ゼロバンゲート番外編〜芦毛のノワール〜 作:茶坊主(ぽんぽん)
アフォガート
「隣、いい?」
この子から私に話しかけてくるなんて珍しいわね
どうせ、朝から食べすぎるなとか
”小言”言うつもりなんでしょうけど
アフォガート
「芦毛のゼロ番を知ってる?」
彼女の声はいつもより少し低い
えっ?
アフォガート
「中央トレセンで騒ぎになった”ゼロバンゲート”を彷彿とさせる名前。
それに…
日本から来ている芦毛のウマ娘は君だけだ。
偶然とは思えない…。
あなた、本当に何も知らないの?」
なんなの?
もう噂広まってるの…
ヤバい…、私が騒ぎ起こしたことになってるなんて知られたら、どんな目に合わされるか分からない
ピュアノワール
「知らない!
ご馳走様、じゃあね!」
本当は気づいてほしいのに、
気づかれたら終わる気がして、
私は逃げるようにカフェテリアを飛び出した
――
その日の午後、
私たちは遅れて到着したトレーナーの元に集合する。
来週に控えたメインレース
トレーナーの口から出走登録者が語られる
榊原トレーナー
この人は淡々と事実だけを言う人
実力もあるし、公平に皆を見てる。
でも、公平って時に残酷だ。
私、ちょっと苦手なんだよね。
榊原
「すまん。到着が遅れて、ここ数日の練習が見れていなかった。
だが、報告を見る限り、出走登録は
アフォガートで決まりだな。」
アフォガート
「全力を尽くします」
彼女はさも当然のように、深々と頭を下げた
誰も決定に異を唱えない
むしろ歓迎している
私はどこか他人事のように、会議室の外を眺めていた。
榊原
「ピュアノワール」
ピュアノワール
「え、あ、はい!聞いてますよ!!」
突然の呼び掛けに、私は飛び上がった。
榊原
「何か言いたそうだな。
溜め込まずにここで言っておけ」
ピュアノワール
「ううん、何も無いですよ!
アフォガートならきっと大丈夫!
頑張って!」
「本当は私が出たい」
そんなこと言える雰囲気じゃなかった。
きっとワガママだと言われて、叱られる。
そして、また晒し者にされる。
実力不足は仕方ない。
受け入れようと何度も自分に言い聞かす。
けれど、脚は昨日の夜の芝を踏みしめた感触を忘れようとはしなかった。
――
また夜が来る
眠れない。
小腹が空いてるからじゃない。
満ち足りてないのは心の方
私はまた黒いフードを目深に被って、練習場へと足を運んでいた
夜の練習場
夜露が芝を濡らしている
また、睨み合うウマ娘達
バンダバーグ
「昨日は有耶無耶になったが、アンタらは賭けに負けた。今夜は練習場を明け渡してもらう。」
ワラビーラッシュ
「私は”芦毛のゼロ番”に負けたの。
あなた達に指図される理由はありませんわ」
バンダバーグはグッと奥歯を噛み締めた
バンダバーグ
「あいつは私のところ新人だ。」
声が震えている。
嘘をついているのは誰にでも分かる。
ワラビーラッシュ
「あら。そう思ってるのはあなただけではなくて?
証拠でもあるの?」
バンダバーグは、昨日拾ったルームスリッパをワラビーラッシュの目の前に押し付けた
バンダバーグ
「私があの芦毛から預かったもんだ。
今夜、必ず取りに来る。それで十分だろ?」
ちょっと待って…
勝手に私のルームスリッパ拾って何言ってるの!?
でも、そのまま放置する訳にはいかないし…
出るしかないのよね。
夜の空気が、ひやりと肌を撫でた。
バンダバーグの手の中で、
私のルームスリッパが月明かりに照らされている。
ワラビーラッシュは細い目をさらに細め、
まるで獲物の匂いを嗅ぎ分けるみたいに言った。
ワラビーラッシュ
「取りに来る、ね。
なら――来てもらいましょう。
“本物”なら。」
バンダバーグの喉が鳴る。
彼女は強がっているけれど、
その肩はわずかに震えていた。
バンダバーグ
「来るさ。あいつはそういうやつだ。」
……やめてよ。
そんな期待の仕方、されたことない。
胸の奥がざわつく。
逃げたいのに、逃げられない。
だって――
あのスリッパは、私のものだ。
そして。
あの夜の走りは、嘘じゃない。
私は深く息を吸い込んだ。
黒いフードを握りしめる。
ピュアノワール
「……返してもらうわよ。」
闇の中から一歩、踏み出した。
芝が、また小さく震えた。