お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
かくして、盛大な性癖戦争を経て、とうとうフィアのマテリアルボディことモビルドールは完成していた。
エポキシパテをこね回してひたすら好みの形になるまで削る作業にかかった時間は数えたくない。
コーイチさんとツカサくんは慣れた様子で淡々と、目を光らせながらやってたけど。
流石はこの世界でもトップクラスのビルダーだ。
机とか足元に転がってるエナドリの空き缶については数えないでおくとして。
とにかく、廃倉庫にこっそり資材を持ち込んで、全員で役割を分担しつつ打ち合わせしながら作業したおかげで、フィアちゃんのモビルドールは実に一週間という制作期間で完成を迎えることができたのだ。
「これでとりあえずは一段落ってところよね?」
「あァ、思ったより早かったがな」
「ふふふ、美プラと呼ばれるものを作ったのは初めてでしたが……なかなか刺激的で楽しかったですわ」
「しかしこのピケストは考えます、お嬢様とツカサ様が下着にもこだわらなければもっと制作時間を短縮できたのではないかと」
うるせー腐れメイド。
美プラを作るに当たって下着をどうするかについては一番重要なところだろうがよ。
細かいレースとか作るの本当大変だったんだから。おかげで今でも目がしょぼしょぼする。
「時間ってのはかけるべきところにかけて然るもんだ、そうだろコーイチ?」
「えっ、あっ、うん……そうだね」
ツカサくんのどこか満足げな問いかけに、コーイチさんは微かに頬を赤らめて視線を逸らしてしまった。
まあそりゃそっか。
妹さんので見慣れてるかと思ったけど、コーイチさん、思いっきり女の子に対して免疫なさそうだし。
「なるほど、正論の飲み物、セイロンティーでございますね。フィア様のロングスカートに隠れた細い御御足に加えて、着用している大人っぽい下着が醸し出す色気はまさしく無限大な夢でございます」
「あんたはセイロンティーをなんだと思ってんのよ」
「他人に正論を容赦なくぶつけてくる心のない飲み物かと存じておりますが」
「捨てなさいそんなカスの認識」
元々あえて盛るんじゃなくて削るという提案をした側だったから、ピケストがそういう反応をするのは予想の範疇だったけど。
それはそれとして、いよいよ完成したモビルドールにあとは魂を吹き込むだけだ。
そのために並行していたビルドデカールの制作作業についての進捗はわからないけど、ルカとツカサくんが本気を出したのだからきっといいところまでいっているはずだろう。
「で、肝心の魂の方はどうなの、ルカ?」
「はい。完全にフィアさんのダイバーデータの回収と複製、バックアップはできておりますわ、ミキ」
「流石ね、ルカ。あとは……」
「仏作って魂入れず、なんて真似をこの俺がすると思ったか? ブレイクデカールをちょいと改造するだけで済んだから、楽なもんだったぜ」
どうやら、ビルドデカールの方も完成に漕ぎ着けていたらしかった。
すごいなー、ルカもツカサくんも。
いつ寝てるんだろう、という疑問はさておき。
理屈としては、原作のビルドデカールはELダイバーのデータをサルベージし、ナノICチップに転写した上で、GPD側のサーバーにデータを完全移管させてスタンドアロンで動かすという中々に壮絶な超技術の塊になっている。
問題があるとするなら、フィアとサラちゃん、そしてイヴの3人ぐらいならこの廃倉庫にあるGPD筐体の容量で賄えるけど、それ以上となると厳しくなるのと、あとは。
……この廃倉庫に、3人を置いたまま出かけることに対する不安、だろうか。
「もうすぐサルベージだってのに、浮かねえ顔だな、ツミキ」
「ええ。サルベージするまではいいけど、その後をどうするか考えていたのよ」
「この廃倉庫なら俺ら以外は立ち入りできねえ、それだけじゃ不満か?」
「不満というか不安ね。できるなら信頼できる人のところに預けたいけど……」
理屈的にはスタンドアロンで動いているから、フィアは私かルカが引き取って、サラちゃんはリクくんが、イヴはヒロトくんが引き取るというのが理想的だけど。
いきなりプラネットコーティングの充填やら保全を任せられても、バックアップ体制が整っていない今では不安が勝る。
うーん、少しばかり原作を前倒ししすぎたか?
「それなら問題ねェよ、GPDは俺の庭みてぇなもんだ、スタンドアロンでプラネットコーティングの充填をできるように改造したコントローラーを一個だけだが作ってある」
「マジぃ?」
こいつ、有能すぎんだろ。
原作でも、ことGPDにかける情熱に関しては他の追随を許さなかったけどさ。
いや本当にいつ寝てるんだろうね、ツカサくんは。
「フィアはテメーらが引き取れ、サラとイヴに関してはプラネットコーティングの補給機ができ次第、すぐにサルベージに取り掛かる」
高速でキーボードをタイプしながら、ツカサくんはニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせた。
流石だけど、心配が勝ってきそうな過労ぶりだ。
まあともかく、これで3人の居場所問題は一旦解決を見たのなら……サルベージに取り掛かるのが吉、だろう。
「フィア、準備はできたわよ。今から貴女に……
『本当かい、ミキ!? ああ……ずっと待ち侘びていたよ、この日を。ミキたちの世界が見られる日が来るなんて……それで、ぼくはどうすればいいんだい?』
「テメェはほとんどなにもしなくていい。ただ、ログアウト用のゲートのあるところからログアウトを試みてくれ。その反応を拾って俺たちがサルベージする。準備はいいな、ルルカ?」
「ええ、この通り万全ですわ。ツカサ様」
「フン……それじゃあ始めんぞ」
人類とELダイバーが融和の第一歩を果たす、来るべき対話の始まりを。
どう考えても言ってみたかっただけなセリフと共に、ツカサくんとルカは画面とキーボードと睨めっこを始めた。
そして、フィアがログアウトを試みようとした瞬間に。
「信号来たぞ!」
「キャッチ済みですわ、あとはこちら側で保管している複製ダイバーデータと照合……偽装ログアウト、完了いたしましたわ」
「よし……サルベージ開始! コーイチ、ビルドデカールの準備は任せたぜェ!」
「やってみるよ、ツカサ!」
こういうときに役に立たない自分が悔しいけど、餅は餅屋と言った通りだ。
こと電子戦に関して、私は最弱のカスなのだから、働こうとしたって余計な仕事を増やすだけなのだから。
だから、今は祈るしかない。フィアちゃんのサルベージ作業が成功することを。
「リアルタイムで情報をアップデートしつつビルドデカールにデータ転送……よし、いいぜこいつは! あとはフィアの自意識になるブラックボックスだが──!」
「それに関しては、フィアさんを信じましょう。わたくしたちでも手に負える領域ではありませんので」
「……癪だがその通りだ。おいフィア、テメェ……まさかずっと来たかったフロンティアを前にくたばるつもりじゃねェだろうなぁぁぁぁ!?」
最後の転送部分、いわばELダイバーの魂の核となっている部分については流石のツカサくんとルカでも解析できなかったようだ。
だけど、大丈夫。
原作でサラちゃんがそうだったように、強い思いというのは、生きたいという願いは、ときに世界と次元の壁さえ打ち破るのだから。
「よし……ビルドデカールにデータ回収は完了したよ、ツカサ!」
「貼り付けと定着作業は終わってんだろうなぁ!?」
「当然!」
「やった……!」
「喜ぶのは早ぇぜ、ツミキ! あとは眠り姫が目を覚ますかどうかだ!」
ツカサくんとコーイチさんも、ルカもピケストも、真剣な表紙で今は目を閉じているフィアちゃんのモビルドールを見つめている。
お願い、目を覚まして。
お願い、どうかこの世界を見届けて。
私が、一心に捧げた祈りは、神様に通じたかわからないけれど。
「ん……こ、ここは……? あれ、なぜ皆がこんなに大きく……? いや、違う。ぼくが小さく……?」
『やった!』
フィアが無事に目を覚ましたことで、私たちは柄にもなくハイタッチを交わしていた。
理論に破綻はなかった。
フィアは無事に──現実世界の大地へと立つことができたのだ。
ようこそ、フィア