「ありがとうございマシター」
コンビニから出るとアジア人風の店員が片言な挨拶をする。
いつも帰りに寄るコンビニなのだからもはや聞きなれたものだった。
しかし、コンビニから出たその男は少々不機嫌な顔をしている。
(しくったな……スマホ、家に置いてきちまった)
スマホに届いたクーポンを使うためにコンビニに来たのに、
これでは本末転倒である。
(まぁ一番くじ買ったしいっか……無駄使いかもだけど)
男にとって唯一と言っていいほどの心のオアシス”ブルーアーカイブ”の一番くじだ。
近年世間ではこういうゲームも市民権を得たのか、かなりのグッズ展開が為されている。
男は知識と多少のゲームプレイのみで、
気恥ずかしさからか未だにこういうグッズ物は一人でコッソリ買う程度だ。
レジ袋越しに景品を眺めると男は満足げな顔になった。
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コンビニから帰った男は施錠した家の扉を開けるためポケットを探る。
田舎とも都会とも取れない何の変哲もないマンションの一室だ。
目当てのカギを探り当てると鍵穴に鍵を挿す。
―――ビンゴ
一発で挿さり思わず心の中で呟く。
何時もは、さながらUSBの如く裏表を間違えてリトライしている所だ。
(なにかいいことあるのかもな)
なんとも漠然な事を思いながら男は開錠し扉を開けた。
「ただいま~」
返ってくるはずもない帰宅の挨拶をする、一人だろうがこれはルーティーンだ
―――そう、返ってこないはずだった。
「え……!?」
玄関先にいた女が素っ頓狂な声を上げ振り向く、
扉を開けた男とその女は暫くフリーズした。
お互い全く状況が呑み込めていないようだ。
女は男より20センチ程低い身長だろうか、足元まで伸びた白い髪、
黒いヘアバンドに後頭部の大きなリボンが目立つ。
凛としたツリ目に美しい赤い瞳、服装はブレザーに大き目のジャケットを着ていた。
一般的にいえば”美少女”に当たるだろう、一般的ではない大きな機械を携えているが
男は目を白黒させると戸惑いながら言葉を発する。
「すみません」
続けて玄関先の女に深く頭を下げた。
「間違えました」
扉を閉める。
―――男は玄関前で先ほどの状況を反芻する。
(なんだあの女?)
自宅のカギを開けて入った先に見知らぬ女がいるのだ、異常事態でしかない。
親戚にもあのような女はいない、そもそも家に来るような女友達もいない、残念ながら。
だが男は女の容姿が気がかかった。
―――天童ケイ
男の唯一の心のオアシスであるブルーアーカイブ、そのキャラクターに見た目が酷似していた。
背負ってる機械までそっくりときた、
しかしなぜタダのコスプレイヤーが我が家にいるのか。
カギを掛けたはずの家の中いる女、コスプレイヤー、しかもそのキャラは誰にも明かしてない趣味のゲーム。
男は状況を整理すると、意を決し勢いよく玄関の扉を開ける。
「きゃぁ!?」
かなり勢いよく開けたからか、玄関先にいた女が飛び退き驚いた。
一般的に可愛い声ともいえるが、男からしたらそんなことは関係なかった。
顎を引き鋭く睨む、怒りをはらんだ低くハッキリとした声で女に威圧し口を開いた。
「何のつもりだ不法侵入者」
「不法しん……はい!?」
女は納得がいかないかのように声を上げる。
男はさらに怪訝な表情を浮かべた。
(ガキだからって油断させるつもりなのかもしれねぇ……)
そう思い男は女を観察すると女の足元に目が留まる。
(俺のスマホ―――!!)
このままスマホを踏み壊されでもしたら通報できなくなる。
そして何よりスマホの画面は見慣れたデータダウンロードの画面が―――
(なんでブルアカ起動してんだよ!!)
幸い画面は設定で暗いが、家の中ではマナーモードは切るため、このままダウンロード完了すれば
『ブルーアーカイブ!』
の陽気な起動音、またはアロナちゃんの元気なあいさつと共に男の趣味が白日の下に晒される。
しかしどう回収するか、とっさに近づけばあの巨大な機械で殴り飛ばされることもあるだろう。
(いや、所詮は小道具のハリボテ!大したことはない!)
しかしミニスカートを履いた女性の足元に飛び込むのは如何なものかとか、
相手は不法侵入者、そんなことは気にすべきではない等、様々な考えが交錯する。
「私は不法侵入者じゃな……」
「両手を上に!後ろを向いて三歩進め!!!」
女の言葉をかき消し男は大声で叫ぶ。
「…………」
女は驚くとしぶしぶ両手を上げ従った。
変に反抗して男を激高させてはならないと思ったのだろう。
(あと70%……80%……)
男はブルアカが起動する前に何とかスマホを回収する。
「ふぅ……」
「何をしていたんですか?」
一息ついた男に女は振り向かずに問うた。
「お前の足元にあった俺のスマホの回収だよ、通報する前に踏み壊されでもしたらたまったもんじゃねぇ」
「すみません、訳を話すのでどうか通報だけは……」
「不法侵入に訳もあるかアホンダラ」
懇願する女に男はぴしゃりと言い放つ、
しかし男の中でふつふつ疑問が沸き上がる。
(やけに言う事をきくな……既に目的を達成した後なのか?
にしてもわざわざ靴を脱いで上がる不法侵入者とは……いや靴跡も残したくない可能性もある……女に問いただしてみるか……)
それなりに言うことを聞くつもりであろうという希望的観測で男は決心した。
そもそも男からしたら不法侵入者のコスプレイヤーなので大した答えは期待していないが。
「……訳を話したいんだったな」
あきらめ混じりに頭をかきながら男は言うと女は黙って頷いた。
「まっすぐ進んでリビングに入れ」
決して女に後ろを取られるわけにはいかない、
その警戒心から指示を出した。
「ありがとうございます……」
女は自嘲気味に笑いそう言った。
多少、女の声を聴いてもブルーアーカイブの天童ケイそのものだった。
本来好きなキャラと同じ姿と声というのは喜ぶ要素なのだろうが、
今の男からしたら不快そのものでしかない。
両手を上げリビングに進む女を見据えながら男は唇を嚙んだ。