奇物:両面宿儺の指   作:二等辺大三角形

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えー、ほとんど原作まんまです!誠に申し訳ありません!


その氷壁を打ち崩せ

 

——データベース呼び出し要求、No.13175。暗号レベル:最高

 

スヴァローグのデータからその過去を覗き見る。

はるか大昔、大守護者アリサ・ランドは「星核」を利用し、ベロブルグの技術を発展させていった。

しかし、研究者たちによってその星核が寒波や裂界現象が引き起こしていたことが判明。

それを市民に簡単に公表することはできなかった。偉大な大守護者の手によって厄災が広まったとすれば、民の信頼は地に落ち、ベロブルグが崩壊すると危惧したからだ。

そしてアリサ・ランドはある研究員に一つの命令を下す。

 

——星核を完全に破壊する方法を見つけよ。と

 

存護の名の下に彼は誓った。

 

——13175再生完了。続いて:データNo24830

 

研究員の男は歳を取り、病に伏していた。

彼の助手は言う。

なぜ、研究成果を隠すのか、と。

年老いた研究員はベロブルグの安寧のためだと答えた。

 

すべては存護の名の下に

 

——24830再生完了。続いて:データNo57614

 

そこはすでに無人の研究所になっていた。

見知らぬ若い守護者がこちらを覗き込んでいる。

スヴァローグはあの博士が利用していたこの研究施設の護衛ロボットであった。

もちろん、大守護者が探していたのは彼ではない。この研究施設に残っているはずのデータだけだ。

そして、彼女はスヴァローグは下層部へと送ることにした。

開拓団が自衛機能を持つロボットを必要としていたらしい。

 

彼女は言った。

 

いずれ、この存護の遺志は誰かが受け継いてくれると。

 

記録はここで途絶えている。

 

——57614再生完了。データ開示終了

 

スヴァローグのデータを閲覧した彼らは何も言わない。

 

「…………」

「つまり……どういうこと?」

「結論から言って仕舞えば、過去の守護者や人々の一部は星核が災厄の元凶と知っていたらしい。だが、彼らは都市の安全のため、真実を隠すことを選択した。そして、星核の破壊は失敗に終わった」

 

丹恒のわかりやすい説明のおかげでどのような状況だったのかを把握できた。

チラリと横を見れば、ブローニャは今までに見たこともないような青ざめた表情で押し黙っていた。

 

「ブローニャ、大丈夫?」

「ええ……ただ、少しくらくらするだけ」

「君たち、とりあえずこっちで話しましょう。情報を消化するのに時間がかかるのはわかるけれど、次の計画を決める必要があるわ」

 

ブローニャをゼーレに任せ、星穹列車の一同はナターシャと今後について話すことになった。

クラーラの説得のおかげでスヴァローグは炉心——つまり上層部へと繋がる通路の封鎖を解いてくれた。しかし、それですぐに地下の人々が上へ突入できるわけではなく、カカリアの対応を考え地炎は力を温存することに決めたらしい。

 

なぜ、一介の医者にすぎないナターシャがそのことを知っているのか。

それを尋ねれば、返ってきたのは意外な答えだった。

 

「言っていなかったけど、私は地炎のボスなの」

「ええ!?初耳だよ!」

「言っていなかったからな」

 

オレグはあくまで彼女の代理として下層部の表面的なことの処理をしてくれていた。

その間にナターシャはスヴァローグに対して反乱の計画を立てていたらしいのだが、星穹列車の尽力のおかげでその計画の必要性は無くなったとのこと。

 

「運が良ければ、明日には戻れるはず。だから君たちも今のうちに休んでちょうだい。ずっと忙しかったでしょう?ここで体調を崩したら元も子もないからね」

 

ナターシャの言う通りだ。リベットタウンから帰ってきて、スヴァローグと会うまでほとんど休憩をしていない。それほど疲れを感じているわけではないが、油断は禁物だ。

彼らは彼女の言葉に従い、リベットタウンへ戻って戻ることにした。

 

「あ、あの!」

 

背後からクラーラの声がかけられた。

 

「さっきは助けてくれてありがとうございました!えっと……お兄さんとは別の人、でしたよね?」

「ああ、悠仁って言うんだ」

「悠仁お兄さん、ありがとうございました!」

「気にすんな。もうお兄さんって歳でもないしな。そもそも、無理やり争う形になったのはこっちが原因だったし」

「もっと話術を磨いておくべきだったかも」

「そういう問題?……うーん、まあいいや。そういうわけだから、クラーラが気にすることなんてないよ」

「そうそう悠仁の言う通り!さっきはスヴァローグをボコボコにしちゃってごめんね。あの人は大丈夫そう?」

「スヴァローグが言うには数日もすれば元通りになるそうです」

「じゃあ、その時はお見舞いの品を持って行かなきゃね!石油とかどうかな?」

「俺に聞かないでくれ」

 

そもそもこの星に石油はない。

 

「あ、あの、みなさん。また……会えますか?」

 

クラーラの質問に顔を見合わせた一同は口を揃えて言った。

 

「「「もちろん!」」」

「開拓の旅は必ずしも一度通った星に戻ってはいけない、というルールはない。この星の問題が片付けることができれば、再び会うこともできるだろう」

「そんなに真面目に返さなくてもいいんじゃない?」

 

なんてこともありつつ、彼らはクラーラに別れを告げ、ホテルで一夜を過ごすことになった。

 

明日は決戦の日。

その夜、あの夢を見ることはなかった。

 

 

————————————————————

 

 

「ふぅ、やっと戻ってきた!すぅ——はあ——あと少しで新鮮な空気を忘れるところだったよ」

「地下が汚い空気で悪かったわね」

「ええ!?そ、そこまでは言ってないよ!」

「冗談よ。それにしても……上層部はこんな感じなのね」

 

ゼーレは幼い頃から下層部で暮らしていたため、上層部に出るのは初めてらしく、視界に映る全てのものを物珍しそうに眺めている。

特に天井——雲が流れていく空には慣れないのか、視線が常に上に向かっているようだ。

 

「次はどこへ向かうの?ゲーテホテルは顔が割れてるし、直接城に潜り込むってこともできないでしょ?」

「ブローニャがカカリアを説得できていればいいが、そう簡単にうまくいくとも思えない。やはり、セーバル・ランドゥーに会いにいくべきだ」

 

ブローニャはカカリアを説得するため、一同より早く下層部から出ていった。

養子とはいえ、カカリアは実に母親と言っても過言ではないほど、同じ時間を過ごしてきている。そう簡単に見限ることはできず、せめて娘として、シルベーメインの立場として彼女への説得を試みたいとのこと。

そして、もしものことがあった場合に彼女はランドゥー姉弟を訪ねてみるといい、と言う手紙を残していった。

 

ジェパードはシルバーメインの立場もあるため、会うのにはそれ相応のリスクがある。

そのため、ひとまず彼の姉——セーバルのいるからくり工房へと向かった。

 

「——なるほどね、いかにもカカリアらしいやり方だ。わかった、あんたたちを信じるよ。あの建造者が本当に証拠を持っているならとっくに示してるはずだしね」

 

セーバルに事情を説明すれば、彼女は快く彼らを匿ってくれることとなった。

どうやら、カカリアとは旧知の仲であったらしく、彼女が大守護者となる前は親友ですらあったらしい。

しかし、何らかしらのトラブルによって彼女たちの関係は疎遠になってしまったらしく、セーバルは話したがる様子ではない。

 

(セーバルって何歳なんだ……?)

 

カカリアは幼いブローニャを一人で育て上げ、若くして立派なシルバーメインにした。

彼女の年齢は見た目で言えば18や19。もしかしたら実年齢はもっと上かもしれない。

そんな彼女の母親であるカカリアは当然、それなりの年はとっているはずだ。ならば、彼女と親友であったセーバルは——

 

やめよう。世の中には触れてはならない禁忌もある。

 

彼女にブローニャからの手紙を渡し、星核に関する情報を伝えた。

 

「どうりでブローニャの情報がないわけだ。星核ね……まさか、こんなところでその名前を聞くなんてね」

「星核について知っているのか?」

「知ってるも何も、私が研究部にいた時の仕事は星核の研究だったからね。どうやら、星核について知ろうとした者は誰であれ追放されたり、処理されたりするらしい」

 

運悪く星核をテーマとして選んでしまった彼女は、独自の研究で星核と裂界が関係していることに気づき、その実物に近づこうとしたところをカカリアの手で止められた。

大守護者となった彼女は変わり、かつての信念や情熱を忘れ、ただの冷酷な支配者と成り代わっていったらしい。

 

「そういえばスヴァローグの記録で……」

「大守護者には星核の声が聞こえていた、と言う話だな。おそらく、カカリアもその影響を受けた可能性が高い」

「それって……カカリアが守護者に受け継がれる意識の影響を受けてるってこと?」

「なるほどね。それがもし本当なら、私が時々全くの別人だと思っちゃうのも仕方ないか。……彼女が大守護者になるのを止めていれば、こうはならなかったのかな?」

 

それは結果論だ。

カカリアが仮に大守護者の座につかなかったとしても、代わりの守護者となる者が再び同じことを繰り返すだけだろう。

しかし、自嘲気味に笑うセーバルにそのようなことを言う者はいない。

いくら疎遠になっていたとはいえ、かつての友人を止められた可能性があったことに思うところがあるのだろう。

 

「星核がどこにあるのか知っているか?」

「知ってるよ。直接見たことはないけど、擬似実験と観測の結果でおおよその位置は掴んだ。観測結果によれば、星核はベロブルグの北に位置する広い雪原のどこかにある」

 

そこにいけば万事解決となったのだろうが、現実はそれほど甘くはない。

ベロブルグの北はほとんどが裂界に飲み込まれていて、北部の雪原へと向かうにはシルバーメインの前線の禁止区域を抜ける必要があるらしい。

そのさきに待ち受けているのはシルバーメイン主力部隊の屯所。裂界の侵入に対抗している彼女の弟——ジェパードがいる場所だ。

 

「どうしよう、ウチら3人とゼーレじゃ、足りないね。悠仁なら一人で何とかできる?」

「できないことはないが、ヘルタからあまり入れ替わりを多用するなって言われてるからな。俺の力はもしもの時のための最終手段だと思ってくれ」

「そんなに悲観しなくても大丈夫!前線の兵士たちとは研究員時代からの知り合いだからね。私があんたたちを連れていってあげるよ」

「いいの?」

「私も直接星核を見てみたいからね。——それに、あれは私が10年以上取り組んできたテーマだ。人生に全部で何回10年があると思う?これで決まりだね!善は急げとも言うし、早速出発しよう!」

 

流石の悠仁も俺は40回ぐらいあったよ、とは言わない。

なのかじゃないのだから、デリカシーは多少歳を食った彼にもあって当然だ。

 

自分たちの顔が乗った手配書を盗みながら彼らはシルバーメインの禁区エリアへ向かう。

あまりにも独特な絵柄の似顔絵ばかり描かれていたためか、まったくと言っていいほど、誰にも気づかれることなくそこまで向かうことができた。そう、あくまで独創的なだけであって上手いとか下手とかそういうのは関係ない。関係ないったらない。

 

セーバルは彼らを連れて、エネルギーパイプの故障に来たと嘘をつく。

最初は疑われたものの、彼女があの真面目で厳格なジェパードの姉であることもあり、思ったよりもすんなり入ることができた。

いくつかの装置を起動して、橋を渡りながら彼らは奥へと進む。

ところが、起動しようとしたいくつかの装置の中に厳重にロックがかかった端末がある。

彼女が言うには、裂界のモンスターたちが仮に前線を越えたとしても決して桟橋を渡れないように作られたものであるらしい。

それは多くのシルバーメインが命を落とすことを前提の作戦だ。一人一人が、今この場で無辜の人々のために命を削っている証拠でもある。

 

「中央にあるあのエネルギー中枢の権限さえ手に入れることができれば、桟橋を渡れることができるようになるんだけど……」

 

近くで護衛をしている兵士に尋ねてみたところ、暗号キーを所有している隊長とやらに会う必要があるとのこと。

運がいいことにその隊長である男——ダンとセーバルはかなり親密な関係であるらしく、なんと彼女の元バンドメンバーであった。彼女曰く、話のわかる男なので何とかできるみたいだ。

 

「ダン、久しぶりだね〜!あんた、護衛隊長になったんだって?」

 

休憩用のテントが敷かれているスペースにいた、鉄鎧を身につけている大男に彼女は話しかけにいった。

その男は兜で顔が見えないものの、セーバルの顔を見るなり動揺——わかりやすく言えばキョドッた。

 

「セ、セーバル!?ひさし、ぶりだな……相変わらず、きれ——ン"ッ、元気そうで何よりだ。どうしてわざわざこんな危険な場所まで来たんだ?」

「紹介するよ、この人たちは私の助手。からくり工房の仕事を分担して手伝ってもらってるの。あそこの衛兵から聞いたんだけど、暗号キーが必要らしくてね。手伝ってくれない?」

「……暗号キー?」

 

明らかに動揺を隠しきれていない様子だった彼の雰囲気が変わる。

それは旧友との再会を懐かしむ男ではなく、一人前の兵士のものであった。

 

「すまない、セーバル。ジェパード戌衛官になんと言われてここに来たんだ?」

「ん?ああ、それは……『姉さん、禁区のエネルギーパイプが故障した、あの役立たずの技師たちでは原因すらわからない」って感じ」

「じゃあ、もう一つ。——彼はいつ連絡した?」

「え、え〜っと……今朝かな?そう今朝。今日は市街の巡回を担当してるんでしょ?その依頼をするために私の——」

「セーバル」

 

休憩していたはずの彼の背後の兵士たちがいつの間にか起き上がり斧を持ち上げ始める。

 

「長官は先ほど前線に戻ってきた。彼にもう一度確認してみよう」

「えっ!?待って待って、もう戻ってきてるの?さっきまで城内にいたは——あっ」

「昔からお前は嘘が下手だな……そこの者たちもお前の助手じゃないんだろ?俺はシルバーメインだ。お前を巻き込むつもりはない。今すぐ、入り口に戻れ」

 

どうやら交渉は決裂のようだ。

丹恒とゼーレはすでに武器を構え、臨戦態勢へ入ろうとしている。

 

「セーバルは先に戻ってて」

「いや——私があんたたちを巻き込んだんだ。私も戦うよ。この件はベロブルグだけじゃない、世界の運命に関わる。ダン、私たちを通して」

「セーバル!かつて毎日のようにバンドの練習を共にしたお前ならわかるだろう?——俺のロック魂は、軍人としての尊厳を守ることだ!」

 

————————————————————

 

「ほんっと、手強いやつだったわね」

「ちょっとやりすぎたかな……まあ、いっか」

 

五人は禁区エリアを走り、走り、走り続ける。

あたりには敵襲警報が鳴り響き、武装したいくつもの兵士たちがこちらへと向かってきていた。

無事、ダンから暗号キーを奪い取り、エネルギーシステムをオフラインにできたはいいものの彼を倒してしまった影響により周囲のシルバーメインたち全員がこちらに敵意を向けてくることになった。

いくつもの機械兵やシルバーメインを薙ぎ倒していきながら、彼らは北原へとつながる門の姿を視認する。

その前に立ち塞がっていたのは——

 

「……ジェパード」

「まさか、本当に姉さんだったとは」

 

ジェパードはショックを隠しきれないと言わんばかりの表情で彼女を見る。

 

「ジェパード、そこをどいて」

「それは此方のセリフだ、姉さん。侵入者から離れ、ゆっくり僕の後ろまで来るんだ」

 

その警告にセーバルは無言で首を横に振った。

 

「——ごめん、私はもう彼らの味方をするって決めたんだ」

「ここがどこかわかっているのか?ここにいるシルバーメインは皆、市民たちの犠牲になる覚悟できている。子供の遊びとは訳が違うんだ!これ以上、姉さんの我儘で僕の仲間を傷つけないでくれ」

「私だって生半可な覚悟で来てる訳じゃない!これが私たちが寒波を取り除いて裂界を封印できる最後のチャンスなんだよ!」

「どこにそんな保証があるんだ?大守護者様から話は聞いている。もちろん、星核のことも。姉さんが禁忌の知識に触れたことも。そして、その者たちは建創者様の宝を盗み厄災を引き起こそうとしていることも!」

「違う!カカリアはアンタを騙してる。あいつは私たちが真実を知り、それが明るみに出ることを恐れているんだ。私たちは世界を救うために賭けに出るしかなかった。——もういい!どうせあんたの姉は昔からわがままだ。嫌いな物事や人には反抗する……決めたことは最後まで貫き通す!」

「そんなこと、よく知ってるさ……総員、整列!彼らを捕えろ。裂界のモンスターはいつ襲ってくるかわからない、この者たちに割く時間はない!」

 

我儘な姉と頑固な弟の口喧嘩は最悪の形で幕を下ろす。

各自、言葉はいらないと言わんばかりに武器を構えた。

 

「はあ、結局こうなった……」

「悠長にしている暇はない。来るぞ!」

 

ジェパードがそのケース状の武器を振り下ろし、地面が大きく揺れ動く。

衝撃に怯んでいる暇もなく、数人のシルバーメインたちが武器を振り下ろしてきた。

丹恒はそれを捌き、なのかは漏れ出た兵士たちを狙い撃つ。

ゼーレと穹はジェパードを挟み込むように攻撃を続ける。しかし鎌を振り下ろそうにもその堅強な片腕に止められ、バットはケースによって弾かれた。

 

「チッ、何なのよあの硬さ!」

「存護の名の下に!」

 

ジェパードがケースを地面に叩きつければ、無数の氷の城壁が彼らを襲うように連なる。その先端はとても鋭利で一度でも刺さればタダではすまないだろう。

氷の城壁の壁から、穹が飛び出してきた。

 

「ルールは破るためにある!」

 

勢いよくバットをうねらせ、その白撃がジェパードに命中する。

ジェパードはそれを両腕で抑えたが、その衝撃に後ずさってしまう。

 

だが、それだけでは浅い。

ジェパードはバットを固定したまま、大きくその剛腕を穹へと叩きつける。

 

「ふんっ!」

「ぐぅっ!」

 

しかし、その動作はかなり大きく無駄がある。

幻によって姿を消していたゼーレが背後から奇襲を仕掛けた。

いくつもの蝶が舞い踊り、鎌の先端がジェパードの腹部を捉える。

 

「スタールイーファントムッ!」

 

無数に散った鎌の連続攻撃。

存護の力をもったジェパードといえども、もろにくらえ重傷は避けられない。

血が吹き出してはいないとはいえ、その鎧には無数の傷がつき、斬撃による衝撃で鎧の内部にまでダメージが入っている。

しかし、それでも彼の瞳から闘志が消えることはない。

 

「まだだ!」

「相変わらず、タフだねうちの弟は!——じゃあ、こんなのはどう!?」

 

彼女の持つギターから、紫色の雷が迸る。

紫電は地面を伝いながら、ジェパードの身体を拘束するようにまとわりついた。

 

「ぐうっ!」

 

ジェパードはその痛みに片膝を付きながらも、足を無理やり踏み上げてその電磁波を蹴りの衝撃波で消し飛ばす。

丸腰とはいえ、ジェパードはこのセイルバーメインの中でトップに立つ男。場数を踏んだ数は他の雑兵とは桁が違う。

 

「僕一人だけでも、屈服しない!」

「コイツ……打たれ強いわ。こんな手強い相手は初めてよ!」

「そりゃ、あいつは頑固だからね!ほんっと、可愛げのない弟だよ!」

 

これ以上戦っていても埒が明かない。かくなる上はジェパードを気絶させつ他ないだろう。

それがどれだけ時間のかかることかはわからない。唯一の希望は、この戦いに予期せぬ乱入者が現れてくればいいのだが……

 

「————っ、危ない!」

 

穹が突然、シルバーメインの兵士の一人の背後に回り込み、そのバットを大きく振り上げた。

その先にいたのは、赤い結晶のような身体を持つ裂界のモンスターのうちの一つだ。

おそらく、あの門とは別の場所から侵略してきたのだろう。そのうちの一体がシルバーメインへと襲い掛かろうとしていたのだ。

 

「!?——どうして彼を助け……」

「そもそも、俺たちは力づくでお前を制圧しようとは思っていない。その服従に意味はないからな」

「そうそう、ウチらの目的も、アンタの目的も一緒。この世界を守ろうとしてるんだから、兵士の人を助けるのは当然でしょ!」

 

自身の仲間であるシルバーメインの兵士を助けた穹を見て、ジェパードは困惑する。

これをまたとない絶好の機会と確信した一同は手に持っている武器を下げ、説得を試みた。

 

「ここまで来たんだから、少しは柔軟性を持ったら?」

 

そう言って彼女はブローニャからもらった手紙をジェパードへと投げる。

彼は疑心暗鬼そうにその紙を受け取り、その内容に目を通す。

よほど信じられないのか、微かにその手紙を持つ手は震えていた。

 

「お姉さんの信用は尽きても、ブローニャの信用ならまだあるでしょ?別にそれを偽物と思うならそれでもいいよ、言うべきことは言ったからね。何をするべきかは自分で決めなさい」

 

ジェパードは彼女の言葉に少し苦悶の表情を見せ、しばらく考える仕草をし——その紙を懐へ仕舞い彼らへ言い放つ。

 

「私はシルバーメインの戌衛官で、大守護者様の命令を遂行するのが責務だ。——しかし、ブローニャ様は事実上の前線指揮官だ。軍規では、前線の指揮と後方の建創者の指令が対立した場合、そのまま待機して指示を待つことになる。シルバーメインにとって、大守護者様の命令は至高で、絶対。しかし、彼女の指揮と同じくらい重要なものもある」

「ベロブルグのみんなでしょ」

「——そうだ。戦場では自ずとその人物の本性が出やすくなる。それはこの場でも同じこと。そこの青年は先ほど、ほぼ無意識で裂界のモンスターから彼を助けた。それを見て僕は今、何のために戦っているのかわからなくなっている。拡大し続ける災いを本当に止められるのなら、ベロブルグの人々は君たちに恩義を感じるはずだ」

「俺たちは別に名誉のためにやっている訳じゃない」

 

穹の率直な言葉に、ジェパードはようやく覚悟を決めた眼差しになる。

 

「……わかった。このまま北に向かうのなら、完全に侵蝕された裂界を越えないと、反対側の裂界へとはたどり着けない。ついてきてくれ」

 

どうやら説得には成功したようだ。

一同はこれ以上戦わなくて済んだことに安堵し、深く息を吐いた。

セーバルは弟が初めて柔軟な考えを持てるようになったことを喜ぶかのように顔を綻ばせる。

門の前へと立ち、ジェパードは彼らへあることを告げた。

 

「ここの門をひらけば、向こう側のモンスターたちが一斉に押し寄せてくる。我々にできることは、可能な限りの足止めをし、君たちのためにわずかな時間を稼ぐことだ。だが、前線を突破した後に僕たちに手伝えることはない。北部の裂界がどのようになっているのかは君たちが直接確かめるしかない。——覚悟はできているか?」

「ああ」

「武器はしっかりと握るんだ、きっと厳しい戦いになる。——シルバーメイン。門を開けろ!」

 

彼の号令により、門が開かれその先に待ち受けていた裂界生物たちが一斉に流れ込んできた。

 

決戦の時はもうそこにある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




頑張ってカカリア戦まで行こうとしたら全然ダメでした……
小説って難しいですね……パパっとベロブルグ編を終わらせるつもりだったのに……
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