東方妖刀鬼〜人斬り侍の幻想入り〜   作:塩焼きそば啜郎

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ちょっと短め


賢者の裁き

「これはこれは……どうも、賢者様」 

「あら、その傷でも堅苦しい挨拶は出来るのね」

 

小町は脇腹を押さえながらバツの悪そうに笑う。

 

「それで、どうなさいました?八雲様。やはり……あの侍の事で?」

「えぇ。彼とはちょっとお話をするつもりです。傷も塞がった事ですし、貴方はここで休んでなさい」

 

はっとして、小町は手をどけた。手に血は着いているものの、先程まであった筈の深い傷は完全に塞がっている。

 

「……ありがとうございます」

「いいのよ、閻魔様に合わせる顔が無くなっちゃうわ。……さて、その霊魂も返さないとね」

 

賢者と呼ばれた少女、八雲紫が言うと、その空間にスキマが開いた。小町に纏わりついていた霊魂は慌てたようにそのスキマから外へと逃げていく。紫はそれを見て、自身もスキマから出ていく。空間には一人、小町のみが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビシャモンは唖然としていた。いざトドメを刺さんとした瞬間、突如現れたスキマに小町が引きずり込まれたかと思えば、自身の霊魂と共に忽然と消えてしまったからだ。やがて宙に小さなスキマが空き、霊魂が戻ってくる。

 

「……」

 

言葉も出なかった。そもそもそんな力が小町にあるなら、初撃を食らった時点で発動させていた筈。明らかに第三者の介入があった。それを理解したビシャモンの内に、沸々と怒りが沸いてくる。

 

「……誰だ、ワシの道楽を邪魔する愚か者はァァ!!」

「ここにいましてよ、お侍様」

「!」

 

振り向いたビシャモンが覚えたのは、正に『格の違い』だった。その見た目からはかけ離れた気配を放つ少女に、困惑すら覚える。金髪をなびかせ、フリルのついたドレスを着こなす、一見はごく普通の美人。八雲紫は、にこやかな顔でビシャモンを見つめていた。

 

「はじめましてだけれど、第一印象は悪いみたいね。猛省するわ」

「……うぬがあの死神を庇ったか」

「えぇ。貴方に魂を奪われては、三途の川の渡し船が人材難になってしまうから」

「チィ、どいつもこいつもワシの邪魔しかせぬワ!!」

 

いつものビシャモンならこの時点で斬りかかっていた。しかし、未知への警戒心が彼に行動を躊躇させる。

 

「さて、本題に入りましょう。まず貴方は、妖怪を必要以上に殺しすぎたわ。貴方を放っておけば、そこらの妖怪ならいずれ殺し尽くされるでしょう。だから私は……」

 

紫はその笑みをより一層強めて言った。

 

「貴方をここで封印するわ」

 

その瞬間、ビシャモンは駆け出していた。たった今、彼の中で紫は『排除するべき敵』と認定されたのだ。

 

「あらあら、そんなに必死にならなくても良いのではなくて?」

「黙れィ、今すぐ掻っ捌いてやるワ!!」

 

ビシャモンは全力で刀を振るい続ける。しかし攻撃が紫に当たるイメージが彼には全く湧かなかった。

それでも目の前の脅威を排除する為、変わらず彼女に斬りかかっていく。

 

「それにしても……貴方は何故人を斬るのかしら。趣味?」

「知らぬ!うぬらが飯を食い、夜に寝るように!人斬りこそワシの存在理由よ!斬って!斬って斬って斬って!!」

 

ビシャモンはありったけの霊気を刀身に集中させ、紫に解き放った。

 

「斬りまくるのじゃァァァァ!!!」

 

青白く光った刃は、しかし虚しく空を斬った。紙一重で攻撃を躱した紫は、ビシャモンを見つめる。

 

「……虚しいわね。他者を傷付ける事でしか己を示せないなんて。でも、ここは幻想郷。幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」

「受け入れようが受け入れまいが知らぬワ!ワシはワシの欲望に従うまでよ!」

「えぇ。そう言うと思ったから封印するのよ」

 

そう言いながらも、一切仕掛けて来ない紫に対してビシャモンは違和感を覚えた。何か、自分を一撃で倒せる術でもあるのか。警戒心を更に高め、刀を握り直した。……筈だった。

 

「お探し物はこれ?」

 

自分の刀を持つ紫を見て、ビシャモンは絶句した。一体、どうやってあの女を斬ればよいと言うのか。あまりの衝撃に、彼はただ立ち尽くす事しか出来なかった。

 

「こんな鋭い刃でも、鞘に納めてしまえば……この通り。もう危なくないわね」

「……?」

 

紫は鞘に収まった刀をビシャモンに投げる。それを受け取った彼は、戸惑いながらも再び抜刀しようとする。

 

「!?……抜けぬ……!」

 

幾ら力を込めても、刀はびくともしなかった。

 

「もうその刀は鞘から()()()()わ。数百年の間、それで人を斬り、己の存在意義を示し続けて来た貴方……それが封じられれば、一体どうなるのかしら?また新しい刀で人斬りに励む?いいえ、無理でしょうね。その刀……随分と血を吸ったみたいだから。もうその斬り心地は戻って来ないわ」

「人斬りが……出来ぬだと……!?」

 

ビシャモンは、ただ紫の言葉を受け入れるしか無かった。彼を形成する、死者の怨念。それを得られなければ彼は永遠に自分の存在意義を失う事となる。

彼にとって、斬る事は至上の喜び。己自身の価値同然。

 

「貴方の内に宿る怨念は、きっと貴方を逃してはくれない。生きる意味を失い、それでいて消える事も出来ない……貴方にぴったりの『封印』ではなくて?」

 

紫から突きつけられた、自らにとってこの上なく残酷な判決。それは、事実上の死刑宣告に等しかった。

 

「……では、御機嫌よう。人斬り侍さん」

 

紫はスキマを空け、自らの空間の中に入って消えた。ビシャモンの手から、刀が自然と抜け落ちる。

 

「もうワシは、斬れぬのか……あの道楽を味わえぬのか……」

 

その独り言は、今までのビシャモンからは想像出来ない程弱々しいものだった。震える手で刀を拾い上げ、微かな望みを賭けて抜刀を試みる。……しかし、現実は非情だった。

 

「…………クウウゥゥゥゥワアァァァァァッッッ!!!!」

 

心の底から、憤怒の叫びが出て来る。しかしそれも、ただ周囲の木の葉を揺れさせるだけ。ビシャモンは今、限りなく非力な存在だった。

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