基本行き当たりばったりで、ゲームしててこの娘書きたいと思った娘を出していきます。
鹿島との一件から夜が明けて一日。鎮守府内の空気はにわかに緊張を孕んでいた。
原因はわかっている。昨日の鹿島とのやりとりが厄介なパパラッチ。もとい青葉にすっぱ抜かれ鎮守府中にばら撒かれたのだ。
荒唐無稽な記事だ。
内容は事実であれ、これまで品行方正とまでは言わないものの、少なくとも大っぴらに彼女たちに情欲を向けたことはない。
精々が深海棲艦との戦いで中破し、衣服が破れた彼女たちから視線を外すことができなかったことがある程度だ。
それで十分記事の説得力になる?
そう言われたら、はいとしか返事はできないが俺の思う限り、記事の内容を全て鵜呑みにするような艦娘はいない……と思う。
鹿島が言いふらすこともない。そんなこと彼女はしない。
だから無視してもいい。この記事についてはなにも問題はないのだ。
強いて言えば、
「鹿島、昨日のことは悪かった。だから、機嫌を直してくれないか」
「………」
昨日から続き、鹿島はすっかり臍を曲げてしまっていた。
鎮守府の艦娘たちに誤解されるよりも、こちらの方が俺にとっては重大な事件である。
一応、秘書艦として来てくれてはいるが、機嫌はすこぶる悪い。
朝、部屋にやって来た駆逐艦があまりの空気の悪さを悟り、入室した途端にそっとドアを閉じてUターンするぐらいには。
「謝る必要はありませんよ。ええ、なにも。提督さんは何も悪くはないのですから」
「いや、そう言うわけにも。誤解されたままというのも嫌だし」
「誤解? 何が誤解だと言うのですか。提督さんは女性であれば誰でもいいと言うことですか。それとも私と恋人になりたくはないと言うこと? ああ、私の身体目当てですからね。恋人なんてなりたくはありませんよね」
氷河期を想起させる、絶対零度の視線。
仕事以外で、俺から向けられる凡ゆる感情を排するような圧倒的な拒絶。
普段よくほころんだ笑顔を見せてくれる彼女だけに、その拒絶は効く。まるで胸の内に砲弾を詰められたかのような苦しさだ。
「違うんだ。昨日のあれは、ちょっとおかしくなっていただけで」
「違いません。提督さんはただ性行為をしたいだけ。そうはっきりと貴方から聞きました。そこに何も誤解はないはずです」
付け入る隙がない。
なまじ欲望の発露に関しては本心なだけに弁明が難しい。
欲望を排して言うならば、俺は鹿島のことが好きなのに──!!
「それはっ……違う……とも言い切れないんだが………」
誤解だが、誤解ではない。
内心の細かい機微を上手く言い表せず、反論しようと開いた口が弱々しく閉じていく。
そんな俺の様子に苛立った鹿島が床を蹴るように立ち上がり、椅子がガタンと音を立てた。
「………はあ。もういいです。すみませんが今日の秘書艦任務、他の方に代わってもらいますので」
トントンと書類を机の上でまとめる彼女が部屋から出ていってしまった。
一瞬、呼び止めようと手を伸ばしたが遠ざかっていく白い背中に見える拒絶の壁に差し止められその手が落ちる。
その後に残されたのは、机の前に崩れ落ちた男が一人。
やはり、昨日欲望に流されるべきではなかったと言う思いと、素直に恋人になって時間をかけて彼女を求めるべきであったという後悔の気持ち。
悔いはないと昨日は息巻いたが、今日の惨状を考えればそう強い言葉も言えない。
俺は今、無性に我が身を苛む煩悩を憎んでいた。
(心は沈んでいると言うのに。お前は元気だなあ。普通、気持ちと連動してヘタれるものだろう)
視線を下に向ける。そこにある半身は今日も元気いっぱいにその存在を示そうとしている。
役目を果たせと俺に語りかけているかのような力強さだ。暴走機関車のように直立しようとするそれをなんとか理性で押し留めているが、果たしていつまで続くか。
俺は、出ていった鹿島同様大きく息を吐いた。
と、同時にドタドタと慌ただしい足音が聞こえてくる。
それは駆逐艦たちの軽い少女の足取りではなく、重量感を感じさせる大人の足音だった。
「ヘーイ! グッドモーニング、提督ゥーッ!!」
「ゲェッ!? 金剛!!」
英語混じりの快活な挨拶を合わせ、勢いよく扉を開けたのは今一番会いたくない相手だった。
「ゲェッて、なんですかその反応はっ! いくら私でも傷つきまーす!!」
「あ、ああすまない。ついな」
「ついでそんな反応されたらたまらないでーす」
シクシクと泣き真似をするようにハンカチを目元に当てる。
そんな彼女を見て、俺は苦々しく口端を引くつかせた。
金剛型一番艦、金剛。
穏やかな性格の鹿島とは違い、彼女は元気溌剌。太陽のように明るく周囲の人に元気を分けてくれるような女性。
巫女のような衣服を身に纏い、いつもどうやってるのか、長い茶髪に2つのお団子を結っている。ピョンと伸びたアホ毛と、2つのお団子ヘアは彼女のトレードマークだ。
「で、どうしたんだ金剛。なにか用か?」
落ち込みながらも、なんとか気を取り直し金剛に向き合う。
「そうデース。鹿島から頼まれて秘書艦を代わったのデース!」
「なるほど〜そっかー。お前を秘書艦になー」
腰に両手を当て、ハッハッハと哄笑する金剛に俺は宙を仰ぎ諦観の思いにかられた。
自分の代わりに金剛を選んでくるとは。鹿島のやつ、わざとだな。
性欲に支配されそうな今の俺に彼女を差し向けるとは、当てつけのつもりか!
「ふふーん。提督ゥ、いつも鹿島に秘書艦は取られてましたけど、やっと私の番がやって来たデース。今日は目一杯、提督に私の魅力をわかってもらいますから、覚悟して下さーい!」
ウインクをしながらの、迷いない宣言。
その好意を一切隠す様子のない彼女に、俺の腰が引ける。
(まずい。金剛はまずい! なにがまずいって彼女はマジで俺を狙っている。俺の恋人のポジションを、妻になることを!)
金剛と出会ったのは俺が提督になって間も無く。鹿島に教えられながら戦力増強のために建造をしたのがきっかけだ。
戦艦の力を持つ彼女は強かった。頼り甲斐があり、事務関係では鹿島を、戦場においては金剛を誰よりも重宝した。
その結果と言っていいのか、元より悪感情を抱くには難しすぎる相手のためか。明るく分け隔てない性格の彼女との関係はとても親密なものになった。恋人のような関係とまではいかないが、命を預け合う戦友、上司や部下という関係以上に信頼できる仲間。
まあ、そんな感じだ。
だが金剛はそれで満足しなかった。
いつからか、とても熱烈に俺に対して好意を向けるようになったのだ。
臆面もなく、恥じらうこともなくストレートに彼女は好意を告げる。俺を好きだと、バーニングラーブと。
なんという劇薬か。恐るべき情熱を込めた愛の告白だ。
俺の心が鹿島に惹かれていなければ、コロっと落とされていたに違いない。因みに艦これのゲームをしていた頃に、初めに好きになったのは彼女だ。
それを知ったか知らずか、彼女はよく「あと少し早ければ」と呟いているのを聞く。
ともかく、彼女は危険なのだ。
少なくとも、今の俺にとっては劇薬以上にヤバい相手だ。
この、下半身に魂を持っていかれそうになっている俺には!!
「ヘーイ、提督。仕事、の前に見て欲しいものがありまーす」
「見て欲しいもの?」
彼女の積極性に及び腰になっている俺の前に金剛が近づいてくる。
机を挟み、俺の前に立った彼女は腰を屈めチラと胸元を開けた。
「──ッ!?」
クワッ、そんな擬音が聞こえるような勢いで俺の目が開く。
視線の先にあるのは当然、豊満な金剛の胸元。
あえて外して来たのか、胸を覆う布はなく、あと少し肌ければその先にあるものが見えてしまいそうになっている。
俺は、なんとも張りのある柔らかそうな2つの山から目を離せなかった。
それを金剛は我が意を得たりと言わんばかりに頬を緩ませ笑った。
「──はっ、しまった!」
「ふふーん。提督ゥ、どうやらあの青葉の記事、間違いでは無いみたいデースね。私の胸、そんなに魅力的でしたかあ?」
慌てて目を逸らそうとするが、その双丘が持つ引力に引き寄せられるように視線が向かってしまう。
なんという吸引力か。抗うなど、男として生まれた以上不可能だと言わんばかりのポテンシャルがそこにはあった。
「どうです提督ゥ、今日、仕事を終えたあと私の部屋に来ませんか。私とバーニングラーブできますよー」
「ぐっ、金剛……お前!!」
「前から言ってるように、私はいつでもウェルカムデース……それで、これはちょっと早い、私からのプレゼントデース」
一度言葉を切り、小声で囁くようにプレゼントの部分を強調した金剛の手が俺の手を取る。
その手を動かし、向かったのは彼女の柔らかな双丘。ふわりと厚い巫女服の布の上から押し当てるように俺の手が彼女自身によって導かれた。
「なあっ!」
予想外の行動。固まる俺に、流石に金剛も恥ずかしいのか耳まで赤く染めて俺の様子を窺っている。
恥じらいながらも潤んだ目は雄弁に語りかけていた。もっと触りたくないですかと。
俺は反射的に頷きそうになり、グッと堪えた。
(なんて女だ。恥じらいというものはないのか!? あの記事を見て一番行動に移しそうな相手だと見積もってはいたが、ここまでするとは! 見誤っていた。金剛の、恋愛における圧倒的な攻撃力をっ!!)
このまま流れに流されるように彼女の柔肌に触れ、全身で彼女の愛に浸ることはできる。
というか、それが狙いなのは明白だ。告白云々の前に、まず既成事実を作り上げ、逃げ道を塞ぐ。そして周囲に知らしめる事で鹿島や他の艦娘が手を出せない環境を作る。
そうなる未来がありありと見える。絶対にそうなるという確信がある!
そして、一度関係を持ってしまったらもう止まれない。
今後、俺は必ず事あるごとに金剛のことを求めてしまう。そしていずれは……。
脳裏にウエディングドレスを着た金剛との未来が浮かび上がる。
美しく、満たされた未来。
俺も彼女も、きっと笑顔で幸せを享受できる。
もしかしたら、その時には子供もできているかもしれない。ゴムに穴を開けるくらい平気でしかねない強かさが金剛にはある。
俺が鹿島に心を惹かれていることを知っているであろう故に、手段を選ばない可能性があるのだ。
内心、それでもいいかと思ってしまうのは、それだけ金剛が魅力的な女性であるからか。
例え過程がどうあれ、彼女と過ごす日々は賑やかで楽しい未来になるだろう。だから、幸せになり溜まりに溜まった欲を満たしてくれるなら金剛の誘いになることも悪くはない。そう思ってしまう。
だが、本当にそれでいいのかと、鎌首を傾げ問いかける己もいた。
俺の半身はすでに直立し、今か今かと自らの戦場の到来を待っている。
彼女の胸に触れる指は震え、揉みしだきたい欲に逆らうあまり痛みさえ覚えている。
欲望はさし示している。この流れに乗れと。
据え膳食わねば男が恥だと!
だが、快楽の渦に倒れ込みそうになる俺を僅かに残る理性が引き留めていた。鹿島への恋心と、もう一つ。
決して曲げられない大切な欲望。
それは──。
「金剛」
「どうしたデース。気が早いですけど、今から私の部屋に来ますか?」
誰がどう聞いてもお誘いの文言。
男の情欲をこれでもかと煽る彼女に、俺は歯を食いしばり断腸の思いでその手を振り払い、部屋の入り口へと向かう。
そしてドアに手をかけたまま、涙ながらに叫ぶように金剛へと振り返った。
「俺は喰う側だ! 断じて……断じて喰われる側ではない!! 覚えておけっ!!!」
溢れる煩悩。それに対し女を喰うのはいいが、喰われるのは許せない!
それは俺の、男として曲げられない矜持。
誰しもにあるであろう性癖とも言い換えることのできるもの。
女を喰うのか、それとも女に喰われるのか。どちらがいいかは人によるだろうが語るまでもない。当然、俺は喰う側だ!
恥じらう相手に迫り、一夜を共にする。そうでなくてもお互いに惹かれ合うままに求め合う。
それこそが俺の求める夜のお付き合い。
今の金剛のように求められ、貪られるのはそれとは相反するもの。
経験豊富な者はどちらでもいいと言うのかもしれない。或いは俺もいつかはそうなってしまうのかもしれない!
しかし今この時だけは、純潔を保っている間は、喰う側としてありたいのだ!!
それを金剛に、なによりも俺自身に叩きつけた。
「て、提督ゥー!」
背後から悲痛な呼び声がする。
それを必死に振り切り、執務室のドアを力強く閉めた。
「ぅ〜〜ッッッ! 後悔はしないィッッッ!!!」
廊下で立ち尽くし顔を上げる。
あまりの強力な誘惑。それを耐えた俺の目からはきっと血走り、犯罪者一歩手前のような状態だろう。
歯を食いしばり、耐え抜いた俺の胸にあるのは勝者としての優越ではなく、敗者が味わう苦い鉄のような未練の味。食いしばりすぎて滲み出たそれを舌が撫でていた。
つまるところ誘い受けはちょっとなあ。初めては女性優位よりも男性優位がいい。逆転は慣れた頃の味変に。みたいな、そう言うお話。