お嬢様がGBNにいるわけないだろう!   作:プラ板の削りカス

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【朗報?】お嬢様、あられもない姿を晒す

「そんな……あのシロガネ様が……」

「淑女としてあるまじき姿ですわ、幻滅いたしました……」

「いけませんわ、ヤエザクラ様! あのようにはしたないお姿をお目に入れては!」

 

 学園のロビーに入ると、それはそれはもう壮絶な人だかりと喧騒ができていた。

 これはなんかよろしくないことの予感がする──なんてクソボケはほざくのだろうけど、私は違う。

 ふふふ、間違いあるまい。この騒動の渦中にいるお嬢様こそが、あのヘイズルの持ち主だ。ちなみに根拠はない。

 

「おどきください、皆様」

「ヤエザクラ様!?」

 

 モーセが海を割るように群衆をかき分けて、私は騒動の主であるお嬢様の姿を一目見るべく、そしてコンタクトを取るべく前に歩み出た。

 

「困りましたわね……確かに朝は持っていたはずですのに……」

 

 うおっ、お尻もでっか……制服の上からでもわかるほどおっぱいなっが……じゃなかった。

 腰まで伸びた黒髪が美しい、姫カットのお嬢様が、四つん這いになってロビーの赤絨毯を舐め回すように探し物をしている。

 これはもう確定だろう。あのヘイズルの持ち主はシロガネ様と呼ばれていた彼女──確か玩具会社のご令嬢、シロガネ・ルルカで間違いない。

 

 確かに、淑女であることをなによりも重んじるこの学園において、彼女の行いは褒められたものではない。

 淑女たるもの、いついかなるときも貞淑に、慌てず動じず美しく。

 それこそが淑女に求められる振る舞いなのだから。

 

「や、ヤエザクラ様!?」

 

 だけど、それがどうした。

 淑女の理念とか振る舞いとか、そんなのこっちは初めから知ったこっちゃねえんだよなあ!

 私は意を決して、あえてシロガネさんと同じ四つん這いの姿勢を取った。

 

「確かにシロガネ様の姿勢は淑女として、はしたないかもしれませんわ。ですが、それほどまでに──誇りと引き換えにしてでも、探し出したいものがあるという想いを無下にするのもまた、淑女として品が欠けています」

 

 そして、群衆に向けてそれっぽいことを言い放つ。

 ふふふ、私はこれでも外面だけは満点なのだ。

 外面の良さでバトってる淑女界隈において、いわばヒエラルキーの頂点にあるといってもいい。つまり、発言力がほぼ最強なのだ。

 

「シロガネ様、ごきげんよう」

「まあ……ヤエザクラ様、ごきげんよう。申し訳ございません。このようにはしたない姿を晒してしまい……」

 

 アメジストのような瞳が美しい。

 視線を合わせた途端に、呑まれてしまいそうなぐらい暴力的な「美」をしている。

 だけど私は知っているぞ、澄ました瞳の奥にあるものを──シロガネさんが、AOZを嗜むぐらい重度のガノタであることを!

 

「こうして探しものをしていると、うさぎのようですわね──そう、まるで、新天地を求め、過酷な旅路を歩む……リチャード・アダムスの、『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』のように。ご存知でしょうか?」

「っ……ええ、存じております。うさぎたちの幻想的な社会と過酷な現実との対比を描いた、素敵な物語ですわ」

 

 シロガネさんは、見事に反応して(釣れて)くれた。

 だが、まだだ。

 もう一段階ギアを上げさせてもらう。

 

「まあ、嬉しいです。私は、中でも──『ヘイズル』の姿がやはり素敵だと感じております」

「──!」

「大事なものというものは、肝心なときに目に見えない……どうでしょう、シロガネ様。ここは一度、放課後にもう一度探してみませんか?」

「……ええ。もしかしたら、心当たりがあるかもしれない場所を思い出しましたので」

「でしたら、私もお手伝いいたします。それでは、放課後に」

「はい……ありがとうございます。それではヤエザクラ様、ごきげんよう」

「はい、ごきげんよう」

 

 私たちは立ち上がると、膝丈二十センチどころか足首の近くまで覆っているスカートの裾を持ち上げて一礼した。

 ギャラリーたちは私たちの行いについて、賛否両論できゃいきゃいと盛り上がっていたけど、知ったことか。好きにしろ。

 私が第二のガンプラライフを送るためには、シロガネさんとはなんとしてもお近づきにならなければならないのだから!

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりましたわ、ヤエザクラ様」

「ええ」

 

 案の定とでもいうべきか、シロガネさんが私を呼び出したのは人気のない旧校舎だった。

 建て直しを控えているボロボロなこの建物に近寄ろうと思う生徒はそうそういない。

 だからこそ、密会の場所としては最適だった。

 

「わたくしがエスコートいたします」

「はい、お願いいたしますわ」

 

 どこに連れて行かれるかはわからないけど、きっとそこにはあるはずだ。

 この世界中どこでもガンプラブームが巻き起こっているビルドダイバーズ世界になら尚更ある確率は高い。

 そう、シロガネさんの隠しガンプラ保管庫が。

 

 きぃ、と軋みを立てて、連れてこられた旧音楽室の扉が開かれると、そこには。

 

「あっはは、あっはははは! やった、やったああああああ!!!!」

「……ヤエザクラ、様?」

 

 内なる盟主王が抑えきれなかった。

 当たりも当たり大当たり。旧音楽室の棚にはびっしりとガンプラが並んでいた。

 それだけじゃない。シロガネさんの隠しガンプラ保管庫になっていただけではなく、あったのだ。

 

 GBNが流行る前に流行っていた、実機バトルこと、GPDの筐体が。

 

「……こほん。はしたないところをお見せいたしましたわ」

「いえ……ロビーでの語らいで、わたくしも薄々勘づいておりましたもの。まさか、わたくし以外に『その筋』のお方がいるとは、思いませんでしたけれど」

「ふふっ、なら……話は早いですわね? 貴女の大切なガンプラ、お返しいたしますわ」

 

 鞄にしまい込んでいたガンプラホルダーをシロガネさんに手渡して、私は優雅に一礼した。

 まるで赤子を慈しむ母親のようにガンプラホルダーを受け取ったシロガネさんの眼光が、鋭さを帯びる。

 さあ、貴女の真紅のヘイズルは、まさか棚に飾っておくためのものじゃあないでしょうね?

 

「──では、ヤエザクラ様。言葉は不要、わたくしと……激しく、溶け合っていただけますか? 棚の中にあるガンプラは、お好きにしていただいて構いません」

 

 カーテシーを添えて、シロガネさんが一礼する。

 これだけ上等な「お誘い」を受けて、応じない方がどうかしている。

 そう、ガンプラバトルだ。念願の。悲願の。

 

「ありがとうございます。では──私はウイングガンダムで出撃()させていただきますわ」

「うふふ、素敵なチョイスです。では……精も根も果てるまで、至福の交わりをいたしましょう!」

「ええ!」

 

 私は音楽室の棚からウイングガンダムを手に取ると、GPDの筐体に乗せた。

 ガンプラバトルなんてやったことないけど、まあなんとかなるだろ。

 なんせ前世じゃゲーセンに通い詰めてたチンパンだったもんだからな。コストのないEXVSだと思えばいけるだろ、多分。

 

 

 

 

 

 結論、いけた。

 どうやら運命の女神様は私にガンプラバトルの才能を贈ってくれたらしい。

 バトルモードが解かれたGPDの筐体には、互いにほぼ全壊状態で、胸にビームサーベルを突き立て合ったウイングガンダムとレジオンカラーのヘイズルが、まるでカムランの丘の一幕を再現したように佇んでいた。

 

「は、はは……」

「ふ、ふふふ……」

 

 いやー、でも正直勝てると思ってた。

 周りがバトオペやってる中で私だけEXVSできたらそりゃチートじゃん? とは思ったけどさあ。

 そのEXVS機動にピッタリついてきたんだわ、このお嬢様。そりゃもう乾いた笑いしか出ないって──などと、人生初のガンプラバトルの余韻に浸っていたら。

 

「ふ、ふふふ……あっははは! あっはははは! あひ、あは、あひひひひひ!!!! やるじゃねえか、テメェ! どこで覚えた? どこで慣らした? 耳年増のヴァージンかと思ったら、すんなりぶっといビームサーベルを咥え込むとんだクソビッチじゃねーか!」

 

 わーお。

 二重人格かと疑いたくなるほどの豹変を見せたシロガネさんは汗の雫を散らしながら、哄笑を上げる。

 ガノタは皆チンパンジーってジュドーさんも言ってたもんな。そういうことなら、私も別に──必要ねえか、「演技」なんて。

 

「うっせーよ、好き勝手脳汁垂れ流しやがってこの黒アワビ! 私はちょっと嗜んだだけ、正真正銘の初モノだよ! それにそっちもとんだ猫被ってやがったなんてな! お嬢様の正体がチンパンジーだったなんてさぞかしセンセーショナルなスキャンダルだよなぁ!」

「言うじゃねえか、それはテメェも同じだろうが、ご同輩! 初モノが笑わせるぜ、見たことないぐらいキモいカクカク機動で動きやがってよ! 今更カマトトぶってんじゃねえ!」

「うるせーな、私は色々あるけどとにかく初モノなんだよ! てめーこそそのキモい機動を一瞬で真似しやがって、ミラーマッチしてるみたいだった! シャゲダンしなかっただけ感謝してもらいてぇんだけど!?」

 

 はー。

 互いに怒鳴り散らして、大分冷静になった。

 やっぱり……ガンプラバトルは最高だな。

 

 ああうん、私のは借り物だったけど、作ったガンプラが思い通りに動いて戦う、こんなのガノタの夢以外のなにものでもないだろ。

 

「はっ……わたくし、これほど情熱的に溶け合っていただいたお方にとてもはしたない姿を……ごめんあそばせ、ヤエザクラ様」

「ツミキ」

「……はい?」

 

 正気に戻ったのかスイッチを入れたのかわからないけど、お嬢様モードになったシロガネさんが、慌ててペコペコと頭を下げるけど、もう遅い。

 

「こうなった以上、もうあんたと私は一蓮托生──友達、でしょ? だから、ツミキ、って呼んで。私もあんたのこと、ルルカ、って呼ぶから」

「ヤエ……いえ、ツミキ……! ああ、なんて素敵な響きなのでしょう……!」

「うん、ルルカ……」

「ツミキ……」

『もう一回ヤって、白黒つけようじゃねーか!』

 

 ガンダムが好きな人に、悪い人はいない。

 だけど、ガンダムが好きな人に、まともな人はいない。

 前世のTwitterに書かれてたけど、とんだ正論だな、こいつは。

 

 だけど、それがどうした。

 まともじゃなくて結構だ、淑女の鉄仮面なんてゴミ箱にぶちこんで、私は──私たちは、全力で遊び尽くしてやる。

 世界で一番楽しいお遊戯(ガンプラバトル)を!




ガノタにまともなやつがいるわけないだろ!
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