お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
その後、特段語るようなこともなく、暴走したリーオーNPDを瞬殺した私は、機体から降りて、襲われていたELダイバーと思しき女の子から話を聞いていた。
「うぅ、怖かった……本当に助かったよ。ありがとう」
「そりゃ事情もわからないのにいきなりMSに襲われたら怖いわよね」
忠実にサイズ差が再現されているGBNにおいて、ガンプラと人間のサイズ差は作中世界同様だ。
三階建てのビルが動いて襲ってくると考えたらそれはもう恐怖もいいところだろう。
ELダイバーの子は、後ろで一つ結びにした水晶色の髪の毛を指先でくるくると弄びながら、小さく安堵の息をつく。
「モビルスーツ……あの巨人のことかい?」
「巨人……まあ正確にはモビルスーツっていうかガンプラだけど」
「……っ! が、ガンプラ! それはどこかで聞いた気がするよ!」
ELダイバーには、イヴみたいに最初から自意識や世界への認識がはっきりしている個体もいれば、サラちゃんのように若干その辺が曖昧な個体もいる。
この子はどちらかといえば後者らしかった。
うーむ。イヴみたいに事情がはっきりとわかっているなら「貴女はELダイバーで、実は色々あれこれ手を尽くさないと消滅の危機にあるんです」と説明できるけど、そうじゃないし。
「えっと……」
「あっ、そうだね。名乗っていなかったね。ぼくは……フィア。でも、それしか覚えてないんだ……」
「ありがと。私はミキ。好きに呼んで構わないわ」
なるほど。
ELダイバーの発生要因は主に二つある。
GBN内に蓄積された「感情」の余剰データと、続編の舞台である外惑星「エルドラ」の因子だ。
そう考えると、この子──フィアは、エルドラの因子が薄いのかもしれない。
イヴは、なんか前世とか自分の存在とかうっすら自覚してたっぽいし。
多分「王子様」への憧れが基幹感情になって生まれてきたのかなー、フィアは。
ただ、ここでフィアの生まれやELダイバーのことについてなあなあにしてしまうと、どんどん状況が悪くなっていくのは確定だ。
サラちゃんが既に生まれているということは、GBNに蓄積されたバグは危険域まで来ているということだから。
だから私は腹を括って、フィアに話を持ちかけることにした。
「……貴女の真実を、私は知ってるわ」
「本当かい!? でも、出会ったばかりのキミが、ぼくのことを知っているだなんて……」
「貴女にできることは二つ。一つは私とのことは全て忘れて貝のように口を噤むこと。もう一つは──私と一緒に真実へ立ち向かうことよ!」
二つの指を立てて、フィアに選択を突きつける。
人生で一度は言ってみたかったキンケドゥさんの台詞をまさか本当に言う機会がくるとは思っていなかったけど、最高に気持ちいい。
……悪いガノタだなあ、我ながら。
「それなら、ミキ……ぼくを、真実へと導いてくれないか!? ぼくは、ぼくのことを……本当のぼくを、知りたいんだ!」
よし、ノってくれた。
「それじゃあまずは、私とGBNと──ELダイバーのことから、話さないといけないわね」
長くなりそうだけど、フィアが目を輝かせて聞いてくれているおかげで退屈しなさそうだ。
細々とした説明?
そんなのカットよカット。
†
「つまり、要約するとミキが出会ったこのお方は、GBNで生まれた電子生命体……ということになるのでしょうか?」
翌日、放課後にGBNで待ち合わせていたルカと、フィアを引き合わせて、私は事のあらましをある程度説明していた。
フィアは自分の出自について納得してくれたみたいだけど、転生者でもなんでもなく、この世界の人間であるルカをどう口説き落としたものか、それが悩みどころだ。
現にルカは、ぷにぷにとフィアの頬っぺたを人差し指でつつきながら、小首を傾げている。
「そういうことね。えっと……ルカは、GBN内のデータサーバーにアクセスとかできる? それなら余剰データとバグが異様に増えてることが多分観測できると思うけど……データの変動がログと照らし合わせて読めるなら、わかると思うわ」
我ながら結構な無茶を言っている。
あくまでルカの家はダイバーギアの生産に一枚噛んでいるだけで、本格的にGBNの心臓部たるメインサーバーへのアクセス権限は持っていないと考えるのが自然だろう。
これで通じなかったら、どう言い訳したものか──と、頭を悩ませていたら。
「できますよ?」
「えっ、マジで?」
「はい。蛇の道は蛇……と申しますから。それで、この方が──フィアさんが本当に『ELダイバー』なるものであったとして、このままではGBNが崩壊してしまうとして、ミキはどうしたいのですか?」
まるで、この世界の行く末や、ELダイバーを巡る事情そのものには興味などない、とばかりに、ルカは「私」がどうしたいかを問いかけてくる。
私の願い、か。
そんなの、最初から決まっている。
「私の願いはこの
人差し指を突きつけて、私はルカに宣言した。
「まあ♡ 素敵です、ミキ。これで世界がどうこうとか命がどうこうとかシケたことを言っていたら、わたくし、萎えていましたけれど……そうですわね。全て最高に気持ちよくなるための下準備なら、協力するのもやぶさかではありません♡」
「言ってくれるじゃないの。私もあんたも、GBNの命運をかけた戦いだとか、ELダイバーの命や人権がどうこうなんてシケた話はごめんでしょ? 私たちは……ただ、最高に気持ちよくなるためにガンプラバトルをやってるんだから!」
「ええ♡」
……本音をいうなら、第一次有志連合戦とか第二次有志連合戦にはいっちょ噛みしたかったけど。
でもその未来はイヴの消滅と引き換えだからキャンセルだ。
私はヒロトくんにもイヴにも幸せになってほしいし、サラちゃんにもフィアにも生きていてほしいし、脳汁ドバドバで気持ちよくもなりたい、欲張りな女なのだ。
「その欲張り、その傲慢……最高にロックで滾りますわ、ミキ」
「あんたも同類でしょうが、ルカ」
「よくわからないけど……キミたちは仲良しなんだね。ミキ、ルカ」
『ええ、とっても』
私たちは声を揃えて微笑み合った。
そうなると、まずやるべきことはフィアのサルベージとGBNのバグフィックスなんだけど。
でも、それより先に、やるべきことじゃなくてやりたいことがある。
「ねえ、ルカ」
「はい、ミキ」
「せっかくGBNでは初めて会うわけだし……一発
「ええ、その言葉をお待ちしておりましたわ」
さて、私と相棒がどれだけこの世界で暴れ散らかせるかを、試させてもらうとしましょうか!
──だから、フィア。そこで見ていなさい。私たちの魂から生まれてきたのなら、貴女も、きっと熱くなれるから。
私たちの、
あいつらガンプラバトルするんだ!