ゼロバンゲート番外編〜芦毛のノワール〜   作:茶坊主(ぽんぽん)

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第11話

着順表が光った瞬間、

私は顔を上げることすらできなかった。

 

きっとワラビーラッシュが勝った。

見なくてもわかる。

 

アフォガートの涙。

ワラビーの笑い。

バンダバーグの叫び。

 

全部、私のせい

 

チームメイトがアフォガートを迎えに走る。

でも私は、

その場から逃げるように立ち去った。

 

アフォガートは爪が食い込むくらいに手を握りしめていた。

「トレーナーさん……私、負けました。

 すいません。

 あまりにも不甲斐ない結果で……」

 

声が震えている。

でも泣いてはいない。

泣く資格がないと思っているから。

 

榊原

「お前はよく走った。

 俺の作戦指示ミスだ。」

 

アフォガート

「そんな……!」

 

榊原は首を振る。

 

榊原

「それに、お前はチームリーダーとして

 完璧に仕事をこなしてくれた。」

 

アフォガートの肩が震える。

その言葉は優しすぎて、

逆に胸を刺す。

 

アフォガート

「……完璧なんかじゃ、ありません。

 私は……

 ノワールを……」

 

言葉が続かない。

喉が詰まる。

 

榊原は静かに言う。

「……あいつの才能を見出したのはお前だ。

 それは何よりも貴重な成果だ。」

 

アフォガートは顔を上げられない

 

榊原は続ける。

 

榊原

「反省点があるとすれば……

 お前は自分のことを後回しにした。」

 

アフォガートの肩がわずかに震える。

 

榊原

「俺が背負わせ過ぎたな。

 次は上手くやれるさ。」

 

その声は、叱責ではなく、

“守れなかった大人の悔しさ”が滲んでいた。

 

アフォガート

「……次、ですか?」

 

その声は弱く、かすれている。

負けたばかりの心に、

“次”という言葉は重すぎる。

 

でも榊原は迷わず言う。

 

榊原

「ああ。次の手を用意する。

 ここからは俺の仕事だ。」

 

アフォガートは息を呑む。

 

榊原

「お前は十分やった。

 今度は俺が動く番だ。」

 

その言葉は、

アフォガートの胸に静かに落ちた。

 

 

アフォガート

「私は……また走れるの……?

 ノワールと……

 もう一度……?」

 

胸が痛い。

でも、ほんの少しだけ温かい。

 

榊原は立ち上がり、

控え室の扉に手をかける。

 

榊原

「ノワールのことは、俺が話す。

 お前は休め。」

 

アフォガート

「……はい。」

 

その返事は、

涙を堪えた声だった。

 

ーー

 

私は廊下の隅で膝を抱えていた。

 

誰が来れば救われるのか。

誰に何を話せばいいのか。

何も分からない。

 

ただ、

冷たい床と、空っぽの胸だけが確かだった。

 

涙も出ない。

呼吸も浅い。

世界が遠い。

 

 

???

「立て」

 

その声は、

優しさも、慰めも、気遣いもない。

 

ただ荒くて、

ただ真っ直ぐで、

ただ“生きてる声”。

 

私は顔を伏せたまま首を振る。

 

???

「立てって言ってるだろ。

 白いの!」

 

その呼び方に、

胸がチクリと痛む。

 

でも次の一言が、

その痛みを一瞬で吹き飛ばした。

 

???

「……まったく。

 お菓子を持ってきたやったのに!」

 

顔を上げると、そこにいたのは――

 

バンダバーグだった。

 

大きな目を見開いたままの顔。

息が少し上がっている。

 

どう見ても、

“慰めに来た”という雰囲気じゃない。

 

でも、

袋からラムレーズンのケーキを取り出して、

私の手のひらに置いた。

 

バンダバーグ

「半分こだ。」

 

その言い方が、

あまりにも不器用で、

あまりにも優しかった。

 

ピュアノワール

「……私、大きい方がいい」

 

バンダバーグ

「ぶん殴るぞ。

…ったく。欲張る元気はあるんだな」

 

その瞬間、

胸の奥がじんわりと温かくなった。

 

泣けないはずなのに、

涙がこぼれそうになる。

 

バンダバーグ

「着順くらい見ろ。

 お前、仲間だろ。」

 

 

ノワール

「ワラビーラッシュが勝ったんでしょ……」

 

バンダバーグ

「優等生は4着。

 私は3着だ。」

 

ノワール

「……アンタなんかに負けたんだ」

 

その瞬間、

バンダバーグの眉がピクリと動く。

 

「今食ったヤツ返せ」

 

この一言で、

ピュアノワールの胸の奥にあった

“真っ暗な穴”に、

小さな火が灯る。

 

ピュアノワール

「……やだ。

 もう食べた。」

 

バンダバーグ

「まだ消化してないだろ。

吐き出させるぞ」

 

ノワール

「……うるさい。」

 

その“うるさい”は、

泣き声に近かった。

 

バンダバーグ

「いいか白いの。

 泣いて落ち込んでる暇ない。

 選考会は終わった。」

 

ぶっきらぼうに言い放つ

 

バンダバーグ

「だが、次がある。

 団体戦だ。」

 

ピュアノワール

「……団体戦?」

 

バンダバーグ

「言っとくが、お前に拒否権はないぞ。

詳しいことは、トレーナーに聞きな」

 

そう言い残して、

バンダバーグはドスドスと廊下を歩き去っていく。

 

乱暴で、

優しさなんて一滴もない言葉。

 

でも――

その背中は私を“置いていかない”背中だった。

 

 

 

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