お嬢様がGBNにいるわけないだろう!   作:プラ板の削りカス

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Ep.01 Ready to Rock
【悲報】ガノタが転生したらお嬢様だった件


 この世に産声を上げたときのことを覚えている。

 ロイヤルな雰囲気を纏った天井のシャンデリアと、その隣で俺を抱き上げて女神のような微笑みを浮かべている、全く見知らぬ美人の母親、なんか知らんけどやたらと多いギャラリーたち。

 今時子供が生まれたってだけなのに、これだけの人間が自宅に押し寄せている意味がわからなかったけど。

 

「なんだ、女か……」

 

 おっ、ティターンズ崩壊しそうな挨拶だな。

 ところで俺は筋金入りの男だけど、お前はジェリド?

 

「我が八重桜家には後継ぎとなる男児が必要だというのに……しかし、生まれてしまったものは仕方あるまい。幸いお前の娘ならば嫁ぎ先には困るまい。我らの手でこの子を一流の淑女に育て上げるのだ」

「……はい」

 

 はいはい、理解しました。

 どうやら俺が生まれたのは価値観が昭和時代からアップデートできていない金持ちの家らしい。

 そして──困ったことに、これは転生というやつだ。しかも女の子に。

 

 俺には明確に前世の記憶がある。

 ガンプラを買い漁ってはヤスリで削ってプラ板を貼り足して、自分の好みに仕立て上げていた一般ガノタモデラーとしての記憶が。

 それで、ストゼロとエナドリのキメすぎで階段から落ちて頭を打つというろくでもない死に方をして現在に至るというわけだが。

 

「必ずや……必ずや、この子を八重桜家の名に恥じない淑女として育て上げますわ」

「それでいい。名前は……そうだな、ツミキとでもしておけ」

 

 推定現世の父親は、部屋の真ん中に置いてあった積み木を指差して、それだけ告げると、興が削がれたとばかりに肩を竦めて部屋を出ていった。

 こうして俺こと──八重桜ツミキの二度目の人生は始まったわけだが。

 もしかしてこれ、生まれたときから人生大分詰んでねえ?

 

 

 

 

 

 

「八重桜様、ごきげんよう」

「ええ、ごきげんよう。今日もよき日和です」

 

 悪夢のような誕生劇から15年。

 私、八重桜ツミキの人生は典型的な箱入り令嬢としてのルートを歩まされていた。

 その間、庶民的なモノや娯楽に触れることは許されなかったし、今通っている学校だって、小中高一貫にして男子禁制の花園だ。

 

「ああ、今日も八重桜様は美しいですわ……」

「華奢なお体と金糸を織り成したようなツーサイドアップがとてもお似合いで、まるで西洋人形のよう……」

「所作も学力も身体能力も全て完璧で、芸術にもお詳しい……淑女として欠点が見当たりませんわ!」

 

 当然だろ、どんだけ虐待紛いの詰め込み教育受けてきたと思ってんだ。

 せっかく転生するなら私だってチートスキルの一つや二つもらって異世界ハーレムを堪能したかったよ。

 でも、私が転生したのは現代日本で、おまけに入ってくる情報が厳しく制限されていたせいでろくなこともわからない。

 

 そして徹底的な男尊女卑の名家──具体的には、貿易商の家に生まれた。

 転生して受けたのが懲役80年の罰ゲームとは女神様の野郎は随分と底意地が悪いらしい。

 私の二度目の人生は始まった瞬間に終わっていた。

 

 家を繁栄させるために、どっかの名家に嫁がされて、一生付属品としての生活を送ることが確約されているからだ。

 ふざけんじゃねえよ、ちくしょう。

 この身体がなまじ均整の取れた美少女だったのも運の尽きだ。

 

「聞けば、あのお歳にしてもう、ご縁談の申し出が後を絶たないとか」

「はしたないですわよ。ですが……納得ですわ」

 

 噂されている通り、当たり前のように私の下には結婚話が押し寄せてきていて、高等部を卒業すればすぐにそのどれかに色の良い返事をすることを望まれている。

 ああー、死にてえ。

 お母様が八重桜の家で唯一私の味方でなかったら気が狂って実際に死んでるところだった。

 

「八重桜様、よろしいのですか? あのようにお噂を立てられましては……」

「よろしくってよ、森下様。年頃の淑女ですもの、少しばかりお喋りに花が咲くのも自然ですわ」

 

 楚々とした笑みを浮かべて超然としたフリをする。

 私の「演技」にますます観衆は色めき立つけど、この心は波立たない。

 この際チートがどうのこうのとか贅沢はいわないから、この世界にあるかどうかもわからないガンプラをもう一度心ゆくままにいじらせてほしかった。

 

 あのプラ板やパテの削りカスと塗料と瞬着硬化スプレーの匂いにむせ返る日々以外に、私の心を沸き立たせるモノなんて──

 

「あら」

 

 そんなことを考えながら歩いていると、こつん、となにかがハイヒールの爪先に当たる感触があった。

 

「どうかされましたか、八重桜様?」

「いえ、森下様……これは、落とし物のようですね」

 

 少しだけ身を屈めて爪先に当たった物体を拾い上げる。

 それはポーチのような形状をしていた。

 質感があまりにも安っぽく、令嬢たちの花園には似つかわしくない。

 

「嫌ですわ、八重桜様。このポーチ……品がありませんわ。こんなものを学園に持ち込んでいる淑女がいらっしゃるなんて」

 

 ご学友が何事かを呟いていたけど、私には関係なかった。

 なぜなら、私はこのポーチの形状と用途に心当たりがあったからだ。

 好奇心の赴くまま、マジックテープで留められている蓋を開けると、中にあったのは。

 

「──っ!」

「あら、これは……? ロボットのおもちゃですわね」

 

 よかったな、今の私が天にも昇る心地な上機嫌で。そうでなければ貴様を殴り殺していたぞ、ご学友。

 中に入っていたのは、「ロボット」じゃない。

 私が二度目の生を受けた、この世界に求めてやまなかった、「ガンプラ」の存在だった。

 

「ええ、そのようですわね……しかし、これは明確な校則違反。あとで生徒会に異議を申し立てるために、一度私が預かります。それでよろしくて?」

『きゃー! あのように下賤な代物にも動じることがないなんて! 流石は八重桜のご令嬢ですわー!』

 

 ふぁっきゅー、ぶち殺すぞゴミめら。

 とは口に出さず、心の中で中指を立てながら、私はポーチを何事もなかったかのように鞄へと収めて歩き出す。

 ふふ、ふふふふ。

 

 私は見たぞ。

 この世界にはガンプラがあり──それだけじゃない。

 このポーチ、もといガンプラホルダーのロゴに燦然と輝く「GBN」のロゴを。

 

 ここは、ガンダムビルドダイバーズの世界だ!

 そして、ポーチの中に収まっていたガンプラは、あの設定の系譜図がうちの家系図並に複雑なことになっているAOZに出てくる「ヘイズル」だ!

 しかもただのパチ組みじゃない。合わせ目消しからレジオンカラーへの全塗装、ディテールアップを徹底的に施された代物だ。

 

 この、魂が込められた作品を下賤扱いするクソッタレどものことなんて知ったことか。

 私は、私は!

 待ち望んでいた、自分で作ったガンプラを動かして戦う世界に転生できたのだから!

 

 心の中ではニュートロンジャマーキャンセラーを入手したときの盟主王みたいな歓喜の声を上げながら、私は退屈な学舎へと向かう。

 まず、やるべきことは決まった。

 生徒会に通報? そんな野暮なことするわけねえだろ。

 

 私がやるべきは、第二のガンプラライフを始めるために、なんとしてもこのヘイズルの持ち主を探し出して、コンタクトを取ることだ!




【朗報】ガンプラ、あった
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