シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官-外道はこう語る   作:らんかん

2 / 2
クラップ

 ここは、シャーレ前交番である。

 

 ヴァルキューレがシャーレの前に降板を置いた理由は、はっきり言えば影響力の誇示に他ならない。

 

 三大学園はすでに政治的権力とそれが強烈に支配する自治権を手に入れているし、他の学園も多少遅れを取れども状況はあまり変わらない。

 

 自治区だらけで警察の実行力のない空白地帯、法治国家のサルガッソスペースが点在するキヴォトス公認の治安維持組織がどうやって威厳を保つか?

 

 その結果が連邦生徒会直下の超法規的機関のお膝元で主張する少女達の溜まり場というわけだ。

 

 ゼンヒはそこの警官であり、活躍しているのもあってようやくヴァルキューレという戦乙女の名前に相応しい威圧感を出し始めたところ。

 

「お帰りなさい、先輩」

 

 声をかけてくる少女が一人。

 

 白鳥 ハクジツ。

 

 彼女の過去はあまり知らされてないが、交通局などを少し経験して公安局へと入ってきた巡査長。車関係に詳しいのもあって、交通関係の事故などはこの交番中でも彼女が対応するのが一番丸く解決すると言っていい。

 

 そんな少女の目の前に、ゼンヒは座る。

 

「ああ、ただいま」

「さっきカンナ局長がやってきて奥の方に引っ込みながら、帰ってきたら少しばかり用事があると言ってましたよ。急ぎでも何かの失敗でもないからと」

「オッケー、それは対処しよう。そういえば、ハクジツ。お前に伝言を預かってきたんだ」

 

 軽い用事だっただろうと、ゼンヒは口にする。

 

「伝言?」

「薄紅色の髪したスーツ姿の少女からだ。お前の知り合いか?」

「あ、えーっと……」

 

 ハクジツは少しばかり下を向いて考える。

 

 彼女が知っている該当者というのは一人しかおらず、それからの伝言が信じられないと言った表情をしていた。

 

 意を決するのに少し時間を要したが、覚悟を決めて彼女は少しだけ微笑んでゼンヒの方を見る。

 

「え、えっと、なんて?」

 

 狼狽えぶりにゼンヒはこの話題はまずかったか、とは思った。しかし、話してしまった以上引っ掛かりを残し続けるのも良くはない。

 

 それに何か悪い事であれば、警察にいる以上自分が守ったりすればいいじゃないか!だからこそ、あえて隠すのは良くないと知って、目の前の後輩に告げた。

 

「確か……『警察学校への入学おめでとう、私の事は忘れて生きてくれ』だったはず」

 

 一言一句間違えず、というわけではないが少なくとも同じような旨の言葉をゼンヒは口にした。

 

「……ああ、その、えっと」

「どうかしたか?」

「すみません、少しばかりお時間いただいても?」

 

 ハクジツがいつもの声で話そうとしているのに、視点が揺れているのを彼女は見逃さなかった。一回落ち着かせた方がいいか、と思いお菓子を取り出そうと机に向かおうとすれば袖を強く掴まれる。

 

「ハクジツ」

「ごめんなさい、すぐに話したいんです。後で局長に怒られたら、私一生懸命庇いますから」

「それは心配しなくていい。私がプライベートな話を時間を問わずにしたのが悪い」

「じゃあ、ごめんなさい。時間をいただきます」

 

 その言葉を最後に、二人の少女は持ち場を少し離れてある個室へと向かい入っていった。

 

 電気をつけると机と椅子以外何もない。ただあるのは、人目を気にしなくなったからこそ動揺を隠せないハクジツの表情だけ。

 

「えっと……その……申し上げにくい事なんですけど」

「なんだ」

「その人は、いえ、あの人はもう死んでいるはずなんです」

 

 いきなりの発言に、ゼンヒは声にならない驚き方をした。目は見開き、相手を見つめる。

 

「名前は名乗ってましたか?」

「名乗ってたような名乗ってなかったような」

「……扇堂 リンネ。彼女の名前なんですけど……私の、私の彼女だったんです」

 

 どうりであんな言い草をするわけか、と思ったゼンヒ。しかし、死んでいるはずとはどういうことか。

 

「じゃ、じゃあ私は幽霊でも見たってことにならないか?でも彼女は触れれたし、この前死んだ過激派の連中に花束だって添えていた。きっと今からでも見に行けば残っているはずだ」

「私も正直そう思いたい、いや、生きてる方がいいって望んではいるのですが……でも、貴女から出てくる言葉が全て嘘に思えなくて。リンネならそう言う、っていうのがどうしても」

 

 頭を抱えるハクジツ、慰めようとは思っていてもどう慰めていいのかわからない。ただ威圧感が出ないよう、彼女の目線に自分の目の高さは合わせている。

 

「……どうすればいいのかわからなくなってきました」

「落ち着け……いや、これじゃ変だな。元気出せでもないし……うん」

 

 ゼンヒも頭を抱えたかったのは言うまでもない。

 

 まず理解できる範囲の話としては『自分が墓地で出会った少女の名前は扇堂リンネである』『リンネはハクジツの彼女であり伝言には特に怪しい点は見受けられない』の二つがあった。

 

 理解出来ない点は『ハクジツの口ぶりから察するにもう死人であり普通だったら絶対に接触できない筈なのに自分はその少女に会った』こと。

 

 いきなり訳のわからない話に巻き込まれたゼンヒも混乱しているのだったが、その混乱している少女はもっと動揺している後輩をどうにかするので手一杯。

 

 ゼンヒが慌てていると、扉が開く音がする。

 

「二人とも、どうしたんだ」

 

 その声は、聞き覚えのあるものだ。

 

 大きい背に胸、金髪で犬っぽい少女。

 

 尾刃 カンナだ。

 

「局長!」

「さっき他の警官から二人がただならぬ雰囲気で部屋に行ったと聞いてな、何かあったかと思って急いで報告書を読み終えて飛んできた……ハクジツ、なにか?」

「あ、あ……」

 

 カンナの到着が予想外だったのだろう、ハクジツはもっと動揺してまともに言葉が出なくなっている。

 

「その……さっき墓地で供養した際に、ハクジツの恋人らしき人間と接触したのを話して、伝言を伝えたら彼女がこうなってしまい」

「しかし、ハクジツはプライベートを持ち込まないタイプの人間だ。それが動揺するなんて……」

 

 ゼンヒは、目の前の上司が少しばかり怪訝な顔をしたのを見逃さなかった。しかしそれはハクジツを邪険にするものではなく、何かを測ろうとする言い訳を考えているような顔。

 

 つまりは、今目の前にある出来事を分別する何かであったことは理解出来た。己が持っている情報がどれに当てはまるかまでは読めなかったが。

 

「その……扇堂リンネという少女のことでどうやら深いトラウマか何かがあるのか、彼女が」

 

 唯一困惑で状況を掴めていない、扇皇ゼンヒが話を続けようとしたその時だ。

 

 カンナはゼンヒの腕を掴んでそのまま壁に押し付けた。

 

「ひえっ!?」

 

 珍しい声をあげる彼女であったが、それ以上に珍しかったのは必死になっているカンナの表情。

 

「その名前はハクジツから聞いたんだな?」

「え、ええ」

「その名前を何処で口にした?」

「今この部屋でハクジツから聞いたばかりです」

 

 その言葉が嘘かどうか、公安局長……いや、狂犬の目が光る。

 

 ゼンヒの眼には嘘はなかった。声も真実がゆえに必要以上の震えもなく、隠しているが故の明るみに出る恐怖さえも彼女からは感じない。

 

 しかし、それよりも条件が吸い込まれたのはゼンヒの瞳だ。

 

 彼女の眼……その向こうから、翡翠色の光が見えてくる。ほんのり灯っている程度だったが、そもそも上を見ている彼女の視界にそんなものはなく、カンナのヴェールのようにかかっている髪がそもそも光を遮っているのだから光るはずもない。

 

「……」

「あの……」

「ゼンヒ、もう一つだけ質問する」

 

 彼女の低い声が、覚悟か何かを問うてきた。

 

「ハクジツに対し、その少女に対し、何か加虐的かつ敵対心のようなものを抱いた事は?」

「は、はぁ……ありません」

 

 ただ、抱いた事はない事実を伝える。彼女と自分の立場をはっきりとさせて反論したりなどをせず、ただただ凡人らしい返答をしてゼンヒは次の言葉を待った。

 

 その態度に少しばかり安堵したのか、カンナは恋人のように迫っていたそのポーズを解除して相手を見つめる。翡翠の光は見えない。

 

「_____そうか」

「一体どうしたんですか局長まで……いや、深くは聞きません。その少女の件で何かがあったことぐらいは察しが」

「ゼンヒ」

 

 カンナは、ゼンヒの言葉を遮って言いたいことを言う。

 

「後で手続きはするから、今日はこれからずっとお前に必要な話をしたい。ハクジツの件でも不思議に思っていることだろうが、それも併せて話す」

「え、えっと」

「ハクジツ、お前も時間が必要な筈だ。その時間やこっちが知っていることを全て話すから、お前も来い」

「……局長」

 

 もはや顔から生気が削がれている、美しい彫刻のような少女となったハクジツの腕を引っ張って立たせて、カンナは相手の顔を見た。

 

「私達はこの話でお前を罪に問わない。そもそもお前は罪を犯してないから、心配する必要はない」

「……」

「それでも大事なことだから話したい。いいな?」

「……はい」

 

 意味深な会話に突っ込みたくなったゼンヒだが、今のハクジツ……大事な後輩の精神を攻撃する可能性があると考えて彼女は一言も発さなかった。

 

 話がある程度ついたカンナは、二人に告げる。

 

「今から矯正局に向かう、そこで大事な話をする。絶対に他言無用で頼むぞ」

「は、はい!」

「……ええ」

 

 ゼンヒが珍しく新入りのような態度になっていて、反対側のハクジツは未亡人のような様相。

 

 3人は部屋を後にして、矯正局へと向かうことになった。

 

 ただし、その行末がせめて幸せであれと天は思ったか_____

 

 道中は晴れていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。