上手い表現や文章を書いてる小説を読むと、いいなあって羨ましくなる。もっと上手くなりたい。
朝潮達の逢瀬から一日。
朝潮と荒潮のおかげで溜まっていたものが発散されたこともあり今の俺の体調は良好。暴走しかけていた煩悩も、抑えられていた。
「提督さん。こちらの書類に、サインをお願いします」
執務室に鹿島のソプラノ音が響く。
何枚かの書類を手渡してくる彼女には、数日前のような不機嫌さを隠すこともできないほどの感情の暴風は見受けられなかった。
それは医務室で欲望が発散されたあと、誠心誠意謝りに行ったことでなんとか機嫌を直してもらうことができたからだ。
土下座外交による心からの謝罪が功を奏したのかもしれない。朝潮と荒潮に抜いてもらっていなければ、きっと上手くはいかなかっただろう。
まったく、2人には感謝しかない。2つの意味で!!
中々に最低なことをしている自覚はあるが、何はともあれ、仲直りを果たし誤解も一応は解けたことで晴れて鹿島に秘書艦の任に戻ってもらうことができた。
これで落ち着いて仕事に専念できる。
鹿島への恋心については………まあ、朝潮たちとの件もあるから、ひとまず保留にするしかない。
これでスッキリしたから告白するぜはあまりにも不義理すぎる。
男というか、人としてそれは超えてはならない一線だ。そう俺は断言する。
「ところで提督さん。先日鎮守府に流布された記事についてですが、一部の艦娘が浮き足立っているのですけど、ご存知ですか?」
「記事と言うと、青葉のか?」
「はい。全員とまでは言いませんが、提督さんのことを憎からず想っている艦娘や、特に性について興味がある年頃の駆逐艦などです」
受け取った書類にサインを書きながら記事のことを思い出す。
つい先日、どうやって知り得たのか青葉によって鹿島に相談したことを知られたのだ。
『提督の暴露! 恐るべきその正体!!』などという巫山戯た題目ででかでかと俺が劣情を持て余し、誰でもいいから抱きたがっているという内容のことを赤裸々に暴露されていた。
嘘ではないとはいえ、子供である駆逐艦も見る広報にそんな内容のものを載せるなど言語道断。
青葉には鹿島と俺から厳しい処罰が与えられた。
「あれは一応誤りでしたと青葉から説明させたはずじゃ」
「誰も彼もがそれで納得するわけじゃありませんから。なにより青葉さんをよく知っている子ほど、彼女が何の根拠もなしにそのような記事を書くはずがないと知っているんですよ」
「……なるほど」
火のないところに煙は立たないということか。横の信頼が、この俺を刺してくるとは!
「それは、厄介だな」
「ええ。提督さんも身に覚えがあるんじゃないですか? 金剛さんとか」
ジトっとした彼女の青い瞳が向けられる。
金剛を差し向けたのは君だろうと愚痴りそうになった口をつぐみ、ゴホンと咳払いをするにとどめた。
「まあそうだな。確かに問題だ。提督である俺が性欲魔だと思われると艦隊指揮にも影響が出そうだしな」
「それに関しては事実でしょう」
「………」
鹿島の反応が心なしか冷たい。
言葉の節々に、以前のような優しさが欠けているのがわかる。
可笑しいなあ。機嫌は治っているはずなんだがなあ。
彼女の中ではすでに俺への認識が性欲に支配された猿になっちゃってるのかなあ。
身から出た錆とはいえ、悲しい。
「あーそれで、鹿島はなにが言いたいんだ?」
話題を変えるため、話を先に進めるよう促す。
鹿島はそれを把握しながらも気付かない振りをし、本題へと進めた。
「すでに体験されてるかと思いますが、この機に乗じて提督さんと関係を持とうとする子が現れるかもしれません。
幸い金剛さんは叶わなかったみたいですが、他の娘も同じように拒絶できるとは限りませんから」
確かにと、彼女の忠告に鷹揚に頷く。
元の秘書艦用の机に戻る彼女を見ながら、俺はすでに手遅れであることを胸に隠した。
(すまない鹿島。俺はすでに2人の少女の誘惑に乗ってしまっている。その忠告はもう、意味をなしそうにない)
心の内で彼女に謝罪の言葉を呟き、俺は書類の束に目を落とす。
いつも通りの任務と資材について書かれた書類だ。
それに目を通しながら、鹿島が言った俺と関係を持とうとする子について脳内でリストアップしていく。
まず、挙げるまでもないことだが金剛はその筆頭だ。
記事が出回ったその日にはもう行動を開始していた。あれこれと画策せずに直球勝負なのは好感が持てるが、生憎とグイグイと来られすぎて俺の心は及び腰になっている。
一度拒絶された程度で諦める彼女ではない。明確に俺に恋人ができるまでは諦めずにアタックしてくるだろう。要注意人物だ。
次にだが、注意というかもはや事後だから注意もクソもないのだが、荒潮だ。
まさか彼女が俺の性処理をしてくれたとは。いや、これはもう本当に予想外だった。普段食堂などで話すことはあるし上司と部下として問題の出ない範囲で接してはいたが、キスやその先のことを許してくれるほど好意的だとは思ってもいなかった。
とはいえ、彼女の場合異性への興味という線もある。注意すべき相手かどうかは、今後の彼女次第だろう。
寧ろ危ないのは俺の方か。彼女を見るとあの時のことを思い出してまた手を出しかねない。自重しなければ。
朝潮に関しては巻き込まれた口だ。
妙な義務感や幼さ故の早まった行動にさえ気をつけておけば問題はない。彼女についても俺の方が気を付けておけばいいだけだ。
さて、ではそれ以外の子についてだが……。
イマイチ想像がつかない。
いや、何人か好意を向けられてるなと感じる子はいるのだ。いるのだが、あの記事を見て行動してくる子となると途端に判断が難しくなる。
普通に恋愛したいとかの記事ではなく、誰でもいいから抱きたいだぞ。性欲の発散がしたいというだけと明確に書かれていながらそれでもいいからと言える人がどれだけいるというのか。金剛が特別なだけで、そうそういるはずがない。というかいてほしくはない。
(まっ、大丈夫だろ。結局のところ、俺がしっかりしていればいいのだ)
性欲に支配されていた数日前までのことを棚に上げ、意識を書類に戻す。
このとき、俺は気づいていなかった。一度緩んだたがはグリスを塗られたボルトのようにゆるゆるになっているということを。そして彼女たちもまた、俺の想像していた以上の積極性を秘めていたことを。
*
午後、仕事を切り上げた俺は海に来ていた。
近海の海。海面とコンクリートが折り合う境界。深海棲艦の棲まう危険な海は、そのような存在がいないかのように穏やかに打ち寄せている。
なんとも静かな海だ。
この世界に来て当初は鎮守府周辺の海は暗雲が常に立ち込め、いつ深海棲艦が押し寄せてきても不思議ではない状態だった。
それを、四苦八苦しながらなんとか元の綺麗な晴れ渡る海に戻した。
なんども大破と撤退を繰り返し、ない知恵を振り絞りながら勝利した日のことはつい昨日のことのようだ。
そうして手にした海を見ることが、俺は好きだった。
この世界に来て初めて存在する意味を手にした気持ちになれたからだ。だから時折、俺は1人でこの海を見にやってくるのだ。
あの日のことを思い出すために──。
「司令官、1人でこんなところいたら危ないよー」
と、思い出に浸ろうとする俺の思考を遮る声がした。見ると、海から赤い髪の少女が顔を出していた。
「
「遠征が終わったからみんなで磯焼きしてるのよ。あっちで」
イムヤと呼ばれた少女は海から上がり、岸の向こう側を指した。遠くに小さな煙が立っているのが見える。その周辺には何人かの青い影。きっと、イムヤと同じ潜水艦の娘たちが集まっているのだろう。
「磯焼きかあ。楽しそうなことしてるんだな」
「司令官も食べる? 美味しいわよ」
彼女の手には牡蠣やホタテなど、新鮮な海産物が入った網が握られていた。遠征帰りか、それとも近海で取ってきたのか。どちらにしても美味しそうだ。
「いや、やめておくよ。それはお前たちだけで食べるといい。俺はもう少しここで風に当たっていたい」
「風?」
「ああ。いい風が吹いてるだろ?」
水平線の向こうから心地の良い潮風が吹き抜けていた。
爽やかな、平和を取り戻した風。その風を全身で浴びながら、俺とイムヤは胸いっぱいに風を吸い込んだ。
「ふうん、確かにいい風。ね、司令官。私もここにいていい?」
「構わないが、磯焼きはいいのか?」
俺は煙の立つ向こう側を見る。イムヤの帰りを待っているのでは無いかと視線をイムヤに返すと、彼女は手にしていた海産物たちを海に流していた。
「イムヤ!?」
「これを持ってると食べたくなっちゃうもの。食べないなら海に帰さなきゃ」
「だからって、思い切りが良すぎないか」
「司令官、私たちにとってあれぐらい集めるのなんて朝飯前よ。だから気にしないで。食べたくなったら取ってきてあげるから」
勿体無いと海に消えていく海産物たちを名残惜しげに見る俺に、イムヤはウィンクをしながら微笑み曇りのない笑顔を向けた。
海大VI型1番艦、伊168。通称イムヤ。
緋色の長髪をポニーテールにした女の子。潜水艦に共通する紺色のスクール水着の上に白いセーラー服を着用しており、健康的なエロスを感じられる。
その容姿と性格から、俺は彼女に昔ながらの幼馴染感というか、ちょっと軽めのツンデレヒロイン感を感じている。なんだかライトノベルで出てそうな女の子で、仲がいい子には世話焼きにところもその印象を助長させている。
「それで司令官はなんで1人でいたの。海は危ないのに」
イムヤがポタポタと滴るセーラー服を絞る。海水をこれでもかと吸った服は足元のコンクリートに水溜まりを作り、どれだけの海水を吸い込んでいたかがわかる。
引き上げたセーラー服から覗く彼女の水着と足の境目がなんとも艶めかしかった。
「海が綺麗じゃないか。それだけだよ」
「えーほんとう? ほんとうにそれだけなの〜?」
「それだけだとも。他に何があるって言うんだ」
美しく薙いだ海は、俺がこの世界にいる意味であり争いを知らない以前には戻れないことを教える存在である。
そんな郷愁にも似た寂しさを悟られぬよう、肩をすくめながら鷹揚に返事をする。
懐疑的な目を向けるイムヤはそんな俺の言い分にどうにも納得がいかないようで、むーと口元を窄めている。
「ぬ〜。なにか隠してる感じがするんだけどなあ。……まあいいわ。でも、1人は危ないんだから誰かもう1人くらい連れてよね。海に攫われても遅いんだからね」
「ああ。でも今はイムヤがそばにいてくれるんだからいいだろ?」
「それはそうだけど……じゃあ、次来る時も私を呼んでよね。そばにいてあげるから」
「えっ、イムヤがか?」
「なによ、私じゃダメ? 司令官は、私のことは嫌い?」
怒ったような、しょんぼりと心情を伺うようなような目つき。
必死に俯かないように我慢している彼女がなんだか愛おしく思え、しっとりと濡れているその頭に手を置いた。
「そんなわけないだろ。イムヤのことが嫌いなわけないじゃないか」
撫で撫でと、子供をあやすように手でさする。
心地よさげに目を細める彼女はそっと頭の上に添えられた手を握り、頬を赤く染めながら告白でもするかのように続けて問いかけてきた。
「じゃあ、私のことが好き? 私のことを──抱きたいと思う?」
イムヤのそれは、穏やかな空気をを吹き飛ばす勢いで差し込まれた。
その言葉が意味するところを理解した瞬間、一気に俺の脳内にイムヤの裸体が浮かび上がった。
細く、しなやかな身体。海中を潜水し、遠い海の向こう側へ泳ぐ彼女の身体はすらりとしており、引き締まっている。
余分な脂肪のないスレンダーな彼女の胸をツーと水が滴り落ちていた。
「ッ!」
慌ててそれを断ち切る。
今彼女の目の前でそのようなことを想像したなどと悟られれば、言い逃れができそうになかった。
「なっ、何をいきなり聞いてくるんだ!」
「だって司令官、さっきから私の身体ジロジロと見てるんだもん。青葉の記事のこともあるし、気になっちゃって」
「ぬ……ぐ……」
記事のことを持ち出され、二の句が告げなくなる。
否定しようにも、海水で濡れた彼女の肢体を見ていたのは事実であり、記事のことを否定するにしても、肯定をしたらナニカしてくれるのだろうかという期待が首を掴む。
「それは……その……」
否定すべきだ。提督として、毅然とした態度で断るべき。
そのような上官としてあるべ姿は、小さく震える彼女を見て容易く霧散した。
「イムヤ、お前はとても魅力的な女の子だ。だから、抱きたいかと聞かれれば、抱きたいというのが俺の正直な気持ちだ」
朝に言われた鹿島の忠告に後ろ髪を引かれながらも、応える。
先日の荒潮たちとの逢瀬もあり、押さえられていたはずの本能が水の滴るイムヤによって強烈な熱を帯び始めていた。
「そっか……うん。なら、してあげても……いいよ?」
なにをとか、どうしてなどと言った無粋な質問はその場において不要だった。
逸る気持ちを抑えながら、遠くの空に立ち上る煙から遠ざかるようにイムヤが俺の手を引いていく。握られた手からは緊張とは別の喜びが感じられた。
その後のことは割愛しよう。
言うことがあるとしたら、健気に奉仕する彼女はとても可愛かった。それだけである。
イムヤのエイチな話はそのうち。今は荒潮たちとのやつを並行して書いてますけど、想像の10倍難しくて難航中。濡れ場がこれほど難しいとは思わなかった。