ゼロバンゲート番外編〜芦毛のノワール〜 作:茶坊主(ぽんぽん)
夜の練習場から飛び出した私は、
ただ前へ、前へと走る。
芝が深くても、土が重くても、
踏み込めば踏み込むほど前に飛べる。
でも――
アフォガートはもっと速い。
風を切り裂く音が背後から迫る。
まるで戦闘機が追尾してくるみたいに。
ピュアノワール
「バカー!もう追ってこないでよ!!」
アフォガート
「なんて速いんだ……!
君の走りなら選考会にだって残れたはずだ!
どうして逃げるの!?
どうして隠れようとするの!?」
その声は怒りじゃない。
焦りと、心配と、必死さが混ざっている。
でも私には、
その優しさが一番つらい。
あなたの方が正しいし、美しい
私なんて…私なんて…
ーー
あの日の光景がフラッシュバックする。
小さな商店街の大会。
でも観客は多くて、実況もいて、
子どもにとっては大舞台だった。
私はただ走った。
ただ速くて、ただ楽しくて、
ただ前に出たかった。
そして――
圧勝した。
でも。
実況のおじさんが笑いながら言った。
「規格外のパワー!
まるで白いブルドーザーだ!」
観客が笑った。
子どもたちも笑った。
翌日からついたあだ名は――
“白い重機”。
男子は「ロボットアニメみたいでかっこいい」と言った。
でも私は違った。
「私は……そんなの、嫌だった……!」
あの日、
“自分の走り”が笑われた。
だから、
“綺麗な走り”を目指した。
“正しいフォーム”を覚えた。
“優等生の走り”を身につけた。
泥まみれの走りは封印した。
昨日の夜、
封印したはずの“怪物の走り”が出てしまった。
泥まみれで、裸足で、
芝を抉って、地面を揺らして。
あれは黒歴史の再来。
笑われる走り。
なのに――
バンダバーグも、ワラビーラッシュも、
アフォガートも、
“あれが本物だ”と言う。
ピュアノワール
「やめてよ……!
そんなの……認めたくない……!」
ついに敷地の壁まで来てしまった
もう後がない
アフォガート
「はぁ、はぁ……追いついた…。」
ゆっくりと歩み寄る
その表情は穏やかで私を叱責するような様子はない
「ピュアノワール、お願いだ。
逃げないで。私からも、自分からも…。
君は…!」
…いやだ。
聞きたくない!
私は自分の好きな自分でいたいだけ!
誰にも迷惑なんてかけてない!
全部わかったような顔で近づいて来ないでよ!
ピュアノワール
「私はゼロバンゲート…!
学園のヴィランなの!
正体を探るやつには容赦はしないんだから!」
自分でも
なんでこんな言葉が出たのか分からない
私は震える手で、
アフォガートを突き飛ばして逃げ出した
本当はこんなことしたくなかったのに
黒々とした気持ちがお腹の底から湧き出て止まらない
でも、こうするしかない
私を笑いものにしようとする
みんなが悪い
もう誰とも会いたくない
ただそれだけだった。
それなのに…私の行いは最悪の結末を呼んでしまった
ーー
翌朝、アフォガートは脚に包帯を巻いていた
彼女は誰にも怒らない
誰も私を責めない
それでも、視線は棘のように刺さる
みんなの無言が、私を更に追い詰めた