視界の先に、大きな建物が見えてきた。
ガラス張りの外観、人の出入りの多さ。
目的地であるデパートだ。
「到着しましたね」
「あぁ、とりあえず必要な物最低限そろえてから……」
スマホで買うものを確認するリョウ、すると―――
「あれ?嵯峨野じゃん、なにやってんの?」
クラスでよく聞く男の声にリョウは冷や汗を流す。
(父さんといい、コイツといい今日はなんなんだよ!!)
背後からかけられた声にゆっくり振り返る。
「才馬かよ」
そこにいたのは、見慣れた顔――才馬カイト。
そしてその隣には、腕を組んで立つ少女。
才馬の視線がゆっくりとケイに向く。
「へぇ……デートかよ」
「違います!」
「違う!」
ケイとリョウが同時に否定する。
「あはは、息ぴったりだね」
その様子を見てケラケラと笑う少女。
「まったく……デートなのはそっちだろうが、
彼女はケイ、事情あって少しうちに来てる親戚だ」
簡潔に、余計なことは言わないリョウ。
それでも才馬は「ふーん」と頷いた。
「ケイと言います、よろしくお願いします」
二人に軽く頭を下げる。
「才馬カイトだ、よろしくねケイ」
「――サイバ君、ですか、よろしくお願いします」
(同じサイバ……似てますね……雰囲気)
才馬の容姿はモモイやミドリとは違うが雰囲気が似ていた、
聞き覚えのある苗字に少し安心感を覚える。
「私は水岡ユナっていうの、よろしく!見ての通りカイトの彼女だよ」
今度は才馬の隣の少女、ユナが手を差し出した。
差し出された手を握るケイ。
「ケイです、よろしくお願いします」
(彼女は何処となくユズっぽいですね)
性格は真反対だろうが雰囲気はユズと似ていた。
「……ねぇ」
ユナが一歩前に出て、じっとケイを見つめる。
「ほんとに親戚?」
空気が一瞬だけ張り詰める。
「おい、ユナ失礼でしょ」
「だってさ」
咎める才馬、ユナは目を細めたまま言う。
「雰囲気違いすぎない?それに……なんか見たような……」
鋭い。
リョウは内心で舌打ちする。
(やべぇな……水岡ってたしかコスプレイヤーだったよな……)
コスプレイヤーならばそれなりにブルアカに精通している可能性も高い
リョウは今だけはユナがにわかコスプレイヤーであることを祈った。
だがケイは、まったく動じない。
「よく言われます」
さらりと返す。
「育った環境の違いでしょうか」
にこり、と微笑む。
そのあまりの自然さに、ユナは一瞬だけ言葉を失った。
「……ふーん」
だがそれ以上は追及しない。
代わりに、にやりと笑う。
「ま、いっか!かわいいし」
「軽っ」
リョウが即ツッコむ。
「で、あんた達何しに来たの?」
「買い物だよ」
「ちょうどいいじゃん、私も見るの付き合う!」
ユナがぐいっとケイの手を引いた。
「ちょ――」
そのまま、強引に店内へ。
「行くよケイちゃん!」
「え、ちょっと――」
流されるケイ。
リョウは頭を抱えた。
「……勝手に進めんなよ」
「まぁまぁいいじゃん、賑やかな方が」
才馬が笑いながら肩を叩き通り過ぎる。
「……はぁ、会計俺なんだぞ」
諦めたように、リョウも後を追った。
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ショッピングモールの一角、色とりどりの服が並ぶ売り場。
ユナのテンションは上がっていた。
「ケイちゃんはどんな服が好きなの?」
「そうですね……まだ明確に好みとかはありませんが」
ケイが手に取ったのはワンピース、肩口に少しフリルのついたものだ。
そのチョイスを見てユナはうんうんと頷く。
「なるほどー大人可愛いって感じだね、ケイちゃん何でも似合いそうだし、それも絶対似合うね!」
「ありがとうございます、でも最近よく買うようになったので……正直何を着たらと」
「ふーむ……それなら」
ユナがリョウと才馬を横目に見る、二人はというと—――
「なあ嵯峨野、これユナにどう思う?」
才馬が真剣な顔でリョウに一着の服を差し出してきた。
「は?」
「いやほら、こっちのワンピとどっちがいいかなって――」
「本人に聞けよ!」
「いやでも客観的な意見も大事じゃん?」
「知らんわ!」
あしらおうとしたリョウの肩に、才馬がぐいっと腕を回す。
「でもさあ、ユナってさ、こういうの着たら絶対可愛くない?」
「……はあ」
「いやほんと、あいつさ、笑った顔とか――」
ゴッ。
才馬の後頭部から鈍い音がした。
「痛ってぇ!?嵯峨野お前!」
「俺まだ殴ってねぇよ」
「はぁ……私よ」
二人の後ろには呆れたユナが立っていた。
そして手をたたいて声を張り上げる。
「さぁ男ども!あんたたちも一緒にケイちゃんの服選んで!」
「えー、ユナの服ならまだしも初対面の女の子の服なんて……」
「ちっ……水岡がいるから楽できると思ったんだがな」
「カイトが言ってたように客観的に!男の視点も必要なの!」
げんなりする才馬と悪態をつくリョウ、
そんな二人をユナは無理やり服選びに参加させた。
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ユナに急かされるまま、リョウと才馬も渋々ラックへ手を伸ばす。
そのまま三人の選んだ服の試着によるお披露目が始まる。
「まずは私ね!」
まずはユナの選んだ服。
「分かりました」
ケイは素直に頷き、試着室へと入っていく。
――数十秒後。
「……どう、ですか」
カーテンが開く。
現れたのは、落ち着いた色合いのワンピース。
シルエットは大人びているが、どこか柔らかさもある。
「うんうん、いいじゃん!さっきと同じ”大人可愛い”ってやつよ!」
ユナが満足そうに頷く。
「ありがとうございます」
ケイは少しだけ安心したように息をついた。
「とりあえず、これでお願い」
間髪入れず、才馬が服を渡す。
「え、あ、はい」
再び試着室へ――そして。
「……どうでしょう、普段着として適切と思います」
出てきたケイを見て、ユナの表情が止まる。
「……うん」
「悪くはねぇな」
リョウも一応頷く。
才馬は自信満々に胸を張る。
「だろ?無難にまとめてみた」
「いや無難すぎでしょ」
ユナによるツッコミ。
「えぇ!?」
「悪くはないけど、面白くない!」
ばっさり切り捨てる。
「え、そんなダメ?」
「ダメじゃないけど“普通”すぎるの!」
「いやでも万人受けは――」
「ケイちゃんは無難じゃ測れないの!」
一方的に押し切られる才馬。
その様子を横目に、リョウは黙って一着を差し出した。
「……じゃあ俺はこれだ」
黒いブラウスとピンクのスカートを受け取るケイ。
「……分かりました」
ケイは少しだけ不思議そうにしながらそれを受け取り、試着室へ。
カーテンが閉まる。
「アンタ何選んだの?」
ユナがリョウへ小声で呟く。
「よく見えなかったんだか……」
才馬も疑問に思う。
それに対してリョウは投げやりに答える。
「誰とも被らねぇ奴だ、色んなもん着てみたいだろうしな」
――その最中。
「……お待たせしました」
カーテンが開いた。
空気がぴたりと止まる。
「……おぉ」
才馬の声が漏れる。
さっきまでの“普通”とは明らかに違う。
ところどころにあしらわれた繊細なレース。
フリルがついているが過度に主張しすぎていなかった。
黒いブラウスが彼女の白い肌と銀髪を鮮やかに引き立て、ふわりと広がるピンクのスカートが少女らしい柔らかさを添えている。
「……どう、ですか」
少しだけ不安そうに視線を揺らすケイ。
「ハンッ、あとは厚底の靴でもあれば完璧だな」
一瞬だけ見て目を反らし鼻を鳴らすリョウ。
即座に似合ってると判断したのか頬が赤くなっている。
「アンタこんな趣味してたの!?いや可愛いけども!?」
「被らねぇように選んだんだよ!俺の趣味じゃねぇ!」
「趣味じゃなきゃこんなベストマッチ産まれないわよ!!黒で銀髪を際立たせて、スカートの色で瞳の赤を拾ってるし!!つーか親戚に着せる服がこれェ!?」
肩をひっ掴んで揺らすユナ、リョウの目線が平泳ぎの如く泳ぐ。
(しくった……テンション上がってつい……)
かつてのメイドアリスを見てこれをケイに着せれば……と思っていた自分がバレない様に弁明するリョウ。
さらにケイに選んだ服、そしてアリスに白いブラウスと青いスカートを着せて並べればどれだけ様になるだろうという妄想が漏れ出してしまった。
「か……可愛いですが……スカート短くありませんか……?」
裾を抑え頬を赤らめるケイ、それに対しあくまで呆れたような平静を装いリョウは指摘する。
「いや君が今日着てた服も似たようなもんだろうが、いまさら何を」
「―――ッ!?」
更にケイの頬が紅潮し上目遣いでリョウを睨みつける。
「―――馬鹿っ!」
そう吐き捨て千切れんばかりの勢いでカーテンを閉めた。
「とりあえず!!ユナと才馬君のにしますから!!」
ケイはカーテン越しに叫んだ。
額を抑えるユナ。
「アンタねぇ……そういうのは言っちゃダメでしょうが」
「あ?そのままの感想だろうが、お前も着てるとこ見たかったんだろ」
「まぁそうだけどさぁ、これでも私一端のコスプレイヤーだし……」
リョウは下らなさそうに答える。
才馬は腕組みして言った。
「……まさに地雷ケイ……ってね」
ユナとリョウが無言で才馬を見つめる。
「…………」
長い沈黙を破ったのはリョウだ。
「水岡、飼い犬の粗相はちゃんと処理しろ」
「あいあいさー」
胸倉を掴むユナ、才馬は悲鳴を上げる。
「ぎええええ!ごめんなさい!!」
「洒落は百歩譲るけど随分見惚れてなかった!?」
「いや……何言おうか考えてて」
「考えてあの洒落は才能ないわよ!」
それを尻目にリョウはケイの試着室の柱にもたれる。
「まったく……ほんとの恋人ってのはああいうもんをいうのかねぇ」
腕を組みながらごちると、ケイがカーテンの脇からひょこっと顔を出す。
「……その、リョウ君、さっきみたいな服はあまり着たことがなくて……」
ケイは少し戸惑ったようにリョウを見上げる。
「可愛いと思ったから選んだんだよ」
才馬とユナの言い合いを見ながら素直に言う。
「……ありがとうございます」
ほんの少しだけ、頬を赤くしながらケイが目を反らした。
リョウはニヤリと笑いケイを見る。
「似合ってたぜケイちゃん、めっちゃ可愛かった」
「誰がケイちゃんですか!?」
画面の向こうでよく見る表情。
つい趣味に走ったが名前呼びの仕返しは成功した。
評価、お気に入りありがとうございます。
お気に入り人数が100を超えました、誠にありがとうございます。
一般的には大した数ではありませんが、私の妄想を書き連ねているだけの作品に目を通していただいてありがとうございます。
現代入りが人を選ぶ一番の理由、作品によりますがオリキャラが多い事と思います。
そしてキャラが増えるとオチまでが長くなりがち。
一話2500から5000を目途にしようかと思っております。
小説初心者なのでその他至らぬ所は言っていただけると励みになります。