お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
「……よう、どうだった。GPDは」
一戦終えて、胴体が砕かれてもはや修復不可能になったノーネイムグリープの欠片を大事に懐へと仕舞い込みながら、ツカサくんがリクくんへと問いかける。
「……俺は、あなたみたいに壊れることも含めてガンプラバトルを楽しむってことが、できないかもしれません。今も……ダブルオーダイバーに、ごめんって、そう思ってる」
「だろうな。だから……廃れた」
「ツカサ……」
コーイチさんが、自嘲するツカサくんに右手を伸ばそうとして、引っ込める。
GPDは、確かに革命的だった。
だけど、ガンプラが実際に傷つき、壊れるバトルを本気で楽しめる人間は──残念だけど、少数派だ。
「でも、あなたやミキさんたちが……GPDを、ガンプラを、ガンプラバトルを大好きだってことは伝わってきました、だから……!」
「ああ、ブレイクデカールをばら撒くのはやめてやるよ」
「ツカサ……!」
「テメェのためじゃねえよコーイチ。俺はただ……GBN上がりのヌルいやつだと思ってたこいつが見せてくれた根性と、ツミキたちから受けた恩に、応えてやっただけだ」
ツカサくんはツンデレの典型例みたいなセリフを吐いて、コンテナの近くに置いていたジュラルミンケースを手に取った。
「持ってけよ」
「これって……」
そして、アヤメさんへと差し出した。
「テメェらの絆のガンダムだろうが、俺がぶっ壊したとでも思ってんのか? 確かに作りは甘ぇしディテールも詰め切れてねえし塗装が剥がれてるところも多々あったから補修はしたけどな……受け取った借り物を壊すほど腐っちゃいねえよ」
「……だけど、あなたは。私は」
「罪などというものは、精算すればよろしいのです」
受け取りを拒もうとしたアヤメさんに対して、今まで沈黙を貫いていたルカが楚々と微笑み、言葉をかける。
まあ、ルカにとっては長い余興だったから当然よね。
シバ・レクイエム計画は、ある意味ここからが本番なのだから。
「ルルカ、さん?」
「懺悔はもう済んだでしょう。あなたにはそのガンプラを受け取る権利がある。それでもまだ納得がいかないのなら……わたくしたちと、
「気持ちいいことって……」
「ルルカさんも、お嬢様だと思ってたけどリアルでもあんな感じなんだ……」
ユッキーくんとモモちゃんがルカの蠱惑的な笑みを見てゾッとしているよ、可愛いね。
でも、このままブレイクデカール事変は一人の頑張りによって秘密裏に終わりました、じゃあ結末としては落第点だ。
そこで私は考えた。だったら──原作通りに有志連合戦やっちまおうぜ、と!
「それについては私から説明するわ。確かにツカサくんは反省してブレイクデカールを配るのをやめると約束したわ。でも、それだけじゃ今いるマスダイバーがGBNからいなくなるわけじゃないし、GBNをプレイしているダイバーも納得しない。だから──残ったマスダイバーを私たちで一網打尽にするのよ!」
びしっ、と人差し指を立てて、私は宣言する。
原作通りにマスダイバーを初心者用サーバーに集めて、隔離した上でボコボコに叩きのめす。
ブレイクデカールによるバグも、原作と違って、無限再生までいくほどの改良が行われていないからまだ軽微な範囲で済む。
「どういうことですか、ミキさん?」
「ツカサくんには偽情報を流してもらってマスダイバーを一ヶ所に集めてもらう。私たちはその情報を元に、チャンピオンたちに働きかけて、マスダイバー討伐隊を結成する。要するに、ガンプラバトルで
中指を立てて、私は獰猛な笑みを浮かべた。
マスダイバーをボコる。チート頼りのカスだからいくら殴っても心が痛まないし、気持ちいいことこの上ないだろう。
あとは検挙なりなんなりするのは、GMのカツラギさんに丸投げしておけばいい。
要するに私たちが最高に気持ちよくなるためだけのパーティー、それがシバ・レクイエム計画の本質ともいえた。
でも、ブレイクデカールを駆逐しない限りはバグが続くだろう。
だから、修正パッチのデータもツカサくん経由でマスダイバーを一網打尽にしたら送る手筈になっている。ただ気持ちよくなるためだけじゃなく、私は正当な理由もちゃんと用意しているのだ。
「ふふ……流石ですわ、ミキ。最高に気持ちいいパーティーになりそうです」
「ふふん。と、いうわけで……アヤメさんも、ブレイクデカールに関わっていた罪を雪ぎたいのなら、この誘いに乗らない手はないわよね?」
「……私、は」
まだ迷いを見せるかこのダイバ忍め。
答えは決まっているはずだろう。
ただ絆ガンダムを返されただけじゃ満足しないのはわかっているから、こちとら悪巧みをしたというのに。
「やりましょう、アヤメさん」
「リクくん……」
「アヤメさんが罪を背負うっていうなら、俺たちも背負います。だって、俺たち……仲間でしょう!」
「っ……!」
「マスダイバーを増やした罪は消えないかもしれない、でも、終わらせることはできる!」
「リッくんの言う通りだよ!」
「そうだよ、アヤメさんは私たちの大切な仲間なんだから!」
うーん、流石は原作主人公たち、いいことを言ってくれる。
これなら、私がケツを蹴り上げるまでもないだろう。
あとは。
「アヤメくん」
「コーイチさん……」
「僕も同じだ。自分の殻にこもって……ツカサのことを止めてやれなかった。それどころか、友達だったのに、気づいてやることもできなかった。だから……一緒に罪を精算しよう。消えないなら、一緒に背負っていこう。それが、僕たちにできることだから」
前作主人公ポジションのコーイチさんも流石の説得力だなぁ。
うんうん、難しいこと考えちゃうのは仕方ないけど、要するにもうお互いごめんなさいしたんだから話と悲劇はそこで終わりでいいんだ。
ここから先は、最高に笑える馬鹿話として、喜劇に変えてしまえばいい。
「……お礼は言いません、ツカサさんも、ミキさんも」
「あぁ、結構だ」
「そうね。妥当な答えだと思うわ」
「でも……私はマスダイバーと戦います。仲間たちと、一緒に!」
その言葉が聞きたかった。
残念だけど、ル・シャノワールで過ごした時間はどう頑張っても戻ってこない。
だけど、ビルドダイバーズで過ごしていく時間は、今からでも育める。
それが、今未来をやり直すということなのだから。
「ツカサさん」
「なんだよ、ミカミ・リク」
「俺は……まだ心が弱いって、自覚しました。だから、コーイチさんと一緒に教えてください! ガンプラのこと、GPDのこと……! 俺も、GBNをあなたに教えますから!」
リクくんは、傷ついたダブルオーダイバーエースを掲げながら、ツカサくんへと言ってのけた。
恩讐を乗り越えて、敵だった相手にも手を差し伸べようとする姿はまさに原作主人公の鑑といったところだ。
でも、意外だったわね。確かにツカサくんが原作ほど悪さしてないとはいえ、リクくん自ら弟子入り志願するなんて。
「……今更GBNについて知ることはねェよ」
「……」
「……だけどな、俺はコーイチと違って手厳しいし荒っぽいぜ」
「大丈夫です! 俺は……心まで強くならないと、きっとチャンピオンにはなれないから!」
リクくんは、どこまでも純粋に、一途に、チャンピオンという高みを目指しているんだなあ。
そのためなら、敵を許して味方にすることだって厭わない。
物腰が柔らかいから気付きづらいだけで、リクくんもやっぱり、チャンピオンたちと似た「こっち側」の人間なのだ。
「……テメェのガンプラはテメェで作れよ」
「はい!」
ツカサくんが不器用に差し出した手を取って、リクくんはがっしりと握手を交わした。
「ふふっ、これで一件落着ですわね。ではミキ、シバ・レクイエム計画の発動日を教えていただけますか?」
「そうね……期日は、一週間後よ!」
『一週間!?』
愛機が大破しているリクくんには悪いけど、バグの影響とか諸々の調整を考えて、最速でこの計画を進めなければいけない。
それでも伸ばせるだけ伸ばした猶予が、一週間。
原作でダブルオースカイを作るのにどれぐらいかかってたかはわからないけど、リクくんならそれでもやれると、私は信じている。
「待っているわよ、リクくん。貴方の新しい翼と共に」
「はい! 俺……必ず新しいダブルオーダイバーを完成させて、マスダイバーとの戦いに参加します!」
踵を返した私とルカに、リクくんは決意の言葉を投げかけてきた。
「俺とコーイチがいるんだ、一週間で実戦含めて仕上げてやるよ」
「ああ、ツカサが店舗大会に急にエントリーしたときのことを思い出すなぁ。あのときは三日だっけ」
「仕方ねェだろ、見つけちまったんだから」
「本当、お前らしいよ」
そして、コーイチさんとツカサくんが談笑している微笑ましい光景をちらりと横目で伺って、私は二人の憑き物が落ちたような笑顔に、胸がすくような気持ちを抱く。
雨降って地固まる。
まさに、そんな言葉が似つかわしい光景だった。
シバコウキテるね……