お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
「すごかった……すごかったよ、ミキ、ルカ!」
バトルが終わってロビーに帰還した私たちを真っ先に出迎えたのは、キラキラと目を輝かせたフィアだった。
ふふん、と鼻を鳴らしてドヤ顔の一つでもするところだけど、完全にやっちまったという後悔しかない。
ルカは完全燃焼した様子でなんかツヤツヤしてるけど、主にあんたのせいだからね、クルトさんをミン中尉(動詞)してたの。
「あ、あはは……最後の方は残虐解体ショーみたいな感じになって申し訳なかったけど、燃えたでしょ? ガンプラバトルは」
「うん! ミキのガンプラも、ルカのガンプラも、戦いたいって気持ちが熱く燃え上がってた! なんだかお腹の奥底が熱く疼いているみたいで……ぼくも……ぼくも、ガンプラバトルをしてみたい! 心からそう思えたよ!」
フィアは私の手をとって、キラキラした表情のままこっちの目を覗き込んでくる。
その言葉が聞けたのが一番嬉しかった。
でも、フィアの願いはこのままじゃ叶わない。
なんとか現実にフィアをサルベージする手段を、その取っ掛かりだけでも見つけないといけないんだけど、まさかブレイクデカールを、ルカにリバースエンジニアリングしてもらうわけにもいくまい。
っていうか、ブレイクデカールなんか、未来につながる研究のためだとしてもルカは嫌がるだろうし。
そうなると、フィアが純粋な電子生命体だってことを証明するためのデータを集めて、ツカサくんに叩きつけるのが一番早そうだけど。
「お姉さんたち!」
フィアに取り繕った笑顔を向けたまま考え込んでいると、リクくんたちがやってきた。
うわー、リクくんはなんかめっちゃ目を輝かせているけど他の面子の表情がお通夜すぎる。
サラちゃんはきょとんとしているけど。かわいいね。
「あら、ビルドダイバーズの皆様。ごきげんよう」
「……そのロールプレイ、今更意味あるの?」
「いやですわ、アヤメ様は辛辣ですこと……ですけど、確かに私たちとリクくんとの間柄なら、無理に取り繕う必要はありませんわね」
「ミキさん!」
「改めて応援ありがとう、リクくん。おかげでこっちも気合い入ったわ」
なんだかんだでギャラリーがいるというのは程よい緊張感を与えてくれるものだ。
懐かしいなー、前世でEXVSの全盛期はそこかしこにベガ立ちして順番待ちしてたやつらで溢れてたのに、末期はスムーズに連コできたもんね。
栄枯盛衰という言葉はあれど悲しくなる。GPDに対してコーイチさんもツカサくんも同じことを思ってたのかな。
「そんなことないですよ! ミキさん、ルカさん! 俺たちはじっくり作戦を練らないと倒せなかった第七士官学校を、正面から倒したのは、二人の実力です!」
「あら……嬉しいことを仰ってくださりますのね。ミキが目をかける理由もなんとなくわかりました」
「でしょ? ルカ、この子はいつか未来のチャンピオンになれる逸材よ」
リライズの外伝では「チャンピオンに一番近い男」なんて呼ばれてたぐらいだし。
でも、チャンピオンに雪辱を果たしたいのは私たちも一緒だ。
そのときは敵になるか味方になるかわからないけど、全力で戦わせてもらうまでだ。
「俺……お姉さんたちみたいにもっと強くなりたいです! どうしたら……どうしたら、もっと強くなれますか!?」
リクくんは真剣な眼差しで問いかけてくる。
んー、普通にタイガーウルフさんとかシャフリヤールさんの言うことを素直に守って腕を磨いてれば自然と強くなれると思うけど。
どうやら、予想以上に私はリクくんの脳をこんがりと焼いてしまったようだった。
ならば仕方あるまい。
使えるものは使うって全裸大佐も言ってたことだし、この状況を最大限に活用させてもらうことにしよう。
後々、コーイチさんの技術も必要になってくることだし。
「あんまり焦りすぎてもいいことないわよ。でも、そうね……私たちと貴方の違いを挙げるなら、GPDをやっていることね」
「GPD……俺もちょっとだけですけど、触ったことはあります! 確か、ガンプラを実際に戦わせて──」
「そう、勝ち負けを問わず、実際にガンプラが傷つくバトル」
私の言葉に、リクくんは息を呑んだ。
大切に作ったガンプラが、勝とうが負けようが一回の戦いでボロボロになってしまうかもしれないGPDは、確かに少年には過酷かもしれない。
GPDが廃れた理由、GBNが流行った理由。ツカサくんも心の奥底ではわかっていて、それでも諦めきれなかった思い出が、彼を凶行に走らせてしまったのだから。
「……ミキさんは、大切に作ったガンプラが壊れたり傷ついたりするのが、平気なんですか」
リクくんの表情がわずかに翳る。
無理もないだろう。
だけど、リクくんは知っているはずだ。コーイチさんを立ち直らせたそのとき、戦いの果てに傷ついたり壊れたりしたガンプラを直したのだから。
「平気なんかじゃないわ」
「なら」
「でも、壊れたらまた作り直せる。もちろん、作り直せないほどに壊れてしまうものもあるけど、何回も戦って負けて悔しい思いをしても、『もう一回』に賭ける思いは、GBNもGPDも変わらない。貴方は、それを知っているでしょう?」
「……っ!」
ときに、強すぎる思いは人を間違った方向に走らせてしまうこともあるけれど。
強くなりたい、と願うのは──何回壊され踏み躙られ、負け犬のレッテルを貼られても立ち上がるのは、いつかそいつを見返して、「最高に気持ちよくなるため」だろう。
原作のリクくんがチャンピオンに立ち向かった理由は、「サラちゃんを救いたい」という使命感からだったけど、願いの始発点になった感情は、「憧れ」が、「俺もいつか、デカい頂点に立ちたい」という思いがあったからだろう。
「これは私の連絡先。無理にとは言わないわ。でも、覚悟が決まったら──いつか、リアルでも会いましょう」
「──はい!」
やべー、勢いで連絡先渡しちゃった。
原作主人公とここまでお近づきになれるとは思わなかったから、これから本格的にどうしようかしらね。
……未来のことは未来の自分が考えるから一旦放り投げておくとして、まずやるべきはフィアのサルベージ案を考え出すことだろう。
「それでは、ごきげんよう」
「ええ、俺も決意が固まったら……また会いましょう、ミキさん!」
遠い未来への約束を交わして──というと格好よく聞こえるけど、実際は諸々を未来の自分に丸投げして、私は一旦、GBNをログアウトして寝ることにした。
前世がキラ・ヤマト准将みたいな凄腕プログラマーとかだったら、こうなんかいい感じに学園で隔離されてるGPDとGBNのネットワークからサルベージしたフィアのデータをどうこうして、みたいなことができるんだろうけど。
でも、私の前世は単にガンプラ作りを人より多少頑張っていた平凡なガノタでしかない。
そのためには、ルカに協力してもらう必要があるんだけど──ルカは「自分が気持ちよくなりたい」一心で行動しているから、理屈での説得が通用しないことは、目に見えている。
なにかこれは私がドデカい仕掛けを考えて、そこに上手いことフィアのサルベージを絡めておく必要があるなー。
……今は、あえて。決断的に、寝るけど!
†
「ん、んん……っ……」
翌朝。
起き抜けの身体を無理やり起こしてカーテンを開けると、爽やかな陽射しが眠気の残滓をかき消してくれる。
最近、夜は部屋に引きこもってGBNばかりやってたから、こうやって朝は太陽光線浴びないと眠気で萎びちゃうからね。
すると、こんこんこん、と折り目正しく3回部屋のドアがノックされる。
あーうん、いつものあれね。
しゃーない、ダルいけどお嬢様モードにならなきゃ。
『失礼いたします、お嬢様。お召し物をお持ちいたしました』
「今鍵を開けるから、入っていいわ」
『ありがとうございます』
部屋の鍵を開けると、ドアの向こうでしゃんと背筋を伸ばして、折り畳まれた学園の制服を手にした、メイド服を着た女性の姿があった。
少し日焼けした印象のある肌と、エメラルドグリーンの髪が綺麗なメイドさんで、私のお世話役をやってもらっている、ピケスト・イネアだ。
この人全然表情変わらないから、なに考えてるかわっかんなくて少し苦手なのよねー。
ピケストは一礼して入室すると、いつもの朝のように私の髪を整える──ことはしないで、部屋の鍵を閉めた。
ん、んんんん?
ピケストは中東で私の父親に拾われてきた子だけど忠誠心はとても高い。まさか暗殺なんてことは──
「昨日は猫が騒がしかったですね。二匹の猫がネズミを狩るために全力を出していたからでしょうか」
「……ピケスト、主人に対してなんのつもり? 妙な気は起こさないで」
「ふ、ふふふ」
意味深な含み笑いだ。
まさか、本当に私はここで死んでしまうのか。
息を呑んだそのときだった。
「お嬢様におかれましては、いつの間にか
制服の隙間からダイバーギアを取り出して、ピケストは一礼した。
要するに私がチンパンジーだと言いたいのかこのメイドは……じゃなくて。
ば、バレてるー!?