お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
『本当なんですか、ミキさん!?』
「ええ、そういうわけで──ガンダムベースでお待ちしておりますわ、ビルドダイバーズの皆様。なお、このことは極秘裏に……」
『はい! 俺……必ず、GBNをミキさんたちと一緒に守ってみせます!』
ツカサくんに原作前倒し計画をぶちまけた夜、私は早速ダイバーギアでリクくんたちにコンタクトを取っていた。
ブレイクデカール事変の黒幕がわかった、という言葉を純真無垢に信じてくれたリクくんの眩しさが光るわね。
問題はダイバ忍ことアヤメさんの絆ガンダムについてだけど、それもこれも全部、ツカサくんには禊をしてもらう予定だから大丈夫だ。
「ピケスト、車の手配と実家の撹乱は?」
「全て完了しております、お嬢様」
有能しごできメイドが味方になってくれてよかった。
周りの使用人に「ガンダムベースからアクセスできる廃倉庫に行く」なんて言ったら全力で水を差されるだろうから。
ルカからも、準備万端だという旨のメールが届いているし、じゃあ始めてしまおうか、私のそんなに壮大でもない悪巧み──シバ・レクイエム計画を。
ふふふ、ツカサくんには悪いけど、悪いことをしているんだからとりあえず禊が済むまでは悪役ロールプレイをやってもらわないと困る。
私が考えた計画は、リクくんとツカサくんに水星の魔女に則って、
もちろん、手加減抜きのガチでやってもらう。
もしリクくんが負けたら──それまでだったということ。
GBNを守ると言ったんだから、原作通りツカサくんを倒すぐらいの気概は見せてもらわないと困るというか私が萎える。
大丈夫大丈夫。理不尽の塊が服を着て歩いているチャンピオンに比べればハードルは低いから。
そんなわけで私は、全ての準備を整えた上でベッドに寝転がっていた。
ツカサくんの復讐欲も満たしつつ、リクくんたちのしがらみも解いて、ついでに私とルカが気持ちよくなる。
全部やらなきゃいけないのが転生者のつらいところよね、覚悟なんてもんはとっくにできてるからいいけど。
「では、おやすみなさいませ。お嬢様。お嬢様におかれましてはどうせ明日が楽しみで一睡もできないこととは存じますが」
「ええ、おやすみなさい、ピケスト。あんたのちくちく言葉はちゃんとビルドダイバーズの前では封印しなさいよ」
あとはどっしり
†
「ぜ、全然眠れなかった……」
「案の定無様なお姿でございますねお嬢様、お嬢様は小学生男子なのでございますか? ああいえ、このピケストともあろうメイドが失礼しました、これでは全国の小学生を愚弄していることになってしまいます」
「逆よ逆……くぁ……」
黒塗りの高級車をいつもの鉄面皮で運転しているピケストのちくちく言葉にも、私はあくび交じりに返すぐらいしかできないぐらい眠かった。
しょうがないじゃん、せっかくの一大イベントの前日なんだから緊張して一睡もできないなんて仕方ないことじゃん。
うとうとしているうちにピケストは黒塗りの高級車で首都高をかっ飛んで、気づけば私はミキとビルドダイバーズの皆が待つガンダムベースの駐車場に乗りつけていた。
「す、すごい……高級車だよあれ、りっくん!」
「うん! すごいねユッキー! ミキさんって、本当にお嬢様だったんだ!」
「GBNではあんななのに?」
「モモくん、リアルとネットは切り分けて考えないとダメだよ」
「……」
今はGBNでフィアと一緒に私たちを見守ってもらっているサラちゃんを除いたビルドダイバーズのフルメンバーと、私はとうとう邂逅を果たしていた。
まあモモちゃんにも突っ込まれてるし今更取り繕う必要もないんだけど、ピケストよろしく誰が見てるかわからないものだ。
だから私は、お嬢様モードでカーテシーを添えてリクくんたちに一礼した。
「ごきげんよう、ビルドダイバーズの皆様」
「ミキさん、ブレイクデカールの黒幕がわかったって……!」
「ええ。ですので、ご案内いたしますわ」
「ありがとうございます! 俺、黒幕に勝って、絶対にGBNを──」
「……ちょっと待ってください」
「そうだね、僕も聞きたいことがある」
私の説明をトントン拍子で理解してくれたリクくんに対して、主にコーイチさんとアヤメさんの目は厳しかった。
流石だなあ。
疑うことを知らない少年の瞳をしているリクくんたちと比べて、一段大人なだけはある。
「まず、どうしてミキくん……で、いいのかな」
「ツミキでもミキでも、お好きなようにお呼びください」
「わかった。ミキくん、どうして突然、誰も突き止められなかったブレイクデカールの黒幕がわかったなんてことを言い出したのかな。君は……以前から、ブレイクデカールの黒幕と、内通していたんじゃないか?」
流石はコーイチさん、鋭い着眼点だ。
まあまずそこを疑うよね。
誰だってそうする、私だってそうする。
「その質問につきましては、『部分的にそう』と答えさせていただきます」
「……『部分的に』?」
「ええ、私がマスダイバーでないことはご存知かと思われます。そして、全ては指定の場所に行けば、わかることですので」
「……わかった。なら質問を変えよう。ミキくん、君はブレイクデカールの流通に関わっていた?」
「その答えは断じていいえ、ですわ」
くるりと踵を返して、私はコーイチさんたちを手招くように、ピケストへ車のドアを開けさせた。
コーイチさんとアヤメさんの二人に、どこまで信頼してもらえているかは、この際重要じゃない。
二人がリクくんを信じて着いてきてくれたのなら、ツカサくんと引き合わせるだけで、全ての答え合わせは済むからだ。
「リク様」
「はい、ミキさん!」
「貴方には、GBNの運命を切り開くことを期待しております」
私は楚々と微笑んでみせる。
ふはははは。
間違っても私とルカを興醒めさせるような手ぬるいバトルなんかしてくれるんじゃないぞリクくん、なんたって君は、原作主人公なんだから。
「……は、はい!」
リクくんは顔を赤くして俯いてしまった。
うーん、思春期の少年にお嬢様モードは刺激が強すぎたか?
それはともかく、さっきからアヤメさんが一言も喋ってないのが気になるけど、まあ過去にフォースが自分たちの信念曲げて空中分解しましたって話だから、言い出しづらいよね。
「……待ってください、ツミキさん!」
とか思ってたら、アヤメさん(リアルのすがた)が車へと乗り込む前に、助手席に向かった私を呼び止めた。
「どうされましたか、アヤメ──いえ、フジサワ・アヤ様」
「……っ!」
「これぐらいはヤエザクラの者としては当然知っています。その上でなにかご質問が?」
「……貴女もブレイクデカールに、あの男に関わってきたならわかるはずです。あれは悲しみしか生みません、私の……私たちの仲間の、大切な思い出も……っ!」
ぎり、と拳を握りしめて、アヤメさんは親の仇を見るような目で私を睨みつけてきた。
そりゃそうだよねー、ツカサくんのパシリにさせられてたんだから、今更彼と一枚噛んでいたことを肯定した私を許せないのもわかる。
でも、私は許されなくていい。アヤメさんを許すのはリクくんたちの役目であって、私はその立会人に過ぎないのだから。
「欠けてしまったものは、取り戻せないとお考えなのですね」
「……あの男が、約束を守るなんて……!」
「いいえ、それは間違っています」
「っ!?」
「彼は確かに悪事に手を染めました。ですが、決して約束は違えなかった。貴女が貴女の思い出を取り戻したいと願ったことも、貴女の思い出の場所が壊れてしまったのも、全て──彼のせいではなく、貴女たちが間違った道を選んでしまった故です」
残念だけどル・シャノワールの解散については完全に自業自得なんだよね。
メタられてポリシー曲げてリアルタイプ導入したって付け焼き刃で勝てるわけないのなんて、目に見えてたのに。
売れたいからって急に世間に媚び始めて雑なラブソング歌い始めたロックバンドじゃねーんだからよ。
「だったら……だったら、私は、私たちは、どうすれば……!」
「その答えは二つあります」
「二つ……」
「一つ、貴女たちがどうすべきだったかは──『リアルタイプのことを本気で研究すべきだった』」
「──っ!?」
別に売れたい、勝ちたいとかそういう理由で環境に合わせるのは決して悪いことじゃない。
ただし、環境というのは常に研究され尽くした「結果」の集合体だ。
追いかけるのにも相応の努力と研究とキャラ対が求められるのに、たかがアサルトバスター一機を入れただけで勝てると思っていたのがそもそも「ル・シャノワール」全体の……というかコージーさんの大きな間違いとしか言いようがない。
大好きなSDで気持ちよくなりたい。
それはいい。プレイヤーとして、その姿勢は大いに結構だ。
だけど、「職人」と呼ばれるプレイヤーは大体環境機も乗りこなせるぐらいには使い込んでいたり、地力を身につけていたりするのだ。
ただ単に環境メタのキャラパに甘えていただけじゃ、バレたら勝てなくなるのも必然だろう。
「わ、私たちは……っ」
「SDの強みを伸ばす、それは決して悪いことではありません。リアルタイプの弱点をつく。それも悪いことではありません。ですが……貴女たちはリアルタイプの長所や、アサルトバスターとの相性を研究することを怠っていた。そこから目を逸らしてはなりません」
「──なら、私は……」
マジレス攻撃は誰も幸せにしないという格言通りに、アヤメさんはひどく落ち込んでしまったけど、これは言っておかなきゃわからないことだからね。
前世じゃ好きなキャラ擦って負けてるくせに環境機の研究も対策もしないで文句しか言わないやつらがウヨウヨいたものだから困る。
どうせ愛機にHi-ν並みの上方修正来たって乗り換えた上級者にボコられるだけなんだよ、ちゃんと環境機で勝ってまずは地力を鍛えないと。
「そこで私は、貴女に二つ目の答えを授けます」
「……」
「貴女は、今……未来をやり直せます」
「未来、を……?」
「過去に囚われて、未来まで奪うのは愚かな行いです。貴女を今支えてくれている仲間を見てあげなさい。そして……共に手を取り合いなさい。今『それでも』と足掻き続けることが、が、今、未来をやり直す唯一の方法なのですから」
私は言うだけ言って助手席の扉を閉めた。
あとはアヤメさんがどうするかだ。
私の仕事はとっくに終わっている。
ル・シャノワールにこだわってビルドダイバーズを抜けるならそれまでだ。
ビルドダイバーズと共に原作通り頑張るのならそれが一番だ。
でも、選ぶのはアヤメさんなのだから、私がこれ以上口を挟む権利はない。
ピケストに車を出させて、私はビルドダイバーズと面々とルカを、ツカサくんの待つ廃倉庫へと案内するのだった。
ちょっと仕事と星の方の翼で……(アカツキのファイティン横特を擦りながら)