ゼロバンゲート番外編〜芦毛のノワール〜 作:茶坊主(ぽんぽん)
バンダバーグ
「速ぇ!
なんかスタート前にごちゃごちゃ話してたみたいだけど、
相手の土俵には乗らないつもりか。」
バンダバーグは笑っていた。
ワラビーの挑発に乗らず、
ただ“走り”で返すアフォガート。
その意図が見え見えだからこそ、
バンダバーグは胸が熱くなる。
バンダバーグ
「分かりやすいほうが、面白い!
乗った!!」
彼女はすぐ後ろにつける。
アフォガートの背中を追う。
その遥か後方
ワラビーラッシュは脚を溜めていた
二人の飛び出しを見ても焦らない。
むしろ、
優雅に、静かに、
“美しいフォーム”で加速していく。
ワラビーラッシュ
「いいわ……その必死さ。
でも、勝つのは私。」
彼女の走りは、
風を切る音すら美しい。
順位は第3コーナーまで動かなかった
アフォガート
「かなり突き放した。
向こうはかなり消耗してるはず…」
まっすぐに伸びた脚
軽快なリズムで、芝を蹴る
中盤から最高速度に乗った彼女は、
後続をグイグイと引き離した
バンダバーグ
「はぁ…はぁ…!
優等生、よく逃げるじゃないか!
これだけ引っ張り回されちゃ、
ワラビーのやつも…」
額の汗を拭いながら、バンダバーグが迫る
アフォガート
「あの子の脚はスプリント向き
最後の直線距離…必ず仕掛けてくる。
けれど、上り坂なら…!」
アフォガートが逃げる。
バンダバーグが追う。
二人の息遣いが荒くなる中で――
ワラビーラッシュだけが、静かだった。
脚を溜めて、溜めて、溜めて。
まるで獲物が疲れるのを待つ肉食獣。
そして第4コーナー手前。
風が変わった。
ターフに一瞬の静寂
そして…
ワラビーラッシュ
「おほほほほ!」
その声が聞こえた瞬間、
観客席がざわめいた。
音がしない。
足音が、しない。
跳躍が軽すぎて、
芝を踏んでいる気配すらない。
まるで――
芝の上を泳いでいる。
ワラビーラッシュ
「スプリント女王の名前は伊達ではありませんの。
距離?関係ありませんわ。
直線さえあれば、私は無敵!」
その瞬間、
大外から白い閃光が走った。
ウマ娘A
「ワラビーさんが笑ってる!」
ウマ娘B
「あれ、完全にゾーン入ってるよ……
もう、止まらない。」
観客席のざわめきが、
風のようにコースへ流れ込む。
ワラビーラッシュは、
大外から跳ぶように加速しながら――
笑っていた。
それは挑発でも余裕でもない。
“勝利を確信した者の笑み”でもない。
もっと原始的で、
もっと本能的で、
もっと“走りに取り憑かれた者”の笑み。
アフォガート
「……来た!
けれど、負けるわけにはいかない」
ワラビーラッシュの気配が背中に迫る。
風が変わる。
空気が震える。
アフォガートは必死に脚を回す。
その度に、
ズキッ!
と鋭い痛みが走る。
昨日、ピュアノワールを追いかけた時に負った痛み。
彼女を追い詰めた、あの夜の痛み。
アフォガート
「この痛みは……私の弱さが生んだもの。
ここで負けたら……
チームメイトの期待も、
トレーナーの指導も、
学園の名誉も……
全部裏切ることになる」
でも、それ以上に――
アフォガート
「何より……
ノワールを“悪者”にしてしまう」
その瞬間、
アフォガートの歯がギリッと噛み締められた。
頬を一筋の涙が伝う。
それは痛みの涙じゃない。
恐怖の涙でもない。
“守りたい”という願いの涙。
ワラビーラッシュの高笑いが聞こえる
アフォガート
「……黙れ!」
アフォガートは痛む脚をさらに叩きつけるように蹴り出す。
スピードが一段階上がる。
観客席がどよめく。
私は見ていられなかった。
アフォガートの必死さが、
刃物みたいに胸に突き刺さる。
ワラビーの笑い声。
観客の歓声。
バンダバーグの叫び。
実況の声。
足音。
風の音。
全部が、
私を責めているように聞こえる。
耳を塞いでも、
音は止まらない。
目を閉じても、
アフォガートの涙が焼き付いて離れない。
ーもう消えてしまいたい。
その言葉が、
心の奥で静かに響いた。
私は頭を抱えて、
その場にうずくまった。