裂界の侵蝕者たちの第一陣を何とか払い除け、彼らはほんのわずかな休息のひとときを味わっている。
「はぁ、はぁ……裂界のモンスターの進行がいつもより多い……」
「だから休んでろって言ったのに……!」
司令官であるジェパードの負担は大きく、顔にはかなりの疲労が見える。
集団の一番前で、数多くのモンスターを相手取った上に、先ほどまでこちら側と敵対し死闘を繰り広げたばかりなのだから当然だ。
セーバルは弟のその疲弊し切った様子を見て、彼らに告げる。
「……あんたたち、次の攻撃がくる前に早く行って!」
「え!?セーバルはウチらと一緒に星核を見に行かないの?」
「そもそも、弟がこうなったのには私に責任がある。本当は一緒に行きたいけど、弟やシルバーメインたちを残して行くことはできない。だからあんたたちに託すことにしたよ!カカリアが気づく前に、星核を手に入れて!」
ここで彼女を置いて行くか、行かないかなどと流暢に決めている暇はない。
かといって今の疲弊したシルバーメインたちを置いていくのは彼らを見捨てることと同義でもある。
だからこそ、彼女はランドゥー家の長女として決断をしたのだ。
10年以上追い求めた研究結果をその目で見る権利を放棄してまで。
「恩に着る」
「わかったわ。それじゃ、ちゃっちゃと行くわよ!」
「星核の写真、ちゃんと撮ってきてあげるからね!」
彼らは別れの挨拶を告げ、裂界の奥へと進んでいった。
「…………本当に良かったのか、姉さん」
「良いって言ってるでしょ?それとも、また私の意思を曲げる気?」
「まさか、姉さんの強情さは今日沁みて理解したよ」
「あんたのも大概負けてないけどね」
軽口を叩き合う二人の上空から無数の裂界造物が降ってくる。
その場に居合わせた兵士たちは、各々の武器を再び構え直した。
「へえ、盛り上がってきたじゃん!」
「総員、整列!ここが分水嶺だ。存護の名の下に、この砦を守り続けよ!」
彼らは今もまだ、この極寒の大地で諦めることなく抗い続けている。
———————————————
ブローニャとカカリアの痕跡をたどっていきながら、裂界を潜り抜け、彼らは雪原の奥——常冬の峰へと訪れる。
開拓の力を持ってしても、これほどの寒さに数時間もいてしまえば凍死してしまうのではと思えるほどの凍えた風が吹く大地。
その岩山を登れば登るほど雪風の勢いは増し、何度もぬかるんだ地面に足を取られそうになった。
自然生成された階段を登り、大きな石床の広場に出る。
そこに待ち受けていたのは————
「抵抗するな、ブローニャ。——共通の意志を受け入れるのだ!」
「ちが、う……これは、私の望んだも、のじゃ——!」
巨大なエンジンに埋められていた星核から発せられる謎の声を聞き頭を抑えながら苦しんでいるブローニャと、それをじっと見続けていたカカリアの姿があった。
「人間には圧倒的な力の前に耳を塞ごうとする消えない愚かさがある。そしてそれは臆病とも言う。それらを放棄し、私と共に人類の進化を星核によって導こうではないか!」
「洗脳はそこまでにしなさい、魔女!」
ブローニャとカカリアの間に入り込んだゼーレは、その鎌の刃先をカカリアへと向けた。
「——もう来たのか。あの吹雪で埋もれ死ねば良かったものを」
「ブローニャ。アンタたちの間に何があったのかは知らないけど、確かなことは2つある。一つ目はコイツらが星核を封印するためにここまで来たこと。もう一つはワタシがアンタを助けに来たこと。そういうことだから、洗脳されようとワタシの約束を忘れようと、アンタをぶん殴っても連れて帰る!」
「ゼーレ、それにみんな……」
ゼーレの発破をまるで塵芥のように見ながら、カカリアはそれを鼻で笑った。
「もうよい。ブローニャ。ここに連れてきたのにはもう一つ理由がある。——私はすべての真実を貴様に告げた。星核との取引も、私たちの願いについても。ゆえに、お前に問おう。貴様はどちらを選ぶ?」
「私は——」
「何年も星核の声を聞き続けてようやく理解した。建創者が作り上げてきた『存護』の使命よりもこの世界の古い秩序を覆い、新たな世界を迎え入れる方がよっぽど現実的なことにな。私はこれらをずっとどのようにして貴様に伝えるべきか悩んできたんだ。そういう意味ではそこのよそ者に感謝するべきかもな」
ブローニャには二つの選択肢がある。
星核の意思に従い、この世界を彼女の言う新しい世界へと導くか、それとも自身の育ての親に反抗し、存護の意志を貫くか。
「カカリア様……私を育ててくださったこと、選択の機会を与えてくださったことには感謝しています。ですが——あなたの隣に立つのはできません。あなたの言うとおり、人間性の根底には愚かさや臆病さがあります。しかし、あなたは絶望的な状況でも争い続けている彼らを見ようともしていない」
「…………」
「私は下層部で、彼らの中に光を見ました。それはほんの隅っこで燃え、今にも消えそうな小さな小さな灯火かもしれません。ですが私にはとても、とても美しいものでした。私たちの祖先はこの街で、この吹雪の中で懸命に戦ってきたのです。世界が崩壊するとしても、その道を切り開くのは、星核ではなく人間であるべきです!」
星核の誘惑を払い除け、そう宣言したブローニャの声もカカリアの心には届かない。
彼女の脳裏を埋め尽くすのは、ただの星核の声だけだ。
それでもブローニャは諦めない。
人間としての意志を、存護の意志を諦めないことに、意味があるのだと。
「私たちは普通の人間から選ばれた守護者です。我々の職務は人々が築き上げた世界を存護し続けること!私たちは神でも、審判者でもありません。あなたがこれ以上人間性を踏み躙り、彼らの思いを蔑ろにし、審判者と神を演じようと言うのなら————私は決してあなたを許しません!」
「そうか……残念だ。実に残念だ、ブローニャ。本来なら、新世界の母となるのは貴様だったはずだったのだがな」
突然、大地が揺れ動き始める。
「地面が揺れている!一体、何が起こっている!?」
「……なるほど、こりゃ終末獣より厄介そうだな」
「この都市……ベロブルグの未来はすでに決まっている。貴様らは……新世界の礎になるがいい!」
カカリアがその手から氷の槍を作り出す。
彼女はそれを右手に掲げ、高らかに宣言をした。
「大守護者として機動を命じる。——造物エンジン!」
それは終末獣の大きさをゆうに超える巨大な右腕。
「あれは建創者の古代ロボット!みんな、気をつけて!」
蠅を追い払うようにその超巨大な右手が迫り来る。
その場にいた五人は散開し、払い除けた右腕をなんとか避けたが、それによって発生した風圧に軽く吹き飛ばされた。
雪が吹き上がり、それに続くようにいくつもの裂界造物たちが現れる。
おそらくカカリアが星核の力を使って生み出したのだろう。こちらの想像以上に彼女は星核と調和してしまっているようだ。
「山々を削れ!」
カカリアの号令と共に、造物エンジンの目から熱光線が飛び出した。
それは大地を抉り、熱の余波だけでも凄まじい威力だ。少し掠っただけでも重傷を負いそうだ。
おまけに裂界のモンスターも巣穴を突かれた蟻のように這い出てくる。
先ほどの禁区エリアよりも多い無数の造物によって、彼らはかつてないほどの窮地に追い込まれていた。
(そろそろ出たほうがいいか……?)
悠仁は穹の中で冷静に状況を分析し続ける。
穹との約束、そして肉体の交代の制限によってその行動を大きく縛られているとはいえ、彼に穹をそして星穹列車の仲間たちやゼーレ、ブローニャを見捨てるつもりは毛頭ない。
とはいえ、仮に今ここで目の前のモンスターを蹴散らしたとしても、そのまま造物エンジンとカカリア、そして星核まで相手にできると思えるほど自惚れてはいない。ほぼ受肉したばかりということもあり、今の彼の呪力量は全盛期に比べ著しく低下している。迂闊に呪力を浪費すれば敗北するのはこちらの方になるだろう。
その時、空の果ての果て——宇宙から一つの巨大なレーザー砲が造物エンジンの肩を貫いた。
「姫子、姫子じゃん!」
『もしもし、k、きこえる…かしら、電波が悪いわね……』
「良かった、ようやくウチらのことを思い出してくれたんだね!」
『私もヴェルトもずっと心配してたのよ。どうやら、今回の旅はなかなか刺激的だったみたいね』
あのレーザー砲は彼女の手によって作り出された人工衛星から発射されたものであるらしい。
なぜそんなものを持っているのか、どうやって作ったのかなど疑問は尽きないが、今はそんなことを考えている暇はない。造物エンジンはその衝撃で身体のバランスを崩している。
あれの肩に乗っているカカリアへと向かうには絶好のチャンスだ。
『こんな大きな物がどうやって動いているのか気になるけど、今は大人しくしてもらったほうがいいわよね?あとはあんたたち次第よ!』
一同は頷き合い、一斉に走り始めた。
造物エンジンの足を上り、その上に蔓延る球体型の造物——無想仮面の集団を蹴散らしていく。
ブローニャとなのかの援護によって開かれた道を穹は突き進み続けた。
しかし、動きを停止していた造物エンジンは再稼働をし始め、大きく起き上がった。
その影響により、登っていた坂道は断崖絶壁となり、穹は重力に従って今にも落下しそうになってしまう。
そこに一匹の蝶が飛んでくる。
「捕まって!」
飛来した彼女の腕を掴み、その勢いを利用して穹は造物エンジンの腕部へと飛び乗る。
造物エンジンはその瞳を赤く光らせ、穹をつまみあげようともう片方の腕を伸ばした。
かろうじて、その指の隙間を潜り抜け、カカリアのいる肩部へと大きく跳躍した。
しかし、その肩のふちを掴もうと手を伸ばしても、触れることができたのは冷たい空気だけだ。
「穹、使え!」
丹恒の投擲した槍を握り、体を振り子のようにして大きく飛び上がる。
そして彼はついに、カカリアがいる造物エンジンの肩へと登り詰めた。
そこで彼を待ち受けていたのは————氷層に覆われ星核と融合してしまったカカリアの姿だった。
その顔は泥のように見えなくなり、彼女の心を表すように氷の鎧や破片が無造作に彼女の身体を覆っていた。
「星核が約束した未来こそが希望!700年前、それは反物質レギオンを駆逐した——そして今日、再び貴様らの存在を抹消する!」
彼女の纏っている氷の鎧は破片となり、やがていくつもの槍へと変化させる。
穹は飛来してくるそれらを全てバットで殴り砕きながら前へと進んでいった。壊滅の力を宿したバットはその氷をいくつも砕き続ける。それでもなお、カカリアとの距離が縮まることはない。
「軟弱で愚かな人間どもめ……私が絶望を思い知らせてやろう!」
彼女は背後に先ほどまでとは桁にならない数の氷の槍を作り出す。
白く染まったバットはそれらの数本を薙ぎ倒していき————最後の一本を取り逃すことになる。
「グォッ!」
その槍は確かに穹の胸を貫いた。
激しい痛みと、氷の冷たい感触が身体中を伝う。
彼の体が吹雪と共に飛ばされ、意識が次第に暗闇へと落ちる。
最後に視界に写ったのは、星核に囚われ続けた哀れな女の残像だけだった。
———————————————
そこには雪が降っていた。
周囲には草木が生い茂り、遠くにいくつもの建物の影が見える。
見たことのない鳥たちが空を飛び、白兎が茂みの中から顔を出して雪山へと消えていく。どこからか、鐘の音が聞こえてきた。
「ここは……ベロブルグじゃない?」
ベロブルグの雪もこれぐらい降り積もってはいたが、ここまで広々としていて、尚且つ長閑な雰囲気の場所は上層部にも下層部にもなかったはずだ。
「ここは俺の生得領域だ」
「……悠仁、か?」
振り向けば、穹と同じ背丈のフードを大きく被った男が、丘の上に置かれた石のベンチの上に座っていた。
男は深く被っていたフードを取り外し、そこから見えたのは自分と同じ顔であった。ただし、その灰色の髪は獅子のようにかき上げられ、肌にはいくつもの入れ墨が刻まれている。
「生得領域?」
「簡単に言っちまえば心の中ってこと」
「俺は……死んだのか?」
最後に憶えているのは、星核と融合したカカリアの手で胸を貫かれたことだ。
ふと、自分の貫かれたであろう部分に触れるが穴が空いているような痕はない。
悠仁はベンチから立ち上がり、丘の上から此方へと飛び乗ってきた。
「いや、死んではない。ただ、生きてるっていうのも違うな」
「?」
「俺の反転術式———あー、回復能力で生き返らせようとしたんだけど、その前にお前の魂があっちに引っ張られたらしいんだ」
そう言って悠仁は親指を後ろに指す。
その方向を見ても、あるのは田舎町ののどかな風景しか存在していない。
「まだはっきり見えないのか。よし、じゃあついてきてくれ」
二人はしっかりと整備されていない土でできた道路を歩く。
田んぼに続く小さな小川。誰も通らないような薄く汚れた桟橋。シャッターで閉ざされた商店街。
あれもこれも、穹にとって物珍しいものばかりであった。
「やっぱり珍しいか?」
「うん。ここって人、住んでるの?」
「いんや、俺以外はいないよ。電車の音がしたり、鳥が飛んだりしてるのは…………ま、そういうもんだと思ってくれ」
そういうもんらしい。
「よし、着いた」
「?…………何もないけど?」
そこはほとんどの葉が落ち切った冬の木が植えられている小さな野原。
少なくとも先ほどの生得領域とはほとんど変わらないように見える。
「まーまー、よく目を凝らして見てみろって」
彼にそう言われ、穹は目を凝らしてその木々のトンネルを見つめ続けた。
その瞬間、風が強く吹き抜け木の上に積もっていた雪が穹顔へと降りかかる。
「わわっ!」
ひんやりとした感触が突然、顔面全体に広がっていった。
それに驚いた穹は思わず目をつぶり、頭にかけられた雪を慌てて払う。
そして、閉じた瞼を開けば————その先には生得領域の和やかな光景とはまったく別物の小宇宙が広がっていた。
天井にはいくつもの星屑が輝き、銀雲が渦を描いて立ちこんでいる。
ここの景色には見覚えがある。宇宙ステーションにて壊滅の星神——ナヌークの一瞥を受けた場所とよく似ている。
先には光の柱が聳え、そこまでに続く道の端に、淡い残像が浮かび上がっていた。
「あれは……カカリアの影」
「どうやら、ここにはあいつの記憶が流れているらしい。星核の影響かな」
その影の中には見たことのある人物もいた。
ジェパードやセーバル、そしてブローニャの姿も。
『あの戦場での状況は世の摂理から逸脱しています……狂っていると言っても過言ではありません。もしこの状況が続けば我々はいったいどうなってしまうのでしょうか……』
『……どうして、カカリア……いつから、そんなに冷たくなったわけ……?』
『裂界の侵食が下層部まで進行しています……シルバーメインを撤退させてしまったらどうやって彼らは自身の身を守れと言うのですか?』
彼らの問いかけにどのカカリアの残像も答えることはなかった。
もはや、彼らの苦痛を彼女は聞こうともしない。
『星核……そうだ、この先の愚かで卑しい人類どもの未来を守れるのは強大な力だけ…………。もっと、もっと私に力を!全てを支配する力を、この私に!』
彼女は星核に堕ち続ける。子を失った母が最後に行き着いたのは、狂気の渦中。
多くのシルバーメインが犠牲になった。多くの人々が住み家を無くした。
それでも彼女の瞳は曇り続け、瞳の中の暗雲が晴れることはない。やがてその意志は星を滅ぼすことになるとしても。
この星海の終点。光の柱の前に、彼らは居た。
「都市が泣いている……『存護』の力が消えていく。最後の最後に……私たちは星核の意志に抗えなかった』
それは子供の姿をした守護者たちの意志の具現。
幾年にも渡って星核に抵抗し続けた、折れることのなかった存護の心。
「これは『存護』の意志じゃない」
「……なぜそう言い切れる。異郷からの来訪者たちよ。裂界からの侵蝕から700年。私たちが残してきたものは信念でも富でもない、ただの絶望だった。『存護』すると誓っていたはずの故郷が消えていく……結局、我々は強大な力を前に滅びる運命だったのだろう」
彼らの言葉にはカカリアへの憐憫と、己の不甲斐なさが滲み出ていた。
「————まだ、諦めていない人々はたくさんいる。ブローニャもゼーレも、それに下層部や上層部のみんなだって、今この瞬間に抗い続けてる。ここで自暴自棄になっちゃダメだ」
「…………無理だ。これ以上、私たちの意志を罪なき人々に背負わせることはできない。後継者は彼女で終わりだ」
「じゃあ、俺が背負ってみせる!」
迷いなく答えてみせた穹に対して、守護者たちの意志は困惑の表情を隠せないでいた。
「なぜ、一介の客人にすぎない貴方が背負おうとする?…………いや、それもいいかもしれない。どのみち、わたしたちにこれ以外の方法はないのだからな。琥珀の輝きに触れるといい、開拓者。貴方の中の存護の意志が……かの星神の目に止まるかどうか、確かめてみよう」
彼らは光の柱へと続く道を指差した。
その端にあったのは、赤く燃え続ける琥珀色の槍。
穹はその手前まで歩み続ける。
背後から、彼らの話を聞いていた有事が声をかけた。
「いい啖呵だったぞ」
「いや、俺は俺が正しいと思ったことをやろうと思っただけだ。ただの我儘かもしれない」
「それでもいいんだよ。人間ってのはいつだって我儘で不平等だしな。自分がやりたいと思ったことを貫き通す——これが皆の言ってた開拓の精神ってやつなんじゃない?」
開拓とは未知を切り開くだけではない。
正しい道のりを探すのではなく、自分が正しいと思った道のりを進み続けることもまた、開拓の一つだ。
であれば、この道から逸れてはいけない。
あなたは迷いを捨て、新たな運命への道を一歩踏み出した。
手のひらから燃やし尽くさんと言わんばかりの炎が吹き出し、穹の身体を焼き続ける。
灼熱の痛み、気を抜けば体が吹き飛んでしまうような熱風。
「ぐぅっ!!」
歯を食いしばり、その槍の持ち手を決して放さないために、もう片方の手も使ってその槍を引き上げようと試みる。
だが、その槍はびくともせず、存護の星神がこちらを覗き見てくるような気配もない。
このままではこちらの身体がもたなくない、そう思ったその時————
「さっきのはいい啖呵だったけど、一つだけ訂正しておいた方がいいな。…………背負うのは"俺"じゃなくて、"俺たち"、だ」
横から、もう一人分の手が添えられる。
悠仁がその槍を握ったことにより、炎の力はますます強まる。
だが決して手を離すことはしない。
「うおおおおおおっ!!」
彼らは、その存護の槍を引き抜いてみせた。
「来たか」
「あれが……存護の…………クリフォト」
其の姿は、岩石の城をかき集めて作り上げた結晶の要塞。亜空の城を築き上げ、星一つを掌中に収めんばかりの巨大を持ち、ただひたすらに万物を脅威から存護する役目を負った神。
琥珀の身体はその存護の意志を今もなお燃やし続けている。
恒星のように輝き続けるその眼差しが、今確かに此方を一瞥した。
「よし。じゃ、ひとまず世界でも救ってこい。————頑張れ」
悠仁は穹の背中をバシッと叩き、彼を押し出した。
その衝撃で彼は身体を宙に投げ出される。次に視界に映ったのは、猛吹雪の嵐とそこに佇む巨大な造物エンジンの姿。
落下していく穹に造物エンジンがその手を伸ばす。
彼を押し潰そうとしているのかと思えばそうではなく、まるで足場を用意するかのように掌を開いて彼を受け止めた。
建創者の槍を握ったことにより、造物エンジンの制御権がカカリアから穹へと移ったのだ。彼らに牙を向けていた最大の脅威は今、彼らにとって心強い味方となる。
エンジンの右手に無事着地した彼の姿を見て、なのかや丹恒、ブローニャとゼーレは安堵の表情を浮かべる。対するカカリアはその顔は見えないながらも、信じられないような、何か忌々しいものを見るのかのような視線を送ってきていた。
「穹!」
「…………まさか、歴代の建創者まで私の思想を否定する気なのか?ふざけるな!私はこの世界のために、あの子のため————」
「カカリア」
起き上がった穹は槍先を彼女に向けて言い放つ。
「終わらせよう。700年続いた———星核の呪いを!」
槍を持つ彼の手には、仄かに赤色のモヤのようなオーラが浮かんでいた。
次回、ベロブルグ編最終回です。
想像以上に長かった……