タイトル通り、途中から迷走が始まり急カーブを決めた結果わけわからなくなった苦し紛れの一話。
カチ、カチ、と時計の針が進む。
執務室に流れる空気は穏やかで時折ページを捲る音がするばかり。
いつも通りの、変わり映えのない光景だ。
そんな日常の中、俺は今──すごくムラムラしていた。
資材管理の表を見ている鹿島、その後ろ姿をこっそりと見つめる。
真っ直ぐと伸びた背筋、ミニスカートから覗くほどよく肉のついた太もも。ペンを握るしなやかな指先に目線を上げれば銀髪のツインテールから白い頸が見える。
(いい……実に、いい)
感嘆のため息を吐く。
女性美というものはこういうものを言うのだろうかと、内心で唸る。
鹿島がコミケの覇者、有明の女王と評されたのも頷ける美しさだ。
ほとんど毎日のように見ていると言うのに全く飽きることがない。微塵も揺らがない美しい姿勢。まさしく美の結晶だ。
女性というものの美しさを突き詰めたならば、こうなるという見本のようにも見える。
だから……。
(彼女を見た結果俺がムラついていても、なんらおかしなことではない。まったくない!)
しかし、おかしなことではないと結論を出してもそれで問題が解決するわけではない。
問題はこのムラつきをどう処理するか。つまるところ、どうやって彼女の隠された下着を見るかだ。
鹿島が履いているパンティー、ないしはブラはどのようなものか。それを俺は見たい。とても見たい!!
人は、隠されたものほど覗きたくなるもの。暴いて白日の元に晒すことに快感を得る生き物。
それと同じものを俺の心は求めている。
俺は、彼女の衣服によって隠された下着という名の秘宝を見て、叶うなら感じて、その上で我が内に昂るこの高揚を鎮めたいのだ。
だが、その壁は大きく、険しい。世界最高峰のエレベストのごとき堅牢さで見るものを拒む。
それは提督である俺に対してもそうだ。或いは恋人であれば例外として見れるのかもしれないが……。
悲しいことに、恋人になれなかった俺はその例外ではないのだ。
彼女の恋人という名の席は空白。本来ならば理性的にこの欲望を抑制し彼女に求められるよう努めるべき。
しかし思うのだ。それは本当に俺なのだろうかと。そのような、自身を縛りつけたまま恋人になったとして生きづらくはないだろうかと。
俺は、ありのままの己を愛し恋してほしい。
だから覗く!
なんと言われようと、覗いてみせる!!
「おっと」
まずは軽くとペンを床に落とす。
ペンは狙い通り、コロコロと鹿島の方へと転がっていく。彼女の背後、その足元へ。
「あぁ、落としてしまった」
わざとらしかっただろうか。
そう疑りながらも椅子を引き立ちあがり、
「あ、いいですよ提督さん。私が拾いますので」
拾おうと腰を上げた俺を鹿島が制した。
そのまま彼女はしゃがみ込み、ペンを拾う間際にしたから覗く策は失敗……にはならないんだよなあ。
落としたペンを拾いに行き、その際に覗く?
そんな見え見えの策をするはずがない。第一万が一にも覗こうと視線をを上げた時に鹿島の目線がこちらに向いていたらどうするのか。
それだけでバレる。
故に、俺の狙いは別にある!
俺は腰を上げたまま鹿島が拾うのを待つ。
その視線はペンを見ているようで鹿島の足元から外れない。向けられた視線に気付かぬ様子で彼女は振り向き、スカートを慣れた所作でお尻から滑らせ太ももの裏側と膝裏で挟み込む。
女性がその中身を隠そうとする誰もが知る所作。それをされると恐るべきガード力でその秘宝は隠される。
だが、その代わりというべきか下着のように隠されてはいない、されどもその魅力は決して男性諸氏にとって見劣りしない女性の部位が強調されることになる。
床に触れるほどに膝を曲げたことで生じる現象。
即ち、ぷにっと圧迫された事によってはみ出る太もも!!
僅かに震える豊満な胸!!
「はい、提督さん」
「ああ、ありがとう」
それを見れるのは1秒にも満たないまばたきの間だ。
鹿島がペンを拾い、ぐっと足に力を入れる前にスッと悟られぬように視線から性的な感情を消す。
わざとであることを気取られてはならない。
一度警戒されでもしたら、ガードはさらに堅固な城砦となり突破は不可能に近くなってしまう。それは避けねばならない。
ペンを受け取ったことで元の形に戻る。
再び、静かな時が流れる。時計のリズムは一定で、狂うことがない。そのリズムに合わせるように俺の思考は次の策へと巡っていた。
(成果は悪くなかった。俺のムラ付きの角度も上昇中だ。しかし秘宝を見たわけではない。ならば次は……)
天井を見上げる。
四方に窪んだ穴、そこの隙間から見える透明の球体に目を向ける。
同じ手は使えない。
いや、もう一度くらいは偶然を装ってできるかもしれないがやはりリスクは上がる。
だから今度は合法的に覗ける状況に仕向ける!
「そう言えば鹿島、そろそろ電球が切れる頃だと思うんだが」
「電球ですか? んー」
顎を突き上げ、ぼんやりと電球を眺める。
交換時期であっただろうかと精査している顔。
じんわりと不安の影が寄りつく。
嘘ではないが、今すぐ変えなければならないほどではないという事実が失敗の2文字をよぎらせる。
1秒、2秒、3秒。針の刻む音がやけに大きく聞こえた。
「そうですね。変えましょうか」
瞬間、勝利のファンファーレが鳴った。
心が跳ねる。期待に高まり、膝が飛びあがろうとする。それを、ギュッと抓り平常を保つ。
(落ち着け。まだだ、まだ、動く時ではない。タイミングは踏み台に立った後! それこそがベストチャンス!!)
鹿島が3段式の踏み台を戸棚の奥から取り出す。そのまま流れるように替えの電球を手に踏み台の1段目に足をかける。
(待て、待つんだ。もう少し、動くのは鹿島の手が電球にかかった時──!)
そうして待つこと少し、鹿島の指が電球に触れた。
(──今だ!!)
一捻り、鹿島が手を動かした瞬間、腰を浮かす。
足元で揺れかねない踏み台を抑えるために、いざ回り込もうとし。
「鹿島、踏み台抑えて──」
「ヘーイ、提督ゥー!! ご機嫌いかがですかーッ!!」
ドアが壊れるのではないかと思うほどの勢いで、盛大な音を鳴らしながら開かれた。
「ナニィッ!?」
「金剛さん──!?」
そこにいたのは金剛であった。
彼女は満面の笑みで室内の空気を迎え、堂々たる佇まいで立っていた。
彼女の登場に驚くよりも前に、素早く浮かんでいた腰を元に戻す。
万が一にも、自分がしようとしていたことを察知されないためだった。
が、鹿島はそうもいかなかった。
突然の入室。ただでさえ不安定な足場で背を伸ばしたい彼女は金剛のパワーに押されるようにその足を滑らした。
「えっ──あっ、きゃぁっ!!」
「しまっ──鹿島!」
揺らぐ身体、背中から宙に鹿島が落ちる。
それを受け止めようと俺が動き出し──。
それよりも早く。
ドアの入り口から金剛が、疾風のように駆け出し倒れゆく鹿島の元へと辿り着いていた。
「申し訳ないデース。怪我はないデスか?」
鹿島が抱き抱えられていた。
背にはそっと添えられた金剛の手が彼女を支えている。
「あ……ありがとうございます。金剛さんこそ、お怪我は」
「No problem! 大丈夫デース!」
「よかった。でも、ダメですよ金剛さん。ドアはもっと優しく開けてもらわないと」
「sorry、提督への溢れるパトスが抑えきれなかったデース」
メッと注意されながらもあはは、うふふと抱き抱えられながら流れる和やかな空気。
お互いの無事を祝うような明るさに満ちた空間。
誰しもが彼女たちの無事に胸を撫で下ろすであろう場面。
しかしそれを側から見ている俺の心境は穏やかではいられなかった。
(なっ、なんだこの甘ったるい空気は!? なぜ2人とも見つめあっている! なぜ鹿島は頬を赤らめているんだ!?)
怪我がないことに安堵する暇もなく、気がつけば2人の背後には花園が咲き乱れていた。
一面に咲き誇る白百合の花園はまるで鹿島と金剛の関係が進展した未来を暗喩しているようであり、なんとも侵し難い空間を形成している。
「ぐぁあああっ!! まさか、百合が咲こうとしている!? バカな……そ、そんなことがッ!!」
あまりの尊い光景に弾かれたように壁際に追いやられる。
2人の間に入り引き離そうにも、物理的な暴風に襲われているかの如く近づくことさえできなかった。
(ぐぅうううっ。パンツを見るはずが、金剛に鹿島を盗られようとしているだとォ!?)
なぜこんなことになっているのか。
解答は簡単だ。吊り橋効果によるものにほかならない!
身の危険による一瞬のドギマギ。
その一瞬を白馬の王子のように見事に助け出した金剛!
さらに付け加えるならば元からの友愛による好感度の高さ!
その3つが重なったことによる相乗効果によるもの。
これ放置しては、取り返しのつかないことになる!!
「しかし鹿島、こうして間近で顔を見る機会などなかったですけど、やはり貴方は綺麗ですネ。提督が惹かれるのもわかりマース」
「金剛さんこそ、海で最前線を張っていながらこの肌の艶やかさ。凄いですよ。一体どうやって維持してるんですか?」
「当然デース。いつ提督に触れられてもいいように、スキンケアはしっかりしてますからネー」
くっ、まずい!
一向に離れる様子がないどころか、むしろ近づいている。
もはや一刻の猶予もない。
すでに2人はお互いを褒め合うフェイズに移行している!
「認めヌゥ! 触れ合いに移行する前に、百合の間に挟まってでも止めてくれるわっ!!」
圧倒的な百合の暴風に飛び込むように一歩踏み出し──。
「ヌグォォオオオッ!?」
一歩、たった一歩近づいただけで俺という異分子を排除しようと嵐に襲われた。
「ナニィーッ! ち、近づけない!? 俺を……拒んでいるというのか!!」
花園が、百合を守ろうとする世界の意思が、俺を拒んでいた。
その力は凄まじく、もはや壁にめり込みかねないほど。
(ぐっ、よもや百合を護らんとする防壁がこれほどとは……ぬかったわ!!)
そこはもはや聖域と化していた。
何人も足を踏み入れることを許されぬ空間。
すでに俺が狙う秘宝はパンティから2人の関係性へと変わっていた。
「金剛さん、もしよかったら触れてみても、いいですか?」
「oh! もちろんデース。私は提督のものですが、友人として触れ合うのはWelcomeデース!」
2人の距離がさらに縮まっていた。
非常に危険な状態であった。
一見、ただ2人の女性が仲良くしているだけ。しかしそれこそが罠!
今この瞬間に止められなければ、俺に明日はないッ!
「なにか、何かないのか!? 2人を引き離すナニカは──!」
近づけずとも、2人を離す方法はあるはず!
俺の存在さえ思い出させれば、2人の意識を引き寄せられれば……!
視線を巡らす。
あるのは机の上にある書類と雑貨ばかり。
そこに手を伸ばすも壁際まで押し込まれた俺の手は届かない。
「グッ……届かない……ならば!」
カッと目を開き、渾身の力で飛び出した。
「提督──?」
床を踏み抜く。
一歩が10秒にも感じられる引き絞られた意識の中で足を動かす。
その音に引き寄せられた金剛の意識が鹿島から離れたのを見る。
俺は止まらない。
百合の結界。花園の庭園に踏み込むために進む。
軋む床を踏み締めるたびに百合園への乱入者を阻もうと嵐が吹き荒び俺を押し流そうとする。
大人1人軽く吹き飛ばす暴風だ。
気を抜けば一瞬で体は持っていかれる。
俺は頭の先から足の指先まで一つのバネとし暴風の中を切り裂いていく。
スローモーションに流れる景色の中で金剛が目を見開き、鹿島がついにこちらに目を向けた。
「愛を手にするのは……──この俺だアアア!!!」
瞬間、跳ぶ。
金剛だけではなく鹿島の意識も他に向けられたことで百合の結界が綻んだからだ。
猛烈な勢いで飛び込む自分に、2人は反応できなかった。
「ていと──っ!?」
衝撃が訪れる。
感じたのは床を擦る音と背中を打つ痛み。
そして腕の中に感じる1人分の温もり。
「あんっ。提督、そんなに強く抱きしめられると痛いデース」
金剛であった。
無我夢中で飛び込んだ先、まるで入れ替わったように金剛の顔が目の前にあった。
彼女は蕩けるような甘い声で俺の胸の上に顔を預け、その腕を俺の背に回している。まるでもう離さないというようなガッチリとした力だ。
暖かく、柔らかい。
ずっとこのままでいたいと思ってしまう。
そのまま金剛から香る甘い温もりに忘れかけていた欲望がムクリと起き上がり、
「提督さん、急に飛びかかってきたと思ったら金剛さんと抱き合って、仕事中に何をしてるんですか」
頭上から胃が縮小してしまうような恐ろしい声にそれは即座に萎びた。
視線を上げるとそこには仁王立ちしている鹿島が、その手には電球が握られている。
「金剛さんはともかく、提督さんは知ってましたよね。私が電球を交換していたことを」
彼女の手の中の電球がピキと音を立てる。
唇をひりつかせながらにこやかに笑っているのが、翻って恐ろしい。
「ち、違うんだ鹿島! 俺はお前たちを百合の世界から戻そうと思って」
「百合? なにをわけもわからないことを。それが人に突撃していい理由になりますか!」
ご尤もな糾弾に全身がビクリと震える。
始まりのパンツを見たいという欲求も吹っ飛ぶ恐ろしさだ。
「それから、提督さんはいつまで金剛さんと抱き合ってるんですか。いい加減離れなさいっ!!」
「ヒィッ!」
その後、執務室では30分もの間鹿島の説教が続いた。
その間も夢心地の金剛は正座する俺から離れることはなかった。
鹿島題材のエロい話を書こうとしたら解釈違いって自分に言われて、金剛にカバディされてた。もしかしたら鹿島は好きだけどエロの対象じゃないのかもしれない。