東方妖刀鬼〜人斬り侍の幻想入り〜   作:塩焼きそば啜郎

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人斬り侍と橋姫の嫉妬

ビシャモンが妖怪の山を目指して、今日で丁度十日目。彼の眼前には雄大に連なる山々が広がっていた。だがその前に、もう一つ気になるものがある。

 

「随分場違いな穴じゃ……」

 

自然の中に空いた、近代的な円形の穴。その隣には、洞穴と言うべき暗闇への穴。ここが何かは分からなかったが、ビシャモンは微かに感じ取っていた。自らの身体に宿す無数の怨念と同じ波長を。

 

「……怨霊なら殺さずともそのまま喰らってやれるワイ!ちと寄り道と行くかのゥ!」

 

ビシャモンはその身体を無数の霊魂へと変形させる。そして、ゆっくりとその穴に身を投じて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊魂はただひたすら、深い深い縦穴を降っていった。ビシャモンは暗闇の中で、自らが求める魂の拍動に近付いていく感覚を頼りに進んで行く。

やがて、霊魂は広い空間へと出た。その奥からは光が漏れ、小さいながらも喧騒が聞こえてくる。

 

「ちィ、思ったより長かったワイ」

 

ビシャモンは奥に続く大橋の上で人型に戻った。すると、奥から一人の少女が歩いて来る。

彼からしては見慣れない異国風の格好をした少女は、その緑色の瞳で彼を睨んだ。

 

「……初めて見る妖怪ね。ここに迷い込んだ……って訳でも無さそうだし、わざわざ地上から来たの?その好奇心、妬ましいわ……」

「何をブツブツ言っておる。まさか、この先にはうぬのような陰気臭い奴らしかおらぬのか?」

「さぁ?自分の目で確かめてらっしゃい。何をするのかは知らないけれど」

「ここから美味そうな魂の匂いがしたからのゥ、ワシが皆喰らい尽くしてやるのよ!」

「……最初から通す気は無かったけれど、ますます通す訳にはいかなくなったわね。あぁ、その傍若無人さが妬ましい……」

 

一人で頭を抱える番人の少女、『水橋パルスィ』。対するビシャモンは問答無用とばかりに刀を構えた。

 

「苦ゥーッ、さっきから訳の分からぬ事を!そんなに妬ましいのならこいつで脳天かち割って、何も考えられなくしてやるワ!!」

「その勇ましさ、本当に妬ましいわ!!」

 

ビシャモンはパルスィに勢い良く刀を振りかぶる。しかしそれは彼女にひらりひらりと躱され、ただ後退させる事しか出来なかった。

 

「鞘から抜かないなんて……慢心かしら?そんな事が出来る心の余裕が妬ましい……!」

「抜けるモンならとっとと抜いておるわ、この嫉妬狂いめが!!」

 

時折、パルスィが放つ迎撃の弾幕を弾きつつ、ビシャモンは的確に距離を縮めて行く。様々な角度からの斬撃を駆使し、遂に唐竹割りの射程内に入った。

 

「喰らえィ!!」

「油断しすぎよッ!!」

 

パルスィは振り下ろされた刀を片手で掴み取る。そして間髪入れずにビシャモンに蹴りを入れ、距離を大きく離した。

 

「さ、仕切り直し……!?」

「甘いのはうぬの方じゃァ!ワシが何度痛い目を見てきたと思っておる!!」

 

ビシャモンは蹴りを入れられた時点で自身の霊魂をパルスィに飛ばしていた。霊魂は彼女を縛り上げ、僅かな時間ながら棒立ちにさせる。それで充分だった。

 

「悲ィーッ悲ッ悲ッ、こっちに寄れィ!」

 

ビシャモンは霊魂ごとパルスィを手繰り寄せる。飛んできた彼女の無防備な顎は、刀を使ったアッパーをもろに喰らった。

 

鬼炎斬(きえんざん)!!」

「がっ!?」

 

高く打ち上げられたパルスィは受け身も取れずに橋に激突する。すかさずビシャモンは彼女に飛びかかり、鳩尾に刀を突き立てた。

 

「ヌゥりゃア!!」

「ぐ……はっ……」

「さぁ喜べ、うぬが最初の実験台よ!」

 

ビシャモンは鎧の口を大きく開ける。そしてそこから出て来た巨大な手が、パルスィを鷲掴みにした。

 

「くぅっ……侍が、絞め殺そう、とはっ……随分と多彩ね……」

「安心せィ、うぬは()()()()で永遠に妬み続けておくがいいワ……!!」

 

更に肥大化した手は完全に彼女を包み込み、その口の中へと戻って行く。やがて、大橋には静寂が戻っていた。そして、その中で高笑いをするのはただ一人。

 

「苦ッ苦ッ苦ッ……ヒィーヒャハヒャハハハ!!!力が湧き上がってくるワイ!ワシは冴えとるのォ!!まさか、()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

思えば簡単な事だったのだ。以前、ビシャモンは人間を宿主として中に取り込んでいた。当然、人間は非力である。だから僅かな力の上昇に()()()()()()()だけだったのだ。

 

「久々に楽しい道楽になりそうじゃァ!」

 

ビシャモンは一人、大橋の先へと進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忌み嫌われた妖怪が集まる地底都市、旧都には断末魔が広がっていた。突如として押しかけて来た鎧武者に勝負を挑まれ、早くも十人が地に伏した。一人は脳天を割られ、また一人は粉砕された肋骨が心臓に突き刺さった。今、鬼達の楽園はビシャモンによって本当の地獄と成りつつある。

 

「さァ、次はどいつじゃ!?一撃でぶっ殺してやるから、とっととかかって来んかァ!!」

 

殺した鬼の首を掴みながら、ビシャモンは叫んだ。いつもは酒の匂いで賑やかな旧都も、今は血の臭いと絶叫が響き渡っている。彼の挑発に乗る鬼など、一人もいなかった。

 

「ちィ、この腑抜け共めが。そんなに来たくないなら、ワシから行ってやるワイ!!」

 

ビシャモンは、近くにいた一人の鬼に目をつける。震える鬼に向かって振られた刀は、何者かによって弾き返された。

 

「ぬゥ!?」

「全く、随分派手な事をしてくれるねぇ。数百年ぶりの鬼退治かい?」

 

ビシャモンは後ろに飛び退いて距離を取る。一方、立ち塞がったのは、赤い一本角を生やした女だった。手足には枷が付いており、更にはこれまた赤い盃を持っていた。女が現れた瞬間、周りの鬼は一斉に引き下がって行く。それを見て、ビシャモンはここでの女の立場を理解した。

 

「……悲ッ悲ッ悲、ようやく本丸が現れよったワ!鬼退治だと?そんな生温い事はせぬ。鬼喰らいとでも言おうかのォ!」

「鬼喰らい、ね……面白いじゃないか」

「我が名はビシャモン!名を名乗れィ!!」

「鬼の四天王、星熊勇儀。せいぜい楽しませてくれよ!!」

 

ビシャモンの刀と勇儀の拳が激突する。鬼の頭を容易に砕いたそれをも、彼女は拳撃で受け止めた。

 

「ハッ、納刀したままとは大層な自信だねぇ!」

「クワアァァァッ、うぬのハラワタを引き摺り出してやれんのが唯一の無念よ!」

「やれるもんならやってみなッ!!」

 

続く勇儀の第二撃。ビシャモンは横一文字で対抗したが、これも彼女の優勢。力では、圧倒的に彼女に分があった。

 

「四天王の名は伊達では無いのゥ、それでこそ喰らい甲斐があるワ!」

「あんまり舐めんじゃあ無いよッ!」

 

その後も肉弾戦は続いたが、ビシャモンは徐々に後ろに下がって行く。不利を悟った彼は、鞘ごとだが霊気を溜め、得意の居合斬りを放つ。

 

「怒ッ声イィーッ!!」

「おぉっ!?」

「……チィ、待っておれ、次は骨を砕いて見せようぞ!!」

 

勇儀は居合斬りを腕でガードした。その一撃は襲ってきた彼女を後ろに吹っ飛ばす。しかし彼女の腕には、痣が残るのみだった。

彼女は逆にビシャモンに興味を示し、獰猛な視線を向ける。

 

「いいねぇいいねぇ!次は何を見せてくれるんだい?」

「……舐めるなアァァ!!」

 

ビシャモンは力で不利と見ると、手数の多さでの攻めに切り替えた。あらゆる方向から多彩に仕掛け、勇儀に反撃の隙を与えない。

 

「さァ、何処の骨から粉微塵にしてやろうかのォーッ!ワシの掻っ捌き、受けてみるがいいワ!!」

 

先程よりも多くの霊気を込めた居合斬りを連続して放つ。青白い閃光が勇儀のガードを照らした。

 

「ッ!」

 

初撃はまたもガードされる。しかし切り返しの二撃目は勇儀のガードを抜け、脇腹を直撃する。頭部を狙った続く三撃目を彼女は危なげに防いだ。

 

「チイィ、えらく硬い胴じゃのゥ」

「……本当に愉しくなって来たじゃないか!こっちも上げさせて貰うよ!」

 

そう言うと、勇儀は持っていた盃を下ろす。それは、彼女がビシャモンを敵として見定めた事を意味した。

 

「ようやく盃を捨ておったか、四天王とやら!その自信、体ごとブチ砕いてやるワイ!!」

 

ビシャモンは再び刀を構える。彼の鬼喰らいはまだまだ終わりそうに無かった。

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