お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
「よう……遅かったじゃねえか」
「市道は混んでるのよ」
混雑していた市道をなんとか抜けて廃倉庫に辿り着くと、ツカサくんは気合いを入れているのか、フードを目深に被ってコンテナの上に座っていた。
シバ・レクイエム計画の役作りとしてなんかヒールっぽいことをやってくれとは頼んだけど、もしかしてツカサくんも結構ノリノリだったりする?
ははーん、やはりこいつ、ツンデレだな。
「お前か! GBNにブレイクデカールをばら撒いて、皆を傷つけていたのは!」
真っ先に飛び出したリクくんが、ツカサくんを指して糾弾した。
リクくんの言い分は確かで、多くのダイバーがブレイクデカールを巡ってあれこれしてきたことを考えると、半分は事実だ。
でも中には「ちょっと楽して強くなりたいから」とかいう理由でブレイクデカールに手を出してたカスもいるからなあ。お前だよ、ジムクゥエルに乗ってたモブくんよぉ。
「フン……おい、ツミキ。テメーが期待の新人だって言うから多少は期待してたが、俺があいつに監視させてたガキじゃねえか。やれんのか?」
「どうかしらね、でもその子はGBNの未来を背負えるだけの才能とガッツはあるわよ」
「なるほどな……」
「その声、その顔……まさか!?」
ツカサくんがもったいぶった仕草でフードを脱ぐと、コーイチさんが目を見開いて盛大に驚いた。
原作だとなんか
コーイチさん視点だとかつての相棒がブレイクデカール事変の首謀者だったんだから驚くのも無理はない、
でも、原作だとそれ以上に相棒への心配が勝ってたんだろうなあ。元カップルかよ。
「ああ、そうさ。コーイチ……俺が黒幕の正体さ」
「ツカサ……! お前、どうして……っ!」
「決まってんだろ。GPDって本物の戦いを忘れて、あんなヌルい遊び場でチャプチャプしてる連中の目を覚まさせようとしていたのさ」
「っ! 今、GBNのことを遊び場って……!」
おお、素晴らしい悪役ロール……というか九割ぐらいは本音なんだろうけど。
だがそれが逆にリクくんの逆鱗に触れた。
コーイチさんとの話も遮って、リクくんは珍しく額に青筋を立てて、本気で怒った様子でツカサくんを睨みつけた。
「あァ? 遊び場以外のなんだってんだ?」
「取り消して! その言葉を!」
「ダメだ、熱くなるな! リクくん!」
なんか今、原作主人公なのに猛烈な負けフラグが立ったような気がしたけど気のせいだと思いたい。
「取り消してほしいか?」
「もちろん! そして……ブレイクデカールをばら撒いていた罪を償ってください!」
「いいぜ」
ばさっ、と前を開いたパーカーの裾を靡かせて、ツカサくんは腰のガンプラホルダーに手をかけた。
それだけで、彼がなにを言おうとしているかはリクくんには伝わったことだろう。
私も事前にある程度は説明してるし。
「テメェが正しいって言うなら、俺に勝ってみせろ」
「ツカサ……」
「フン……どの道この腐れお嬢様どもと関わっちまった時点で興が削がれてんだけどな、俺にも俺の言い分ってモンはあんだよ」
誰が腐れお嬢様よ誰が。
ピケストも首がもげるほど縦に振ってるんじゃないわよ。
ルカもニコニコ笑ってないで、なんか言ってやりなさいよ。
「俺はツカサ……シバ・ツカサだ。テメェに……大切に作ったガンプラを壊す覚悟はあるか、ミカミ・リク」
「……」
「俺との戦いから降りるってんなら好きにしろ、その分俺も好きにする。俺を止めてェなら……覚悟を見せろよ」
「ダブルオーダイバー……」
リクくんはガンプラホルダーからダブルオーダイバーエースを取り出して、逡巡する。
迷うのも無理はない。
GPDで戦うということは、どう頑張ったって愛機が傷つくということに他ならないのだから。
『大丈夫だよ、リクくん。君のガンプラは……戦いたいって、そう言っている』
『うん……フィアの言う通り。ダブルオーダイバーは、力を解き放ちたがってる……リク』
「サラ……フィアさん……」
通話機能でGBNのロビーと繋がっているダイバーギアを片手に、リクくんはぎゅっと、ダブルオーダイバーエースを持つ手を軽く握りしめた。
原作だと諸々の事情で、第一次有志連合戦までトランザムを封印してたけどもう解禁できるほどの経験値を積んだのか、リクくんは。
流石は未来のチャンピオンってところか、無意味にベガ立ち後方師匠面したくなる。
「怖いってんならやめておけ、テメェにGPDは合わねえよ」
「いえ……俺は戦います!」
「ハッ……ツミキにケツを蹴られるまでもなかったか」
「やめろ、ツカサ! 戦うなら俺が……!」
「水を差すんじゃねえ、コーイチ。この戦いはな、GBN上がりのやつとGPDにしがみついてきた俺じゃねえと意味がねェんだよ」
ツカサくんの言葉で納得したのか、コーイチさんはそれ以上言うことはせずに身を引いた。
そして、リクくんとツカサくんは廃倉庫の中心に置かれているGPD筐体へと歩み出る。
さて……ここからは二人の世界ね。私は精々後方ベガ立ち勢として見守らせてもらうわよ、リクくん。
「操作には慣れてねぇだろ、とりあえず10分やるから動かしてみろ」
「……ありがとうございます」
「フルダイブに思考補助があるGBNと違って、GPDは実機をコントローラーで動かすゲームだからな」
「……」
ツカサくんにチュートリアルを促されたリクくんは、原作通り、GPDに10分もかからず適応してみせた。
それは思考補助なんてなくても地力が十分にある、という証明だろう。
さて、ここからはどうなることやら。
「準備はできました」
「それじゃあ……
向かい合ったリクくんとツカサくんは視線で火花を散らしながら、操縦桿を強く握りしめて愛機をバトルフィールドへと出撃させた。
†
「ガンプラが傷ついて、痛いって言ってるみたいだ……これが、GPDの世界……!」
「そういうこったァ! 怖気付いたか!?」
「いいや……俺は……っ!」
リクくんのダブルオーダイバーエースと相対していたツカサくんの新しいノーネイム──ガンダムグリープとミキシングしたらしい「アストレイノーネイムグリープ(仮)」は、真っ向から刃を交えていた。
対ビームコーティング塗装がされていないダブルオーダイバーエースは、無意識にそれを察してか、ビグ・ザム形態に変形したノーネイムグリープの懐に飛び込むことで、大火力のメガ粒子砲を封じていた。
ビームランスとスーパーGNソードⅡが鍔迫り合い、火花を散らす。
「シャフトを狙えば!」
「甘ぇッ! ンなこたわかってんだ、こちとら金属パーツに置き換えてんだよ!」
「なにっ!?」
ノーネイムグリープのビームランス、その持ち手を狙った一撃は空振りに終わり、金属パーツに激突したスーパーGNソードⅡの刀身が砕け散る。
うーん。ツカサくん、手を抜かないなあ。
ところでリクくん、流石にぬるい戦いが過ぎるんじゃあないかしら? ルカもピケストも退屈そうにしてるんですけど。
「その隙を見逃す俺じゃねえ……ここでGBNの未来と一緒に逝っちまいな!」
体勢が崩れたダブルオーダイバーエースにトドメをさすべく、ノーネイムグリープはビームランスを大上段に掲げて振り下ろそうとした──刹那。
「トランザムっ!!!!」
リクくんはトランザムを発動して、全力のバックブーストで強引にノーネイムグリープの一撃を回避していた。
赤熱化したダブルオーダイバーエースから、戦う意志は失われていない。
フィアもサラちゃんも警告しなかったということは、ようやくここからが本番だというのとだろう。
『リクくん……本気を出したようだね』
『ダブルオーダイバーは、負けたくないって言ってる……』
「あら……わたくしは退屈ですっかり乾いてしまいそうでしたけれど、ここからが本番ですのね、ミキ?」
「そうね、リクくんが封印してたトランザムを切ったってことは、本気出したってことだから」
ツカサくん相手にトランザム縛りなんて舐めプは通用しないぞリクくん。
さあ、思う存分に暴れなさい。
本気で、魂を剥き出しにして、戦うことこそがガンプラバトルの真髄なのだから。
「うおおおおっ!」
「チッ、悠長に変形してる余裕はねえってか……!」
ノーネイムグリープの片翼に、投擲したもう片方のスーパーGNソードⅡが突き刺さる。
そして、リクくんは両肩に懸架していたGNダイバーソードを手に、ノーネイムグリープへと果敢に斬りかかっていった。
焦りからくる突撃ではなく、恐らくは奥の手を出される前に封じてしまおうと畳み掛けているのだろう。
「ダブルオーダイバー……痛いだろうけど、苦しいだろうけど! 俺に応えてくれ!」
「違ぇなァ!」
「なにを……!」
「痛みも苦しみも全部楽しむための前提条件だ! テメェには……ガンプラバトルを……本物の戦いを楽しもうって気概が足りねぇ! そんなんじゃ燃えねえんだよ! それともなんだ!? ツミキとルルカのおっぱいに慰めてもらいたくてテメェはここに来たってのか!? だったら帰れ! そして二度とツラ見せんな、GBN上がりのヒヨッコがよ!」
おお。
私が言いたいことをツカサくんが全部言ってくれた。
そう。楽しまないと面白くない。今のリクくんは、ダブルオーダイバーエースを傷つけまいと、消極的な立ち回りに徹しているから、それが面白くなかったのだ。
「ルルカ様は十分過ぎますが……お嬢様の……お胸……? ふっ」
「ピケスト、テメェ今鼻で笑ったな?」
「失礼いたしました、このピケストともあろうメイドが、まな板に対して粗相を……」
「表出ろ」
確かに私はルルカやフィアやピケストに比べて慎ましいけど! ちゃんと揉めるぐらいにはあるんだよ!
……私の哀しきおっぱい事情はともかく、リクくんはツカサくんの言葉に大分動揺している様子だった。
それもそうだろう。恐怖を踏み越えて、痛みを受け入れて前に進むということは難しいのだから。
──それでも。
「……楽しむ……そうか、俺は!」
「今テメェがやってんのは……ガンプラバトルだろうがよ!!!!」
「行くぞ、ダブルオーダイバーエース! ここからが正真正銘、最後の戦いだ!」
「ノってきたかよ、だったらこっちもだ! PXシステム!」
時限強化に入った二人は、目にも止まらぬ速度で切り結び合い、お互いの武器が折れて、あるいは腕を切られて、それでもなお戦いをやめなかった。
1秒ごとに目まぐるしく状況が変わる。
赤を纏ったダブルオーダイバーエースと、青を灯したノーネイムグリープが切り結び合い、互いのパーツをボロボロにして。
「これが……これが、GPDのガンプラバトル……!」
「そうだ……失うことを恐れんじゃねェ……!」
「だったら、もっとだ! もっと俺に力をくれ、ダブルオーダイバーエース!」
「武器も左手も失った状況でなにができる!?」
「トランザム……インフィニティっ!!!!」
リクくんが、直感的に叫んだ言葉に──未来の形へと応えるように、ダブルオーダイバーエースのGNドライヴがひび割れて、砕けると同時に光の翼を形成する。
トランザムのその先へ、無限の可能性へ。
原作では有志連合戦で目覚めていた、サラちゃんの力を借りなければできなかった技を、リクくんは単独で目覚めさせていたのだ。
「光って翼を展開すりゃ強いってのはなあ、中学生までなんだよ!!!!」
「なにが悪い! 俺は……中学生だぁぁぁっ!!!!」
「速いッ!?」
瞬時にノーネイムグリープの懐へと飛び込んだダブルオーダイバーエースは、金属シャフトでコックピットを守ろうとしたツカサくんに対して、残された右の拳を大きく振りかぶる。
そして。
ダブルオーダイバーエースが展開していた光の翼が、右の拳へと収束していく。
「これが俺の……未来のダブルオーダイバーに託す一撃だ! インフィニティナックル!!!!」
「金属シャフトをへし折って……ッ!? は、はは……ははははは!!!!」
ダブルオーダイバーエースが突き出した拳は、ツカサくんが笑った通りに金属シャフトをへし折って、ノーネイムグリープのコックピットを貫き、爆発四散させていた。
『Battle Ended!』
未来と互いの誇りをかけた決闘に──いわば、最高に気持ちいいお遊びに、決着がついた瞬間だった。
ツミキちゃんはCぐらいあります