お嬢様がGBNにいるわけないだろう!   作:プラ板の削りカス

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【朗報】お嬢様、理解される

 ピケストがどうしてダイバーギアを持っているのかは謎だったけど、問題はそこじゃない。

 バレた。

 しかもヤエザクラ家の令嬢たる人間が、チンパニズム全開で暴れ散らかしているところも。

 

「あ、あのね? ピケスト、これはなんていうか……」

「理解しております、お嬢様。このことが旦那様に露見すればどうなったものかは自明の理、最後の扉が開いてしまいます」

 

 ちょくちょく開けられたり閉められたりする最後の扉さんだ。

 ……ん?

 前世EXVS勢の私は親の最後の扉よりもよく聞いた最後の扉だけど、ピケストがなんでその台詞を知っているのかしら。

 

「お嬢様、その上で一つだけ申し上げます」

「……ええ。庶民の娯楽にうつつを抜かしていたなんて、将来はヤエザクラの家のお世継ぎを産まなければいけない立場として失格もいいところですから」

「……なぜ」

「……」

「なぜ、こんなに面白いことをしていたのに、このピケストを誘ってくださらなかったのですか」

 

 表情は相変わらず真顔のまま、頬を膨らませてピケストは抗議の意を示してきた。

 ──は?

 明確にピケストが不満げにしている姿を初めて見たから困惑しているのもある。

 

 だけど、なによりも純粋に言葉の意味が、裏がわからなくて、私は呆然とする他になかった。

 いやまあ、わからないというかわかりたくないというか……ピケストって、ガンダム知ってたの?

 メイドだから私よりも外の世界の情報にアクセスできる機会は多いだろうから、存在ぐらい知っているのは当然だといわれれば、それまでだけど。

 

「そ、それは……当然よ、私がGBN(庶民の娯楽)で遊んでいるなんてお父様や、屋敷の人間に知れたらどうなることかわからないから……!」

「なるほど、つまりお嬢様は幼い頃よりお世話をしてきたこの私を信じられていなかったということですね、大変ショックです。これではショックのあまりなにをしてしまうかわかりません、えんえん」

 

 泣き落としにかかってきたぞ、このメイド。

 しかも半分以上脅しじゃねえか。

 確かに小さい頃からピケストには身の回りのお世話をしてもらっていた間柄だけど! だけど、表情が読めなくてなに考えてるかわかんないのよ!

 

「……一応聞いておくけど、いつから知ったの?」

「そうですね、具体的にはお嬢様がシロガネ様と大変ロックでガンダム動物園な罵り合いをしていたところからでしょうか」

「割と最初からバレてた!? っていうかあんた、いつ学園に紛れ込んでたのよ!?」

「隠密行動はメイドの嗜みでして」

 

 くっ、天然ミラージュコロイドでも持っているんだろうかこのメイドは。

 あのガチガチに警護された学園に潜入できる人間なんて、それこそル◯ン3世とか怪盗キッ◯ぐらいだと思っていたのに。

 でもまあ、バレたもんはしょうがないか。ルカとの約束もGBNを救うのも諦めて──

 

「お嬢様」

「……なによ、ピケスト」

「私はお嬢様の味方です。そしてなにより面白いものを好んでおりますので……GBNでのお嬢様はそれは、もう抱腹絶倒ものでございました」

「あんたそれ褒めてんの、貶してんの?」

「当然褒めております、具体的には『頼りになるな!』ぐらいには」

「煽りじゃねーか!」

 

 バトオペの負け試合であの通信連打するやつをコールタールに沈めてもいい法律が欲しかった。

 ……じゃ、なくて。

 あれ? ピケストってもしかして、結構ガンダムに詳しかったりする? っていうかめちゃくちゃディープなとこまでハマってたりする?

 

「ですから先ほどより申し上げております、このピケストをなぜお誘いにならなかったのかと」

「……誘ってほしかったの?」

「はい」

 

 不満げに頬を膨らませるピケストの顔は、生まれて初めて見たものだった。

 ……お母様以外、この屋敷に私の味方なんていないと思っていた。

 ピケストだって、突然外国から身請けされて屋敷に連れてこられて、見ず知らずの私の世話なんかさせられて、本当は鬱憤が溜まっているんじゃないかって。でも。

 

「……わかったわ。どの道、知られた以上は一蓮托生。私に地獄まで付き合ってもらうわよ、ピケスト」

「はい、喜んで。お嬢様の地獄はさぞかし愉快な原始時代の風景なのでしょうから」

 

 こいつの本性はこれか。

 まったく、いい性格してやがる。

 でも、味方が一人増えてくれたのは嬉しかった。学園に潜入できるほどの隠密能力を持っているピケストなら、私の手の届かない範囲の悪巧みにも協力してくれるだろうから。

 

「当然だけど、お父様には秘密だからね! てかあんた、ガンプラ持ってるの?」

「もちろんです、お嬢様。この日のために私は、N-EXTREMEガンダム・ヴィシャスをこっそりとフルスクラッチしておりましたから」

 

 ヴィシャスとはまたクセの強いチョイスだなぁ。

 すっ、とメイド服の懐に忍ばせたガンプラホルダーからピケストが取り出したヴィシャスは、私も感嘆するほど出来がよかった。

 身近にこんだけ手先が器用なメイドがいるなら、もしかしたら、フィアのサルベージにも役立ってくれるかもしれない。

 

「いい腕前ね。ところで、今日も遅くなるのだけれど」

「ありがとうございます。そしてご心配には及びません。このピケスト、今日よりお嬢様の監視と身辺警護の任を旦那様よりお受けしておりますので……まあ要するにいくらでも誤魔化せますので、お嬢様におかれましては存分に野生を解放して暴れていただければと」

 

 屋敷の裏側ではやっぱり私を怪しむ動きがあったらしい。

 それを封殺してくれたということは、ピケストってもしかして結構な恩人では。

 当面足向けて寝られないわね、主従の関係なのに。

 

 

 

 

 

 

「今日は面白いものを持ってきたわよ、ツカサくん」

 

 放課後、私はルカとピケストを連れて、ツカサくんが拠点にしている廃倉庫を再び訪れていた。

 この前やったルカとのセッションでぶっ壊れたアストレイノーネイムはほとんど完璧に修復されていて、今からでも一戦やれそうだった。

 だけど、今日ここに来た目的は違う。

 

「面白いものだァ? こちとらブツの流通に支障をきたしてんのによ、ご挨拶だな」

「そんな短小を必死にシコってるようなことなんかより、よっぽどデカくて楽しい話よ」

 

 私は腕を組んで、コンテナの上に寝そべっていたツカサくんに啖呵を切った。

 ルカのおかげで、ELダイバー、具体的にはイヴとサラちゃんとフィアのログインデータを集めることができたからだ。

 さて、ツカサくんにサプライズ・アタックといきましょうか。

 

「GPDの技術で、GBNの鼻を明かせるって言ったら、どうするかしら?」

「……ンだと?」

「ツカサくんもGBNには取引のためにログインしているんでしょ? なら、このデータの意味はわかるわよね!」

 

 そして、私はルカの協力で集まった3人のログインデータ──具体的には、「サラちゃんたちが一度もGBNからログアウトしていない」証拠をつきつけた。

 

「あン……? なんだこのデータ、ログアウトが一度も確認できてねぇだと? BOTかツーラーじゃねえのか」

「そのようにお安いものでしたら、ログインの段階で弾かれておりましてよ」

「……なるほどな、そんでこのデータがGPDとどう関係してんだ、ツインテール」

 

 ツカサくんは身を起こして、問いかけてくる。

 ふ、ふふふ。

 技術者気質なところがあるツカサくんなら必ず食いついてくれると信じていた。

 

「結論から言うわ、彼女たちは──電子生命体よ」

「……続けろ」

「あなたのブレイクデカールはメインサーバーにクラックしてログを改竄できる力を持っている。その力を逆用して、彼女たちを現実にサルベージしてほしいの」

 

 要するに、サラちゃんたちのデータをぶっこ抜いてGBNのメインフレームと切り離し、GPDのシステムに隔離する──本編でやっていたことを、前倒しにするのだ。

 電子生命体だなんて聞いただけで、鼻で笑われると思っていたけど、案外そうでもないらしい。

 ツカサくんは首をわずかに傾げて、再度問いかけてきた。

 

「……なるほど、発想は悪くねぇな。だが、現実に電子生命体をサルベージしてどうする、肉体もなにもねぇ──まさか」

「そのまさかよ」

 

 ごくり、とツカサくんが息を呑んだ。

 

「美プラをGPDのシステムで動かして、そこに彼女たちのデータを定着させるのよ!」

 

 びしっ、と人差し指を突きつけて、私はツカサくんに宣言した。

 

「は……ははは……テメェら、本物のバカだな! 電子生命体ってのも疑わしければ、メインフレームをクラックしてデータをぶっこ抜いて、美プラに移すだと!? だが──いいじゃねえか。あのクソッタレな世界に……偽りのエデンに、GPDが一矢報えるってのは……」

「それだけじゃないわ。将来有望なファイターを今度GPDに勧誘してるの。まだまだ……あんたの思い出の場所は死んでなんかいないわ! 投資は惜しまない、私たちが最高に盛り上げてやる! だから今すぐ禊を済ませて、私たちに協力しなさい、シバ・ツカサ!」

 

 私がぶちまけた超口舌は、どうやらツカサくんの心のどこかに突き刺さってくれたらしい。

 ツカサくんは、まるでGPD全盛期にコーイチさんと組んでいたときのように、憑き物が落ちたような顔で──爆笑していた。

 最高にバカやるって、楽しいでしょ。あんたが──長く忘れていた感覚よ、ツカサくん。

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