旧都を舞台に、両者は互角の戦いを繰り広げていた。片や溢れんばかりの殺気と共に、もう片やはち切れんばかりの闘気と共に、自らの欲望を刀と拳に乗せる。
「本当に良いねぇ!何人かやられちまったのは惜しいが……後で掃除して貰うよ!」
「ほざけィ!死体となって掃除されるのはうぬの脳漿じゃアァァ!!」
ビシャモンは激しく攻め立てながらも、防御を怠ってはいなかった。勇儀の剛力は以前戦った文や小町とは一線を画す威力、喰らえば一気に劣勢になるのは明白だった。
「ちィ、どこを打っても手応えが無いワイ!」
「はは、あんたの刀が先に折れるんじゃ無いのか?」
「言ってろ、直ぐに黙らせてやるワ!」
「こっちの台詞さ……そらよッ!!」
勇儀の拳がビシャモンの兜をかすった。一方で、彼の刀もガードを抜けて直撃するのが増えた。互いに攻撃の精度が高まって来ているのだ。このままでは力で勝る彼女がいずれ優勢となる。その焦りこそ、命取りだった。
「そこだァッ!!」
「がぶゥ!?」
ビシャモンの袈裟懸けに対して、勇儀の正拳突きでのカウンター。拳は吸い込まれるように鎧に直撃し、同時に彼は苦悶の表情を浮かべた。
「いやァ〜、やっとこさ一撃だね。さっきの痣の借りは返したよ!」
「かっ……はっ……おの、れェ……!」
たったの一撃で大きく凹んだ鎧が、その威力を物語っていた。
「その剛力、何が何でも取り込んでやるワァ!!」
「そう来なくっちゃな、まだまだくたばってくれるなよ!」
「……これならどうだァ!」
ビシャモンは近付いてくる勇儀に霊魂を飛ばす。接近した霊魂は勇儀に絡みつき、ガードを強引に解いた。
「へぇ、金縛りの類いかい?」
「だったらどうした、この怪力女めが!!」
ビシャモンは辻疾風を繰り出そうと猛スピードで勇儀に突撃する。しかし彼女の力はビシャモンの想像をここでも超えていた。
「効かないってんだよ!!」
「何ィ!?」
霊魂による束縛を、勇儀はあっさりと弾き返してしまった。ビシャモンはスピードを落とせず、最低限のガードしか出来ない。彼女の蹴りが鎧を襲った。
「もう一丁!」
「がはッ!?」
またしてもビシャモンは後ろに吹っ飛ばされる。蹴りを受けた手甲は歪み、ヒビが入っていた。
「ほらほらどうした?さっきまでの威勢は嘘っぱちかい?」
「苦ウゥ〜ッ……どこまでも舐め腐りおってェ!!」
ビシャモンは何とか打ち込もうと、ひたすら距離を詰めていく。霊魂での金縛りが効かないとなると、もう頼れるのは己の刀のみだった。
「憤怒ッ!鬼影ッ!!怒ッ声イィィーッ!!!ぶった斬ってやるワァァーッ!!!」
「何度やっても同じ事さ!」
「ぬゥ〜ッ……」
ビシャモンはうめき声を上げると、ジリジリと後ずさりしていく。しかし直ぐに、自らが撲殺した鬼の死体に足をぶつけた。
「おや、逃げるのかい?逃がす気は無いけどさ」
「……思いついたワイ。無いよりマシ程度だがのォ!」
ビシャモンは鎧の大口を開け、鬼の死体を次々に取り込む。自らの体に力が湧いてくるのを実感した。
「な……」
「ちィ、相変わらず死体は不味いったらありゃあせんワ。しかし腐っても鬼よのォ、疲れが吹っ飛ぶワイ!」
「……貴様、ただで済むと思うな……!」
先程までとは明らかに違う殺気が勇儀を包む。闘いを楽しむ態度から一変、鬼の尊厳を汚した愚者を始末せんとばかりに力が集まってゆく。
「本性を出しよったか。そのような歪んだ目こそうぬら鬼に相応しいのォ!」
「ほざけッッ!!」
勇儀の拳がビシャモンに襲いかかる。しかし、大振りになった拳をすり抜け、彼の妖刀が勇儀の鳩尾に突き刺さる方が僅かに早かった。
「ぐっ……」
「怒りに任せた拳ほど躱しやすいものは……」
そのまま、勇儀の顎に鞘を直撃させる。
「無いのォーッ!鬼炎斬!!」
「がぁっ……!」
「ほらほらどうしたァ、同胞の仇を討つのでは無かったか、この腰抜けめがァ〜ッ!!」
鬼の力を取り込んだビシャモンは、ガードが空いた勇儀の全身に容赦なく剣撃を打ち込む。一刀一刀が凄まじい力と速度を持ち、彼女を打ちのめしていく。
「好きな、だけ……打っときな。死んだ時に心残りにならないようにね!」
「ほざけィ、この死に損ないめが!」
がら空きの胴に、ビシャモンの上段居合斬りが炸裂する。その一撃で、勇儀は大きく吹っ飛ばされた。
「……ハッ、こんなに喰らったのは何時ぶりかねぇ。しかし、貴様のおかげで少し冷静になれたよ」
「フン、その冷めきった頭を釜茹で地獄で煮え立たせてやるワ」
「煽り文句だけは減らないね!」
両者の間に緊張が走る。互いに、これ以上のダメージを無視出来なくなってきていた。
「その鎧ごと、ムカつく悪鬼の顔を砕いてやるよ!」
「その体ごと、うぬの自信をへし折ってくれる!!」
同時に駆け出した。ビシャモンは背後に霊魂を構え、勇儀に狙いを付ける。
「行けィ!」
「同じ手とは舐められたもん……!?」
「馬鹿め、同じ手な訳があるか!」
ビシャモンに殴りかかろうと構えた右腕が、後ろから
「辻ィッ!」
そのまま勇儀を通り過ぎ、即座に反転。今度は、項に狙いを定めた。
「疾風エェェッッ!!!」
「ぐぶっ」
苦悶のうめき声と共に、勇儀は地面に叩き付けられた。その背中を、ビシャモンが踏み付ける。
「き、さまぁ……」
「苦ゥーッ苦ッ苦ッ……負け犬の遠吠え程哀れなモンは無いのォ、え?その屈辱を胸に抱き、闇の中を永遠に彷徨うが良いワ!!」
鎧の大口から、パルスィを取り込んだ時と同様に、巨大な手が現れる。勇儀は全身を鷲掴みにされ、無抵抗のまま闇の中に引き摺り込まれて行く。
「フゥゥ……こいつは良い、更に力が湧いてくるワイ。さて、うぬら。ワシの食後の運動には……付き合ってくれるであろう?」
ビシャモンが邪悪に笑う。その後の惨劇は、言うまでもなかった。
「ぬゥ〜ッ、どいつもこいつもすばしっこく逃げおってからに。まァ良い、あの館の奴も喰わねばと思ったが……これなら十分じゃて、いつでもあの鴉天狗を殺せるワイ」
壁に広がった血飛沫、そこら中に転がる無残な死体。そして、異様なまでの静寂。それらを背景に、ビシャモンはただ一人霊体へと姿を変え、地上へと戻って行った。建物の中から漏れ出る光が、場違いに輝いていた。
こんなに暴れさせて取り返しがつくのか……?(一抹の不安)