お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
「わぁ……本当にフィアさんが現実で動いてる! ツカサさん、サラも同じようにできるって、本当ですか!?」
「そう焦るんじゃねえ、準備は進めてるからな」
「ふふっ、この世界では初めましてだね、リクくん」
フィアのサルベージ成功記念ということで、ビルドダイバーズの面々を廃倉庫に招いた私たちは、細やかなパーティーを開いていた。
サラちゃんが実は電子生命体だった、という事実に少なからずリクくんたちは衝撃を受けていたみたいだけど、GBNの中でも寝落ちしていたり、リアルという概念を知らなかったことで納得してくれたようだった。
にわかには信じがたいことだけど、理解が早くて助かるわね、本当に。
一方で、サプライズゲストとして呼んでみたヒロトくんの方は信じられないといった様子で、目の前の光景に目を白黒させていた。
「美プラが……動いてる……」
「美プラではなく、フィア様のモビルドールでございます、ヒロト様」
「いや……俺も頭ではわかってるんだけど、イマイチ現実が飲み込めてなくて。イヴも、本当に、電子生命体……ELダイバー、なのか?」
通話機能で遠隔招待しているイヴに対して、ヒロトくんは恐る恐るといった様子で問いかける。
まーそりゃそうよね。そっちが普通の反応よね。
自分が少なからず想いを寄せていた女の子が実はリアルでの肉体を持たない、電子世界でしか生きられない仮想の住人だったなんて、どこのラノベよって話だから。
『えへへ、バレちゃった。EL……? っていう言葉はわからないけど、私もサラもフィアも、皆同じなの』
「……そっか。じゃあ、ツカサさんやケイワンさんがやってるのと同じことをすれば……イヴもこの世界の空や星空が見られるんだな」
よかった、とヒロトくんは安堵の息をつく。
疑いだとかショックだとか、そんなことよりもイヴに対する心配が勝っていた辺り、本当に彼女へ対して寄せている想いは深いらしい。
ヒナタちゃんにおかれては色々とまあ頑張ってほしい。連絡先わからないからここには呼んでないけど。
「ありがとうございます、ツカサさん、ケイワンさん。俺……イヴのことを知っているつもりで、なにも知りませんでした」
きっと、言われなければ、知る機会すらなかった。
ヒロトくんは律儀にツカサくんとコーイチさんに対してぺこりと頭を下げた。
原作では大文字の方のビルドダイバーズとコネがなかったり色んな不幸が重なったりした結果、イヴと悲劇的な別れをする運命にあったヒロトくんが、こうして悲劇に立ち会うことなく生きられているのを見ると、私も感慨深い。
「今はケイワンじゃないよ、ビルドダイバーズのコーイチさ。ヒロトくん。イヴちゃんのモビルドールを作るときはきみの意見もほしいから、協力してくれるかな」
「……俺なんかの意見が参考になるなら、是非」
「そう謙遜すんじゃねェよ、テメェのコアガンダム……相当な愛と技量がなければ作れねえ代物だ。GPD上がりなだけはあるな」
「……ありがとうございます」
ヒロトくんはGPD経験者だから、ツカサくんの好感度もかなり高いのだろう。
原作では巡り会えなかったことが惜しまれるけど、こうして今この世界ではちゃんと巡り会えたのだからよしといったところだろうか。
モビルドールの姿でGPDの筐体の上をちょこまかと歩いているフィアにかわいいかわいいねしているビルドダイバーズの面々に微笑ましさを感じながら、私も紙コップに注いだサイダーを飲み下した。
「ぷっはー、美味しい! お上品に味のない炭酸水とか無駄に高いだけの水飲むよりやっぱりこれよこれ、砂糖と甘味料!」
「お嬢様は本当にわんぱくでございますね、では次回のお食事からはコーラを提供するように
「やめなさい余計なことすんのは、一応私はお嬢様なんだから」
「失礼を承知で申し上げますが、お嬢様はルカ様とゴーイングマリッジしてこの家を飛び出していけするのが一番かとこのピケストは憂慮しております」
「……ルカとぉ?」
ピケストが真顔で放った本気なのか冗談なのかよくわからない発言に、私は首を傾げる。
ルカのことが好きか嫌いかで聞かれれば、確かに好きだけど、前世が男だったからとかじゃなくて普通に友達とかそういう方面の好きだし。
うーん、でも確かに家のいいなりになって、嫁ぎ先に行くだけの籠の鳥で終わりたくはないから、その辺も考えておかないとね。
話題にあがったルカは今随分とドデカい段ボール箱を持って上機嫌そうに微笑んでるけど。
碌なこと考えてなさそう。
というか絶対考えてない。箱のサイズと厚みからしてあれHGCEデストロイガンダムクラスの代物だろ。
「……で、ルカはなにを準備してるのよ」
「それはもちろん、フィアさんのために用意したガンプラですわ」
「ぼくのために、かい?」
フィアはちょこんと小首を傾げた。
うーん、キュートだ。
ともかく、確かにフィアは自分もガンプラを使ってバトルがしたいと言っていたけど、それにしたって用意した箱がデカすぎない?
「ピケストさんが仰っていたように、リアルではこぢんまりとしたお姿のフィアさんがとても大きなガンプラを使う……このギャップはとても浪漫ではないでしょうか? そこでわたくしは用意したのです、このHGUCアリュゼウスを」
「道理でデカいと思ったわ……じゃなくて、流石にGBN初心者にアリュゼウスはハードル高すぎでしょ!」
そう簡単に脱げない上に一生クソミサばら撒けるアリュゼウスは確かに強いかもしれない。
だけど、当たり判定がデカすぎる上に機体制御も小回りが利かないとなれば、流石にいくらなんでもピーキーがすぎる。
それこそが浪漫なのです、とかルカは目を輝かせて言ってきそうだけど、ロマン砲で飯は食えないのよ。
当たった日には、焼肉食べに行くレベルの幸運だからロマン砲なのであって。
とはいえ、決めるのはフィア自身だ。
フィアがアリュゼウスで行きたいというのなら、それを止めるのは野暮というものだし。
「そのガンプラ……とても大きいけれど、不思議だね。核になっているガンプラがあるのかい?」
「そうなんですよフィアさん! アリュゼウスっていうのは機動戦士ガンダム閃光のハサウェイ、キルケーの魔女に出てきたペーネロペーの練習機で、ミノフスキー・フライトの代わりに大量のプラズマジェットエンジンとシェルフ・ノズルを纏った外装を、核になる量産型νガンダムに取り付けた機体なんです!」
ユッキーくんが早口でアリュゼウスについて解説してくれた。
ありがたいけどそういうとこだぞユッキーくん。案の定フィアは頭上にクエスチョンマークを浮かべてるし。
ガノタは知らない人を見るとつい早口で解説を始めてしまう生態の持ち主だから仕方ないけども。
「よ、よくわからないけど……ぼくはこのアリュゼウス? の核になっている機体から強い想いを感じるよ」
「量産型νガンダムからですか、目の付け所が良いですねフィア様、今はモビルドールというアーマーをつけていて、一度電脳空間に向かえば解き放たれるフィア様のニューはさながら外装をパージしたアリュゼウスのようで、このピケスト、失礼ながら大変興奮いたします」
「あんたはもう口閉じてなさい腐れメイド」
アリュゼウスに変な性癖を見出してるんじゃないわよ。
原作ではハサウェイくんのトラウマを盛大に抉ったせいで観光地にいたマフティーの逆鱗に触れて悲惨な目にあったレーンくんと量産型νガンダムだったけど、素体としては悪くない。
フォーマットも最新だし、なによりプレーンな素体でバックパックは共通2軸だから、カスタムのしがいがあるのだ。
「では、余った外装はわたくしが利用させていただくとして……フィアさんのガンプラデビュー、と洒落込みましょう!」
「悪くないわね」
「パージして出てくる方向性にはなりませんでしたが、フィア様のニューは量産型ではなく一品もの、入念にカスタマイズせねばなりませんね」
「よくわからないけど……ぼく、頑張るよ。皆!」
フィアの意気込みを無駄にしないためにも、あれこれ見繕ってカスタマイズしてあげないとね。
幸いここにはコーイチさんにツカサくん、そしてヒロトくんというビルドつよつよ勢に加えてリクくんという天才少年もいるのだから、なんとでもなるはずだ。
私もルカも、ガンプラ作りにはそこそこ自信あるから、大丈夫だろう。
†
「船頭多くして船山に登るってこういうことよね……」
「ですが、忌憚なく意見をぶつけ合った甲斐がありましたわね」
量産型νガンダムを分担して作るところまではよかったけど、フィアの意見を尊重しつつ、どの辺までカスタムを加えるかという議論は、それはもう白熱したものだった。
攻撃力に振るべきか、防御力を重視するべきか。
はたまた機動力で相手を翻弄する構成にするべきか、という議論の果てに導き出された結論は、「全部やる」だった。
時刻は夜の19時過ぎ、ようやく素体が完成したフィアの量産型νガンダムは、バックパックの両側にフィン・ファンネルを3機ずつ纏い、真ん中にロングレンジ・フィン・ファンネルを装備した、贅沢仕様として机の上に立っていた。
「いいんじゃねェか、お前ら『レディビルド』に足りない手数も補えるカスタムだ」
「ファンネルの扱いは難しいかもしれないけど、やり込みに応えてくれるともいえるね」
真逆の意見をぶつけ合っていたツカサくんとコーイチさんも納得した様子で、フィアの量産型νガンダムを見つめて頷いていた。
「これが、ぼくのガンプラ……ぼくの奏でたい音の形!」
「ええ、ですからお名前をつけてあげてください」
「名前……かい?」
「はい、この量産型νガンダムは塗装こそまだですが、世界に一つだけの……フィアさんのガンプラなのですから」
ルカは、フィアに楚々と微笑みかける。
実際、名づけって大事よね。
例えパチ組みであったとしても、作った時点で世界で一つだけ、自分だけのガンプラなのだから。
「名前……どうしようかな。この胸の高鳴りを、そのまま形にするような名前……」
「でしたら、『ビートνガンダム』というのはいかがでしょうか?」
「ピケストさん……」
「ハートビート、胸が弾む。そういった意味も込めたご提案でございます」
なんかピケストが言うと意味ありげに聞こえるけど、多分今回は真面目な提案なのだろう。
というかそう信じたい。信じさせてくれ。
キラキラと瞳を輝かせているフィアは、しきりに首を縦に振っていた。
「ビートνガンダム……決めたよ、これからの、きみの名前だ!」
どうやら相当お気に召してくれたらしい。
本人が納得してるなら、それでいいんだけど。
ドヤ顔をしているピケストの真意がどこにあるのかは、聞かないでおこうっと。
ピケスト(電脳世界で解き放たれたフィア様のお胸も物理的に大きく弾まれるのですね、素晴らしい光景です)