ゼロバンゲート番外編〜芦毛のノワール〜   作:茶坊主(ぽんぽん)

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第16話

アフォガートはアップを始める

 

スラリと長い足を伸ばし、首筋に汗が滴る

 

どこを切り取っても絵になるのよね…

 

アフォガートと目が合う

「私の顔に何か付いてる?」

 

ピュアノワール

「ううん…。足、大丈夫?

ごめんね…」

 

アフォガートはケラケラと笑った

「あれはあなたのせいじゃないの。

前日、追い込み過ぎて少し痛めただけ。」

 

ピュアノワール

「えぇ!?じゃ、私が突き飛ばしたせいじゃないの!?」

 

アフォガートは、少しだけ目を丸くしてから、ふっと笑った。

「うん。びっくりはしたけどね。

 でも、それで怪我したわけじゃないよ。」

 

ピュアノワール

「……でも、包帯……」

アフォガートは自分の脚を軽く叩く。

 

「これ?

 ただのオーバーワーク。

 むしろ――」

 

一歩、こちらに近づく。

 

「あなたを追いかけた時の方が、楽しかったくらい。」

 

ピュアノワール

「……は?」

予想外すぎて、間抜けな声が出る。

 

アフォガート

「だって、あんな走り初めて見た。

 理屈もフォームも全部無視して、

 でもちゃんと“前に進んでる”走り。」

 

少しだけ真剣な目になる。

「悔しかったなぁ。

 あれに、追いつけなかったの。」

 

ピュアノワール

「……そんなの……」

 

胸の奥がざわつく。

あの走りは、隠したかったもの。

恥だと思ってたもの。

なのに――

 

アフォガート

「ねぇ、ノワール。」

 

まっすぐな視線。

 

逃げ場のない、優しい目。

 

「私、あなたのあの走り……好きだよ。」

 

ピュアノワール

「……っ!」

 

言葉が出ない。

否定したいのに、

でも、否定できない。

 

アフォガート

「もちろん、今の走りもすごく綺麗。

 でもね――」

 

少しだけ首を傾げる。

 

「あなたが“無理してる顔”で走ってるの、分かるよ。」

 

ピュアノワール

「なっ……!」

 

アフォガート

「だから、どっちも本当なんだと思う。」

軽く笑う。

 

「綺麗な走りも、泥だらけの走りも。

 どっちも“ノワール”でしょ?」

 

胸の奥で、何かがほどける。

ずっと絡まっていた糸が、

少しずつ解けていくみたいに。

 

ピュアノワール

「……なんでそんなこと言えるのよ……」

 

アフォガート

「だって――」

少し考えてから、

「私、あなたのことちゃんと見てるから。」

 

その一言が、

不意打ちみたいに胸に刺さる。

 

ピュアノワール

「……ずるい。」

 

アフォガート

「え?」

 

ピュアノワール

「そういうの、ずるいって言ってるの!」

 

顔を背ける。

でも――

さっきまで胸にあった重さは、

もう少しだけ軽くなっていた。

 

ーーー

 

号砲が鳴る

 

アフォガート

「負けられないっ!」

 

実況

「各ウマ娘、一斉にスタートしました!

 

日本勢、やや後方からになります!」

 

アフォガート

「勝つだけじゃダメ。

できるだけ次に繋ぐために離す…

足を解放するのは、最後の直線!」

 

アフォガートは低い姿勢のまま、

無駄のないフォームで加速していく。

芝を叩く音は小さい。

でも、一歩ごとの伸びが鋭い。

 

実況

「日本チーム、序盤は抑え気味か!?

 先頭は地元選抜!

 ワラビーラッシュ陣営が積極的に前へ出ます!」

 

観客席から歓声が飛ぶ。

 

「飛ばせぇぇ!!」

「地元の意地見せろー!!」

熱狂が渦を巻く。

 

けれど――

アフォガートの耳には、ほとんど入っていなかった。

 

視線は前だけを見ている。

 

アフォガート

(焦らない……。

 団体戦は、一人で勝つレースじゃない……!)

 

呼吸を整える。

腕の振り。

脚の回転。

芝の反発。

全部を噛み合わせる。

 

実況

「おっと、日本勢!

 ここでじわじわ順位を上げていく!」

 

コーナー外側。

先行していた一人を、

アフォガートが滑るように抜き去る。

 

歓声がどよめきに変わる。

観客A

「綺麗……!」

観客B

「なんだあのフォーム……!」

 

アフォガート

(まだ……!

 まだ解放しない……!)

脚には、まだ鈍い痛みが残っている。

 

でも――

アフォガート

(痛みくらいで止まれるほど、

 軽い想いじゃない……!)

 

第3コーナー。

前との差が縮まる。

 

実況

「日本勢、ここで前へ!

 アフォガート選手、一気に勝負を仕掛けるか!?」

 

その瞬間。

アフォガートの瞳が鋭く細められた。

 

アフォガート

「――今っ!!」

ドンッ!!

踏み込みが変わる。

芝が弾ける。

それまで“優等生”だった走りが、

一瞬だけ牙を剥いた。

 

観客席がどよめく。

 

実況

「速いっ!!

 日本勢、一気に加速!!

 ここで先頭集団へ食らいつく!!」

 

アフォガート

(ノワール……!

 あなたに繋ぐ……!)

 

その胸には、

もう迷いはなかった。

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