——ヌースがあなたに視線を向けている。
ヘルタの自己戴冠により、万機の王の視線が開拓者へと向けられた。
⬜︎⬜︎⬜︎到来を確認しました:あなたが来ることは必然です⬜︎⬜︎⬜︎
⬜︎⬜︎⬜︎あなたと私は宇宙の起点と終点で、すでに何度も出会っています⬜︎⬜︎⬜︎
第一の時、第二の時、第三の時、そして第四の時の終末は降臨した。
⬜︎⬜︎⬜︎質問:仮にそれを真とした場合、あなたはなぜ開拓をするのですか?⬜︎⬜︎⬜︎
「銀河を連係させて星々を繋ぎ止めるため」
⬜︎⬜︎⬜︎しかし終焉が誕生した以上、終点は必ず誕生します⬜︎⬜︎⬜︎
存在する可能性は4つ。そしてそのうちの3つは「壊滅」「調和」「虚無」と決まっている。ならばあと一つは?
「開拓」は必ず「終焉」へと向かい、あるいは「終焉」そのものとなるだろう。それでもなぜ旅を続けるのか。
開拓とは制限のない混沌。それが行き着く先は全ての星神が殞落し運命という概念が崩壊し、全ての存在が存在でなくなるのだ、と万機の王は告げる。
⬜︎⬜︎⬜︎仮にそれを真とした場合、あなたはなぜ開拓をするのですか?⬜︎⬜︎⬜︎
其の演算機能は目まぐるしく変化し、計算し、全てを解き明かそうとしている。質問も検証も、全ては其が辿り着く未来を決めているだけに過ぎない。
質問:「あなた」はなぜ開拓を続けるのですか?
あなたは暗闇の中で答える。
アキヴィリ!
其はもう質問を発しない。
疑問を呈することも、「あなた」の答えに言及する気配もない。しかし、すべては起こった。
目の前には紡がれた本の1ページが開かれている。
新しいページを開いたとき、穹は「運命」の渦心へと辿り着いていた。
「ここは……みんなは……」
「心配しないで。ここでは……すべての時間が止まってるの。正確には悠仁があたしたちのために止めてくれたの方が正しいのだけど」
気づけば、目の前にはキュレネの姿があった。
星々は沈黙し、全ての生き物は「壊滅」に飲み込まれていった。しかし、彼らにはまだチャンスがあった。
「ついに
其は待っていた。オンパロスの心と身体が一つになるこの時を。
星空を無数の「記憶」が漂い、この銀河に生きとし生けるものたちの種が残り続けていた。彼女はその「記憶」を集め、再創世を行うための
それらはあまりにも途方もない数だ。もし、その全てをキュレネ一人が背負うことになれば彼女でさえも無事では済まない。
「でも大丈夫。永遠に続くこの一瞬の中であなたが心の『記憶』を辿っていくなら……きっとあたしを見つけてくれる。そうでしょう♪」
キュレネの姿が視界から消えた。
開拓者は自然と足を踏み出す。そして走る。どれほど遠く、長く、果てしない先にあるゴールだったとしても彼は足を止めない。
誰もいない暗闇の中でナナシビトは手を伸ばし続ける。
心の中であの可愛らしい車掌の声が聞こえた。
「5、4、3、2、1……明日に向かって、出発じゃ!」
暗黒をかき分け、辿り着いた先に見えたのはセプターの始まり。知性の種が彼の目の前に現れる。
「最初の光よ、混沌を晴らせ!」
眩く暖かな曙光が世界を照らす。すべてが美しい瞬間で止まった「記憶域」
静かな花園の奥底で力を使い尽くし、自我がすり減ってしまっていた。「記憶の蕾」に彼はこれまでの旅で築いてきた物語を、記憶を、足跡を渡す。
重く、辛く、逃げたくなるような「記憶」の量。しかし、穹は手を伸ばす。
「キュレネ……起きて、俺と一緒に……『記憶』の運命を歩もう!」
蕾は花を咲かせ、デミウルゴスは再び目覚める。
「やっと会えた」
「ええ、あなたの肩って本当に頼もしいのね」
「楽勝だったよ」
永遠の1ページに集められた人々の記憶。これらを纏め、彼らは銀河規模の再創世を始める。開拓の仲間たちの、これまでの旅で出会ってきた人々の、黄金裔たちの「記憶」の因子が集う。例え世界を滅ぼすウイルスが銀河を覆ったとしてもその方程式を上書きし、「空白」で押し流そう。
この最悪の結末を焼き尽くすために。
——どうして旅を続ける?
「誰だ」
見知らぬ、誰かの声が聞こえた。
瞼の裏側で出会ったのは見知らぬ"開拓者"の姿。
万機の王に問われた、開拓を志す理由。それが頭の中で反芻し、彼の身を不安にさせる。
安心させるようにキュレネが穹の手を包み込んだ。
「大丈夫よ。だってあなたは神様の導きもないまま一歩一歩、自分の足でその道を拓いてみせたんだもの。だから先輩としてオンパロスに見せてあげて?」
瞳を閉じる。
黄色い眼、灰色の髪、姿は違えどそれが「開拓」を志す者の姿ということだけはわかる。
——なぜ開拓を続ける?
「俺は……俺が『開拓』を選ぶのは……すでにこの道を歩んでいるからだ!」
13回の鼓動の後、光が天地を創り出し、星々は「愛」の序奏曲をかなでる。
「生命」の解を求める十三因子、原初の混沌は返還され——
「「過去の『記憶』で未来の運命を『開拓』し、創世のための最初の一筆をここに刻もう/刻みましょう!」」
また明日会うために、少女と少年は遥か先にある輝きに手を伸ばす。
手を繋いだ二人は停滞する銀河の渦中を「愛」で照らしていた。列車は汽笛を鳴らし、最初で最後の物語が刻まれた場所へと舞い戻る。光を失ったはずの世界は徐々に花を咲かせはじめ、呪いの王によって停止させられていた時間が鼓動を復活させる。
「火追いは『壊滅』なんかじゃない!」
次元の壁を越え、開拓者は最後の障壁を無理矢理破壊してみせた。
「檻を破るための——『開拓』だ!」
彼は再び戦場へと降り立ち、デミウルゴスは一柱の神となってそこに顕現する。失われた黄金裔たちのデータが復活し、漂白されていた世界が色づいていった。
「来たか」
目の雨にそびえ立つのは一対の腕を失った首無し巨人と、身体の欠けた反創造主。そして成長したキュレネとボロボロになった悠仁の姿があった。彼らが戻ってきたのを確認した悠仁は反創造主に刺していた三日月の儀礼剣を抜き取り、仲間の元へ戻っていった。
同時に10分間の術式解放時間が終了し、溢れ出していた悠仁の呪力はみるみるとしぼんでいく。これより先、ザンダーの肉体での術式の行使は不可能となった。だが、今はそれ以上の心強い味方が戻ってきたことの喜びがまさっている。
そして術式を使えなくなったのは鉄墓とて同じこと。「歳月」の力によって体内時間を巻き戻され、「呪い」に関する内部データはすべてリセットされたのだ。
もはや鉄墓に「無下限呪術」、そして「無量空処」を使える方法は残ってはいない。それを学習する時間も余裕も残ってはいなかった。
ボロボロになり、見窄らしく見える上着を悠仁は破り捨てた。そして穹の横に並び立ち、手を叩き合う。
「おかえり」
「応!」
そして再会を果たしたのは悠仁と穹だけではなかった。
「キュレネ……なの、か?」
「ええ、本当に久しぶりね。カスライナ」
「……キュレネ!」
西風の果てで別れ、永劫回帰の中で何度も殺してきた彼女に少年はようやく再会する。白髪の青年の目元には涙が浮かび、桃髪の少女の元へ駆け寄っていった。
「本当に君なんだね。本当に……ああ、こんな時、なんて言葉をかければいいのかわからないや」
「相変わらず泣き虫さんなのね。変わっていなさそうで安心したわ」
「あははっ……それに比べて君は、随分と変わったね」
「ええ、それもこれも彼らが来てくれたおかげ。そうでしょう?」
「うん、君の言う通りだ。僕たちはようやくやり遂げた。長きに渡る徒労も……これで報われる」
「せっかちさんね。まだ気を抜いてちゃダメよ?あたしたちの物語はここから始まるんだもの」
ファイノンの頬を伝う涙を拭き取り、キュレネは大きくなったデミウルゴスへと顔を向ける。
「久しぶりね、知性の種さん♪せっかくあなたに合わせて大きくなったのに、また大きくなっちゃったの?」
「でも、あなたに似ていてきれいでかわいらしいでしょう?」
「ええ、とっても!」
「あなたが残した詩はみんなが優しく書き繋いできた。再会したら今度はあたしがあなたに物語を聞かせるって約束、まだ覚えてる?」
「もちろん。『愛』についての物語。あたしもずっと楽しみにしてたの」
「でも……水晶の花と小さな妖精の物語を聞かせてあげるのはもう少し先になりそうね」
12のタイタンたち、そして物語の英傑たちが戦場で立ち上がる。
復活したアナイクスはすぐさまボロボロの状態の悠仁のそばに行って赤い結晶を渡した。
「よくやりました、虎杖。これを」
「なにこれ」
「呪力を補う特製の『賢者の石』です。今の状態のあなたでも多少なりとも回復するはずですよ」
「サンキュー、ゴラスン」
「…………まあいいでしょう」
「?」
ぱくっと躊躇いなくその結晶を飲み込めば、空っぽになっていた呪力がわずかながらにも回復した。さすが賢者と呼ばれた男の錬金術だ。"呪力"のストック品など前世ではほとんど見られなかったのに。
穹は紡がれた叙事詩を開き、黄金裔たちの軌跡が記されたページが12の虹色に灯っていく。「記憶」の波は「壊滅」を拭い晴らし、世界が美しいものだと肯定してみせる。
「四億の叙事詩を、『俺』が紡ぐ」
「火追いの運命を変えましょう——あたしたちの手で!」
どれほどの力があろうとも鉄墓を物理を用いて完全に倒すことは不可能。それは悠仁との戦いですでに証明されている。
ならばどうするか。それは絶滅大君が叩き出した「憎悪」という解を間違いだと証明してみせるのだ。ここには12のタイタン、火を追う旅を何度も経験してきた英雄たちがいる。彼らの歩んできた道を、歴史がその背中を押してくれた。
「門関の月、さすらう足跡をここに『調和』させん——」
「歓喜の月、杯を掲げ『虚無』を振り払わん——」
「平衡の月、『秩序』を自由の礎とせん——」
鯨が歌声を響かせ、皇帝が駒を配置し、百界門が開かれる。
セプターによって定められた役割ではなく、彼らに相応しい「運命」を空へと掲げた。
無下限呪術を使えなくなった鉄墓は精一杯の反発を見せるため、「壊滅」の軍隊を蟻のように吐き出していった。無価値を証明する槍と隕石が群星の空を覆い尽くす。
「拾綫の月、金糸を紡ぎ『純美』を織り上げん——」
「収穫の月、『知恵』にて愚者たちの蒙を啓かん——」
「機縁の月、『愉悦』を黎明に振り撒かん——」
人形が糸を紡ぎ、賢者はすべてを見透し、俊足が世界を翻弄する。
金色の糸は反創造主の肉体を華麗に縛り上げ拘束しようとするも、再形成されたミソスとロゴスが張り巡らされるそれを切り落とした。空を埋める暗闇は黄金裔たちを殺すためだけに向けられる。
「⬜︎◼︎運命の枷⬛︎▪︎」
ミソスを握りしめ、複製された巨腕が彼らを囲っていた。開かれた巨大な手が彼らに迫り——
「もう、ちょっと待って!」
キュレネが四方八方に矢を放ち、その複腕をことごとく撃ち落としていった。
「進ませてってば♪/進みなさいってば!」
二人の少女は空に「記憶」の流星を飛ばす。天を翔けていく青い星々は銀河の中で「愛」の華を咲かせた。
侵食する憎悪はさらに勢いを弱め、ヴォイドレンジャーの軍団ももはや烏合の衆と化している。
「紛争の月、永遠なる『巡狩』の栄光とならん——」
「慰霊の月、死を『均衡』の終着にはさせず——」
「昼長の月、晨昏を『存護』の微光に変えん——」
赤色の獅子が咆哮を上げ、龍は枯れた大地に死を咲かせ、天空の虹が英雄たちの道行きを整える。
物量によるゴリ押ししか手立てのない鉄墓にとって火を追う者たちの勢いはもはやそう簡単に止められるものではなくなっていた。
「栽培の月、『不朽』の脊髄とならん——」
「長夜の月、『記憶』を紡ぎて群星となさん——」
「自由の月、運命の枷を『壊滅』せん!」
金色の龍は大地を支えながらその巨体をうねらせ、クラゲが氷山を生み出し、烈日が天を引き裂いた。
立ち込める煙の中を二人の開拓者が駆け抜ける。「壊滅」の槍、ロゴスとミソスの巨腕、首無し巨人からの破滅光が降り注ぎながらも黄金裔たちの援護によって二人は反創造主の元へと迫っていった。
悠仁の腕に乗っかり、穹の体は勢いよく鉄墓の方へと投げ飛ばされる。バットを振るい、弱った反創造主の無機質な肉体が欠けていく。すぐさま追いついた悠仁はその脚を掴み、大地へと叩きつけた。二人の拳が鉄墓の肉体を破壊しようと迫るも、地面の奥から顔を出した剣山によって妨げられる。
「宿世の月、『神秘』を以って廻る呪いに終止符を」
秘匿された"呪い"の力が剣山を破り、大地をひっくり返した。空へと逃げようとした鉄墓に対し、悠仁は穹の足を掴んでその体ごと思いっきり横に振るう。通常のリーチを超える距離からの攻撃に反応しきれず、"呪力"を込めたバットは勢いよくその顔面へと命中した。
「『愛』を収束させ川と成し——」
「——『憎』の墓場を押し流しましょう!」
さざ波が無数に散らばる「記憶」の欠けらと混じり、首無し巨人の身体を押し流していく。
永劫回帰によって積み上げられた憎悪は次第に答えを導き出せなくなっていた。
その間にも虎杖悠仁と穹は容赦もなく攻撃を続ける。「壊滅」プロセスをリセットされた鉄墓はふたたび学習を始めようとするも、基礎を誰よりも学んでいる二人の純粋な打撃による攻撃はそれを的確に邪魔した。
「▇█◻︎回帰◻︎▪︎◼︎」
ミソスのコアがエネルギー波を乱立させ、大気を揺らす。
「おっとと」
「ありがとう!」
それによって浮き上がった穹の身体を悠仁はなんとか掴み、自らが召喚した存護の槍を突き立てた。術式は使うことはできないものの、呪力に関係のない星神からの力であれば問題なく今の彼にでも使用することができる。
「◼︎複製◻︎▫︎」
複製された巨腕が上空から右から左からと放たれてくる。
避け切る暇はないと判断した悠仁は上空へと穹を投げ、四方八方から来る圧迫攻撃に一人で受け止めてみせる。"呪力"で覆われた剛腕は押しつぶされることに耐え抜き、みしりと外側の筋肉が同時に割れるも、防御と攻撃の手が緩まることはない。
「ふんっ!」
上空に投げ飛ばされた穹はそのまま悠仁を取り囲む巨大な手を勢いよく破壊した。反創造主は物量による蹂躙を決め、空に生成した数百本の「壊滅」の槍を様々な角度から解き放つ。
——シン・陰流「簡易領域」!
「記憶」によって複製された「存護」の槍を両手に持って悠仁は近づく槍を防ぎながら突き進んでいく。
青く照り輝く琥珀の槍は空白の安全空間を作り出し、領域内に入ってくる「壊滅」の槍を次々と破壊していった。
最強が使う弱者の技術。領域展開の使用が不可能になったとて「呪いの王」の次の一手が消えることはない。防御姿勢が解かれることはなく、まさに動く堅牢な城のようだ。
徐々に反創造主との距離を縮め、間合いに入ったその瞬間、悠仁の背中に隠れていた穹が彼の背中を蹴り上げた。
「喰らえ!」
白く発光するそのバットが大振りに落とされ、反創造主のロゴスが身代わりとして破壊された。そのまま大地を粉々にしたバットをひっくり返すように持ち替えて、敵の顎を直で狙い定める。
時を同じくして悠仁が持ち替えた「壊滅」のバットもまた白く照り輝いていた。
「「ルールは破るためにある!」」
二重の衝撃が双方向から鉄墓を襲い、その「憎悪」の身体をなじった。交錯する白線。左右非対称の歪な肉体の羽根はもがれ玉砕するも、それでもまだ「壊滅」の方程式は完全な沈黙には至りきっていない。
反創造主の腕は枝分かれしていくように伸びていき、息吐く暇もないままに悠仁の二つの右腕を突き刺した。
「▫︎⬜︎浸食⬛︎開始◾︎」
生命破壊のデータが機械の肉体を蝕んでいく。「壊滅」のデータウイルスは機械の肉体には効果抜群だと、先ほどまでの戦いで嫌になるほどわかっていた。
反転術式による回復を使えない今、腕を切断してウイルスを遮断することは純粋な弱体化と繋がる。しかし斬り落とさなければ、侵食が肉体を蝕み、ザンダーの身体は使用不可となるだろう。
「っ!」
しかし、悠仁は躊躇すらせずに素手でそれを切り落とした。切断された腕を明後日の方向へと蹴り飛ばし、切断面から火花と電線が飛び散る。
神経がひっくり返されるような痛みだったが悠仁は歯を食いしばりもせずに耐え抜く。その「憎悪」の神体からふたたび"呪い"が増幅し始めた。
「█◽︎学習開始◾︎▪︎」
「コイツ、呪力を!?」
「ち頭がいいってのは羨ましいな」
術式、呪力操作の方法の学習がふたたび開始されたのだ。いまはまだおざなりな呪力の操作しか始まっていないがこのまま放置してしまえばあの無下限呪術も復活するだろう。
猶予はわずか。時が過ぎれば詰むのはこちらだ。
「▇◽︎█根絶◾︎排除⬜︎◽︎」
大地が浮き上がり空を飛ぶ足場が彼らを隔絶していく。
砕かれた石礫は「壊滅」の光弾に混じって射出され、眼前の脅威を逃がそうとはしない。二人は足場や空の面を蹴って避けていくが、反創造主との距離は離されてしまう。
「◽︎◻︎自爆⬜︎◾︎」
「————!」
岩場の陰から顔を出したロゴスとミソスのコアが唐突に爆ぜ、新星爆発が起きた。そのコアは呪力を持っていなかったため、瓦礫と同化しており、不意に迫った攻撃にわずかに反応が遅れてしまう。
膨大な熱量の放出。悠仁は反射的に穹を庇い、その爆発に巻き込まれる。致命傷までは免れたがその二つの片腕ももがれ、残りの腕は一本しか残っていない。
「悠仁!」
穹は彼を心配して手を伸ばそうとするが、それを「壊滅」の槍が邪魔しにきた。
それを見て片腕だけでは応戦不可能だと判断した悠仁は宙でひっくり返り、自身の足で相方の足を蹴り上げた。
「問題ない!行ってこい!」
穹は上に、悠仁は下に。その意を察した穹は勢いよく彼の両足に乗っかり、ロケットのように反発されて反創造主の佇む空中へと向かって行った。そのまま勢いよくバットを反創造主へ叩きつけ、地面へと墜落させる。
「うおおおおおお!!」
大地にその身体が叩きつけられた瞬間、存護の槍先が眼前に迫ったが、鉄墓は身体を起こして避けてしまう。反創造主は流れるように拳を穹に向けて放ち、槍を突き刺したばかりの穹はバットで急いで受け止めるしかなかった。
「⬜︎◽︎終わり◼︎◾︎◻︎」
——黒閃
黒い火花は平等に微笑む。
雷鳴を轟かせる反創造主の拳は「壊滅」のバットを穹の手から突き放し、はるか群星の先へとぶっ飛ばしていった。目の前の敵が消え、「憎悪」の矛先は他の黄金裔の元へと向かう。
だが、その意識の向きを妨げる者が一人いる。
「おい、小僧」
岩山の上から鉄墓に声をかけたのは他でもない悠仁だった。しかし、その身体はもはや原型を留めておらず、傷に塗れ、腕は一本しか残っていなかった。
満身創痍。今の彼に反創造主と戦えるほどの力も術式も呪力も残ってはいないだろう。鉄墓は意識の2割程度を彼に向け、「壊滅」の槍を数本だけ用意した。
「知ってるだろ……術式は魂に刻まれる」
飛来してきた槍を避けることも防御することもなく、無防備な状態で彼の身体に突き刺さる。だが残された片腕だけは怪我も致命傷も負ってはいない。
「掌印ってのは所詮は飾りだ。脳を無理やり広げとけばいくらでも変えられるんだよ。俺の記憶から見なかったのか?」
反創造主はその意図を即座に察した。
まさか、使えるのか。何故……いや相手はあの”呪いの王”。縛りによる術式の使用不可すら破れるのかもしれない。
鉄墓の意識の7割が向く。
悠仁は己の怪我すらも顧みず、片腕で掌印を結んだ。その手は偶然にも帝釈天印のものと同一であった。
指を交錯させ、彼は唱える。
「
「!」
鉄墓の意識の10割が悠仁の方へと向いた。
今、あの伏魔御厨子をその身に受ければ敗北は確定。領域展開をできる状態にはない反創造主は持ちうる全てをもって彼を排除することを選択した。
「クハッ——学習しねぇな。ポンコツロボット」
だが虎杖悠仁は領域展開をしなかった。彼はただそれを愚行だと嗤う。
それが己の命を賭けたブラフだと気づいた時にはすでに一人の「救世主」の接近を許していた。白い髪がなびき、「壊滅」の怒りが「壊滅」へと向く。
「終わりだ、鉄墓!」
呪力探知を張り巡らせていた鉄墓にとっての天敵。それは呪力を一切持たない生物だ。
思考回路の全てを悠仁対策に向けていた鉄墓は当然ながらもその攻撃を避けることはできない。天地を分かつほどの轟音を響かせ、鉄墓は野球ボールのように慣性に従って飛ばされていく。
羽根をもがれ、身体を壊され、呪力で回復しようにも空から降り注ぐ「記憶」の矢がそれすらも阻む。地に堕ちた反創造主が向かうその先には——
「やれ、穹」「やれっ相棒!」
ただひたすらに拳に呪力を貯めていた穹がいた。
目を閉じ、周囲のすべてを断ち切り、己に迫る敵だけに集中する。息を忘れた彼の唇から雫が垂れ落ちていった。
飛来する鉄墓に向けて、最後の一撃が放たれる。
「この
空間は捻れ、呪いは寿ぎ、新芽は蕾へ、蕾は花へ。
黒閃!!!
開拓者は刹那の奇跡を掴みとった。
「はあああああああ!!!」
通常の2.5条の威力すらも超えた黒い花火は銀河の渦中で確かに咲き誇った。
その攻撃をモロに食らった反創造主は片膝をつき、起き上がる様子すら見せない。ただ今自身に起こっている結果に困惑し、思考回路を極限に回すことしかできなかった。
「◾︎⬜︎誤謬◼︎◽︎▪︎不揃い◾︎⬛︎▇誤り」
「首なき巨匠、運命を変えるチャンスがないのなら、選択はあたしたちに譲ってみない?人間はきっと証明するは『壊滅』の温床にだって、優しいお花が咲くことを」
デミウルゴスは「愛」の矢を束ね、開拓者の紡がれた叙事詩が虹色に光り輝く。
「そして俺たちは明日の黎明を『開拓』し……」
「紡がれた物語と同じように、『創世』を記しましょう!」
枯れた大地に生命の「記憶」は芽吹き、呪いは「愛」で塗り替えられていく。
その波に呑まれながら、鉄墓は自身に残された「憎悪」をほとばしらせ、その解を求めさせようとした。
「⬛︎◾︎◻︎知恵▇█プロセス◻︎⬜︎壊滅……⬛︎◽︎求めよ◾︎生命の第一原因の◾︎█◽︎新たなる◼︎⬜︎答え」
霊智堕落の原因は最後の抗い。己の答えこそが正しいのだという傲慢を突きつけた。複製されたミソスとロゴスから波紋が広がり、二重の螺旋は世界を殺す槍をふたたび作り出す。
「——壊滅!!」
目の前の敵たちをもう一度「壊滅」させるために放たれた巨大な槍。それはオンパロスへとふたたび迫る。
「いや、その間違った答えを、俺たちは否定する!」
「いいえ、その間違った答えを、あたしたちは否定する!」
開拓者はオンパロスの全てを背負い、「愛」の化身と共に「壊滅」の答えを書き換えていく。世界を蝕もうとしたその槍は束ねられた「記憶」の矢に衝突し、次第に勢いを弱まらせていた。
やがてその勢いは世界の壁を打ち破り、反創造主と首なし巨人へと向かう。「愛」が憎悪を塗り替えその矢は「知恵」の絶滅大君のコアを確かに貫いたのだった。
「そして……群星を抱きしめましょう!」
砕け散り、静まった「憎悪」はチリとなって消えていく。
しかし、その惨めな抗いは終わってはおらず、鉄墓は無数のデータウイルスとなってふたたび銀河を侵食しようとしていた。
「——っ!」
もはやこれ以上、彼らに対抗できる力はない。
そう思われた時、開拓者の胸から黄金の浄火が湧き上がり、侵食されていくデータを打ち消していった。
「『壊滅』に『壊滅』を……やっとみんなで揃って勝利の焚き火を見られるよ。相棒」
ファイノンを先頭に、9人の黄金裔たちはその光の元へ向かっていく。
キャストリスがその光景を眺めている穹の手を引き、光の元まで連れて行ってくれた。
「もう少し、近くに行きましょう?この温もりが私たちの『生きた証』です」
浄化の火を矢に乗せて、穹は弓を引いた。
全身がこわばり震え、緊張のほどけた手は簡単に矢を放してはくれない。
そこにキュレネが手を添えてくれた。そして震える身体を悠仁が優しく支えてくれる。
「大丈夫だ。もう呪力を込める必要もない」
「そう、しっかり前を見つめて」
引き絞り、そして矢は放たれた。
それは銀河の中を一瞬にして駆け巡り、「壊滅」のデータを次々に消していく。黄金裔たちの意志が紡がれた光は滅びたはずの世界に色を、そして光を与え新たな創世を生み出した。
「この矢は終わりじゃない……希望の始まりよ♪」
結論は明らかになった。ヌースの解は「壊滅」ではない。
しかし其は解の探求を人類に託し、沈黙を続ける。宇宙は存続を求め、もがき続けるだろう。
たとえふたたび「壊滅」の危機に瀕したとしても、星々は波を起こし、存在を抱いていく。
次回、イッテ星穹です