ゼロバンゲート番外編〜芦毛のノワール〜   作:茶坊主(ぽんぽん)

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第13話

ピュアノワール

「チェストぉーっ!!」

 

まだ朝日が昇りきらない運動場に、 声が響く。

 

泥の匂い。

冷たい空気。

静かな風。

 

地面を蹴りつけるように走り出す。

 

私は逃げない……

自分の走り方を見つけるまで……

トレーナー……ううん、

私自身を信じてみる……

 

私の決意は、

まだ小さくて、

まだ頼りない。

 

でも確かに“前”へ向いている。

 

榊原

「脚力が逃げているな。

 もっと姿勢を下げろ。」

 

その声は厳しい。

優しさなんて一滴もない。

 

でも、 私の走りを“本物”として扱っている声だ。

 

歯を食いしばり泥を蹴り上げる。

 

姿勢……下げる……

脚……逃がさない……

私の走り……私の……

 

フォームはまだ荒い。

息苦しいし、足も重たい

 

でも――

逃げていた頃の走りとは違う

 

---

 

榊原は腕を組んだまま、走りをじっと見ている。

 

榊原

「いいぞ。

 そのまま押し込め。

 お前の走りは“力”だ。

 隠すな。

 潰すな。

 使え。」

 

ピュアノワール

「……っ……!」

 

胸が熱くなる。

足が勝手に前へ出る。

 

かっこよくなくても……

美しくなくても……

速ければいい…とはなかなか思えない

…やっぱりかっこいい方がいい

 

泥を蹴り上げる音が、

少しだけ軽くなる。

 

呼吸が、少しだけ深くなる。

 

視界が、少しだけ前を向く。

 

私だって堂々と走りたい…!

 

その言葉は、

まだ声にならない。

 

でも、

確かに胸の奥で燃えている。

 

榊原

「まだ長いストライドに拘っているな。

今日はここまでだ。

もっと柔軟に考えろ。

“前に飛び出すこと”だけ考えればいい」

 

ーー

練習後、心が落ち着かない

自分のフォームを撮影した動画を

何度も見返してため息をつく

 

誰よりも速く走りたい

でも…、笑われるのはもう嫌

 

突然、私の前に影が伸びた

 

バンダバーグ

「見てられねぇな……

 白いの、ちょっと付き合え。」

 

バンダバーグ

この子、最近、よく絡んでくるわね

 

ピュアノワール

「お菓子くれるんなら……」

 

バンダバーグ

「ゲンコツなら今すぐやるよ。」

 

ピュアノワール

「ごめん……」

 

口元は笑ってるけど目は笑ってない

悪い子じゃないんだろうけど、

冗談は通じないんだろうね。

 

廊下を歩いていくと、

講堂の少し手前にある展示スペースに着く。

 

そこには、

歴代のウマ娘の銅像が並んでいた。

 

その中の一体を、

バンダバーグが顎で示す。

 

バンダバーグ

「見ろよ……

 私らのところに伝わる芦毛の女神様だ。」

 

ピュアノワール

「なにこれ……

 靴を手に持って裸足で走ってる……

優雅じゃない……

歯を食いしばって、腕の上げ方も変」

 

でも、どこか親近感が湧く

そんな姿に見えた

 

銅像のウマ娘は、

靴を片手に持ち、

裸足で地面を蹴りつけるように前へ飛び出している。

 

姿勢は低く、

フォームは荒く、

泥を蹴り上げるような走り。

 

それなのに、女神の顔は、誰よりも楽しそうだった。

 

バンダバーグ

「大昔な。

この辺りの人は

どっちの村が井戸を使うかで争ってた時に、

 競走で決めたんだと。」

 

ピュアノワール

「競走で……?」

 

バンダバーグ

「ああ。

 争う代わりに走って決めてるうちに、

 見物客が集まるようになった。」

 

ピュアノワールの目が少しだけ丸くなる。

 

バンダバーグ

「そこから、この街は発展した。」

その時に活躍した芦毛が、

この女神像のウマ娘だったらしい。」

 

ピュアノワール

「……この人が……」

 

バンダバーグ

「まぁ、おとぎ話みたいなもんだから、

 信じるも信じないのも勝手だ。」

 

その言い方は軽い。

本当に信じてるのかどうかも分からない。

 

でも次の言葉だけは、

妙に重かった。

 

バンダバーグ

「でも、重要なのは、お前が芦毛だってことだ。」

 

ピュアノワール

「……芦毛……」

 

バンダバーグ

「今度の団体戦、

 注目を集めるには十分だと思わないか?」

 

ピュアノワール

「……注目……?」

 

その言葉に、

胸がチクリと痛む。

 

でも――

バンダバーグの声は、

その恐怖を押し流すように続く

 

バンダバーグ

「芦毛が走る時は繁栄がもたらされる。

 この街じゃ、そう信じられてる。」

 

ピュアノワール

「……でも、私は……」

 

バンダバーグ

「お前がどう思ってようが関係ない。

 “芦毛が走る”ってだけで、

 みんな勝手に盛り上がるんだよ。」

 

ピュアノワール

「勝手に……?」

 

バンダバーグ

「いいか白いの。

 お前は“芦毛だから”注目されるんじゃない。」

 

ピュアノワール

「……?」

 

バンダバーグ

「“芦毛で、走るから”注目されるんだよ。

私ならどう思われようが、利用しない手はないがな」

 

ピュアノワール

「……っ」

 

その瞬間だった

私の胸の奥で、

小さな火が確かに灯った。

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