いの発生源から遠ざけ、少しでも長く生きてもらおうって……」

 

その戸惑いの様子を見るに、彼女の決意は固いようだ。

ずっと昔から過ごしている家族のような存在からの忠告と、部外者であるこちら側の意見では効果に雲泥の差がある。

だがそれで諦めるわけにはいかない理由がこちらにもあるのだ。

 

それゆえ、彼らは自分が他とは異なる存在——「変数」であることを示さなければならない。

 

「クラーラは目がいいんだよね?ウチらがどこからやってきたのかわかる?」

「えっと……言われてみれば上層部でも下層部でもないような…………」

「そう!ウチらはこの世界の人じゃない。星穹列車っていう乗り物に乗って別の星からやってきたの。だから部外者のウチらはスヴァローグの計算の中には入ってないんじゃない?」

「ク、クラーラを子供扱いしないでください……!それぐらいなら大人の作ったお話ってわかります」

「嘘じゃない」

 

彼らの話を聞いていたブローニャもクラーラの説得に混じる。

 

「三月たちは嘘をついてない。クラーラ、私は彼らを信じる」

「ブローニャお姉さんも……」

「あなたの気持ちは理解できる。下層部はよくしたいけど誰にも傷ついてほしくはないのよね?私も疑問はあるけれど、直感が彼らの来訪こそこの世界の転換点になるって告げてるの。だからこの人たちをスヴァローグに会わせて計算結果を確かめてみよう。それならどっちにとっても損はないでしょ?」

「…………」

 

クラーラは深く、深く考え込んでいる。

スヴァローグとの約束を破りたくはないのだろう。かといって、彼らの願いを断りたくはない。

しばし黙り込んだ後、彼女は決意をした表情で小さく相槌をついた。

 

「わ、わかりました。みなさんをスヴァローグのところへ案内しますね」

「本当に?よかった!」

「クラーラ、気づいたんです。クラーラの力だけでスヴァローグを説得するのは難しいって。もしその間にみんなが病気になって、家を無くして……ずっと争いが続いてしまうって。みなさんがスヴァローグを説得する気があるのなら、クラーラも勇気を出します」

 

彼女の答えに一同は明るく頷き、彼女の後へとついていく。

駐屯地へと赴き、その門を開く。

人っこ一人いない巨大な広場。奥にはアパートのような建物が聳え、中央にはあの人型ロボット——スヴァローグが佇んでいた。

 

「集落のエネルギー供給システムが復旧した。感謝するクラーラ。しかし——なぜこの者たちを連れてきた?」

 

スヴァローグのモノアイがまるでこちらを睨むように細まった。

クラーラは少しおどおどしながらも、彼らが上層部のことについて相談したいことがあると伝えてくれた。

 

「分析開始——分析結果:対象は『地炎』に属さない。背景:不明。分類:情報なし。クラーラの紹介に免じて、一度だけ発言の機会を与える」

 

どうやら話し合いに応じてくれるようだ。

穹の巧みな話術の出番である。————あれ?丹恒は?と思ってはいけない。ここはあなたの手で成し遂げなくてはならないのだから。

 

「地下の未来のために来た」

「必要な論理が欠けている。回答不可。本題に入ろう、この世界の貴重な時間を無駄にするな」

「ちょっと、早速突っぱねられてるじゃん!」

「穹、俺たちが計算上の変数であることを納得させるんだ」

 

変数。つまりこの星とは異なる場所から来訪したことを伝えればいい。

 

「俺たちは変数だ!」

「ちょっと!真面目にやって!」

「ごほんっ……俺たちは星核を探しに来た。何か知っていることがあれば教えて欲しい」

「星核……データベース検索。アクセスブロック。無許可での星核についての言及:禁止」

 

何やら雲行きが怪しくなってきた。

スヴァローグはどうやら星核についての存在を知っているらしい。

 

「あなたたちは世界に封印された秘密に触れた。目標の再評価——脅威指数上昇。真の目的を告げよ」

「この話題は危険なようだな……」

「ここにきて隠す必要があるわけ?さっさと言いなさい。すべてはこの瞬間にかかってるのよ」

 

ゼーレの言うとおり、ここで立ち止まっていても何の意味もない。

 

「必ず星核を探して——この世界の災いを終わらせる」

「記録の中で、人類は星核との接触を数度試みた。その中で星核を正しく扱えた者は一人もいない。建創者命令:星核に接触すれば深刻な結果を招く。再評価——目標脅威指数最高に到達。——元来の計算結果維持、平和維持プロトコルの一時解除。殲滅プロトコル、申請開始」

「仲良くお話しって雰囲気じゃないみたいだな」

「殲滅って……もしかして文字通りの意味?」

「交渉決裂だ——三月、穹、戦闘に備えろ!」

 

そのモノアイが赤く染まり始め、穹の瞳も自然と細くなる。

各々が自身の武器をそっと取り出し、スヴァローグの動きを警戒し続けた。

 

「スヴァローグ、やめて!」

「クラーラ、下がっていろ。プロト機3号——『監督ロボット』スヴァローグ、殲滅プロトコル申請状態:通過済み。——殲滅開始!」

 

クラーラの静止の声も虚しく、スヴァローグはその重厚な手のひらを敵とみなした者たちへと向ける。

そこから飛び出た熱光線を一同はその場から避けたが、そこにあったタイルの床は剥がれ落ち、焼けこげた匂いが充満していた。

 

「ちぃっ!うっとうしいわね!」

 

その攻撃を避け、いつの間にか背後に回っていたゼーレの鎌の刃がスヴァローグに降りかかる。

しかし、それを彼は微風のように右腕で受け止め、もう片方の手で狙い撃とうとした。

 

「危ない、ゼーレ!」

 

なのかとブローニャの援護射撃によってスヴァローグの照準をずらし、砲撃は明後日の方へ飛んでいく。

その間にも、無数のロボット兵たちがどこからともなく押し寄せてきていた。

丹恒と穹はその足止めにあい、思うようにスヴァローグのところへ進めない。

特にあの信号機のような形をしたロボットが面倒だ。小型ですばしっこい上に何故かこちらの攻撃が通らない時がある。

 

「……下手に外せばクラーラに当たってしまう」

 

そして攻めあぐねているのはブローニャたちの方も同じ。

ゼーレ一人であの体躯を相手にするのはなかなか厳しい。加えて、彼の背後に隠れているクラーラに銃弾や氷の矢が命中するのは避けたい。

 

「限界値超過」

「——!来る!」

 

それはミサイルの連撃。

物量の過飽和攻撃はなのかやブローニャ、おまけに穹や丹恒までも巻き込んで周囲を粉砕していく。

かろうじて避け切った一同は、彼の強さを改めて再認識した。

おそらく、下層部の中で一番強いのが彼なのだろう。地炎が倒せないのにも納得がいく。

 

「前進」

 

スヴァローグが指を鳴らし、背後から二体の大きな自動機兵が現れた。

右腕の一部にはチェーンソーがついている。採集や建造の作業を担い、人々の暮らしを支えていたそれが、今度は人々に牙を向いた。

 

「次から次に……!」

「埒が開かないな」

 

詰みとまではいかないものの、状況は依然として劣勢のまま。

数の暴力というのは恐ろしく、無数の雑兵たちがじわりじわりとこちらを追い込んでいく。

残骸となったロボットの山から飛び出してきた機械兵がなのかへと襲いか買った。

 

「三月、よけろ!」

「え!ウチ!?」

 

しかし、援護に徹していたなのかにとってその強襲に対処するのは困難。

そのチェーンソーがなのかの前に迫り——その刃は飛来した大砲の弾によって粉々に砕け散ることとなった。

 

「まったく、お医者さんがいないと安心して戦えないでしょ。君たちは戦闘に専念してちょうだい。私たちが援護するから」

「ナタ!どうしてここに!」

「どうせ何を言っても無駄な気がしたので、呼んできておいたのです!」

「よくやった、サンポ!」

「お褒めに預かり恐悦至極」

 

サンポがナターシャを呼びつけ援護に来てくれた。

スヴァローグの警戒度は上がったが、それでもこの援護はありがたい。

 

「さて、新しい商売を始めるとしましょうか」

 

そう言ってサンポはロボットの軍隊へ爆弾を投げ入れる。

あくまでそれは煙幕ではあるものの、視界のみを使用するロボットの眼には効果覿面であり、その間にもサンポは次々とそのナイフでロボットを制圧していく。

 

「君たち、ロボット兵たちはこっちでなんとかするから。今はスヴァローグを!」

 

丹恒と穹は頷き、急いでゼーレたちの援護に駆けつける。

五対一。これほどの人数であればスヴァローグを止めるのも難しくはないだろう。

 

だが、数が少ないならまた足せば良いのだ。

 

「計測完了」

 

スヴァローグがもう一度、指をならす。

岩の天井から一つの機械兵が降り立った。

それはどの作業用のロボットも違う人間の手を模した異形とも呼べる機械であった。

 

その歯車でできた関節を動かしながら、それは強力な電場を発して襲いかかってくる。

 

「あの手に捕まるな!」

「わかってるって!」

 

五人は別々の方向に逃げつつ、攻撃の手を緩めはしない。

丹恒となのかがその手——マニピュレーターユニットを引き付けている間に、残りの三人はスヴァローグへと迫る。

 

「はあ!」

「————損傷あり」

 

穹の渾身の一撃をスヴァローグは両手で受け止めた。

そしてガラ空きになった胴へブローニャが銃弾を撃ち込む。

ゼーレは背中に乗り上げ、その鎧の肌を鎌で切り裂いた。

 

「スヴァローグ!」

「下がっていろ、クラーラ!」

 

受け止めていた穹を払い除け、背中に乗ったゼーレにその拳を振り上げる。

持ち手で受け止めたゼーレは勢いを殺しきれず、大きく吹き飛ばされた。

着地をしたゼーレの隣にマニピュレーターユニットを片付けた丹恒となのかが合流する。

 

「畳み掛けるぞ!」

「言われなくても!」

 

丹恒とゼーレがほぼ同時に走る。なのかは彼らの後ろから氷の雨を降らせ、ブローニャはそれを妨害しようとするレーザーを銃剣で防ぐ。

 

「生死虚実、一念の間なり」

「蝶と共に散れ!」

 

スヴァローグの周囲を無数の斬撃が関節を狙うように刻まれる。

ゼーレが空間を切り裂いたことによってできたその空間の隙間を丹恒が槍を貫いた。

その槍先は確かにスヴァローグの横腹にあたり、大きな傷をつけ急所に入ったのか、彼は身体中からばちばちと火花を出し倒れ込む。

 

「君たち、離れて!」

 

トドメの一撃を放たんとばかりに、ナターシャの大砲がスヴァローグへとその砲口を向けた。

丹恒とゼーレは後ろまで下がり、その大筒の中は次第に熱を帯び始めそのまま一つの砲弾が発射される。

 

「やめて、これ以上スヴァローグをいじめないで!」

「!?クラーラ、危ない!」

 

その引き金を引いたと同時にクラーラがスヴァローグの前に立ち塞がり彼を庇ってしまった。

しかし、砲弾はすでに発射されてしまい、それを止められるものはいない。

 

「契闊」

 

そして誰かがぼそっと呟く。

一同がその声の主に反応するよりも早く、穹は髪をかき上げながらバットを手放した。

そのまま彼は目にも止まらない速さでクラーラと砲弾の間に割り込んだ。

 

わずか、一コンマの時間。

着弾するより前に穹は砲弾をなんてこともなさそうな様子で掴みとり、その信じられない光景を目の当たりにした一同は黙ったまま彼を見続ける。

 

顔を上げた彼の表面には罪人のような刺青が刻まれていた。

 

「一旦、頭を冷やそうか」

 

穹——いや、悠仁はそう言い終えると、手に持った砲弾をまるで紙切れのように切り刻み捨て去った。

 

 

 




ほぼ原作まんまです。


皆さん、9狼は引けましたか?私の9狼は何故か髪の毛が青くて行動回数が多かったです。今話でちょうど活躍してましたね。
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