東方妖刀鬼〜人斬り侍の幻想入り〜   作:塩焼きそば啜郎

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鴉天狗と人斬り侍

近頃、妖怪達の間ではとある噂が流れていた。

 

『鬼武者』

 

夜な夜な何者かが血を求め、手当たり次第に妖怪達を手にかけていく……狙われれば命は無いも同然。目撃者は皆、口を揃えて「鬼の鎧を見た」と証言する。

 

事実、それを示すかのように妖怪の惨殺死体がそこかしこに転がる日もあった。そして今宵も一人、哀れな犠牲者が。

 

「ヒィ……ヒィ……!」

 

一匹の妖怪が地を這っていた。毛むくじゃらの全身は血に塗れ、ずるずると斬られた足を引きずっている。必死の形相で体を動かすその背後から、草鞋の足音が響く。

 

「安心せィ。魂を集めて貰った礼じゃ、一撃でかっ首飛ばしてやるワイ」

「魂……?何の、事だ……?」

「悲ッ悲ッ悲ッ、何を言うか。うぬがワシを着て獣共を斬ったのじゃろう……」

「そんな、知らな……

「ともかく、これで終いよォッ!!」

 

地に伏した妖怪が最期に見たのは、月明かりの逆光の中、自分を見下ろす赤い目の鎧武者の姿だった。そして、振り下ろされる一太刀。妖怪の筋肉質な首は呆気なく切断された。

 

「ヒヒ……ヒヒャハヒャハ!!堪らんのォ、やはり殺しの道楽は堪らんのォ!!」

 

武者はその場で一人、狂ったように笑い出す。月明かりに照らされたその屈強な体は青白く、赤い鎧には文字通り凶暴な鬼の顔が浮かんでいる。両肩に備わる二体の人魂が、武者に合わせてゆらゆらと揺れた。

武者は刀に付着した返り血を丹念に舐めた後、地面に転がった妖怪の首を見つめた。

 

「悲ッ悲ッ悲ッ、いい顔をしとるワイ……今までは此奴を隠れ蓑にしておったが……これからは思う存分人斬りが出来るワ!!」

 

武者は笑いながら、夜道を一人歩き出す。……が、すぐにその歩みは止まった。上空から、何者かの気配を感じ取ったのだ。

 

「……何奴!!」

「あやややや、バレちゃいましたか。いやぁいい悪役っぷり!そこまで来ると清々しいものがありますね」

「その翼……鴉天狗か」

 

鴉天狗と呼ばれた少女は、ゆっくりと地上に舞い降りた。手に持つ葉団扇をヒラヒラと揺らす。

 

「申し遅れました。私、新聞記者の射命丸文と申します。取材、宜しいですか?お侍さ……

 

文の言葉はそこで途切れた。紙一重で武者の居合斬りを避けた彼女は、再び空に舞う。

 

「チィ、躱されたか」

「全く、危なっかしい方ですね。もう少し殺気を抑えた方が良いのでは?」

「ほざけィ!とっとと降りて来い、この腑抜け鴉めが!」

「酷い言われよう……」

「当たり前よ!天狗なぞ所詮、鬼の使いっぱしりに過ぎぬワイ!!」

 

武者の挑発に、文の目つきが変わる。その手に葉団扇を構え、改めて地上に降り立った。

 

「……悪霊如きが言ってくれますね。良いでしょう、望み通り懲らしめてあげます!とっとと私の文々。新聞のネタになりなさい!」

「フン、新聞のネタはぬしのさらし首よ!冥土の土産に教えてやるワ、我が名はビシャモン!!潔く真っ二つになれィ!!」

 

言うや否や、武者改めビシャモンは刀を上段に構えて勢い良く文に突進する。

 

「うりゃァ!」

 

繰り出すのは唐竹割り。かなりの速度だが、文に軽く躱される。刀を切り返し更に攻めるが、これも当たらない。

 

「威勢の割には大して速く無いですねぇ?」

 

文のニヤつき顔に、ビシャモンの攻撃は苛烈さを増す。四方八方からの斬撃が文を襲った。

 

「ヌゥン!ハァッ!!怒ッ声ィィィ!!!」

「あーもう五月蝿いですね!もう少し静かに出来ないんですか!?夜ですよ!?」

「逃げるだけの蝿が抜かすなァ!」

「は?」

 

罵声と共に放たれた一撃を避けた文は、今度はビシャモンに急接近。その顔面に拳を叩き込んだ。

 

「ヌゥ……本性を現しよったか」

「流石に蝿呼ばわりは許せないわね。ま、謝罪すれば許さなくもないけど」

「……面白い!ますます斬り甲斐があるのォ!」

「……交渉決裂ね。いいわ、真正面から潰してあげる」

 

文は腕を上げ、斬撃を防御する。刀に対して生身の腕。安々と両断出来ると踏んだビシャモンの表情は直ぐに曇った。

 

「何ィ……?」

「見えるかしら?()()()()が」

 

文の腕を纏う様に流れる風。自身の能力で風の鎧を作り、ビシャモンとの距離を詰めていく。

 

「小癪な真似を!!」

 

鎧を纏った文の拳撃に、ビシャモンは防戦一方となる。だが彼も彼で、反撃の隙を狙っていた。

彼女の攻撃が大振りになった一瞬、密かに溜めていた霊気を、刀身に乗せて解き放つ。『上段居合斬り』は彼の得意技の一つだった。

 

「ヌゥりゃアァァッ!!」

「くっ……!」

 

文は瞬時に察知して飛び退くも、一瞬遅れた。鮮血が彼女の白いシャツを赤く染める。

 

「悲ッ悲ッ悲ッ、ようやく斬れよったワ」

「これくらいで調子に乗らない事ね……!」

 

文は距離を取り、葉団扇を振るう。生み出された風の刃がビシャモンに迫るも、次々と刀を振るい相殺していく。戦いは再びビシャモンの攻勢一方となった。

 

「えぇい、いい加減に斬られんか!」

「斬られる訳……」

 

文は更に速度を上げ、ビシャモンの後ろに回り込む。その無防備な背中に飛び蹴りを決めた。

 

「無いでしょうっ!!」

「チィッ!」

 

文の追撃を即座に牽制するビシャモン。両者は再び距離を開けた。

 

「小賢しい奴よ。ワシが斬るのにここまで手こずるとは……」

「もうそろそろ、終わりにしても良いかしら?早いとこ止血したいし」

 

そう文が呟いた瞬間。ビシャモンの視界から、()()()()()

 

「なっ」

 

声を上げた時には、もう遅い。凄まじい衝撃がビシャモンを全方位から襲う。彼はもう文の姿を捉える事も出来なかった。時折、月明かりが彼女の体で遮られ、視界が明滅するのみ。

 

「グオォ!?」

「返せるものなら返してみなさい。幻想郷最速の称号は伊達ではないけれど」

「おのれ、おのれェ……!」

 

ビシャモンを覆う鎧……正確に言えば、『本体』はかなりの強度を誇る。しかし、今はまるで大砲を連射されているようなもの、魂で出来た肉体は幾らでも再生するが、砕けた鎧は簡単には再生しない。

故に、彼の中では、最後の手段が浮かび上がっていた。

 

(ここで使うか……黄金帷子(こがねかたびら)!)

 

それは、彼が幾多もの戦いで身に着けた奥の手。鎧に霊気を集中させ、強度を飛躍的に高める奥義。

しかし今の彼の状態では、とてもその状態を保つ事など出来はしない。良くて一回、攻撃を跳ね返せる程度だろう。

 

(待っておれ鴉天狗めが……必ずやぶった斬ってやるワィ!!)

 

ビシャモンは必死に攻撃の周期を読み取る。そして、どうやら彼女の突進はおおよそ一定の間隔で来ている事を理解して、そこに活路を見出した。

 

「今よォッ!!」

「……!?」

 

ビシャモンの鎧が鈍い黄金色に輝き、文の拳撃を跳ね返す。その一瞬が、彼女の思考を狂わせた。

 

「貰ったアアァァーッ!!!」

 

渾身の力を込めて、刀を振り上げる。彼が捉えたのは、刀身が文の胴体をはっきりと斬り裂いた感覚だった。




口調が難しい。
そして初めからこんなに暴れさせていいのか……?(不安)
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