甘い世界で微笑んで   作:XX

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6-4の右ルート強制任務マジでやめてほしい。何回やっても道中大破してしまう。


明石工場

 

 鎮守府の施設の内の一つ、工廠。

 主に艦娘が扱う武器の製造や艦娘自身の製造を行う施設。

 

 製造時の高温に耐えるべく設計された金属で覆われた室内の温度は空調が効いいてなお数℃は上だ。

 壁面側には山と積まれた処分されていない赤錆びた鉄屑や製造の際に床に落ちた金属片を纏めてある。

 

 鉄の匂いが充満する工廠の内部を、ファンの回転による空気の振動が重低音を奏でる中、奥へと進む。

 工廠を管理、運営している1人の女性がそこにいた。

 

「明石、今いいか」

「提督?」

 

 机に向かっていた彼女が振り向く。

 桜の花を思わせる桃色の長髪とどこか気怠げな雰囲気を漂わせながら。

 

「どうしたんですか、一人で。製造……の予定はないですよね。誰か怪我でもされましたか?」

 

 デスクワーク用に下げていたメガネを外し、明石が予定表を確認する。

 工作艦という、艦娘の修理──治療を行える艦娘の中でも特別な能力を有する彼女。

 戦闘には向かないが特異な立ち位置にある彼女の仕事は工廠で武器の管理や製造、艦娘の建造など様々だ。

 ゲームではアイテムの売買をしていたこともあり、購買の運営までしている。

 

 そのためだろう。今の彼女は少し疲れている様子だった。

 

「ちょっと頼み事があってな。それより大丈夫か?」

「何がです?」

「随分と疲れてるじゃないか。ちゃんと休めているのか? もし休めてないようなら休暇を取ってもらっていいんだぞ?」

 

 特別緊急性のある任務や仕事は今はない。

 休める時に休めと彼女の様子を見て案じる。が、ペラペラと何枚かの書類を手に取る彼女はあまり気乗りしないようで、

 

「んー寝不足ってだけで、特段そこまで疲れてるってわけじゃないんですよ。心配してくれるのはありがたいですけど」

「しかし」

「それよりも、提督の要件を教えてください。どんな用向きですか?」

 

 あまり突っ込まれたくないのか、言葉を遮られる。

 少し悩んだが、「無理はするなよ」と付け加えた上で要件を告げることにした。

 

「実は明石に作ってもらいたいものがあってな。できる物なのか聞きに来たんだ」

「作って欲しいもの……主砲や魚雷ですか?」

 

 当たり前のものとして艦娘の武器をいくつか挙げる明石に、首を横に振る。

 

「では何を?」

 

 眉を上げ、疑問符を付ける彼女。

 俺は元いた世界の創作で見た、ある道具の名称を口にした。

 

「好感度測定器だ」

「……? えっと、すみません。よく聞こえませんでした。もう一度言ってもらっても?」

「好感度測定器だ」

 

 聞こえなかったのか、眉間を揉みながら問い返す明石にもう一度伝える。かつて面白おかしく作られたその素晴らしき道具の呼び名を。

 

「…………んん〜〜好感度って、なんですかそれ」

 

 頭痛に襲われているのか、表情をしわくちゃにする明石に俺は『好感度測定器』とはどう言うものなのかを伝えていく。

 

 それは艦娘たちからの好意の数値を測るものである。

 或いは、艦娘同士の好意──つまり仲良しの度合いを測る測定器である。

 

 そんな感じのことを滔々と。

 躊躇うことなく、当たり前に存在していたかのように。

 悩ましげな顔で説明を聞き終えた明石は自身を落ち着かせるように深呼吸をした。そして何度かそれを繰り返し、訝しみながら顔を上げた。

 

「ええと、色々と聞きたいことはありますけど、なぜそんなものを?」

 

 至極当たり前の疑問。

 俺は本音をコーティングするため、事前に考えておいた言い訳で誤魔化しにかかる。

 

「最近俺はより多くの艦娘たちと交流をはかるために鹿島以外の艦娘と昼食を食べているんだ」

「知ってますよ。私の周りでも何人か、夕張さんが張り切ってましたから」

「そうなの?」

「ええ。それで、提督と皆さんとの昼食が好感度測定器とやらとどう関係してるんですか?」

 

 それと好感度測定器とやらがどう繋がるんだと言う視線。

 遠くで回るファンの音がやけに大きく聞こえた。

 

「どれだけ効果を発しているか知りたいんだ。艦娘に直接聞いても実際どうかは相手の心の中にしかわからないだろ。せめて嫌われてないかだけでも知りたくてな」

 

 嘘ではない。

 好かれてなくとも嫌われてないか知りたいと言うのは本音。

 中でも言葉のキツい系統の子や何考えてんのかわかんないタイプの子は特に知っておきたい。下手なことにならないために。

 

「ふむ、まあ理解はしました。とはいえ相手の気持ちを覗き見るようなことはあまり褒められたことではないですよ?」

「それはわかっている。だがな、艦娘からの好悪は指揮に直結しかねないことだ。もし嫌われてたりする場合速やかに関係改善に乗り出さないといけない。俺への悪感情で深海棲艦に負けましたなんてなったら洒落にならないだろ」

「それはまあ……そうですが」

「だからな。作ってみてくれないか。俺を、引いてはみんなを助けると思って」

「うぅ〜〜ん」

 

 白い腕を組み、なお渋る明石に言い積もりながら、なんとか説得を重ねていく。

 そもそも作れるのかと言う問題は脇に置き、明石の了承を得られなければ意味がない。

 それから暫く、頼むと拝み倒し頭を下げる俺に根負けした明石が「わかりました」と答えたことで下げられていた俺の頭が上がった。

 

「じゃあ作りますから、ちょっとそこに座って待っていてください」

 

 そう言って机の端に置いてあった小さな工具箱片手に作業台に向き合い始めて少し。明石の背中越しに届くトントンカンと金属を叩く音が鳴りはじめた。

 

 その音に耳を傾けながら、暫く時間はかかるだろうし、工廠を見て回ろうと一度下ろした椅子から腰を上げようとしたその間際。

 

「はい提督、できましたよ」

 

 明石が振り向き、工廠に響いていた音が鳴り止んだ。

 

「早くない!?」

 

 それに驚いて腕の時計を見る。明石が作業台に向かい合ってからの時間を見ると5分も経っていない。

 常に速さの追求を追い求めている島風もびっくりの完成速度である。

 

「できたと言っても初めて作るものなのでこれは試作品のようなものですけどね。度は入っていないのでそのままかけてもらって大丈夫ですよ」

 

 そう言って受け渡されたのは大きな丸縁メガネだった。

 手に持つと、少し重たい。

 フレームが太く、細く繊細な印象を受ける一般的なのメガネよりも頑丈に見える。

 

 恐らくはこの太いフレームの内部に俺には想像もできないテクノロジーが織り込まれているのだろう。そう考えれば、多少重たくなっていても仕方ないと思える。

 

「どうだ。似合うか?」

 

 メガネのつるを耳に引っ掛け、ポーズをとる。

 視力の悪くはない自分がメガネをかけることなど早々なく。少しウキウキとした上擦った気分で見せる。

 

「………」

 

 明石は無言で引き出しから手鏡を取り出した。

 鏡には古めかしい漫画で見たようなガリ勉くんとなった自分が写っていた。

 

「ま、見栄えは妥協して下さい。デザイン性はある程度完成品の目処が立ってから求めるものですから」

「そうか。それは残念──いや、ありがとう明石。無茶なお願いを聞いてもらって」

「提督の願いですから。あまり気乗りはしませんでしたけど」

 

 文句を言いながらもしっかり作ってくれたあたりに彼女の優しさが見えるというもの。ちょくちょく俺のことも修理したほうがいいと辛辣なことを言ってくるのが玉に瑕だが、そこ以外はとても頼れる艦娘だ。

 

「それで、これはどうやって使ったらいいんだ。かけてるだけでいいの?」

「縁にうっすらと突起がありますからそこを押していただくと見れますよ」

「……これか?」

 

 ツーとフレームを指先でなぞっていくと端の方に不自然に盛り上がった部分に触れた。

 そこを少し力を入れて押し込む。耳元で小さくカチと鳴った。

 

「押したけど、これで艦娘の好感度がわかるのか?」

「そのはずですよ。試しに私をよく見て下さい」

「特に変わったところは………あったわ!」

 

 丸縁メガネで透かした視界の先、明石の顔の横に数字が浮かんでいた。

 

「数字が見えるぞ明石!」

「それが提督への好感度です。なんて書いてあります?」

「ええとだな……56だな」

 

 彼女の横に浮かぶ数字を読み上げる。

 あまり高いイメージのない数値だ。なんと言うか中央値のような、最大がいくつかは知らないが。

 

「これはいいの?」

「まあ普通ですね。可もなく不可もなくです」

 

 予想通り、いい結果ではないらしい。

 悪くないだけマシだが、もう少し上でもいいんじゃないかなあと思ってしまうのは我儘だろうか。

 

「一応確認しとくけど、最大値は」

「100ですね。なので私から提督への好感度は普通ということです」

 

 普通……。

 まあ、ショックを受けるほどではないが残念ではある。

 それが顔に出ていたのだろう。眉根を少し寄せ、

 

「不満なら、仕事以外でも私に声をかけて下さいね」

 

 と口を尖らせた。

 

「……折を見て、昼食に呼ばせていただきます」

 

 思えば、確かに彼女と接するのはいつも仕事関係のみだ。修理にせよ、製造にせよ、購買にせよ。

 それ以外のことで話しかけたことがあっただろうか。なくはないと思うが、その頻度はごく薄らであるように思える。ならば、好感度が高くならないのも納得というものだ。

 

「待ってますね。あと、その時は間宮さんのアイスも用意といて下さいね。メガネのお代として」

「最高のものをご用意させていただきます」

 

 それでなんとか機嫌を戻してくれたらしい明石が取り出した工具を箱の中に戻していく。

 その動きに若干のリズム感が見えるのは昼食の約束を取り付けれたからか、アイスのためか。たぶんアイスのためだろう。

 当初見せていた疲れの様子が消え、彼女の頬には柔らかな笑みが作られていた。

 

「ところで話は戻るんですが提督」

「なんだ?」

 

 ほっと一息。メガネのかけ心地を調整すべくあちこちに目を向けている俺に、背を向け片付けている明石が聞く。

 

「艦娘の皆さんからの好感度を知りたがる理由。本当のところ、交流の成果以外にもあったりします?」

 

 ギクリと内心で焦りながらも、そのような怪しげな仕草を見せないよう表情を柔和に寄せながら彼女に伝えた理由が全てだと答えようとして、

 

「あるぞ。セクハラしても許してくれるぐらい俺のことが好きな子っていないかなって知りたくてっ……ッ!?」

 

 するりと全く逆の意味の言葉が滑るように口から発せられた。

 

「なるほど、突然好感度を知りたいなんていうので何か隠してるんじゃないかと思ってましたが、やはり裏がありましたか」

 

 いつのまにか掛け直していたメガネを人差し指でくいっと上げる。罠にかかった獲物を見るような明石の目が、俺を見据えていた。

 

「あ、明石、これはいったい」

 

 突然の事態に戸惑い、恐る恐る尋ねる。

 キラリとメガネを光らせた彼女の説明が後を追った。

 

「そのメガネには、相手の好感度を測ると、その相手に嘘をつけなくする機能があるんですよ」

「嘘をつけなくする!?」

 

 何故そんな機能をつけたという抗議の視線に、明石は真っ向から向き合い、反論する。

 

「一方的に私たちの好意を知ろうと言うんですから、提督にもある程度リスクを背負ってもらわないとフェアとはいえないじゃないですか」

 

 全くな理由だった。

 

「そうかもしれないけど! いいから外し……いやちょっと待て、あの短い時間でそんな機能まで付けてたの!? 天才かよ!」

 

 5分もなかったろう。俺が待ってた時間なんて!

 

「提督、私を誰だと思っているんですか。明石ですよ。この程度の機能を盛り込むことは造作もありません」

「マジかよ。すごいな明石。工作艦を舐めてたわ」

 

 感心するべきか憤るべきか。悩むところだが、それはそうと、余計な機能を勝手につけないで欲しかった。これでは迂闊に使うことができないではないか。

 

「仕方ない。諦めて外すか…………ん?」

 

 ぐいっとメガネを引っ張る。

 かけた時と同じように、抵抗もなく外れるはずだったメガネは何故か皮膚に吸着したように顔から離すことができない。

 

「な、なんだこのメガネ! は──外れない!? 外れないぞ明石!!」

「ああ、そのメガネ、一度つけると電池が切れるまでは外せませんよ。無理に外そうとすると顔の皮膚が千切れますからやめたほうがいいです」

 

 ドッドッドと心臓が早鐘を打っているのがわかる。

 焦り外そうともがく俺を横から見つめる彼女の忠告が耳を打つ。

 優しさの中に潜む冷徹な響きは安易な選択の罰のように絶望を与えてくれていた。

 

「呪いの装備か! 余計な機能つけすぎだろ!!」

「考えが甘いんですよ提督。一度製作を求めておいてやめようだなんて。そんな半端な真似をこの明石が認めるわけないじゃないですか」

「そんな無情な! 我提督ぞ!?」

 

 あっかからんとした態度を崩さず、わざと不必要な機能を足したことを認める彼女に提督という立場で責めにいくが、

 

「関係ないですねえ! 私は技術者ですよ。成果後の問題は、提督ご自身で解決してください。──ああ、因みにそのメガネの射程距離は1mなので、遠くから見るとかできませんから悪しからず」

「このメガネ射程距離まであるの!?」

 

 更なる不要な機能を突きつけられた。

 

 なんてことだ。これじゃ艦娘から離れた場所から安全に確認するという選択もとれない。嘘をつけない以上、自然にメガネが外れるまでは艦娘の子たちに近づけないということになってしまう。

 

 それは、まだ今日という1日の仕事を終えていない俺にとっては厳しい宣告である。近づかなければいい。という話でもあるが、向こうから近づいてくることの方が多いので、距離を保つと言うのも難しいのだ。

 

「それじゃ提督。今日一日、頑張ってくださいね」

 

 苦渋に歪む俺にニッコリといい笑顔を見せ、片付けを終えた明石が出入り口に足を向ける。その去り際、手を伸ばし叫ぶようにその背に問いかける。

 

「このメガネの電源をOFFにする方法はないのか!」

「ありませんが、強いていうなら電気で動いてますので、あと何人か使用すれば消えると思いますよ。何せ急造品ですから。ただ、だからといって水につけて壊そうだなんて思わないでくださいね。防水性はありますが、感電の危険はありますので」

 

 そうして心無いセリフと共に白い光の中へ彼女は消えていった。

 残された俺は途方に暮れ、まだ仕事の残る今日をどうやり過ごすかに思考を回すしかないのだった。

 

 





 明石の修理で秘書にしてたら、彼女を出そうとなり、昔好感度測定器とかいう二次創作あったなあと思い出し今回の話になりました。数値はサイコロ頼り。思ったより長くなりそうなので次話に続きます。

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