東方妖刀鬼〜人斬り侍の幻想入り〜   作:塩焼きそば啜郎

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結構短めとなりました。
そしてここから独自解釈が顔出ししてきます。


屋台の女将と酒呑み侍

ビシャモンが魔理沙と霖之助の下を出発して数日。彼は遥か遠方に見える光を頼りに歩いていた。

 

「今更人間を襲っても意味は無いが……」

 

一人呟きながら、手元を見る。そこには血に塗れた布袋が握られていた。つい先程、日が暮れるからと森を後にしようとした人間を撲殺して手に入れた物である。刀が使えなくとも悪霊は悪霊、本質は変わっていなかった。

 

「……?」

 

ふと、ビシャモンは別の方向から立ち昇る煙を見つけた。どうやら屋台か何かのようである。

 

「……あの男も酒好きだったか……気晴らしに呑んでやるワイ」

 

ビシャモンは袋片手に、その煙を追って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミスティア・ローレライが営む屋台は今日も若い妖怪で繁盛していた。各々が酒を片手に彼女の作る料理を楽しんでいる。

 

「いやぁ、これまたモモ肉がうめぇんだ!お前喰った事無いだろ?」

「あ?人間の肉は腹が一番だろうがよ!!」

 

勿論会話は人間からしたら物騒極まりないものである。

 

「やっぱお前も腹だよなぁ!?……違う?分かってねぇなぁ〜……あ?」

 

そんな議論の最中、ふと漂う血のにおい。彼らは誰か来たのかと一斉に振り返る。

 

「なんじゃァ、うぬら……まじまじと見おってからに」

「なっ!こ、こいつ……」

「鬼武者!?」

 

赤い鎧に大口を開けた鬼の顔。噂に違わぬその姿は、妖怪達を酔いから醒めさせるには充分だった。

 

「すまねぇ、今日の分は今度払うからよ……!」

「命あっての酒だぁ、退散させて貰うぜ!」

 

妖怪達は席を立ち、散り散りになって逃げていく。

 

「ちょっとお客さん!?……も〜どういう事なの……!?」

 

ただ一人残った店主、ミスティアは暖簾を上げて立ち尽くすビシャモンの姿を見た。

 

「まさか、うぬも逃げ出すとは言うまいな……ワシは客だぞ」

「……斬ったりしない?」

「今はせん」

「……代金、持ってらっしゃる?」

「ここにあるワイ。奪った物ならな」

「……どうぞ、おかけください……」

 

ビシャモンは暖簾を潜り、席に座る。そして布袋を取り出してミスティアに差し出した。

 

「幾らあるかは知らぬ。それで飲める酒と食える物はあるか?」

「うわぁ血だらけ……えーと、これなら……少々待ってて下さいね」

 

ミスティアは布袋を置き、料理を作り始めた。屋台の中に香ばしい匂いが充満する。

 

「あぁ……?鰻か、娘」

「娘って……食べた事がお有りで?」

「うむ、昔な……」

 

ビシャモン……正確には、闇の鎧『般若』。彼には、かつての宿主(ビシャモン)の記憶が残っていた。その記憶の一つに、この鰻の匂いがあったのだ。

 

「おい、娘」

「何でしょう?」

「あの女鴉……いや、鴉天狗の女は知ってるか。首から箱をぶら下げてる女だ」

「あぁ、あの……知り合いですか?」

「嫌でもあの顔は忘れんワイ。奴は何処に住んでいる?」

「天狗は『妖怪の山』に住んでますよ」

「それはどちらに向かえば行ける?」

「ここからだと……向こうですね」

 

ミスティアが指し示した方向は、ビシャモンが目指している光、つまり人里とは違う方向だった。

 

「どのくらいかかる?」

「歩きだと結構かかりますよ。う〜ん、十日くらいですかね?」

「構わん」

 

ビシャモンの短い返事で、会話は終わった。以降もミスティアは空気を変えようと試みるも全て失敗に終わった。彼女からしてみれば彼がいつ気が変わって斬りかかってくるか分からない為、気が気じゃないのだ。

 

「ふぅ……さ、出来ましたよ」

 

疲労困憊のミスティアがビシャモンに差し出したのは、日本酒と八つ目鰻の蒲焼きだった。ビシャモンは記憶を頼りに、おぼつかない箸使いで蒲焼きを口に放り込む。

 

「……美味いのォ、こりゃ酒に合うワイ」

 

注がれた日本酒を流し込めば、幾らか気分も晴れるというものだった。

 

「娘、妖怪の山にいるのは天狗だけか?」

「いや、その他大勢の種族がいますよ。まぁトップは天狗と河童ですけどね」

「フハハ、そやつらを叩き潰してやるのも面白そうだのゥ」

「あー、止めておいた方が良いですよ。あいつら、集団で襲ってくるし」

「ワシにかかれば鳥の一羽二羽なぞ一捻りよォ!しかしてこの酒、気に入った!飲める分持って来い!!」

「テンション上がって来ちゃった……すぐお持ちしますね」

 

ビシャモンは更に酒を飲み干す。蒲焼きも乱暴に平らげ、あっという間に食事は終わった。

 

「チィ、もう終わりか」

「また来て下さいね〜」

「もっと食いたいが……食いたい?」

「どうしました?」

「いや、何でもない……馳走になったワイ」 

 

ビシャモンは席を立ち、ミスティアの屋台を後にした。辺りはすっかり暗くなっており、これまた遠方の人里の光と月明かりに頼らざるを得ない。

 

「食らう……食らう……」

 

その言葉を反芻しながら、再び夜道を歩いていく。

 

「食らう、か……そうだまだ試してない事があったか……」

 

ビシャモンは新たな可能性に期待を寄せ、一層速い足取りで妖怪の山を目指して行った。

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